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《莉兎視点》
手負いの獲物 02
しおりを挟む前に呂亜が部屋に置いていった服を一式、身につける。
一卵性双生児の莉兎と呂亜の顔はほぼ見分けがつかないほどに似ていたが、念のため、バイト先にはマスクをつけていくことにした。
――そいや、髪の色ってどうなんだろ。
最近、呂亜には直接会っていなかった。違う大学に通っているし、お互い家を出て一人暮らしをしているのでなかなか会う機会はない。
呂亜も莉兎と同じで気分で髪色を変えるタイプだ。好みは似ているので、お互いがあり得ないと思う色になることはなかったが、全く同じ色ということはおそらくないだろう。
呂亜の写真を探すため、スマホでSNSを開く。画像はすぐに見つかった。
「……あー、これは……ギリいけるか?」
自撮りらしい呂亜の写真と睨み合う。
髪の長さや髪型はほぼ同じだったが、色味が少し違う気がした。
同じグレージュ系ではあるようだが、呂亜のほうが少しトーンの明るいメッシュが入っているようだ。莉兎のほうは毛先に行くほど淡くなるようにグラデになっており、そこにカーキ系の色を追加している。
光の加減によっては似た感じに見えそうだが、どこまで誤魔化せるだろうか。
「しゃーない。帽子被っていくか」
帽子にマスク。その格好は完全に不審者だが、バレてしまうよりはいい。
双子であることはバイト先の誰にも話していないと言っていたので、まず疑われることもなさそうだが、何かツッコまれるのは避けておきたかった。
呂亜も言っていたとおり、喋られなければ似ている二人だが、話をすれば違う人物だとバレてしまう可能性が高くなる。
顔はそっくりだし、同じDomでもあったが、性格はあまり似ていなかった。
「……行くか」
そう呟いて、マスクの下で欠伸を一つ噛み殺す。
今日は一日中、惰眠を貪るつもりだったのに――、まさかこんなことになるとは。しかし、これも金のため。そう。呂亜のためではなく金のためだ。背に腹は代えられない。
うん、と大きく背伸びをした後、莉兎は呂亜のバイト先に向けて出発した。
◆
案の定、誰にもバレずにバイト先に入ることができた。
誰も疑っている様子すらない。
挨拶をして少し驚いた顔をされたときは焦ったが、ピンチといえばそれだけだった。
――呂亜のやつ、バイト先では挨拶ぐらいしろよ。
仕事用に割り当てられた個室に入って、帽子とマスクを取った。先ほど受付で手渡されたカルテに目を通す。
客は予約の時点でこのカルテを記入することになっているらしい。客の情報やプレイの希望はこの用紙に全て書かれているようだった。
「相手の名前は……コウキ、か」
年齢は三十歳。ちょうど一週間前に誕生日を迎えたばかりのようだ。
職業は会社員。パートナーはなし、プレイ経験はあり。
微妙なプロフィールだった。
パートナーを解消したところなのか、普段からこういう店を利用して欲求を解消しているタイプのSubなのか。
このカルテでは、そこまで詳しくはわからない。
「プレイの希望は特になし。NGプレイも特になしって……なんか気になるな」
プレイ希望がないのは、別に気になる点ではない。
Subは自分から主張しない性格の人間が他の二次性よりも多い傾向があった。おそらくは《支配される性》であることが影響しているのだろう。
だが、NGプレイがないというのは気にかかる。
本当になんのプレイでも問題なしという猛者がいないわけではなかったが、そんなSubであれば逆に「激しいプレイ希望」などと要望を書いてきそうなものだ。
どちらもなし、というのはどうにも違和感が拭えない。
無理に調教されてそうなったか、もしくは今まで我慢ばかりのプレイを強いられてきたか――そのどちらかであることが懸念された。
「って……うっかり分析するのは悪いクセだな」
莉兎の専攻はDomとSubに関する心理学、その心理的な構造を調べることだった。だからこういうカルテを見ると、無意識に相手の人物像を探ろうとしてしまう。
この一回、たった二時間関わるだけの人間をそこまで深読みする必要は全くないのに。
予約の時間まであと五分。
この客は時間きっちりに訪れるような気がしていた。
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