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第10話:甘い子猫の処刑台(星名 昂視点)
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「……前の女は、確か『ヴィーナス』とかいう安っぽい源氏名だったかな」
LUXEのふかふかのソファに身を沈めながら、僕はかつてこの部屋にいた女を思い出す。
彼女は僕に気に入られようと、必死に可愛い王子様として扱ってきた。頭を撫でようとしたその指先が、僕の逆鱗に触れたんだ。
僕は即、ベルを鳴らした。
ママに一言、「あの子、退屈」と告げれば、それでおしまい。翌日、彼女はこのアビスを追い出され、カロンの舟へ送られた。あそこなら、金のない常連客相手に、朝まで身体を切り売りすることになる。
本当の店名はハッピーパラダイスなんていう、名前負けした底辺の店。金のない常連たちは、そこをカロンの舟と呼んでいる。一度、カロンの舟に乗せられたら最後、二度とこの煌びやかな世界には戻ってこれない、文字通りの片道切符。
(僕の相手に相応しくない女のことは、どうでもいい)
かつては、僕の熱狂的なファンが大金を積んでキャストとして入り込んできたこともあった。
(店側は、喜んでたな)
僕からの指名料で儲かるだけでなく、そのファンは給料はいらないと言い張ったそうだ。金持ちの一人娘で、金で僕の身体を独占できるなら安いものだ、と。豊満な身体でもなく、美人でもない。ただ、金があるだけの女。
行為中、彼女は得意気にこう言った。
『私、モテるの。今、彼氏は10人います。……あなたが喜んでくれるテクニックを、その男たちから学んできましたの』
「へえ。……で、僕、いくら?」
彼女は顔を赤らめて喜んでいたけれど。
もう一つあるんだ。彼女はうっとりと僕を見上げ、正気とは思えない声でこうささやいた。
『あなたの子を授かりたい。お金はいくらでもあります。ずっと私の屋敷で贅沢できます。一生、外に出なくていいのです……』
結局、最後まで僕に快楽はなかった。義務的な王子様を演じ切って、僕が手に入れたのは、虚無感とドロドロとした不快感だけ。
(反吐が出る)
LUXEのプロの女たちも同じだ。
彼女たちは僕を一人の男としてではなく、絶対に粗相の許されない最高級のブランド品として扱う。
僕のドラマの役柄に合わせたナース服や、わざとらしい制服。
「昂さま、こういうのがお好きでしょう?」と、台本通りの甘い声でささやきながら、マニュアル通りの完璧な指使いで僕をなぞる。視覚を刺激し、テクニックで強引に昂ぶらせようとする、薄っぺらな愛撫。そこに僕の心を壊すような熱は一切ない。
(退屈だった)
アイドルって言ったって、僕も男だ。たまるものはたまる。……反吐が出そうでも、吐き出す場所は必要だ。たとえそれが、用意された衣装という嘘に塗れた、処理に過ぎないとしても。それに、僕らみたいな職業は処理に一番困る。下手に手を出せばスキャンダルだし、素人相手なんてリスクが高すぎる。
だからこそ、このLUXEは重宝されている。
ここは芸能界の裏のゴミ捨て場であり、避難所であり、選ばれた人間だけの特別な遊び場。噂じゃ、この店のママはある大手芸能事務所の社長と兄弟だとか、できてるとか言われている。だからこそ、法外な金を積んだ芸能人の秘密を絶対に漏らさない。
今回のキャストも、同じ末路を辿るはずだった。悪趣味だと言われても構わない。僕を満足させられない女たちが悪いのだから。
(……でも、違った)
目の前で不気味に微笑み、僕のネクタイを乱暴に掴む紬。あどけなさの残る顔で、僕を王子様といううわべだけの外見から引きずり下ろし、処刑台へと立たせた。その最中、彼女は僕の目を見つめてこう言ったんだ。
「お姉さんって言いますけど、私、お客様より二つ下ですよ」
僕は紬の細い手首を掴み、自分から紬の唇へ吸い付いた。離そうとする紬。何かを言おうとしている紬。それでも、なりふり構わず唇に吸い付く僕。
――最高だ。
年齢なんてどうでもいい。僕を壊してくれるなら、今の君は、僕にとって唯一無二のお姉さんだ。……いや、いっそお姉さまと跪いて呼びたいくらいだ。この処刑台でめちゃくちゃに壊してくれなきゃ。
(なんだ、これ)
他の女たちの、あの義務的で薄っぺらなキスとは何もかもが違う。
紬の舌が僕の口内を攻め回すたび、脊髄を火花が走るような快感が突き抜ける。絡み合う熱、混ざり合う吐息。
(……マスカットの香りだ)
鼻腔をくすぐる、瑞々しくて、少し甘い香り。その香りが脳の芯をジリジリと焦がしていく。空気が足りないはずなのに、もっと深く、もっと奥まで欲しくてたまらない。濃厚な快感に膝の力が抜け、崩れ落ちそうになる。けれど、僕は紬を離したくなくて、その細い手首を掴んだまま、紬の髪を一房強く引き寄せた。
抗えない衝動のまま、僕は紬を抱きすくめるようにして、処刑台のシーツへと押し倒した。
もはやプライドも、アイドルの仮面も、どこにも残っていない。これまでの偽物の僕を積み上げてきた理性が、音を立てて崩れ落ちる。
「……お姉さま。もっと、痛くされたい。……僕」
アイドルなんていう綺麗な抜け殻も、嘘ばかり吐くこの喉も。全部、全部、紬の手で、剥ぎ取ってほしい。壊れた僕の言葉を聞いて、指先が僕の熱をなぞるようにゆっくりと動いた。
紬は、不敵に微笑んだ。
「僕がお姉さまを満足させたら、なんでもしてくれるよね?」
「ええ、3つ条件が…」
「それは何?」
「私が満足する場所を、順番にキスをして当てて」
(僕がやり手かどうか、試されているのか)
なんでもしてくれる?という不遜な問いが、今、巨大なブーメランとなって僕に戻ってきている。今までにないプレーじゃないか。でも、もし外せば、抱く権利を失うということか。
「……もし、僕が3つとも正解したら?」
「その時は……お客様の好きなように、調理していいですよ」
恥じらいで潤んだ瞳が、挑戦的に僕の目を見る。
彼女はあえて僕をお客様と呼び、この場を仕事だと言い張ることで、自分を保っているのかもしれない。目の前のこの女を、どう調理して、どう盛り付けたら満足するのか、想像しただけでも満たされそうだ。
最高の食材。
最高のスパイス。
喉から手が出るほど欲しかった、僕を壊してくれる特別な女。
「……お姉さま、綺麗な色だ」
繊細な刺繍が施された薄藍のランジェリー。迷わなかった。唇を重ねただけの、うわっつらの愛撫なんて今更いらない。
彼女の細い足首を両手で掴み、強引に押し広げる。無防備に晒された太ももの内側。その最も柔らかい場所へと顔を寄せ、熱い吐息を吹きかけた。ゆっくりと唇を落とす。
紬の足が、快感に耐えるように微かに震えた。その反応だけで、確信する。一つ目の正解を得た。
(あと二つ。どこだ)
恥じらいでほんのり赤色に染まった頬を見ながら、豊かな膨らみを描く胸。下着のレースを押し上げるようにして瑞々しく存在を主張していることに気づいた。その豊かな膨らみへと顔を寄せる。ふっくらと、吸い付くような弾力を持って僕の視界をふさいだ。
柔らかな山脈に顔を埋め、溢れる肉を両手で包み込む。こぼれ落ちないように強く、形が変わるほどに押し潰した。指の間から逃げていく柔らかな感触。その頂に咲く蕾を、指の平でゆっくりと転がすように回す。
紬の背中が、限界まで大きく反った。
僕は、その膨らみの片方を喉の奥まで迎え入れるように深く吸い上げた。甘い圧迫感。彼女が僕の調律を望んでいる――。もっと。もっと彼女を暴きたい。僕は、宝探しをするけがれのない子供のように、彼女の欲しがっているところへ手を伸ばした。
薄藍のレースを指先で退け、露わになった彼女の、いや女が喜ぶ、一番快楽を感じる核心へ。祈るように、優しく、逃がさない強さで、その熱を唇で挟み込んだ。その熱い突起を優しく、執拗に舌で転がし、唇、舌先でからめとる。
