紅葉-くれは-

菊池まりな

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第32話 禁忌の記録

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夜のざわめきが落ち着いた後も、春香と美奈の胸には重苦しい疑念が残っていた。
紅葉が消えた理由。二十年前の美桜の失踪。そして、村の子どもたちを繰り返し襲った不可解な出来事。

「……やっぱり、調べるしかない」
春香が小さく呟くと、美奈もうなずいた。
「住職さんなら、何か知ってるかもしれません」

二人は夜道を並んで歩き、村の外れにある寺を目指した。石段を上ると、闇に包まれた本堂の明かりがかすかに見えた。

戸を叩くと、しばらくして古沢透が姿を現した。
深い皺を刻んだ顔は蝋燭の明かりに照らされ、不気味な陰影を帯びている。

「……橘さんか。こんな夜更けに」
「住職さん……どうしても、知りたいんです。美桜のこと、紅葉のこと、そしてこの村の……森のことを」

春香の切実な声に、古沢はしばし黙し、やがて二人を本堂の奥へと招いた。

畳の上に座らされると、古沢は古びた木箱を持ち出してきた。中には、黄ばんだ古文書や過去帳の束が収められている。

「……ここには、この村で記録された“失踪”の事例が残っている」
古沢の声は低く、重く響いた。
「美桜ちゃんの時だけじゃない。この村では、古くから“子どもが呼ばれて消える”出来事が繰り返されてきた」

春香の手が震えた。
「やはり……」

古沢は過去帳を開き、古い筆文字をなぞる。
「……享和三年、祭礼の夜に童子一名失踪。その後、発見されず」
「……大正十一年、秋祭りの夜、幼子二名行方不明」
「……昭和四十八年、同じく祭礼の晩に少女一名……」

美奈が思わず声を上げる。
「全部……祭りの夜……!」

春香は胸の奥が冷え切るのを感じた。
美桜も、紅葉も、例外ではなかった。

古沢は目を閉じ、低く告げた。
「“森の神”が、祭りの夜に子を求める……そう言い伝えられてきた。
 呼ばれた子は二度と戻らぬ。……それが、この村に伝わる禁忌じゃ」

「神……?」
美奈の声が震える。
「じゃあ紅葉は……神に奪われたっていうんですか?」

古沢は答えなかった。ただ、炎に照らされた顔に深い影を落とし、沈黙を保った。

春香は奥歯を噛みしめ、瞳を燃やした。
「……神だろうと何だろうと、紅葉は返してもらう」

その声は、恐怖を押し殺した母の決意だった。
だが、古沢の沈黙が暗に告げていた。
──禁忌を破る者には、更なる代償が待つのだと。

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