【R18】国民的アイドルの異常な執着愛:夜職初心者の私はカロンの舟に堕ちる

YOR

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第6話:支配される身体、沈みゆく予感・姫初め(羽瀬 紬視点)

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彼が仕事で不在の間、私は広いマンションに取り残された。
やるべきことは何もない。掃除も、洗濯も、母の病院への支払いさえ、すべて彼が手配した誰かがやってしまう。

(ずっとこうしていたい……)

かつてはあんなに必死に働いていたのに。
今日からは、彼に貸し与えられた柔らかなソファに身を沈め、窓の外を流れる雲を眺めるだけで一日が終わる流れになる。母のことは、もちろん心配だ。けれど、それ以上に私の心を占めているのは、昨夜、彼に刻まれた熱い感触。

(一度、私の頭の中から彼を切り離さなければ、気が狂いそうだ)

手持ち無沙汰につけた大きなテレビの中では、彼、佐伯 陽一が、眩いスポットライトを浴びて歌っていた。画面の中の彼は、優しく微笑み、世界中の愛を一身に受けているかのように輝いている。数万人のファンを熱狂させる、非の打ち所がない国民的アイドル。

(……嘘みたい)

彼は、数時間前まで私を組み伏せ、あんなに冷たい瞳で私を貪っていた男と同じ人だなんて、到底信じられない。画面越しに見る彼は、決して手の届かないほど遠い存在。

その隣や後ろに並ぶ、他の3人のメンバー。

「……みんな、全然タイプが違う」

天真爛漫に笑う最年少のすばる。22歳。私と年齢が近いから話も合いそうだ。映像で見ても、大型犬のような親しみやすさがある。

クールでどこか影のあるれい。26歳。無表情な感じが女性に人気なのだろう。モデルのように細身で、少し気怠そうな佇まい。

そして、一番端で、どこか冷めたような、整いすぎた表情を浮かべているのが夜凪よなぎかい。28歳。彼よりも一つ下。でもリーダーではない。けれどリーダーではない。……何か理由があるのだろうか。

画面越しでも伝わってくる、近寄りがたいほどの理知的な雰囲気。陽一が動の威圧感なら、この人は静の拒絶感がある。彼より少し背は低そうだけれど、180センチはあるだろうか。仕立てのいいスーツが、驚くほど似合っている。

ネットの掲示板には『人気ランキング最下位』なんて心ない言葉も並んでいたけれど、私にはそうは見えなかった。むしろ、この人はアイドルという場所を、高い場所から観察しているように見えて。

(少し、怖い)

歌番組が終わり、指先でチャンネルを切り替えると、偶然にも彼が主演しているドラマが流れてきた。今まで一度も見たことがなかった。けれど、そこに映し出された光景に、私は息を呑んだ。

画面の中の彼は、美しい女優を抱き寄せ、甘い言葉を囁きながら、ゆっくりとシーツに沈んでいく。それはテレビ用の、綺麗に整えられた、誰に見せても恥ずかしくない愛の形。

(……あんなに、優しく笑うんだ)

女優を見つめる彼の眼差しは温かく、大切に宝物を扱うかのよう。その慈しみに満ちた表情は、私の髪を乱暴に掴み、冷たい瞳で「俺の住人だ」と言い放ったあの男とは、どうしても結びつかない。
画面の中の情事は、どこまでも清潔で、嘘くさいほどに輝いている。それに比べて、今、私の肌に残っているのは、彼に強く噛みしめられた痕と、消えない熱。

私は彼の所有物かもしれないけれど、彼は私の所有物には、一生なってはくれない。ソファの上で小さく身を震わせる。

この眩しい世界にいる彼を知れば知るほど、今の自分の立場がいかに異常で、淫らなものであるかを突きつけられるようだった。

(……早く、帰ってきてほしい)

ドラマの彼ではなく、私を壊してくれるあの暗い瞳の彼に会いたい。そう願ってしまう自分に絶望しながら、チャンネルを切り替える。

「……ひめはじめ?」

画面に映る新春特集。

司会者が「皆さんの姫始めは?」と笑いながら問いかけている。気になってスマホで検索してみると、そこにはいくつもの意味が並んでいた。

柔らかいご飯を食べ始める日、女性が初めて裁縫や洗濯をする日、火や水を使い始める日。

(……なんだ、お正月の家事のことなんだ。よかった)

彼のこの部屋で、ゴロゴロしているだけの自分。それなら、彼のシャツを洗濯したとか、彼のために食事を用意した、ささやかな姫始めと言えるのか。

(けど、私は、何もしていない。姫始めとは縁がないのだな)

ほんの少しだけ安心したのも束の間、画面をスクロールした指が止まる。

『俗説:その年に初めて男女が交わること(秘め事)』

「っ……」

途端に、ひどく淫らなものに感じられて顔がほてる。世間の女性が家事を始めるのと同じように、私は彼の所有物として、この秘め事を始めてしまったのだ。

ドラマの中で、誰からも祝福されるような愛を演じている彼。その彼に、私は昨日、どんな声を漏らしてすがりついただろうか。

私の姫始めは、家事のような日常の延長などではなく。二度と外の世界へは戻れない、暗く、熱い激しく求める関係の始まりが、姫初めだった。

カーテンを閉め切った薄暗い部屋で、私は自分の腕を抱きしめる。彼に抱きしめられている感覚に陥りたかった。
そして、考えれば考えるほど触れられた場所が、うずくように火照り、熱を広げていく。

(彼の身体に恋しているの?)

