彼氏×彼女に、恋のエッセンスを加えて方程式を解け!

菊池まりな

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第1話 佐藤さんと田中くんの場合

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 佐藤美奈さとうみなはこの春から高校生になったばかりの女子である。彼女はとても明るく、陽気な性格で友達も多かったが、一つ悩みがあった。それは、太っているということだ。身長157cmで、体重が65㎏もある。食事量を減らして、一時的に体重が減ってもすぐにリバウンドしてしまう。運動も長続きしない。でも、痩せたいと願っていた。

「美奈、一緒にお弁当食べよう?」

「あ、…うん。」

「何?なんか悩み事?私で良ければ聞くよ。」

「…ありがとう。…えっと、私、太ってるでしょ?…痩せたいなって、ずっと思ってて…。でも、どうしたらいいか分からなくて。」

「それで悩んでたのねー。そっかぁ。美奈は、痩せたらきっと美人になるよ。」

「…そうかなぁ?」

「いつもの明るい美奈はどこに行ったの?なんか、調子が狂っちゃうよ-?」

「そうだよね。…ごめんね。」

「大丈夫だよ。また、何かあったらいつでも相談してね。」

「ありがとう。」

 美奈はいつもクラスメイトの女子の誰かとお弁当を食べている。そんな彼女のことを気にかけていたのが、同じくクラスメイトの田中啓介たなかけいすけだ。啓介の父親はパーソナルジムを経営しており、彼自身も父親からトレーニングを受けていた。彼は見た目は痩せていて、どこか頼りなさそうな感じだが、制服を脱げばすごい筋肉だということは、部活仲間しか知らない。啓介は美奈にどう声を掛けたらいいものか、悩んでいた。

 それから数日後、啓介は意を決して生徒玄関で彼女が来るのを待っていた。しばらく待っていると、彼女が登校してきた。

「おはよう、佐藤さん。」

「おはよう…。あ、えっと…。名前…。」

「田中だよ。田中啓介。」

「おはよう、田中くん。同じクラスだっけ?」

「うん。そうだよ。…あの、もし良かったら、なんだけど…。」

「何?」

「佐藤さんのダイエットをサポートさせてください。」

「ええ?」

「これからは僕が君のお弁当作ってくるし、放課後の運動もサポートするよ。」

「そんなこと…。どうして田中くんが?」

「実は僕の父さん、パーソナルジム経営しててさ。僕自身も父さんからトレーニング受けていたから、佐藤さんのダイエットに協力出来たらと思って。」

「えっと…。なんで私がダイエットしたいってこと、知ってるの?」

「この間の昼休み中に話してた会話、偶然聞こえてしまって。」

「…恥ずかしい。でも、痩せたい。」

「僕が協力するから!」

「いいの?」

「もちろんだよ。」

二人は話しながら教室に向かった。

「美奈、おはよう!今日は田中くんと一緒なんて珍しいね。」

「おはよう。生徒玄関で会ったから。あとね、絵里えり、私、決めた!」

「ん?何を?」

「私、痩せる!」

「どうしたの?急に?」

「絶対に痩せるから!」

「うん。友達として、美奈のこと、見守っているよ。」

「ありがとう、絵里。」

美奈は啓介の方を見て、目を合わせ、こくりと頷いた。今度こそ痩せてやる!そう強い意思を示したのだ。

 翌日、啓介は朝から美奈のお弁当と自分の弁当を作り、前日に作成したダイエットプログラムと、体重管理表を持って登校した。また、生徒玄関で、美奈を待つ。少しして、美奈がやってきた。

「おはよう、佐藤さん。これ、お弁当と、あとダイエットプログラムと、体重管理表だよ。」

「おはよう、田中くん。…ありがとう。うわ-、これすごい!田中くんが作ってくれたの?」

「うん。昨日作ったんだ。お弁当は低脂肪高たんぱく、それでもバランスを考えて作ったよ。」

「ありがとう!教室、行こうよ。」

「そうだね。」

「教室で渡してくれてもいいのに。」

「クラスの皆に見られるの、嫌じゃないなら…。」

「…そこまで考えてくれてるなんて…。」

「佐藤さん、頑張ろうね。」

「うん。私、頑張る!」

 昼休みになり、美奈は啓介から渡されたお弁当をあける。鶏むね肉の塩麹しおこうじ焼きと彩り野菜の炒め物、焼鮭、豆腐ハンバーグ、ご飯も玄米入りのご飯が詰められていた。普段脂っこい食事ばかりしていた美奈は、これで足りるか少し不安だった。