粘膜が触れ合う湿った音。逃げ場を塞ぐように、指先でそこを割り開き、また唇で吸い上げ、唇を離す。指でつまみ、指の平で撫でるのを繰り返した。
彼女はもう、言葉を紡ぐ余裕すら奪われていた。
僕を翻弄しようとしていた強気な瞳は、いまや快感に泳ぎ、視線はどこも結ばずに彷徨っている。
震える声で彼女が敗北を認めた。
艶やかな唇からは、意味をなさない吐息だけが溢れ、必死に僕の髪を掴んでいた指先は、力が抜けてシーツを虚しく掻いている。羞恥を忘れて、ただひたすらに僕の舌を求めて腰を浮かせる。まるで、自分の一番心地いいと感じる場所へ僕の舌を誘導しているように。
(――全部、正解だ)
「……さあ、約束だよ。お姉さま。……僕の、願い。……聞いてくれる?」
今すぐ、突いてほしそうな彼女の顔、瞳を見つめながら、「僕だけの女になって」と、アイドルの仮面なんてどこにもない、ただの、一人の男としてすがった。
けれど、紬は僕の首筋に腕を回したまま、熱い吐息とともに、「……一回だけじゃ、わからない」と、残酷なほどに甘く囁いた。
「まだ、満足できない?」
「最後まで……もっと、重ね合わせなきゃ。……ね?」
その言葉に、脳が痺れるような衝撃を受けた。一度で決められないなら、何度でも。夜が明けるまで、何度でも紬を指名し、抱き潰すということか。
(――いいよ、お姉さま。望み通り、最高の夜にしてあげる)
僕は彼女を抱きすくめ、深い快楽が渦巻くその先へと、朝を迎えるまで幾度も重ね合わせた。
翌朝、僕がLUXEに支払った額は、これまでの指名料の記録を塗り替えるほど跳ね上がっていた。だが、会計の際に耳にした「昨夜、彼女に指名を被せてきた客が一人いた」という報告に、僕の指先がかすかに震えた。
(――僕以外に、彼女を欲しがる奴がいるのか?)
支払った金の分だけ、彼女は僕の所有物になったのだと言い聞かせる。
昼過ぎ、ぐったりと眠り続ける彼女を個室に残し、僕は一人、現実の世界へと戻る。
紬。
次にその名前を呼ぶ時、君は僕なしではいられない身体になっているはずだ。
LUXEのふかふかのソファに身を沈めながら、僕はかつてこの部屋にいた女を思い出す。
彼女は僕に気に入られようと、必死に可愛い王子様として扱ってきた。頭を撫でようとしたその指先が、僕の逆鱗に触れたんだ。
僕は即、ベルを鳴らした。
ママに一言、「あの子、退屈」と告げれば、それでおしまい。翌日、彼女はこのアビスを追い出され、カロンの舟へ送られた。あそこなら、金のない常連客相手に、朝まで身体を切り売りすることになる。
本当の店名はハッピーパラダイスなんていう、名前負けした底辺の店。金のない常連たちは、そこをカロンの舟と呼んでいる。一度、カロンの舟に乗せられたら最後、二度とこの煌びやかな世界には戻ってこれない、文字通りの片道切符。
(僕の相手に相応しくない女のことは、どうでもいい)
かつては、僕の熱狂的なファンが大金を積んでキャストとして入り込んできたこともあった。
(店側は、喜んでたな)
僕からの指名料で儲かるだけでなく、そのファンは給料はいらないと言い張ったそうだ。金持ちの一人娘で、金で僕の身体を独占できるなら安いものだ、と。豊満な身体でもなく、美人でもない。ただ、金があるだけの女。
行為中、彼女は得意気にこう言った。
『私、モテるの。今、彼氏は10人います。……あなたが喜んでくれるテクニックを、その男たちから学んできましたの』
「へえ。……で、僕、いくら?」
彼女は顔を赤らめて喜んでいたけれど。
もう一つあるんだ。彼女はうっとりと僕を見上げ、正気とは思えない声でこうささやいた。
『あなたの子を授かりたい。お金はいくらでもあります。ずっと私の屋敷で贅沢できます。一生、外に出なくていいのです……』
結局、最後まで僕に快楽はなかった。義務的な王子様を演じ切って、僕が手に入れたのは、虚無感とドロドロとした不快感だけ。
