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第129話 鈴の向こう側
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鈴の音は、森の奥から確かに響いていた。
風に乗って偶然鳴った音ではない。
一定の高さと間隔を保ち、誰かが意図して鳴らしている音だった。
──ちりん。
──ちりん。
玄関先に立った祐真が、唇を噛む。
「……森だ。
あの音、奥へ誘ってる」
春香は首を横に振った。
「行っちゃだめ……
あそこは……」
二十年前の記憶が、脳裏に重なる。
落ち葉に覆われた地面。
泣き声。
そして──姿を消した幼い美桜。
美奈が、森を見据えたまま言った。
「……でも、紅葉は……
きっと、あっちにいる」
確信に近い響きだった。
祐真が懐中電灯を握り直す。
「……行くなら、三人一緒だ。
絶対に、名前を呼ばない。
呼ばれても、返事をしない」
春香は一瞬、迷ったが、ゆっくりと頷いた。
「……約束して。
誰かが、私の名前を呼んでも……
振り向かないで」
美奈が、強く頷く。
「……うん」
三人は、森へ足を踏み入れた。
昼間とは別の場所のようだった。
木々は互いに身を寄せ合い、空を隠す。
足元の土は柔らかく、踏みしめるたびに湿った音を立てる。
鈴の音は、一定の距離を保ったまま、奥へ奥へと移動していく。
「……近づいてる気がしない」
美奈が呟く。
祐真は低く答えた。
「……追わせてるんだ」
そのとき──
森の左手から、かすかな声がした。
「……はる……か……」
春香の肩が、びくりと跳ねる。
幼い声。
間違いなく、美桜の声だった。
だが、春香は歯を食いしばり、前を向いたまま言った。
「……聞こえても、振り向かない……」
声は、次第に増えていく。
「……おかあさん……」
「……ここだよ……」
「……どうして、来てくれないの……」
美奈は涙を堪えながら、春香の腕を掴んだ。
「……偽物だよ……
本物なら……
こんな呼び方、しない……」
祐真の足が、突然止まった。
「……待って」
二人が振り返ると、祐真は地面を照らしている。
落ち葉を払った先に、不自然に盛り上がった土があった。
「……誰かが……掘り返してる」
土は新しい。
雨に打たれた形跡も少なく、つい最近、手が入ったことが分かる。
春香の喉が、ひくりと鳴る。
「……二十年前も……
同じような場所だった……」
その瞬間、
盛り上がった土の向こうから、鈴の音がした。
──ちりん。
すぐ近くだ。
美奈が、震える声で言う。
「……紅葉の……
あのときの音と……同じ……」
祐真が、意を決したようにスコップを手に取った。
「……確かめる。
ここに……
“何が埋まってるのか”」
スコップが土に食い込む。
ざく。
ざく。
二度目で、硬いものに当たった。
「……っ」
三人の呼吸が、同時に止まる。
祐真が慎重に土を払いのけると──
現れたのは、小さな木箱だった。
蓋には、かすれた文字で名前が彫られている。
──「くれは」
春香の膝が、崩れ落ちた。
「……そんな……
まだ……生きてるはず……」
その瞬間、
背後で、はっきりと足音がした。
ぬちゃり、と湿った音。
振り返らなくても分かる。
何かが、すぐ後ろに立っている。
低い声が、耳元で囁いた。
「……名前は……
もう、返してもらった……」
鈴の音が、至近距離で鳴った。
──ちりん。
それは、逃げ道を塞ぐ合図のようだった。
風に乗って偶然鳴った音ではない。
一定の高さと間隔を保ち、誰かが意図して鳴らしている音だった。
──ちりん。
──ちりん。
玄関先に立った祐真が、唇を噛む。
「……森だ。
あの音、奥へ誘ってる」
春香は首を横に振った。
「行っちゃだめ……
あそこは……」
二十年前の記憶が、脳裏に重なる。
落ち葉に覆われた地面。
泣き声。
そして──姿を消した幼い美桜。
美奈が、森を見据えたまま言った。
「……でも、紅葉は……
きっと、あっちにいる」
確信に近い響きだった。
祐真が懐中電灯を握り直す。
「……行くなら、三人一緒だ。
絶対に、名前を呼ばない。
呼ばれても、返事をしない」
春香は一瞬、迷ったが、ゆっくりと頷いた。
「……約束して。
誰かが、私の名前を呼んでも……
振り向かないで」
美奈が、強く頷く。
「……うん」
三人は、森へ足を踏み入れた。
昼間とは別の場所のようだった。
木々は互いに身を寄せ合い、空を隠す。
足元の土は柔らかく、踏みしめるたびに湿った音を立てる。
鈴の音は、一定の距離を保ったまま、奥へ奥へと移動していく。
「……近づいてる気がしない」
美奈が呟く。
祐真は低く答えた。
「……追わせてるんだ」
そのとき──
森の左手から、かすかな声がした。
「……はる……か……」
春香の肩が、びくりと跳ねる。
幼い声。
間違いなく、美桜の声だった。
だが、春香は歯を食いしばり、前を向いたまま言った。
「……聞こえても、振り向かない……」
声は、次第に増えていく。
「……おかあさん……」
「……ここだよ……」
「……どうして、来てくれないの……」
美奈は涙を堪えながら、春香の腕を掴んだ。
「……偽物だよ……
本物なら……
こんな呼び方、しない……」
祐真の足が、突然止まった。
「……待って」
二人が振り返ると、祐真は地面を照らしている。
落ち葉を払った先に、不自然に盛り上がった土があった。
「……誰かが……掘り返してる」
土は新しい。
雨に打たれた形跡も少なく、つい最近、手が入ったことが分かる。
春香の喉が、ひくりと鳴る。
「……二十年前も……
同じような場所だった……」
その瞬間、
盛り上がった土の向こうから、鈴の音がした。
──ちりん。
すぐ近くだ。
美奈が、震える声で言う。
「……紅葉の……
あのときの音と……同じ……」
祐真が、意を決したようにスコップを手に取った。
「……確かめる。
ここに……
“何が埋まってるのか”」
スコップが土に食い込む。
ざく。
ざく。
二度目で、硬いものに当たった。
「……っ」
三人の呼吸が、同時に止まる。
祐真が慎重に土を払いのけると──
現れたのは、小さな木箱だった。
蓋には、かすれた文字で名前が彫られている。
──「くれは」
春香の膝が、崩れ落ちた。
「……そんな……
まだ……生きてるはず……」
その瞬間、
背後で、はっきりと足音がした。
ぬちゃり、と湿った音。
振り返らなくても分かる。
何かが、すぐ後ろに立っている。
低い声が、耳元で囁いた。
「……名前は……
もう、返してもらった……」
鈴の音が、至近距離で鳴った。
──ちりん。
それは、逃げ道を塞ぐ合図のようだった。
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