「美奈のお弁当、すごいヘルシーだね。」

「ダイエット中だしね…。でも、これだけで足りるか、不安だわ…。」

「玄米って、食物繊維豊富だから、腹持ちいいのよ?」

「そうなんだ?教えてくれてありがとう。」

食べてみると、どれも美味しく美奈も満足した。

啓介はいつも一人でお弁当を食べている。お弁当のおかずが美奈と同じなので、誰にも知られることなく気にせず食べれるのは、返って好都合だった。

 放課後、啓介は美奈を体操部の部活に連れてきた。部長は美奈を見てかなり驚いている。

「田中、この子、本当に体操部入るの?」

「今はまだ分かりませんが、痩せたらきっと…。」

「痩せたらって…。大会もあるんだし、もっと考えろよ。」

「とりあえず、佐藤さん、柔軟体操始めようか?」

「あ、うん。」

二人でストレッチを行うが、美奈は体が硬いため、前屈なども出来ない。

「これはなかなか大変そうだな…。やりがいがありそうだ。」

そう言って啓介は美奈に笑顔を見せた。

「運動はからっきしダメなのよね…。やっぱり運動しなきゃダメ?」

「食事だけではなかなか痩せないからね。運動とセットなら、痩せやすくなるよ。」

「本当に?なら、頑張る…!」

「佐藤さんのサポートは、僕がするから。」

他の部員たちも美奈と啓介の様子を見ながら、ひそひそと「痩せるの、無理そうだよね?」とか、「体操部には、いらない」とか、いろいろ話していた。しかし二人はめげることなく、ストレッチを続けた。

 その次の日も、啓介はお弁当を作って生徒玄関で美奈を待っていた。

「佐藤さん、おはよう。はい、これ。お弁当。」

「ありがとう、田中くん。」

「体重管理表ちゃんと付けてる?」

「うん。朝起きてすぐに量っているよ。1㎏減ってた!」

「うん!よし。その調子で進めていこう。」

美奈は、啓介のサポートのおかげで、少しずつ体重が減っていくのが実感できた。毎朝、体重計に乗るたびに、少しだけ減っている数字に、喜びと同時に、自分でもできるんだという自信が芽生えてきた。

  啓介との放課後のトレーニングも、最初はつらくて、筋肉痛で動けなかったこともあった。でも、啓介が丁寧に教えてくれるし、励ましてくれるので、なんとか続けることが出来私はた。美奈は、啓介に「諦めないで、絶対に痩せる!」と宣言していた。