(反吐が出る)
LUXEのプロの女たちも同じだ。
彼女たちは僕を一人の男としてではなく、絶対に粗相の許されない最高級のブランド品として扱う。
僕のドラマの役柄に合わせたナース服や、わざとらしい制服。
「昂さま、こういうのがお好きでしょう?」と、台本通りの甘い声でささやきながら、マニュアル通りの完璧な指使いで僕をなぞる。視覚を刺激し、テクニックで強引に昂ぶらせようとする、薄っぺらな愛撫。そこに僕の心を壊すような熱は一切ない。
(退屈だった)
アイドルって言ったって、僕も男だ。たまるものはたまる。……反吐が出そうでも、吐き出す場所は必要だ。たとえそれが、用意された衣装という嘘に塗れた、処理に過ぎないとしても。それに、僕らみたいな職業は処理に一番困る。下手に手を出せばスキャンダルだし、素人相手なんてリスクが高すぎる。
だからこそ、このLUXEは重宝されている。
ここは芸能界の裏のゴミ捨て場であり、避難所であり、選ばれた人間だけの特別な遊び場。噂じゃ、この店のママはある大手芸能事務所の社長と兄弟だとか、できてるとか言われている。だからこそ、法外な金を積んだ芸能人の秘密を絶対に漏らさない。
今回のキャストも、同じ末路を辿るはずだった。悪趣味だと言われても構わない。僕を満足させられない女たちが悪いのだから。
(……でも、違った)
目の前で不気味に微笑み、僕のネクタイを乱暴に掴む紬。あどけなさの残る顔で、僕を王子様といううわべだけの外見から引きずり下ろし、処刑台へと立たせた。その最中、彼女は僕の目を見つめてこう言ったんだ。
「お姉さんって言いますけど、私、お客様より二つ下ですよ」
僕は紬の細い手首を掴み、自分から紬の唇へ吸い付いた。離そうとする紬。何かを言おうとしている紬。それでも、なりふり構わず唇に吸い付く僕。
――最高だ。
年齢なんてどうでもいい。僕を壊してくれるなら、今の君は、僕にとって唯一無二のお姉さんだ。……いや、いっそお姉さまと跪いて呼びたいくらいだ。この処刑台でめちゃくちゃに壊してくれなきゃ。
(なんだ、これ)
他の女たちの、あの義務的で薄っぺらなキスとは何もかもが違う。
紬の舌が僕の口内を攻め回すたび、脊髄を火花が走るような快感が突き抜ける。絡み合う熱、混ざり合う吐息。
(……マスカットの香りだ)
鼻腔をくすぐる、瑞々しくて、少し甘い香り。その香りが脳の芯をジリジリと焦がしていく。空気が足りないはずなのに、もっと深く、もっと奥まで欲しくてたまらない。濃厚な快感に膝の力が抜け、崩れ落ちそうになる。けれど、僕は紬を離したくなくて、その細い手首を掴んだまま、紬の髪を一房強く引き寄せた。
抗えない衝動のまま、僕は紬を抱きすくめるようにして、処刑台のシーツへと押し倒した。
もはやプライドも、アイドルの仮面も、どこにも残っていない。これまでの偽物の僕を積み上げてきた理性が、音を立てて崩れ落ちる。
「……お姉さま。もっと、痛くされたい。……僕」
アイドルなんていう綺麗な抜け殻も、嘘ばかり吐くこの喉も。全部、全部、紬の手で、剥ぎ取ってほしい。壊れた僕の言葉を聞いて、指先が僕の熱をなぞるようにゆっくりと動いた。
紬は、不敵に微笑んだ。
「僕がお姉さまを満足させたら、なんでもしてくれるよね?」
「ええ、3つ条件が…」
「それは何?」
「私が満足する場所を、順番にキスをして当てて」
(僕がやり手かどうか、試されているのか)
なんでもしてくれる?という不遜な問いが、今、巨大なブーメランとなって僕に戻ってきている。今までにないプレーじゃないか。でも、もし外せば、抱く権利を失うということか。
「……もし、僕が3つとも正解したら?」
「その時は……お客様の好きなように、調理していいですよ」
恥じらいで潤んだ瞳が、挑戦的に僕の目を見る。
彼女はあえて僕をお客様と呼び、この場を仕事だと言い張ることで、自分を保っているのかもしれない。目の前のこの女を、どう調理して、どう盛り付けたら満足するのか、想像しただけでも満たされそうだ。
