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第四幕*伸ばした手に、触れた光
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しおりを挟む「……あつ、っ…………」
朝、目が覚めるなり体に異常な熱さを感じた。
全身が燃えるように熱を発している。明らかに異常とわかる状態だった。
「もしかして……生まれて、くるのか……?」
一番熱いのは、模様の浮かんだ臍の下あたり。どくん、どくん、とずっと腹部に鼓動を感じる。
こんなことは初めてだった。
ついに生まれてくるのかもしれない。イロナとあってからちょうど二十日だ。
昨日の夜、最後の十本目の催淫剤を使ったところだった。
ルチアの熱を体の奥で受け止め、いつも通り事後処理をした。ルチアの体を拭き、服を着せ、自分も水を浴びようとしたが……そこで、急に体が重くなったのだ。
体を動かすことが辛くなり、服も着ずにシーツに包まって眠った。
そして目が覚めたのが、今だ。
―――こんなにも早く、生まれてくるのか。
熱さに意識が朦朧とする。自分は一体どうなってしまうのだろう。
半魔の母体は半魔を産むと一日も立たずに死ぬ。そう話していたのはシュカリだった。
眠るルチアとの行為を続けている間、エランはずっとそのことを考えていた。自分もこれを生み落とせば、死ぬのではないかと―――。
それでも、行為をやめることはできなかった。
腹の鼓動が聞こえるたび、エランが感じたのは恐怖ではなく愛しさだった。
―――ルチアの母親はどうだったんだろう。
ふと、同じように魔のものを生み落とした見知らぬ人のことを思った。
その人はどんな気持ちでルチアを産んだのだろう。生まれたルチアを見てどう思ったのだろう。
望まない子供だったかもしれない。
無理やり孕まされた子供だったかもしれない。
それでも―――少しでも、ルチアを愛してくれてはいなかっただろうか。こうして腹を撫でたりはしなかったのだろうか。
「ん……はぁ……」
エランは枕元に手を伸ばした。そこにはケラスィナの蜜の入った瓶が置いている。
無性にそれが欲しくなった。体が欲しているのだろう。蓋を開いてこくりと飲むと、染みわたるように甘さが口いっぱいに広がる。
体は熱いままだ。冷たい場所を探して、シーツの上で脚を滑らせる。その爪先が、とん、とルチアの脚に触れた。その冷たさが心地いい。
エランは這うようにベッドの上を移動した。ルチアの傍まで行って、その冷たい腕に顔を押し当てた。
「……冷たくて、気持ちいいな」
燃えるように熱い体に、冷たいルチアの肌がとても気持ちがよかった。
すりすりと肌を擦り寄せる。
こうして触れるのも、これで最後になるかもしれない。
ルチアの横顔を見上げた。
自分に酷いことをした男なのに―――洗脳されて、意識も体も感情さえも制御されて。
そんな事実を知ったあとも、嫌いになんてなれなかった。その気持ちすら操られていたのかもしれない。
でももう、それだってどうでもよかった。
―――あんな顔を、見たからな。
あの日、最後に一緒にいたあの時間。ルチアの瞳はエランを真っ直ぐに見つめていた。
嬉しそうに笑ったのも、あんな風に喜んだのも―――エランに愛しいという感情を向けていてくれたからだ。
自分の気持ちが洗脳のせいだとしても、ルチアから向けられていたあの気持ちだけは紛れもない真実だと思えた。
本当に不器用な男だ。
自分の感情すらわからず、愛し方も知らない。
一言文句を言ってやりたかったのに、それも叶わないかもしれない。
「お前の子を産んで俺が死んだってわかったら、お前はどんな顔をするんだろうな……」
自分で言って、想像して―――ぎゅっと胸が締め付けられた。
それをバカなことだと冷静に思う自分と、このもどかしい感情に嘆く自分がいる。
気持ちの整理なんて、つきそうになかった。
どくどくと、腹から聞こえる脈動が少しずつ大きくなってくる。内側から殴られているようだ。それを意識した瞬間、どんっ、と一際大きな衝撃が走った。
エランの内側から魔力が溢れ出す。
金色の魔力が放つ熱が、エランの体のあちこちを駆け巡る。
「ぁ……ぁあああッ、ぃ、ぁ……ッ」
絞られるような痛みにエランは叫んだ。目の前にあるルチアの腕をぎゅうっと強く握って、必死でその痛みに耐える。
自分の腹の下で何かがぐねぐねと動いているのが見えた。あれが、今から出てくるのか。
その恐怖に喉からひきつった声が漏れる。
エランは四つん這いになり、腰を高くあげる姿勢を取った。
ひくんひくんと体が勝手に揺れる。数日の間、何度もルチアを受け入れた場所が勝手に綻んでいくのがわかる。
ぶちゅ、と後孔から何かが漏れた。
とろりとした透明な液体が、脚を伝い、ベッドに落ちて染みを作る。
「や、ぁ……んっ、なん……で、こんな」
それが溢れた瞬間、そこから感じる痛みが快感へと変わった。
奥から湧き上がるようなぞくぞくとした快感が、次から次にエランに襲いかかる。ルチアの腕に顔を押し付けながら、エランは高い声で喘いでいた。
ずるり、ずるりと中を押し広げながら進んでいく動きを感じる。いいところを押し潰し、エランに快感を与えながらそれは進んでくる。
大きな熱の塊が、出口に向かってきている。
そしてそれは焦らすこともなく、エランの中から飛び出した。
「ひ、ぁああ゛あああっ、い゛ぃ、ぁ゛あああ!」
ぶちゅん、という濡れた音とともに、エランの後孔を押し広げて出てきたのは金色の塊だった。
拳大ほどの塊が、ぼとり、とベッドの上に落ちる。だが、エランはそれどころではなかった。あまりにも強すぎる衝撃に、エランは首を大きく振りながら叫ぶ。
一瞬自分が生み落としたものが、エランの視界にも入ったが、それをじっと見る余裕もない。
高い悲鳴を上げながら、エランは意識を失った。
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