私はもう、真っ当な人間には戻れない。この黄金の檻の中で、彼の帰りを待ちわびるだけの、淫らな飼い犬になり下がってしまっている。

シーツを掴む指先に、力がこもる。

寝室に漂うのは、夜の闇に溶けそうなほど濃厚な、彼と同じ香りの芳香。

チャンネルを消すと、部屋には耳が痛くなるほどの静寂が訪れた。

これまでの私には、こんな風に何もしない時間なんて一秒もなかった。朝から晩までいくつもバイトを掛け持ちして、疲れ果てて死んだように眠る。ただ生き延びるためだけに、止まることを自分に禁じてきた日々。

けれど今は、思考を止めてくれる騒音も、追い立ててくる空腹もない。

窓の外を流れる雲を眺めているだけで、胸の奥がざわざわと落ち着かなくなる。静かになればなるほど、自分の惨めさがひしひしと湧き出てくる。けれど、独りになるのが、こんなに怖いと思うとは。考えるのをやめたい。過去を振り切りたい。

乱暴に扱われている間だけは、私は借金まみれの羽瀬 紬ではなく、ただの彼の住人・所有物になれる。自分の意志で呼吸することすら忘れさせてくれるあの指先が、今は、喉から手が出るほど愛おしい。

彼の本当の正体が何者かも、聞けない。けれど、あの人が帰ってきて、私を乱暴に、必要としてくれる夜さえあれば、他には何もいらない。

(自由なんて、欲しくない)

外の世界にあるのは、借金と、怒鳴る父と、絶望だけ。ここには、私を壊してくれるほど甘い夜がある。

パタン、と玄関の開く音が静寂を破った。

(彼が、帰ってきた)

私は震える指先で、使用人のおばさんが置いていった真っ白なエプロンの紐を、裸の体に直接結び付ける。

(……捨てられたくない。嫌われたくない。もっと、彼に必要としてほしい)

昼間の静寂に押しつぶされそうだった私の頭には、そんな短絡的で浅ましい思考しかなかった。重い足取りでリビングに現れた彼の前に、私はひざまずくようにして頭を下げる。

「……お帰りなさいませ」

掠れた声で告げると、室内の空気が一瞬で凍りついたのがわかった。
私の異様な姿、全裸にエプロンだけを身に纏った、あまりに露骨な誘惑に、彼の視線が突き刺さる。

「……何だ、その格好は」

地を這うような、低い声だった。喜んでくれると思ったのに、彼の瞳にあるのは嫌悪に近い激しい怒り。

「あ、あの……ごめんなさい。その、喜んでもらえるかと思って……」

私は震える声で、すがるように彼を見上げた。

「ネットで……大人の男の人は、こういうのが好きだって、書いてあったから。私、これくらいしか、あなたに返せるものが……っ」

言えば言うほど、自分の浅ましさが露呈していく。

彼からすれば、私が「誰でもいいから誘惑しようとしている」ように見えたのだろうか。それに、何より私自身の……あんなに気持ちがいいのなら、もっと乱れたい。そんな淫らな期待を抱いていたもう一人の私がでしゃばるから。

(普通に待てばよかった)

後悔がこみ上げる暇もなく、彼は私の肩を乱暴に捕まえ、引きずるようにして寝室へと連れ込んでいく。

「……っ、痛い……!」

寝室に放り出された瞬間、彼の冷たい指先が私の肌を刺した。

昨夜よりも、ずっと強引で、迷いのない手つき。

私が身に着けていたエプロンの紐は、彼の抑えきれないほどの強い意志を持った指先によって、一瞬で無力になった。そして、震える肩を強引に押し伏せられ、剥き出しになった肌を、彼の熱い手のひらが容赦なく、私の身体を好き勝手に変えていく。

その行為は、愛撫というにはあまりに暴力的。けれど私の身体のどこをどうすれば、一番深く、鋭い痺れが走るのか、すべて知り尽くしているように、正確な手つきで私を魅了していった。

まるで、数万人が熱狂するライブ会場を意のままに操るように、彼は私の身体を弄ぶ。

私の吐息は熱狂的な歓声に代わり、彼が指を這わせるたびに、身体の奥が激しいリズムを刻む。巨大なドームの熱を、たった一人の私の中に凝縮して叩き込まれているような……。

逃げ場のない快楽の渦。

柔らかな曲線に指を食い込ませ、呼吸を奪うほど深く、私の内側の柔らかい場所を抉るように追い詰めていく。逃げようと悶えるたびに、彼は低い笑い声を漏らして、さらに強引に私を屈服させていった。

「震えているな。今朝の威勢はどうした」

低い声が鼓膜を震わせる。

私は、彼の名前を呼ぶことができない。

(……今朝、テレビで見たあのキラキラした笑顔は、どこへ行ったの……?)

数時間前、画面の中で大勢のファンに愛を振りまいていた彼。あの優しくて温かな微笑みはどこにもない。目の前にいるのは、あまりにも冷酷な、正体不明の飼い主にしか見えない。けれど、彼に触れられた瞬間、身体の中から力が抜けて、自分でも驚くほど淫らな吐息が漏れ続ける。

(……もっと、激しくして。……陽一、さん)

喉元まで出かかったその名前を、私は必死に飲み込む。

彼に、自分がこんなにも早く堕ちてしまったことを知られるのが怖くて。それ以上に、名前を呼ぶことさえ許されないほど、自分が遠い場所にいる気がして。

彼の指先が、昨夜と同じ熱を私の肌に刻み込んでいく。抵抗できない。いいえ、抵抗したくない気持ちの方が、もうずっと強くなっている。昨夜教え込まれた快楽が、脳の奥でじわじわと解けて、身体の自由を奪っていく。

(……もっと、……お願い)

自分から彼にしがみつき、快楽をねだる。世界には、きっと他にも幸せの形があるのだろう。でも、私はそんなことすら知らない。

彼が私の中に刻みつける強烈な刺激に、私はただただ、酔い痺れ、溺れることしか考えられなかった。

彼に汚され、彼色に染まることに、抗いようのない喜びを感じていた。嵐のような熱情が過ぎ去り、幸せな沈黙が部屋を満たした、その時だった。

床に脱ぎ捨てた私のバッグの中で、振動音が響いた。

――ヴ……ヴ……ヴ……。

静まり返った部屋で、その音は呪いのように不気味に響く。

私はハッとして、意識を現実に引き戻された。バッグの隙間から漏れる、青白いスマホの光。そこに表示されているのは、見たくもなかった、私の人生を呪い続けた二文字。

『父親』

借金、土下座、怒鳴り声。あのボロアパートの、カビ臭い現実が、この高級なマンションの部屋にまで追いかけてきた。

「……父親?」

彼は動きを止め、床に手を伸ばして私のスマホを拾い上げた。逃げようとする私を、もう片方の手で強引に組み伏せる。

「留守電に切り替えます」
「出ろ」

彼は、まだ息を乱している私を抱き寄せたまま、あえてスピーカーモードで応答ボタンを押した。

『おい紬!金は、どうした!金がないぞ』
『酒もなぇ、タバコもねぇ』
「……」
『聞いてるのか』

沈黙を貫く彼に抱かれながら、私はただ震えることしかできない。受話器の向こうからは、耳を突き刺すような罵声が続く。

『いいか、今すぐソープへ行って金を作ってこい!』

その瞬間、私を抱く彼の腕に、ピキリと微かな力がこもった。無言のまま、私の耳元にわざと深く、抉るように熱い痕を刻みつけた。父親の汚い怒鳴り声と、彼の与える甘美な痛み。声を殺そうとしても、快楽に呑まれた身体は裏切るように震え、吐息が漏れてしまう。

自分の娘に「身体を売れ」と言い放つ実の親。その言葉を、今まさに自分を「買い叩いた」男の腕の中で聞かされている皮肉。

彼は、スマホに向かって静かに口を開いた。その声は、まるで一流の舞台で台詞を紡ぐかのように、凛として、驚くほど綺麗な敬語だった。

「……そのお言葉、高くつきますよ。羽瀬和彦さん」

激しく怒って興奮する父とは対照的な、冷静沈着のように澄んだ響き。それは、もう二度と私の人生に父が触れることを許さないという、死刑宣告のようにも聞こえた。

凛とした敬語の響きに、電話の向こうの父が一瞬、気圧されたように黙り込む。

彼は私の髪を優しく撫でながら、冷徹に最後の一撃を放った。

「あなたのお相手は、後日、私の用意する者がいたします。……二度と、彼女にその汚い声を聴かせないでいただきたい」

言い捨てると同時に、彼は指先ひとつで通話を切断した。

激しい怒鳴り声も、私の人生を縛り付けていた呪いのような言葉も、一瞬にして片付いた。

彼は迷うことなくスマートフォンの電源を長押しし、画面に浮かんでいた現実を、黒い闇の中に葬り去ってくれた。

「これでいい。……お前にはもう、俺以外の声は必要ない」

震える私を抱き寄せ、耳元で低く囁く彼の声。

私は泣きながら、彼の首筋にしがみついた。

(つづく)
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