【R18】国民的アイドルの異常な執着愛:夜職初心者の私はカロンの舟に堕ちる

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第3話:独占の鎖が巻きつく夜(佐伯陽一視点)

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車が走り出すと、雨音がルーフを叩く心地よいリズムとなって車内に響く。隣に座る紬は、俺のジャケットに埋もれるようにして、小刻みに震えていた。

(……無理もない)

無理やり車に押し込められ、正体不明の男に連れ去られているのだ。俺への恐怖か、あるいは変わり果てた自分の運命に絶望しているのか。

その震えが、俺の中の加虐心をじわじわと突き動かす。痛めつけたいわけじゃない。ただ、その怯えた瞳も、震える肩も、すべてを俺の掌の中に閉じ込めて、俺なしではいられないように壊してしまいたくなる。

ふと、めくれ上がった裾の隙間から、紬の白い膝上に痛々しく残る青黒い痣が目に留まった。

(……誰に、どこで付けられた?)

俺以外の何かがこいつに跡を残している。その事実が、反吐が出るほど不快だった。

「……次は、俺だ」

掠れた声で呟き、紬の細い手首を掴み、そのまま自分の膝の上へと引き寄せる。その痣を塗りつぶすように、親指の腹で、慈しむように、けれど跡が残るほど強く押し擦った。

(暴力で屈服させたいわけじゃない)

この醜い痣を、俺が与える熱と快楽で、跡形もなく塗り替えてやりたいだけだ。驚く紬を無視して、太ももに張り付いた濡れたドレスの裾を、ゆっくりとめくり上げる。

街灯の光が、剥き出しになった白い肌を照らす。

「少し、見せてみろ」
「えっ…あの…」

指先でその柔らかな肉を強くなぞると、紬は熱い吐息を漏らして俺の肩に顔を埋めた。

(……ひどく、熱い)

指先から伝わる紬の肌は、雨に濡れて冷えているはずなのに、俺が触れた場所からじわじわと体温を上げているのがわかった。

初めて経験する男の愛撫と、車内という密室の恐怖に、どう反応していいか分からずパニックになっていた紬。逃げ場のない後部座席、遮断された車窓。すぐ目の前には運転手の背中があるというのに、俺の手は容赦なく紬の柔肌を暴いている。声を上げれば、あるいは少しでも暴れれば、前を向く男にすべてを悟られる。

雨音以外に音が消えたこの狭い空間では、俺の視線も、吐息も、肌に触れる指先の熱も、すべてが逃れられない暴力的なまでの質量を持って紬を追い詰めているのだろう。

だが、俺の胸板を押し返そうとする彼女の小さな手には、微塵も拒否するという意思がこもっていないようにも思えた。

(夜の女になるという決意の表れか。それとも、身体はもう俺を求めているのか)

街灯の光が差し込むたび、露わになった太ももが白く浮き上がる。羞恥に染まった紬の顔を想像すると、下腹部の奥が疼いた。

(……このまま、どこか遠くへ連れ去ってしまいたい)

抵抗できない紬の耳たぶを唇で挟み、舌で転がしながら、「いい子だ。身体が熱くなっている」と、囁く。

「……あ、ちが、います」

否定する声は震え、吐息は甘く、俺の首筋をくすぐる。

紬は、恥ずかしさに耐えきれないのか、俺のジャケットの襟をぎゅっと握りしめ、逃げるように顔を隠した。その健気で無防備な姿が、余計に俺の獣心を刺激する。

そんな衝動を抑えながら、紬の細い指を一本ずつ、確かめるように俺の指で絡め上げると、俺の熱に当てられたように、潤んだ瞳を泳がせている。

絡めた指先から、紬の速すぎる脈拍が伝わってくる。俺に触れられているだけで、この女の心臓は今にも壊れそうなほど跳ねているのだ。その事実が、たまらなく愉悦をそそった。

俺は紬の耳元に顔を寄せ、低い声で逃げ場を塞ぐように告げた。

「住所は?」
「……えっ」
「住所を言え」

低く、有無を言わさない俺の声。紬はびくりと肩を跳ねさせ、消え入りそうな声で、かつて俺も住んでいたことのあるあの地区の住所を口にした。

「……夜舟よふね」町、です」

その言葉が漏れた瞬間、前方を走らせる専属運転手が、わずかにハンドルを握る手をこわばらせたのがバックミラー越しに分かった。

「……陽一様、あちらはあまり治安の良い場所ではございません。夜間に立ち入るのは、いささか危険かと」

「構わない。俺を育てた町だ。行け」

運転手の懸念も無理はない。そこは、警察の巡回すら疎かになる、欲望と絶望が入り混じった吹きだまりだ。

芸能界という煌めく舞台に引きずり出される前、俺の唯一の武器は、この顔と女を操る言葉だけだった。スカウトされた時、俺を取り囲んでいた女たちが流した涙の味さえ、今はもう思い出せない。

だが、そんな泥沼に、この無垢な小鳥がいたというのか。

「……あんな場所で、何をしていた」

俺の問いに、紬はただ唇を噛んで震えている。絞り出すような紬の声は、雨音に消されそうなほど弱々しかった。
「……あそこしか、借りられる場所が、なかったんです」
「それと、家賃が、安かったから……」

その言葉に、俺の奥歯がわずかに軋んだ。二十歳の娘が、身を寄せる場所を選ぶ基準が安全ではなく安さだという、救いようのない現実。

(俺も、かつてはそうだったのかもしれない。もう忘れかけているが)

選ぶ権利などなく、ただ生き延びるために泥を啜る場所を探すしかなかった。戦後の混乱期に比べれば、今は誰もが平等に、普通に暮らせていると錯覚する者も多い。だが現実は、そんな生ぬるい幻想からこぼれ落ち、泥沼に沈む人間など五万といる。

あの地区の入り口が見えてきた。思い出したくないが、これも何かの縁だ。窓の外を見れば、ネオンの光は消え、割れた窓ガラスや落書きだらけの壁が目立ち始める。

(……こんなゴミ溜めに)

昔の俺なら、この街で出会うような女は、一晩抱いて翌朝には捨てていただろう。

抱いた女が、朝になれば泣きながら金を置いていく。そうしてでも繋ぎ止めておかなければ、俺という男が二度と目の前に現れないことを悟っていたからだ。身を削って差し出したその金が、女たちにとって唯一の、俺を繋ぎ止めるための鎖だ。そこにあったのは、刹那的な快楽と引き換えの、そんな使い捨ての愛だけ。

だが、今の俺が求めているのは、そんな薄っぺらな鎖ではない。自分を繋ぎ止めろと泣きついてきた過去の女たちとは違う。今の俺は、目の前のこの女を離す気になれない。

俺が無理やり鎖を巻き付け、大金を積み上げてでも、手元に閉じ込めておきたいと思わせるのだ。

そう言えば、俺と紬は、この街ですれ違うことすらなかったはずだ。七歳の差がある。いつ紬がこの夜舟町に沈み出したのかも、俺は知らない。

汚れきったこの景色と、俺の腕の中で震える白く清らかな紬。そのあまりの対比に、俺の独占欲は狂おしいほどに膨れ上がった。

「陽一様、到着致しました」

運転手の静かな声と共に、高級車がガタガタと揺れる路面の悪い場所で停車した。

窓の外には、割れた街灯がチカチカと明滅し、ゴミの散乱したアスファルトが雨に濡れて光っている。

俺は紬を抱き寄せていた腕を解き、先に外へ出る。紬をエスコートするようにドアを開けた。

錆びついた鉄骨の階段を上がり、紬が震える手で鍵を開けた。

ドアを開けた瞬間に鼻を突いたのは、カビ臭い空気と、生活の苦しさが染み付いた、紬が必死に耐えてきた時間の匂いだった。

「……酷いな、ここは」

思わず口を衝いた言葉に、紬が恥ずかしそうに肩をすぼめる。以前の俺なら見慣れた光景だったはずだが、今の俺には、紬がこんな場所に存在していること自体が許せなかった。

狭い室内を見渡せば、机の上には積み上がった督促状と、入院費の請求書。

俺はその一枚を無造作に手に取った。

金額、期限、どれを見ても、20歳の娘が背負うにはあまりに重く、残酷な数字だった。

紬が夜の街に身を投げ出してまで守ろうとしていたものの正体が、この数枚の紙切れに集約されている。

「返済のために、ラウンジに来たのか」
「はい」

正直、俺は疑っていた。綺麗な顔をした女が夜の街に沈む理由は、大抵がろくでもない男への貢ぎか、身の丈に合わない贅沢だ。

(……あぁ、そうか)

自分の身を削ってでも、守らなければならない何かがある。そのあまりにも正しすぎる理由は、このぬかるみのような夜舟町では、人を蝕むだけだ。

「荷物をまとめろ」

唐突な言葉に、紬が顔を上げた。

「え……?」

「今日からお前の居場所は、俺が決める。……分かったな?」

威圧するように顔を近づけると、紬は小さく「はい……」と震える声で応じた。
その従順な返答が、俺の胃の奥を甘く焦がす。

この借金の額は、そのまま、俺がお前を拘束できる時間の長さだ。

反論も、拒否も、一切許さない。

呆然とする紬の肩に、俺の匂いが染み付いたジャケットを深くかけ直し、細い指を力強く、壊さない程度の強さで握りしめた。

(あぁ、心地いい。金で解決できるなら安いものだ。これでこの濡れた子猫の人生は、何から何まで俺のものだ)

逃がさないようにその細い指を絡め上げ、俺は暗い雨の夜へと紬を連れ出した。

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