最高の食材。
最高のスパイス。
喉から手が出るほど欲しかった、僕を壊してくれる特別な女。
「……お姉さま、綺麗な色だ」
繊細な刺繍が施された薄藍のランジェリー。迷わなかった。唇を重ねただけの、うわっつらの愛撫なんて今更いらない。
彼女の細い足首を両手で掴み、強引に押し広げる。無防備に晒された太ももの内側。その最も柔らかい場所へと顔を寄せ、熱い吐息を吹きかけた。ゆっくりと唇を落とす。
紬の足が、快感に耐えるように微かに震えた。その反応だけで、確信する。一つ目の正解を得た。
(あと二つ。どこだ)
恥じらいでほんのり赤色に染まった頬を見ながら、豊かな膨らみを描く胸。下着のレースを押し上げるようにして瑞々しく存在を主張していることに気づいた。その豊かな膨らみへと顔を寄せる。ふっくらと、吸い付くような弾力を持って僕の視界をふさいだ。
柔らかな山脈に顔を埋め、溢れる肉を両手で包み込む。こぼれ落ちないように強く、形が変わるほどに押し潰した。指の間から逃げていく柔らかな感触。その頂に咲く蕾を、指の平でゆっくりと転がすように回す。
紬の背中が、限界まで大きく反った。
僕は、その膨らみの片方を喉の奥まで迎え入れるように深く吸い上げた。甘い圧迫感。彼女が僕の調律を望んでいる――。もっと。もっと彼女を暴きたい。僕は、宝探しをするけがれのない子供のように、彼女の欲しがっているところへ手を伸ばした。
薄藍のレースを指先で退け、露わになった彼女の、いや女が喜ぶ、一番快楽を感じる核心へ。祈るように、優しく、逃がさない強さで、その熱を唇で挟み込んだ。その熱い突起を優しく、執拗に舌で転がし、唇、舌先でからめとる。
粘膜が触れ合う湿った音。逃げ場を塞ぐように、指先でそこを割り開き、また唇で吸い上げ、唇を離す。指でつまみ、指の平で撫でるのを繰り返した。
彼女はもう、言葉を紡ぐ余裕すら奪われていた。
僕を翻弄しようとしていた強気な瞳は、いまや快感に泳ぎ、視線はどこも結ばずに彷徨っている。
震える声で彼女が敗北を認めた。
艶やかな唇からは、意味をなさない吐息だけが溢れ、必死に僕の髪を掴んでいた指先は、力が抜けてシーツを虚しく掻いている。羞恥を忘れて、ただひたすらに僕の舌を求めて腰を浮かせる。まるで、自分の一番心地いいと感じる場所へ僕の舌を誘導しているように。
(――全部、正解だ)
「……さあ、約束だよ。お姉さま。……僕の、願い。……聞いてくれる?」
今すぐ、突いてほしそうな彼女の顔、瞳を見つめながら、「僕だけの女になって」と、アイドルの仮面なんてどこにもない、ただの、一人の男としてすがった。
けれど、紬は僕の首筋に腕を回したまま、熱い吐息とともに、「……一回だけじゃ、わからない」と、残酷なほどに甘く囁いた。
「まだ、満足できない?」
「最後まで……もっと、重ね合わせなきゃ。……ね?」
その言葉に、脳が痺れるような衝撃を受けた。一度で決められないなら、何度でも。夜が明けるまで、何度でも紬を指名し、抱き潰すということか。
(――いいよ、お姉さま。望み通り、最高の夜にしてあげる)
僕は彼女を抱きすくめ、深い快楽が渦巻くその先へと、朝を迎えるまで幾度も重ね合わせた。
翌朝、僕がLUXEに支払った額は、これまでの指名料の記録を塗り替えるほど跳ね上がっていた。だが、会計の際に耳にした「昨夜、彼女に指名を被せてきた客が一人いた」という報告に、僕の指先がかすかに震えた。
(――僕以外に、彼女を欲しがる奴がいるのか?)
支払った金の分だけ、彼女は僕の所有物になったのだと言い聞かせる。
昼過ぎ、ぐったりと眠り続ける彼女を個室に残し、僕は一人、現実の世界へと戻る。
紬。
次にその名前を呼ぶ時、君は僕なしではいられない身体になっているはずだ。
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