34 / 155
第33話 血筋の烙印
しおりを挟む
古沢が置いた過去帳の頁を、春香と美奈は食い入るように見つめていた。
そこには、村で失踪した子どもたちの名が、淡々と筆で記されている。
「……あれ?」
美奈が小さな声を漏らす。
「この名前……“橘”って、書いてありますよ」
春香の血の気が一気に引いた。
確かに、享和の時代に消えた童子の姓は「橘」だった。
古沢が静かに頷く。
「そうじゃ。実はこの村で“呼ばれた”と記録される子の多くは……橘の家系に属しておる」
「そんな……」
春香の声が震えた。
美奈がさらに頁を繰ると、別の記録が目に飛び込んできた。
──大正十一年、秋祭りの夜、橘家の幼子ふたり行方不明。
──昭和四十八年、橘家の少女一名消失。
そして──
──平成十七年、橘美桜(3歳)失踪。
春香の手が紙の上で止まり、強張った。
指先が震えて字をなぞる。
それは、自分の娘、美桜の名前。
あの日の光景が蘇る。
屋台の灯り、ざわめく祭囃子、そしてふっと手の中から消えた小さな温もり。
「……まさか……紅葉まで……」
春香の声が途切れた。
美奈は唇を噛み、春香の腕にすがりつく。
「どうして……どうして紅葉が……。
でも、紅葉は十七歳ですよ? 他の子はみんな、三歳前後なのに」
古沢は目を閉じ、深いため息を吐いた。
「……祭りの夜、森が求めるのは“幼き命”とされてきた。だが、時に例外がある。
血筋が濃い者、あるいは代を越えて“選ばれる”者が……」
その言葉に、春香の心臓が止まりそうになった。
「代を越えて……」
「つまり……美桜さんの次は……紅葉さん……」
美奈が恐怖に青ざめた顔で呟いた。
春香は両手で顔を覆った。
自分の家系が、子を奪われ続ける宿命を背負わされていたのか。
その運命から、紅葉も逃れられなかったのか。
しかし胸の奥では、冷たい恐怖と同時に、燃えるような決意が芽生えていた。
──許さない。
──どんな因縁でも、紅葉は必ず取り戻す。
だが古沢の目は、暗闇を映すように重く沈んでいた。
「禁忌を破ろうとすれば、この村そのものが……揺らぐやもしれぬ」
春香の決意は試されようとしていた。
そこには、村で失踪した子どもたちの名が、淡々と筆で記されている。
「……あれ?」
美奈が小さな声を漏らす。
「この名前……“橘”って、書いてありますよ」
春香の血の気が一気に引いた。
確かに、享和の時代に消えた童子の姓は「橘」だった。
古沢が静かに頷く。
「そうじゃ。実はこの村で“呼ばれた”と記録される子の多くは……橘の家系に属しておる」
「そんな……」
春香の声が震えた。
美奈がさらに頁を繰ると、別の記録が目に飛び込んできた。
──大正十一年、秋祭りの夜、橘家の幼子ふたり行方不明。
──昭和四十八年、橘家の少女一名消失。
そして──
──平成十七年、橘美桜(3歳)失踪。
春香の手が紙の上で止まり、強張った。
指先が震えて字をなぞる。
それは、自分の娘、美桜の名前。
あの日の光景が蘇る。
屋台の灯り、ざわめく祭囃子、そしてふっと手の中から消えた小さな温もり。
「……まさか……紅葉まで……」
春香の声が途切れた。
美奈は唇を噛み、春香の腕にすがりつく。
「どうして……どうして紅葉が……。
でも、紅葉は十七歳ですよ? 他の子はみんな、三歳前後なのに」
古沢は目を閉じ、深いため息を吐いた。
「……祭りの夜、森が求めるのは“幼き命”とされてきた。だが、時に例外がある。
血筋が濃い者、あるいは代を越えて“選ばれる”者が……」
その言葉に、春香の心臓が止まりそうになった。
「代を越えて……」
「つまり……美桜さんの次は……紅葉さん……」
美奈が恐怖に青ざめた顔で呟いた。
春香は両手で顔を覆った。
自分の家系が、子を奪われ続ける宿命を背負わされていたのか。
その運命から、紅葉も逃れられなかったのか。
しかし胸の奥では、冷たい恐怖と同時に、燃えるような決意が芽生えていた。
──許さない。
──どんな因縁でも、紅葉は必ず取り戻す。
だが古沢の目は、暗闇を映すように重く沈んでいた。
「禁忌を破ろうとすれば、この村そのものが……揺らぐやもしれぬ」
春香の決意は試されようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる