【R18】国民的アイドルの異常な執着愛:夜職初心者の私はカロンの舟に堕ちる

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第2話:一目惚れという名の略奪(佐伯陽一視点)

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チン、と無機質な音を立ててエレベーターの扉が開く。この音を聞くたびに思う。自分もまた、世間に消費されるために温められ、パッケージングされただけの商品なのだと。

俺は、佐伯陽一。二十七歳。国民的人気アイドルグループ『SOLARISソラリス』のセンター。通称:SOLARISソラ。それが、俺に貼られたラベルだ。

表舞台では完璧な王子を演じているが、本性は違う。誰よりも負けず嫌いで、一度狙った獲物は地の果てまで追い詰めてでも手に入れる。センターという椅子も、名声も、すべては俺の執念が掴み取ったものだ。

この渇き切った心を満たす、俺だけの、俺のためだけに存在する何かが欲しかった。誰にも触れさせない、俺だけのものを欲しがる、独占欲の塊だ。

外は、逃げ出したくなるような冷たい雨だった。
高級車のスモークガラス越しに眺める街は、色とりどりのネオンが雨に滲み、まるで溶け出した宝石のようにひどく歪んで見える。どこへ行っても自分の顔が映った巨大な広告スクリーンが目に飛び込んできて、監視されているような気分だった。

(それはそれで、悪くはないが)

完璧な王子様を演じ続ける一日の終わりに、俺が求めていたのは歓声やカメラのフラッシュでもない。誰も俺の名前を呼ばない場所、誰にも邪魔されない、静かな場所が欲しかった。

だから、いつものように馴染みの高級ラウンジ『LUXEリュクス』へ足を向けた。

数え切れないほどの女を見てきた。媚びるような微笑みも、金目当ての視線も、もう飽き飽きしている。今日も適当に酒を煽り立てて帰るつもりだ。

なのに。

扉が開いた瞬間、俺の心臓が、久しぶりに激しく鳴った。

「佐伯様、お待たせいたしました。本日入りました、紬です」

LUXEリュクスのマネージャーの声と共に現れたのは、雨に濡れた子猫のような女性。

震える唇、潤んだ瞳、ドレスに張りついた胸の曲線。無防備で、脆くて、誰かに壊されそうなほど純粋な匂い。

この汚れた夜の世界にはあまりにも不釣合いだった。

(……欲しい)

たったそれだけの衝動。けれど、俺の中の怪物が目を覚ました。

他の客に触れられる前に、俺のものにしたい。誰にも見せたくない。

この体も、声も、涙も、全部。

この無垢な肌を俺の色だけで染め上げ、誰の手も届かない部屋の中に閉じ込めてしまいたい。

彼女は怯えていた。隣に座るだけで膝を震わせ、グラスを持つ手さえおぼつかない。その初めての香りが、俺の独占欲をさらに煽る。

俺は再び隣に座り、今度は距離を詰めた。膝が触れ合うほど近くて、彼女の心臓が激しく波打っている。

「震えているな。怖いか?」
「い、いえ……ただ、初めてで……」
「初めて?」
「はい」

俺の瞳が、好奇心に満ちた。危険な遊びをしたくなる。

(……この店が、夜職が、初めてだというのか)

その返事を聞いた瞬間、喉の奥で獣が唸った。
他の男に触れられたことのない体。ならば、俺が最初で最後になればいい。

雨に濡れてドレスが肌に張り付いているのを見て、理性が焼き切れる音がした。

俺は彼女の濡れた髪に指を滑り込ませる。冷たい雨の粒を拭うように、優しく、でも逃がさないように。

彼女は息を詰め、動けないでいる。

俺の視線に捕らわれたら、もう逃げられないと、そんな予感が、甘く重く胸に広がっているのだろう。

(この感覚、悪くない)

自分でも驚くほど低い声が出る。

「お嬢ちゃん、雨に濡れたまま?寒くない?」

自分のジャケットを彼女の肩にかけた。優しさからじゃない。俺の匂いをつけ、俺の所有物であることを周囲の男たちに、そして彼女自身に知らしめるためのしるしとして。

「名前は?」
「羽瀬……紬、です」

俺は、その名前を極上のワインを試飲するように舌の上でゆっくりと転がした。

「紬……いい名前だ」

鼻に抜ける名前の余韻すら甘い。思わず、喉が鳴る。耳元で囁くと、彼女の肩が小さく跳ねる。

その震えすら、愛おしい。

「今日は俺だけだ。他の客は来ない。……お前の全部を、俺が買い占めた」

突然の言葉に、彼女は大きく目を見開いた。鳩が豆鉄砲を食らったような顔。その顔も、壊してしまいたい。

「え……でも、あの……私、23時から別のお客様にご指名を頂いていると伺っていて……」

彼女がおどおどと口にした言葉に、俺の眉がぴくりと動いた。

「……指名?」

聞けば、店側はこの新人を今夜の目玉として上客たちに宣伝していたらしい。だが、俺のところにはその情報は一切降りてきていなかった。

マネージャーもママも、俺にはいつも通りの、洗練されたプロの女ばかりをあてがおうとしていた。

(俺の好みを勝手に決めるな)

