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特別展示* 1
しおりを挟む客が入ってくると、わかりやすいまでに陣からの緊張が伝わってきた。
眉間に深く皺をよせ、一見怒っているような表情に見えるがそれは違う。
ぶるぶると震える拳も少し荒い呼吸も、全部緊張しているからだろう。
「陣、大丈夫?」
「お前は……衣吹は、平気なのかよ」
「まぁ、いつもこんな感じだから」
名前を呼べと言ったからだろうか。わざわざ言い直す律義さが可愛らしい。
抱かれるというのは初めてだが、公開展示というのはほぼ毎日のことだ。
他人の視線など、衣吹にはもう気にならなくなってしまっていた。
それどころか客の顔を見る余裕まである。
皆一応、顔半分を仮面で隠しているが、その見分けぐらいは簡単についた。
昨日も来ていた男がいる。
一週間ぶりに見る老人や、三日前に多めのチップをくれた女性もいた。
彼らは衣吹を気に入ってくれているのだろうか。
それとも、普段から特別展示目当てに訪れている客なのだろうか。どちらなのかはわからない。
「……これ、どうしたらいいんだ?」
「いつもは適当に始めるんだけど」
調教師とのプレイでない限り、檻の中ではいつも一人だ。
衣吹のタイミングで始めて、終える。特に決まりごとがあるわけではなかった。
あまりに盛り上がらない場合は調教師からの指導が入るらしいが、そんな指導を受けたことは一度もない。
普段の展示でのやり方はたぶんあれでいいのだろう。
だが、これは特別展示だ。何かいつもと違うことがあったりするのだろうか。
「あ……そうだ」
衣吹は天井のちょうど中央あたりを見上げた。そこには球体の監視カメラが設置されている。そこに視線を向けると、すぐに部屋に設置されたスピーカーから声が聞こえてきた。
『どうした』
「普通に始めればいいのかな、と思って」
『それでいい。何かあれば私が入る』
「わかりました」
やはり調教師はこの部屋を監視していたらしい。ということは、さっきのやり取りも見られたのだろうか。
ここにいる以上、個体にプライバシーが存在するとは思っていないが、何だか裸や自慰を見られるより気恥ずかしい。
「……さっきのは、アイツの声か」
「そうだね。適当に始めればいいみたいだから……えっと、とりあえずそこに座ってくれる?」
衣吹がそう言って陣に勧めたのは、部屋の中央に置いてあるベッドだ。
そこに陣を座らせて客のいる方向に向かって脚を大きく開かせる。
その脚の間に衣吹は自分の身体を滑り込ませた。
「ここ、あんまり勃たせると痛くなる?」
「……っ、ちょっと急に」
「ああ、ごめん」
陣の陰茎には今も調教具が取り付けられている。衣吹もだ。
この状態で勃たせると少し痛くなることは衣吹も自身で経験済みだ。
だが一応確認するつもりで聞いてみたのだが、指でつんと触れられるのが嫌だったのか、陣に怒ったような顔を向けられてしまった。
そういえば、ずっと調教師の機嫌を損ね続けている陣だが、ここに来てから射精はしたのだろうか。
まあ限界になれば、この調教具をつけられた状態でも夢精はするらしいが。
これを聞けばきっとまた怒られるだろうし、答えは間違いなくノーだろうから衣吹はその質問をあえて聞くことはしなかった。
「じゃあ、触るよ」
「っ、あぁ」
さっき怒られたばかりなので、今度はきちんと声を掛けてから陣の陰茎に触れる。
こうしてまじまじと誰かの陰茎を見るのは初めてだった。
調教師にフェラの指導をされるときも使うのはディルドだけだ。
調教師は服を脱ぐことはしない。
抱かれるのだって本当に初めてだ。
一般的な陰茎よりも太いディルドを胎内に入れたことはあっても、実物を入れるのは今日が初めてだった。
今、手で触れているものがあとで自分の後孔を犯すのだと考えただけで、衣吹の鼓動は少し跳ね上がる。
「これ、向こうに声は聞こえてるのか?」
「いいや、今はオフになってる。そこ、部屋の角にあるランプ。今は赤でしょ? その時は見られてるだけ。緑になると音声も向こうに届くようになるんだ」
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