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第43話 母の思い
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翌朝、桜月庵の座敷に柔らかな日差しが差し込んでいた。
美咲は膝の上に、古びた革の手帳をそっと広げていた。
隣には悠人が静かに座り、彼女の決意を見守っている。
ページを開くと、母・春香の筆跡が現れる。
凛とした文字だが、どこか温もりを帯びていた。
──「和菓子は、味だけでなく記憶を包み込むもの。甘さは心を癒やし、色は季節を映し、香りは人を過去へ導く」
美咲の胸が熱くなる。昨日、自ら作った「桜薫」が、まさにその言葉を体現していたのではないかと気づく。
さらに読み進めると、春香の修行時代の記録が綴られていた。
失敗の連続。焦げた餡、固すぎる求肥、形の崩れた上生菓子。
けれどそのたびに、春香は「失敗は記憶になる。だから無駄じゃない」と自分を励ましていた。
「……母も、最初から上手だったわけじゃなかったんですね」
美咲がつぶやくと、悠人はうなずいた。
「誰だってそうです。春香さんも、美咲さんも。歩んできた道のりが、すべて今につながっている」
ページの最後に、ひときわ力強い文字があった。
──「私が作りたいのは、未来へ残る和菓子。娘に託せる味。桜の香に込めて、いつか必ず伝えたい」
その一文を見た瞬間、美咲の視界が涙でにじんだ。
「……お母さんは、最初から私に残そうとしていたんだ」
悠人がそっと差し出した手ぬぐいで涙を拭う。
「そうです。だから、美咲さんが今ここにいること自体が、春香さんの願いなんです」
美咲は深く息を吸い込み、震える声で言った。
「私、母が夢見た“未来に残る和菓子”を作りたい。桜薫だけじゃなくて、私自身の菓子を」
悠人は静かに微笑んだ。
「それが、春香さんへの一番の答えになるはずです」
庭の桜が風に揺れ、はらはらと花びらが舞い込んだ。
それはまるで、春香が娘に寄り添い、背中を押しているかのようだった。
美咲は膝の上に、古びた革の手帳をそっと広げていた。
隣には悠人が静かに座り、彼女の決意を見守っている。
ページを開くと、母・春香の筆跡が現れる。
凛とした文字だが、どこか温もりを帯びていた。
──「和菓子は、味だけでなく記憶を包み込むもの。甘さは心を癒やし、色は季節を映し、香りは人を過去へ導く」
美咲の胸が熱くなる。昨日、自ら作った「桜薫」が、まさにその言葉を体現していたのではないかと気づく。
さらに読み進めると、春香の修行時代の記録が綴られていた。
失敗の連続。焦げた餡、固すぎる求肥、形の崩れた上生菓子。
けれどそのたびに、春香は「失敗は記憶になる。だから無駄じゃない」と自分を励ましていた。
「……母も、最初から上手だったわけじゃなかったんですね」
美咲がつぶやくと、悠人はうなずいた。
「誰だってそうです。春香さんも、美咲さんも。歩んできた道のりが、すべて今につながっている」
ページの最後に、ひときわ力強い文字があった。
──「私が作りたいのは、未来へ残る和菓子。娘に託せる味。桜の香に込めて、いつか必ず伝えたい」
その一文を見た瞬間、美咲の視界が涙でにじんだ。
「……お母さんは、最初から私に残そうとしていたんだ」
悠人がそっと差し出した手ぬぐいで涙を拭う。
「そうです。だから、美咲さんが今ここにいること自体が、春香さんの願いなんです」
美咲は深く息を吸い込み、震える声で言った。
「私、母が夢見た“未来に残る和菓子”を作りたい。桜薫だけじゃなくて、私自身の菓子を」
悠人は静かに微笑んだ。
「それが、春香さんへの一番の答えになるはずです」
庭の桜が風に揺れ、はらはらと花びらが舞い込んだ。
それはまるで、春香が娘に寄り添い、背中を押しているかのようだった。
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