紅葉-くれは-

菊池まりな

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第49話 封鎖区域の明かり

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夜のとばりが下り、村のはずれにある森が不気味なほど静まり返っていた。

風もなく、虫の声も途絶えたその空間に、ぽつりと人工の光が瞬く。



「……あれ、見えますか?」

美奈が小さく指を差す。森の奥、樹々の隙間から、淡い橙の光が漏れていた。



橘春香は息を呑んだ。

「……あそこ、ラボの方向じゃない?」



祐真は頷き、懐中電灯を手にする。

「封鎖されたはずだ。十年以上、誰も近づいていないと聞いてたが……」



美奈の声は震えていた。

「でも、見間違いじゃありません。あの建物……この前、中に入ったときと同じ光です。あの時も、誰かが私たちを見ていた気がしました」



春香は無意識に胸元を押さえる。

紅葉くれはの失踪以来、彼女の手元にはいつも紅葉のペンダントがあった。小さな琥珀色の石が、街灯に反射して冷たく光る。



「……もしかして、紅葉くれはが──」

言いかけた春香を、祐真が制した。

「行って確かめよう。俺が先に入る」



ラボ──かつて村の研究者たちが「地域伝承を科学的に解析する」と称して設けた施設。だが、20年前、不可解な事故と研究員の失踪をきっかけに閉鎖された。

表向きは忘れられた場所だが、村の者たちは皆、そこを“森の奥の禁域”と呼んで避けていた。



「祐真さん……本当に、入るんですか?」

「俺は、この村に戻ってきてから、あの夜の夢ばかり見る。美桜が消えた時のことを。──何かが、俺に思い出せと言っている気がするんだ」



美奈は唇を噛みしめた。

紅葉くれはも同じようなことを言ってました。『夢の中で、呼ばれてる気がするの』って」



三人は視線を交わした。

その瞬間、遠くで風が吹いた。森の奥から、ざわりと紅葉もみじが揺れる音が響いた。



まるで──誰かが、笑っているように。



「行こう」

祐真の声が静かに落ちる。



足元の落ち葉を踏みしめ、三人は封鎖区域の立入禁止テープを越えた。

湿った空気が肌にまとわりつく。木々の奥、光の源が徐々に近づく。



──そして、視界が開けた。



朽ちかけた鉄柵。その向こうに、白い外壁がぼんやりと浮かび上がる。

ラボは、まるで生きているように脈動していた。



春香が息をのむ。

「こんな……まだ電源が残っているなんて」



祐真が鉄扉に手をかける。

「誰かが動かしてる。──この中に、“今も”いるんだ」



その瞬間、ラボの窓の奥に影が動いた。

人の形をしている。

だが、そのシルエットの首筋から、まるで枝のような黒い影がのびているのが見えた。



美奈の声が掠れた。

「……見ました? 今……誰か……」



祐真は扉を押し開ける。

錆びた金属音が夜の森にこだまする。

中から、湿った土と薬品の匂いが漂った。



春香が一歩踏み出す。

紅葉くれは……いるの?」



だが返事はなかった。

代わりに、ラボの奥から微かな音がした。

──カタン。



その音に導かれるように、祐真たちは闇の中へと進んでいった。

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