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第96話 赤い糸のように
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夜の帳がすっかり降りた。
氷川美奈は、薄暗い春香の家の居間でカップを両手に抱きしめていた。窓の外は強い風。風鈴がカラン、と鳴るたびに胸の奥がざわつく。
「紅葉が、見つかったって……本当なんですか?」
掠れた声で問うと、祐真が頷いた。制服の襟元をゆるめ、疲れの色を隠しきれない顔をしている。
「ああ。ただし──見つかったのは“紅葉のものと思われる遺留品”だ。本人は、まだ」
春香がテーブルの端に視線を落とす。彼女の指先は小刻みに震えていた。
机の上には、あの小さな“鈴のついた赤いリボン”が置かれている。
紅葉が失踪する数日前、髪を結ぶのに使っていたものだ。
「これが……あの子の?」
「間違いないと思います。DNA鑑定に回す予定ですが、土の中に埋められていた。おそらくは……」
祐真の言葉がそこで途切れた。
“おそらく”の先を、誰も聞きたくなかった。
静寂が落ちる。
時計の針の音が、妙に大きく響く。
春香の頬を一筋の涙が伝い落ちた。
「……二十年前も、こんな夜だったわ。美桜がいなくなった時も。風が強くて……鈴の音が止まなかった」
春香の声は遠い記憶の底を彷徨うようだった。
美奈はその言葉に、ぞくりと背筋を走る感覚を覚える。
二十年前の美桜の失踪──そして、今また紅葉が消えた。
同じ時期、同じ風、同じ鈴の音。
「春香さん」
祐真が静かに言う。
「あの裏山、もう一度調べ直します。あなたは今夜は休んでください。何かあれば、すぐに駐在所へ」
春香は何も言わず、ただリボンを見つめていた。
その小さな布切れを指で撫でながら、微かに唇が動く。
「紅葉……どうして、あんなところに行ったの……?」
答えのない問いが、夜の空気に溶けていく。
その瞬間──。
カラン……カラン……
風鈴が鳴った。
けれど風は、吹いていなかった。
美奈の喉がきゅっと詰まる。視線を窓の方に向けた瞬間、背筋を冷たいものが這い上がった。
ガラスの向こう。庭の端に、誰かが立っている。
赤いスカート。
肩までの髪が、ゆっくりと揺れた。
──紅葉に、よく似た姿。
だが、その顔は、月明かりの下でも見えなかった。
「……紅葉?」
美奈が呟いた瞬間、祐真が立ち上がる。
だが次の瞬間、その影はすっと消えた。
風鈴が再び鳴る。
音の余韻だけが、部屋の奥に残された。
春香はリボンを胸に抱きしめ、祈るように呟いた。
「お願い……これ以上、あの子を奪わないで……」
その声をかき消すように、外で風が唸った。
どこからか、幼い笑い声が混じって聞こえた気がした。
それは、二十年前に消えた美桜の声に──よく似ていた。
氷川美奈は、薄暗い春香の家の居間でカップを両手に抱きしめていた。窓の外は強い風。風鈴がカラン、と鳴るたびに胸の奥がざわつく。
「紅葉が、見つかったって……本当なんですか?」
掠れた声で問うと、祐真が頷いた。制服の襟元をゆるめ、疲れの色を隠しきれない顔をしている。
「ああ。ただし──見つかったのは“紅葉のものと思われる遺留品”だ。本人は、まだ」
春香がテーブルの端に視線を落とす。彼女の指先は小刻みに震えていた。
机の上には、あの小さな“鈴のついた赤いリボン”が置かれている。
紅葉が失踪する数日前、髪を結ぶのに使っていたものだ。
「これが……あの子の?」
「間違いないと思います。DNA鑑定に回す予定ですが、土の中に埋められていた。おそらくは……」
祐真の言葉がそこで途切れた。
“おそらく”の先を、誰も聞きたくなかった。
静寂が落ちる。
時計の針の音が、妙に大きく響く。
春香の頬を一筋の涙が伝い落ちた。
「……二十年前も、こんな夜だったわ。美桜がいなくなった時も。風が強くて……鈴の音が止まなかった」
春香の声は遠い記憶の底を彷徨うようだった。
美奈はその言葉に、ぞくりと背筋を走る感覚を覚える。
二十年前の美桜の失踪──そして、今また紅葉が消えた。
同じ時期、同じ風、同じ鈴の音。
「春香さん」
祐真が静かに言う。
「あの裏山、もう一度調べ直します。あなたは今夜は休んでください。何かあれば、すぐに駐在所へ」
春香は何も言わず、ただリボンを見つめていた。
その小さな布切れを指で撫でながら、微かに唇が動く。
「紅葉……どうして、あんなところに行ったの……?」
答えのない問いが、夜の空気に溶けていく。
その瞬間──。
カラン……カラン……
風鈴が鳴った。
けれど風は、吹いていなかった。
美奈の喉がきゅっと詰まる。視線を窓の方に向けた瞬間、背筋を冷たいものが這い上がった。
ガラスの向こう。庭の端に、誰かが立っている。
赤いスカート。
肩までの髪が、ゆっくりと揺れた。
──紅葉に、よく似た姿。
だが、その顔は、月明かりの下でも見えなかった。
「……紅葉?」
美奈が呟いた瞬間、祐真が立ち上がる。
だが次の瞬間、その影はすっと消えた。
風鈴が再び鳴る。
音の余韻だけが、部屋の奥に残された。
春香はリボンを胸に抱きしめ、祈るように呟いた。
「お願い……これ以上、あの子を奪わないで……」
その声をかき消すように、外で風が唸った。
どこからか、幼い笑い声が混じって聞こえた気がした。
それは、二十年前に消えた美桜の声に──よく似ていた。
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