  ある日、啓介が美奈に、近くの公園でジョギングをしようと誘ってきた。

 「佐藤さん、今日は公園で走ってみない?景色もいいし、気分転換になるよ。」

 「ジョギング?…私、走るの苦手なんだけど…。」

 「大丈夫!ゆっくりでいいから、一緒に走ろう。」

 公園に着くと、啓介は美奈に、ランニングフォームの指導をした。最初はぎこちなかった美奈も、啓介のアドバイスのおかげで、少しずつスムーズに走れるようになってきた。

 「佐藤さん、すごいじゃん!もう、全然違うよ!」

 「え、本当?嬉しい!」

 美奈は、啓介の言葉に励まされ、さらにペースを上げて走り出した。

 「佐藤さん、ペース上げていいよ!大丈夫、ついて行くから。」

 啓介は、美奈のすぐ後ろを走り、美奈のペースに合わせて、時には励ましの言葉をかけながら、一緒に走ってくれた。

 「田中くん、ありがとう…。」

 「どういたしまして。一緒に頑張ろうね。」

 公園の周りを走り終え、ベンチに座って休憩していると、美奈は啓介に、心の内を打ち明けた。

 「田中くん、私、ダイエット始めたばかりなのに。体重も落ちてきてて。…でも、正直、ちょっと不安なの。」

 「不安?なんで?」

 「だって、今まで太ってたから、痩せたらみんな私を見てくれるようになるのかなって…。」

 「そんなことないよ。佐藤さんは、もともと可愛いのに、さらに綺麗になるだけだよ。それに、佐藤さんは、外見だけじゃなく、内面もすごく素敵な子だから。」

 啓介の言葉に、美奈は少し安心した。

 「そうかな…?でも、私、いつも自信がないの。」

 「佐藤さんは、自信を持つべきだよ。佐藤さんは、すごく頑張り屋だし、優しいし、面白いし…。」

 啓介は、美奈の良いところをたくさん挙げてくれた。

 「田中くん…。」

 「佐藤さん、俺、佐藤さんのことが…。」

 啓介は、美奈を見つめながら、照れくさそうに言葉を詰まらせた。

 「…?」

 「…好きなんだ。」

 美奈は、啓介の言葉に驚き、顔を赤らめた。

 「え…?…。」

 「佐藤さんのこと、ずっと前から…。」

 啓介は、美奈の手を握りしめながら、自分の気持ちを正直に伝えた。

 「…。」

 美奈は、啓介の言葉に、心が震えた。

 「佐藤さん、俺と一緒に、これからも…。」

 啓介は、美奈に、まっすぐな視線を向けた。

 「…。」

 美奈は、啓介の言葉をじっと聞いていた。

 美奈の心は、複雑な感情でいっぱいだった。

 「…。」

 美奈は、何も言えずに、啓介を見つめていた。

 「…佐藤さん?」

 啓介は、美奈の反応を待ちながら、不安そうに美奈を見つめていた。

 美奈は、深呼吸をして、ゆっくりと口を開いた。

 「…田中くん…。」

 美奈は、啓介に、自分の気持ちを伝えることを決心した。

 「…。」

 美奈は、啓介の目を見て、ゆっくりと語り始めた。

 「…私、田中くんのことが…。」

 「…。」

 啓介は、美奈の言葉を、息を呑んで聞いていた。

 「…好きよ。」

 美奈は、自分の気持ちを、はっきりと言葉にした。

 「…!」

 啓介は、美奈の言葉に、驚きと喜びで、顔が輝いた。

 「佐藤さん…!」

 啓介は、美奈の手を強く握りしめ、自分の気持ちを抑えきれずに、美奈にキスをした。

  美奈は、啓介のキスに驚きながらも、幸せを感じた。 

「…。」

二人はしばらく沈黙した。

「佐藤さん、…。」

啓介は美奈の乱れた髪を手で直しながら、

「目標体重まで、一緒に頑張ろう!」

と言うと、美奈も

「田中くんとなら、私、頑張れるよ。」

と答えた。

 半年後、美奈は15㎏の減量に成功したが、まだ骨格ウェーブのため、啓介のアドバイスのもと、ストレッチを続けていた。美奈はそのまま、体操部に入部し、めきめきと才能を開花させていった。



 高校を卒業して、3年後の同窓会で美奈と啓介は再開した。

「田中くん!…私、ずっと田中くんのこと、忘れられなくて…!」

「佐藤さん…。ストレッチ、毎日続けていたんだね…。やっぱり、佐藤さんは綺麗だ!」

「私の気持ちは、変わらないよ…!」

「僕だって、変わらず、佐藤さんのことが好きだよ。…大学卒業したら、結婚しないか?」

「…!」

美奈は驚きを隠せなかった。結婚なんて、まだまだ、と思いたからである。

「私なんかで、いいの?」

「君じゃなきゃ、駄目なんだ。」

「美奈、ここは、迷わずにイエスでしょ?」

回りの元クラスメイトたちもはやし立てる。

「田中くん!…ありがとう。」

美奈はぼろぼろ涙を流しながら、啓介に抱きついた。

「…!」

啓介は戸惑いながらも、美奈を抱き締めた。

「おめでとう、美奈!」

回りから拍手が沸き起こった。

 

 大学卒業後、約束通り、二人は結婚した。

















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