60 / 155
第59話 時の断層
しおりを挟む
光が弾けたあと、あたりは奇妙な静寂に包まれていた。
森のざわめきも、虫の声も、何ひとつ聞こえない。
──祐真は息を呑んだ。
そこに立っているのは、たしかに“森”のはずだった。だが、景色はどこか歪んでいる。
木々の枝は半透明に揺らめき、地面には無数の光の粒が散らばっていた。
春香と美奈も立ち尽くしていた。
「ここ……どこ?」
美奈がかすれた声でつぶやく。
春香は周囲を見渡し、震える声で応えた。
「森……のはずよ。でも……何か違う。空が……動いてる……」
見上げた空には、雲が逆流していた。時間が巻き戻されていくように、光と影が入り乱れている。
そして、遠くに見えるはずの祠が──いつの間にか、鉄とガラスでできた建造物に変わっていた。
「……ラボだ」
祐真が低くつぶやく。
「まさか、森とラボが……繋がってるのか?」
足元の地面が微かに脈動していた。まるで生きているように。
その震えとともに、祐真の頭の奥に鋭い痛みが走る。
──フラッシュのように、過去の映像が流れ込んでくる。
小さな祠の前で、幼い子どもたちが遊んでいた。
その中に、三歳の橘美桜がいた。
「みおー、危ないからそこ行っちゃだめ!」
幼い祐真が叫んでいる。
だが美桜は振り返り、笑ってこう言った。
──「あの声、聞こえる?」
森の奥から、鈴の音のような“呼び声”が響く。
そして、彼女はゆっくりと光の中に消えた。
泣き叫ぶ祐真の背中で、大人たちの足音と、祠の奥から響く金属音が重なった。
祐真は地面に膝をつき、額を押さえた。
「俺だ……俺が、あの日……!」
春香が駆け寄る。
「祐真さん、何を思い出したの?」
「20年前のあの日……俺は、あの子を止められなかった。美桜は“呼ばれた”んだ。
でも、それだけじゃない。あの祠の下には、何か……研究施設みたいなものが……」
その瞬間、地面が再び震えた。
森の中に“機械音”が響く。まるで何かが起動したかのように。
祐真は立ち上がり、祠──いや、いまはラボのように変貌した構造物へと歩み寄った。
扉の前には、ぼんやりと光る液体のような壁。
祐真が手を伸ばすと、それは静かに波紋を広げた。
「この先に……真実がある気がする」
春香は美奈の肩を抱き、ためらいながらも頷いた。
「紅葉も、きっとここを通ったのね」
美奈が涙ぐみながら言う。
「“カエセ”って、あの声は……紅葉のじゃなかったのかもしれない」
「え?」
「もっと、奥から……誰か、別の“存在”が呼んでた」
その言葉に、祐真の背筋が凍る。
──呼ばれた子どもたち。
──封じられた“森の意識”。
扉が、ゆっくりと開いた。
白い光が三人を包み込み、彼らの姿が闇の奥へと飲み込まれていった。
そして、最後に聞こえたのは、紅葉の声ではなかった。
──「ようやく、戻ってきたね。祐真くん」
その声は、確かに“美桜”のものだった。
森のざわめきも、虫の声も、何ひとつ聞こえない。
──祐真は息を呑んだ。
そこに立っているのは、たしかに“森”のはずだった。だが、景色はどこか歪んでいる。
木々の枝は半透明に揺らめき、地面には無数の光の粒が散らばっていた。
春香と美奈も立ち尽くしていた。
「ここ……どこ?」
美奈がかすれた声でつぶやく。
春香は周囲を見渡し、震える声で応えた。
「森……のはずよ。でも……何か違う。空が……動いてる……」
見上げた空には、雲が逆流していた。時間が巻き戻されていくように、光と影が入り乱れている。
そして、遠くに見えるはずの祠が──いつの間にか、鉄とガラスでできた建造物に変わっていた。
「……ラボだ」
祐真が低くつぶやく。
「まさか、森とラボが……繋がってるのか?」
足元の地面が微かに脈動していた。まるで生きているように。
その震えとともに、祐真の頭の奥に鋭い痛みが走る。
──フラッシュのように、過去の映像が流れ込んでくる。
小さな祠の前で、幼い子どもたちが遊んでいた。
その中に、三歳の橘美桜がいた。
「みおー、危ないからそこ行っちゃだめ!」
幼い祐真が叫んでいる。
だが美桜は振り返り、笑ってこう言った。
──「あの声、聞こえる?」
森の奥から、鈴の音のような“呼び声”が響く。
そして、彼女はゆっくりと光の中に消えた。
泣き叫ぶ祐真の背中で、大人たちの足音と、祠の奥から響く金属音が重なった。
祐真は地面に膝をつき、額を押さえた。
「俺だ……俺が、あの日……!」
春香が駆け寄る。
「祐真さん、何を思い出したの?」
「20年前のあの日……俺は、あの子を止められなかった。美桜は“呼ばれた”んだ。
でも、それだけじゃない。あの祠の下には、何か……研究施設みたいなものが……」
その瞬間、地面が再び震えた。
森の中に“機械音”が響く。まるで何かが起動したかのように。
祐真は立ち上がり、祠──いや、いまはラボのように変貌した構造物へと歩み寄った。
扉の前には、ぼんやりと光る液体のような壁。
祐真が手を伸ばすと、それは静かに波紋を広げた。
「この先に……真実がある気がする」
春香は美奈の肩を抱き、ためらいながらも頷いた。
「紅葉も、きっとここを通ったのね」
美奈が涙ぐみながら言う。
「“カエセ”って、あの声は……紅葉のじゃなかったのかもしれない」
「え?」
「もっと、奥から……誰か、別の“存在”が呼んでた」
その言葉に、祐真の背筋が凍る。
──呼ばれた子どもたち。
──封じられた“森の意識”。
扉が、ゆっくりと開いた。
白い光が三人を包み込み、彼らの姿が闇の奥へと飲み込まれていった。
そして、最後に聞こえたのは、紅葉の声ではなかった。
──「ようやく、戻ってきたね。祐真くん」
その声は、確かに“美桜”のものだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる