彼氏×彼女に、恋のエッセンスを加えて方程式を解け!

菊池まりな

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第3話 遠藤さんと近衛くんの場合

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「これで全部…。ふぅ…。」

遠藤詩織えんどうしおりはバツイチとなり、荷物をまとめて、アパートに引っ越してきた。

「疲れたなぁ…。どこか、ご飯食べに行こうかな…。」

荷解きも終わっていない、段ボールだらけの部屋である。詩織は携帯電話を取り出し、周辺の飲食店を探し始めた。

「実際に歩いてみないと分からないなぁ…。両隣くらいには挨拶、した方がいいのかなぁ?」

詩織にとっては、初めての一人暮らしだ。学生時代は、学生寮に入り、門限はあったがアルバイトしながら大学に通っていた。卒業後、社会人になってすぐに元夫と出会い結婚したが、彼はギャンブル依存性で、堪らず離婚したのだ。

「仕事も探さなきゃな…。実家に帰った方が良かったのかな…?」

詩織は自問自答を繰り返す。

「…はぁ…。取り敢えず、外に出てみよう。」

そう言い、詩織は小さなバッグに財布と携帯電話と部屋の鍵だけ入れて、出掛けることにした。

「お腹空いたな…。」

朝から引っ越しのため、何も食べていないことを思いだし、余計にお腹が空いたと感じる詩織だった。少し歩いたところに、小さなレストランがあったので、そこに入ることにした。

「いらっしゃいませ。1名様ですか?」

「はい。」

「こちらのお席へどうぞ。」

「ありがとうございます。」

「ご注文がお決まりになりましたら、お声掛けください。」

ウェイターがメニュー表と水を持ってきて、軽くお辞儀をすると静かにテーブルから離れた。

「どれにしようかな…。おすすめ、聞けば良かったかな?」

ふと、メニュー表の「日替わりランチ」に目がいった。

「これにしよう!…すみません、注文お願いします!」

「はい。お伺いします。」

「日替わりランチで、お願いします。」

「日替わりランチですね。本日のランチメニューは、ハンバーグとなっております。パンかライスお選び出来ますが、いかがなさいますか?」

「…、じゃあ、パンでお願いします。」

「かしこまりました。」

しばらく待っていると、料理が運ばれてきた。

「お待たせいたしました。ごゆっくりお召し上がりください。」

詩織は美味しそうに食べ、満足してレストランから出た。



 詩織は再びアパートに戻り、荷解きを始めた。

「これ、いつになったら終わるんだろう…?」

深い溜め息をつきながら、作業を進める。簡単な家具の組み立ても、一人ではなかなか思うように進まない。そんなこんなで部屋が片付くまで一週間もかかってしまった。



「仕事、探さなきゃ。MOS検定、簿記、秘書検定の資格あるし、取り敢えず派遣会社に登録しようかな?」

詩織は携帯サイトで派遣会社を調べて、登録を行った。



 派遣先は、若手イケメン社長、近衛隆二このえりゅうじの大手株式会社 近衛クリエイティブだった。多くの動画クリエイターや、webデザイナー、イラストレーター、webライターなどが活躍出来る場を設け、会社だけでなく、オンラインでも仕事が出来る会社だ。

「仕事、早く見付かって良かった…!」

派遣先の会社のホームページを開いて見てみると、そこには近衛隆二社長の写真と、プロフィールが書かれていた。

「あれ?出身高校、私とおんなじなんだ…。私より2つ年下だから、後輩かぁ…。」

それにしても、写真で見るだけでも社長はイケメンだった。

「…なんて素敵な人なんだろう…。」

詩織は、まだ直接会ってもいないのに、ホームページに掲載された写真を見て、一目惚れしてしまったのだ。

「初出勤は来月1日からかぁ。…よし!頑張ろう!!」

気合いは十分だった。



 いよいよ、詩織の初出勤日となった。詩織は緊張気味である。

「…きっと大丈夫…!」

そう、自分に言い聞かせ、緊張をほぐした。会社の受付で、

「今日から派遣でこちらに来ることになりました、渡辺詩織と申します。」

「わたなべ しおり様ですね。お待ちしておりました。では、秘書室までご案内いたします。」

そう言われ、詩織は一緒にエレベーターに乗り込む。エレベーターが8階で止まると、

「こちらで降りていただきます。」

廊下をスタスタ歩く受付スタッフの後を着いていく。

やがてドアの前で立ち止まり、ドアをノックする。

「失礼します。わたなべしおり様をお連れしました。」

詩織は受付スタッフがお辞儀をするのをみて慌てて、お辞儀をする。

「ありがとう。」

少し低めの落ち着いた感じの声が聞こえて、詩織が頭を上げると目の前には近衛隆二社長がいた。

「渡辺さん、今日からよろしくね。」

「はい…!よろしくお願いいたします!」

「そんなに緊張しないで。肩の力を抜いてください。」

「…はい。ありがとうございます。」

社長は詩織に笑顔を見せる。間違いなく、ホームページで見た、近衛社長の笑顔だった。詩織は嬉しさと恥ずかしさで赤面してしまう。

「急に秘書が辞めてしまったから、困ってたんだよ。」

「…引継とかは?」

「前任者が居ないから、僕が仕事内容教えるよ。」

「はい。お願いいたします。」

「これ、今週の僕のスケジュール、把握しておいてね。」

スケジュールはほぼ分刻みで細かく、そしてびっしりと詰まっていたので、詩織は驚いてしまった。

「あの…、社長はいつもこんなにスケジュールが詰まっているんですか?」

 

詩織は、近衛社長から渡されたスケジュール帳をじっと見つめながら、つい口に出してしまった。

 

「うん、最近は特にね。新しいプロジェクトがいくつか動き出したから。」

 

近衛社長は少しだけ顔をしかめながらも、爽やかな笑顔で答えた。

 

「でも、いつもこんなに忙しいのに、笑顔が絶えないんですね。」

 

詩織は、社長の明るいオーラに、少しだけ安心感を覚えた。

 

「仕事が好きだからかな。それに、最近は新しい目標に向かって頑張っているから、充実しているんだ。」

 

近衛社長は、詩織の言葉に少しだけ照れくさそうに目を伏せた。

 

「…目標ですか?」

 

詩織は、近衛社長の言葉に、思わず聞き返してしまった。

 

「…実は、会社をもっと大きくしたいと思ってるんだ。世界に通用するような、クリエイティブな会社に。」

 

近衛社長は、真剣な表情で、静かに語り出した。

 

「社長の夢、叶うといいですね。」

 

詩織は、近衛社長の熱意に心を打たれ、思わずそう呟いてしまった。

 

「ありがとう。君も、僕の夢を叶えるために、一緒に頑張ってくれるかな?」

 

近衛社長は、詩織の瞳を見つめながら、静かに問いかけた。

 

「…はい、精一杯頑張ります!」

 

詩織は、少しだけドキドキしながらも、力強く答えた。

 

それから、詩織は近衛社長の仕事ぶりを間近で見て、彼の仕事に対する情熱と才能に改めて感心した。

 

「社長は、本当にすごい人ですね。」

 

詩織は、仕事終わりに、いつもそう呟いていた。

 

「君も、なかなかやるじゃないか。」

 

近衛社長は、詩織の仕事ぶりを褒めると、少しだけいたずらっぽく笑った。

 

「…ありがとうございます。」

 

詩織は、社長の言葉に顔を赤らめながら、嬉しそうに答えた。

 

仕事の合間に、近衛社長は詩織に仕事の進捗状況を尋ねたり、時には仕事のアドバイスをくれたりした。

 

「…ところで、渡辺さん、プライベートでは、どんなことをするんですか?」

 

ある日の夕方、近衛社長は、詩織にそう尋ねた。

 

「…えっと、最近は、料理を作ったり、本を読んだりしています。」

 

詩織は、少しだけ照れくさそうに答えた。

 

「料理、いいですね。僕も、たまに自分で作ることもありますよ。」

 

近衛社長は、少しだけ目を輝かせながら、そう言った。

 

「…そうなんですね。今度、何か作って、社長に食べてもらいたいです。」

 

詩織は、思わずそう口にしてしまった。

 

「…それは、ぜひ。楽しみにしてます。」

 

近衛社長は、詩織の言葉に、少しだけ顔を赤らめた。

 

それから、詩織と近衛社長は、仕事だけでなく、プライベートでも少しずつ距離が縮まっていった。

 

週末には、一緒に映画を見に行ったり、以前詩織が行った、美味しいレストランで食事をしたりするようになった。

 

「…社長、私、社長のことが…。」

 

ある夜、映画館から出てきた詩織は、近衛社長に告白しようと決心した。

 

「…好きです。」

 

詩織は、緊張した面持ちで、そう告白した。

 

近衛社長は、詩織の告白に少しだけ驚いた表情を見せたが、すぐに優しい笑顔を見せた。

 

「…ありがとう。僕も、渡辺さんのことが好きです。」

 

近衛社長は、静かにそう答えた。

 

それから、詩織と近衛社長は、恋人同士として、幸せな時間を過ごすようになった。

 

しかし、二人の恋には、大きな壁が立ちはだかっていた。

 

それは、近衛社長の父親である、近衛グループの会長の存在だった。

 

会長は、近衛社長が結婚するのは、グループの将来を担う、家柄の良い女性であるべきだと考えていた。詩織は派遣社員、家柄も普通の、平凡な家庭であるし、バツイチというのも引っ掛かっていた。

 

「詩織さんとの結婚は、絶対に許さない。」

 

会長は、近衛社長に、そう言い放った。

 

「…僕には、詩織しかいません。」

 

近衛社長は、父親の言葉に反論し、詩織との結婚を決意した。

 

しかし、会長は、近衛社長を会社から追い出そうとした。

 

「…社長、どうすればいいんですか?」

 

詩織は、不安げに近衛社長に尋ねた。

 

「…大丈夫。僕は、詩織と結婚する。そして、会社を立て直す。必ず。」

 

近衛社長は、詩織の手を握りしめ、力強くそう答えた。

 

それから、近衛社長は、詩織と共に、逆境に立ち向かっていく。詩織は正社員登用となり、秘書として一層頑張った。

 

二人の恋は、試練を乗り越え、やがて、近衛社長は、会長との対決に勝利し、詩織との結婚を認めさせた。

 

結婚式は、近衛グループの社員一同が祝福する中、盛大に行われた。

 

「詩織、僕と結婚してくれて、本当にありがとう。」

 

隆二は、詩織に深々と頭を下げて、そう感謝の言葉を述べた。

 

「…私も、社長と結婚できて、本当に嬉しいです。」

 

詩織は、感極まって涙を流しながら、そう答えた。

 

二人の結婚式は、会社中の人々の話題となり、詩織は一躍、有名人になった。

 

しかし、詩織は、有名になったことよりも、隆二と結婚できたことが、何よりも嬉しかった。

 

結婚後も、詩織は隆二の秘書として働き続け、二人で会社を盛り上げていった。

 

「詩織、いつもありがとう。君がいなければ、僕はここまで来られなかったよ。」

 

近衛社長は、詩織に感謝の気持ちを込めて、そう言った。

 

「…いえ、社長が頑張っている姿をみたら、私も頑張らなくては!と思って頑張れるのです。」

 

詩織は、笑顔でそう答えた。

 

二人の間には、仕事に対する熱い思いと、お互いに対する愛情が溢れていた。

 

それから、数年後、二人の間には、可愛い女の子が生まれた。子どもには「陽葵ひまり」と二人で名付けた。

 

隆二は、生まれたばかりの陽葵を抱きながら、

 

「太陽のように明るく、向日葵のように真っ直ぐに育つんだぞ!陽葵。」



と話かけた。

 

詩織は、生まれたばかりの陽葵を見つめながら、幸せそうに微笑んだ。

 

「…詩織、僕たちは、これからも、ずっと一緒に、幸せに生きていこうね。」

 

隆二は、詩織と子供を見つめながら、そう誓った。

 

詩織は、隆二の言葉に、静かに頷いた。

 

そして、二人の物語は、これからも、ずっと続いていく。







































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