そのうさぎ、支配者につき

コオリ

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《幸季視点》

うさぎのクッキー 03

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 優しく頭に触れられた。
 その手にたくさん褒めてもらったことを思い出して、幸季からもリウの手に擦り寄る。

「そうやって、少しずつ気を許してくれるの、すごく可愛い」
「っ……すみません」
「なんで謝るの。嬉しいって言ってるんだよ。さ、紅茶用意したからどうぞ」

 目の前に置かれていたのは、思っていた以上に本格的なティーセットだった。丸みを帯びたポットの横にはうさぎの形をしたクッキーも添えられている。

「コウキの口に合うといいんだけど」

 そう言いながら、リウが慣れた手つきでポットから紅茶を注ぐ。美しい琥珀色の液体がカップを満たしていくのを、幸季はただ眺めていた。
 渡されたカップを手に取る。金と青の繊細な模様の入った白地の美しいカップに思わず見惚れてしまう。

「それ、綺麗でしょ。俺も一目惚れしてさ、値段も見ずに買っちゃったんだよね。そしたらめちゃくちゃ高くてさ。その後しばらく、ご飯がふりかけと米だけになっちゃった」
「ふりかけとお米だけって……」
「でも、それだけの価値あると思わない?」
「うん……すごく綺麗」

 そっとカップを持ち上げる。
 目線の高さでもう一度眺めた後、紅茶を口に運んだ。

「うわ……おいしい」
「あ、よかった。口に合った?」
「すごい。こんないい匂いがするんだ、紅茶って」

 普段、紅茶を飲む機会なんてほとんどない。飲むとしてもペットボトルで売られている甘いミルクティーぐらいだ。
 それとは段違いに香り高い紅茶に幸季は感動が隠せなかった。もう一口、口に含む。

「コウキ、敬語じゃないほうがいいね」
「っ、あ」
「リラックスしてくれてるみたいでよかった。ごめんね、無理やり家に連れてきたりして」

 向かいに座ったリウも同じ紅茶を口にしていた。
 同じ柄のカップを一緒に使って――、なんだか不思議な光景だ。

「俺、普段はカフェでバイトしてるんだよね」
「え? でも……」
「あそこは今日だけ。急遽、代わりで入っただけなんだよ。だから、これを逃すとコウキに連絡取れなくなっちゃうなーって思って……それで無理に連れてきちゃった。ごめんね?」
「じゃあ、これって延長とかじゃ」
「ないよ。完全にプライベート」

 そう言って、にこりと微笑まれた。予想外の告白に返す言葉が見つからない。
 呆然としていると窓から吹き込んだ風にリウのカーキアッシュの髪がさらりと揺れた。それに誘われるようにそちらを見ると、穏やかな視線でこちらを見ているリウと目が合う。
 にこりと微笑まれた。

 ――でも、なんで。

 ただの客である幸季を家に誘ってくれたのだろう。
 考えても理由がわからない。

「さてと、とりあえずもう一度ちゃんと自己紹介しとこうか。仕切り直しってことで」
「え、と」
一条いちじょう莉兎りうです。ええっと、これ身分証がわりの学生証ね」

 そう言って、リウがティーセットの横に学生証を置いた。
 書かれている大学名は全国的に有名なところだ。顔を近づけ、そこに書かれている文字に一通り目を通す。

「心理学部……」
「うん。DomとSubの心理学について勉強してるんだ。二次性にはまだまだ知られてないことがたくさんあるでしょ? それを知りたくてね」
「――そうなんだ。すごいね」

 ――まだ学生。しかも年齢は九歳も下、か。

 急にリアルになったリウの存在に、ふと現実に引き戻される。
 年齢のせいで前のDomに捨てられたことを、幸季はまだ引きずっていた。
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