腹の底でどす黒い不快感が渦巻く。世間も、この店も、俺を完璧な王子様という偶像や、単なる太客(金)という枠にハメて、それに似合うものだけを差し出そうとする。

この店には明確な階級がある。場数を踏み、客のあしらいを覚えたプロほど高額な指名料が設定されている。

俺のようなVIPには、店側が選んだ最高級の商品が優先的にあてがわれる仕組みだ。

逆に、右も左もわからない新人は安く買いたたかれ、一般客の遊び相手として消費される。

裏話だが、成長しない女は身体を売ることになる。ラウンジでは珍しい仕組みだ。自ら店を、辞めさせるための策だろうがな。

ママたちは、俺がそんな安価で未熟な新人になど興味を持つはずがないと、勝手に高をくくっていた。

指名料の多寡たかなんてどうでもいい。

俺が今、猛烈に欲しているのは、この店が最高級と呼ぶ誰かの使い古しなどではない。指先一つで壊れてしまいそうな、この無垢で、震える、雨に濡れた小鳥だ。

「……その指名、すべてキャンセルさせろ。誰にも、指一本触れさせるな」

自分の内側にある負けず嫌いな本能が、激しく音を鳴らしていた。誰かにこいつを見つけられる前に。俺だけのものにしなければならない。

呆然としている彼女を横目に、俺はテーブルにある呼び出しボタンを迷わず押した。

呼び出しボタンを押して数秒、扉が勢いよく開いた。
駆け込んできたマネージャーは、俺の冷え切った表情と、隣で震える紬を交互に見て、目に見えて慌てていた。

「陽一様、この子が何か失礼を致しましたでしょうか!まだ初日の新人で、作法も何も分かっておらず……すぐに別の、手慣れた者を代わらせますので」

控えていたマネージャーが、心にないようなマニュアル通りに頭を下げる。

俺の逆なでされたプライドに火が付く。こいつらは、何も分かっていない。

「彼女、この後の指名が入っているらしいな」
「はい、さようでございます。本日の目玉として、他のお客様からも大変ご期待を頂いておりまして……まもなく交代のお時間に」
「すべてキャンセルしろ。今後、こいつを一切表に出すな」

マネージャーが、弾かれたように顔を上げた。

「さようなことを仰られましても……店の方針として、新人を特定のどなたかが独占されるというのは、前例がございませんし、何より…」
「金ならいくらでも払う。一億か?三億か?」

俺は懐からカードケースを取り出すと、無造作にテーブルへ置き、マネージャーの方へすり出した。

乾いた音が、静まり返った個室に響く。

「前例なら作ればいいだろう。こいつの人生ごと、俺が買い取る。……文句はないな?」

彼女の息を呑む音が聞こえた。

店側が安物だと決めつけていた彼女を、俺が最高額で奪い去る。困惑するマネージャーを冷たく見据えながら、俺は彼女の肩を、抱き寄せるように強く引き寄せた。

──その夜は、俺にとって最高な時間になった。

俺はほとんど酒を飲まず、ただ彼女に話しかけた。
アイドルとしての表の顔のことなど一切口にせず、ただ「紬は可愛いな」「もっと近くで見たい」と繰り返す。

指先で頬を撫でられたり、肩を抱かれたりするたび、彼女の体は跳ね上がるように熱くなった。

彼女が怖がれば怖がるほど、俺の独占欲は心地よい熱を帯びて膨れ上がる。

初めての夜、初めての客、そして初めての略奪。

(そう思えば思うほど、惜しみなく奪いたくなる)

誰の垢もついていない真っ白な彼女の記憶を、俺という男の存在だけで塗りつぶしてしまいたかった。

俺は、彼女の首筋に顔を寄せ、その震えを深く吸い込んだ。

「借金があるんだろ?」
「え……どうして……」
「顔を見ればわかる。必死で稼ごうとしている顔だ」

彼女はただ、私のジャケットを握りしめたまま、潤んだ瞳で俺を見上げている。その瞳に映っているのは、国民的アイドルとしての佐伯陽一じゃない。

自分の人生を強引に奪い去ろうとしている、一人の冷酷な男の姿だ。

「いくらだ?」
「それは……お客様には関係ないです」
「俺には関係ある」

俺は彼女の手を取り、自分の膝の上に置いた。そして、彼女の細い指を俺の手で包み込んだ。指と指を絡め、彼女の耳に息を吹きかけ、耳を唇で挟みながら「俺が全部払ってやる」と言葉を切った。

彼女は全身を震わせていた。

「さあ、行こう」

店の裏口に回された店専用・俺の専属の黒い高級車に、彼女を押し込むようにして乗せた。

ドアが閉まり、雨音が遠のいた車内は、濃密な沈黙と俺たちの体温だけで満たされた。

窓の外を流れるネオンの光が、彼女の横顔を不規則に照らす。

俺は黙って彼女の手を取り、その指先に自分の指を絡めた。

俺だけの女だ。絶対に離すものか。


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