【R18】国民的アイドルの異常な執着愛:夜職初心者の私はカロンの舟に堕ちる

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第11話:崩壊のプレリュード(佐伯 陽一視点)

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スタジオの、明るくもなく暗くもないライトの下で、俺は朝から缶詰状態で新曲のプロモーション撮影をこなしていた。

休憩中、スタッフの陰から熱のこもった視線を送ってくる女がいた。かつてLUXEで数回相手をしたキャストの美沙。二年前に抱いた当時、美沙は二十四歳。売れっ子だった。

モデルのような細さとは無縁の、生命力に満ちた肉付きのいい女。豊かな胸の重みや、吸い付くような腰の曲線、そして健康的に張った太もも。

男の腕を押し返すような弾力のあるその身体は、確かに相性が良かった。

指を食い込ませれば、どこまでも深く沈み込むような。あの抱き心地だけは、当時の俺の乾いた本能を確かに満たしてくれたと言っていい。

だが、一晩過ごしてすぐに分かった。

『今日のギャラ、全部陽一様のグッズに注ぎ込んだの』から始まり、あのソロ曲のセンター、陽一様の方が似合うや事務所に苦情の電話を入れますと、次から次へと言葉が飛んできた。愛情の形が他者を貶めることでしか表現できない女。自分が一番であるために、平気で俺の仲間を、俺の居場所を汚そうとする。その浅ましさと、俺のすべてをコントロールしようとする選民意識に嫌気がさした。

俺は迷わず呼び鈴を押し、店の者にこいつを連れ出させた。その後、執拗に付きまとわれ、一度は夜凪の親父さんに頼んで、二度と俺の前に現れないよう釘を刺してもらった。

その時に知ったのだが、こいつは、男の隣という特等席に居座るためなら、他人の人生を平気で踏み潰す女だということ。自分以外のキャストがVIPの指名を取ると知れば、そのキャストを欠勤に追い込む工作までしていた。

俺と同じ手口で、他の有名芸能人や実業家にも取り入り、依存させてはスキャンダルを盾に貢がせていた。

美沙は黒服と手を組んで荒稼ぎをしていたようだ。どっちから誘ったかは本人たちにしか分からないが、俺に手を出したのが運の尽き。その黒服は今頃、地図に載っていないような場所で二度と戻れない仕事をしているはずだ。

女の方も、店からは解雇処分だけだったから、外の仕事をしていても不思議ではない。だが、偽名でも使って潜り込んだのか、なぜ、今日の撮影現場に紛れ込んでいる。

背中に嫌な汗が伝うのを感じながら、俺は無理やり撮影に意識を戻した。数時間後、ようやく撮影が一旦休憩に入った時だった。

「陽一様、お疲れ様です。喉にいい特注のドリンクを用意しました。次の収録に備えて、こちらの個室で少し休まれては?」

差し出したのは、見慣れない若手の制作スタッフだった。喉の乾燥はセンターにとって最大の敵だ。特に疑いもせず、促されるままにその液体を飲み干した。

若手の制作スタッフが控室のドアを開けた。促されるまま、控室に入った。
その瞬間、背後でドアの鍵が閉まる音がした。

「……?」

振り返ると、入るときは誰もいなかったはずの空間に、いつの間にか一人の女が立っていた。ドアを背にして、逃げ道を塞ぐように。

「……美沙。何の真似だ」

睨みつけたが、数分もしないうちに視界がぐにゃりと歪んだ。内側からせり上がる異常な熱。美沙は音もなく近づき、俺の首筋に肉感的な腕を絡めた。

「陽一様…」

突き放そうとした指先が、彼女の弾力のある肌に深く沈み込む。

薬物に煽られた本能と、かつて馴染んだ身体の記憶が勝手に繋がっていく。視界の端で、彼女の剥き出しの肩が揺れる。最悪の快楽が脳を焼き、俺は紬の名前を心の中で叫びながら、泥のような情事へ引きずり込まれた。

数分後、美沙は乱れた衣服を整え、勝ち誇った笑みで俺を見下ろした。

「身体の相性は嘘をつかないわね。……また会いましょう、陽一様」

彼女が去った後、俺は吐き気を堪えながらシャワーも浴びずに控室を出た。廊下を歩いていたマネージャーが、「……陽一、次のカットだ。準備はいいか?」と、声をかけに来た。

俺は、「貧血だ。撮影はここまでしてくれ。後日必ず埋め合わせする」と声が震えないよう細心の注意を払った。

プロとして現場を完全に放り出すべきではないことは分かっている。だが、女の匂いがこびりつき、自己嫌悪で塗りつぶされたこの体で、カメラに向かって微笑む気力など、一片も残っていなかった。

嘘をついてでも、この場を逃げ出すしかなかった。

マネージャーの心配そうな声を背に、俺は足早にスタジオを後にし、駐車場へと急いだ。狂ったようにアクセルを踏み、自宅マンションへ滑り込む。

エレベーターを待つ数秒が、永遠の地獄のように感じられた。

玄関を開け「……紬?」と、期待を込めて名前を呼んだが、返ってくるのは、俺の声だけだった。

リビングに灯りはない。暖房の切れた部屋は、外気よりも冷たく感じられた。キッチンにも、寝室にも、彼女の気配がない。

昨日、夜凪がここを訪れ、彼女の父親を社会的に抹殺するための合意を取ったはずだ。夜凪からは処理は済んだと連絡があった。

それなのに、なぜ紬はいない?

俺は震える指で夜凪に電話をかけた。

『……なんだ、父親の件なら終わっただろう』

受話器の向こう、夜凪の声は面倒な処理もしてやったのにまだ何かあるのかと言わんばかりのぶっきらぼうな言い方だった。

「紬はどこだ。お前が、連れ出したのか?」
『心外だな。僕は昨日、彼女の合意を貰ってすぐに帰ったよ』
「……」
『じゃな』

電話は切られた。頭の中が真っ白になる。あの不衛生なアパートに戻ったのか、それとも、LUXEへ戻ったのか……。

俺は、狂ったように鍵を掴んで飛び出そうとした、その時。
スマホが激しく震えた。

「今すぐ、事務所の会議室へ来い。全員だ」
「断る!」
「SOLARIS全員の進退に関わる爆弾が届いたんだ」

まさか、さっきの控室での美沙とのことが原因か。足をもつれさせながら、俺は再び家を後にする。都心にある事務所・会議室へ車を走らす。

運転中に何度か夜凪から電話が入ったが、知らないふりをした。今、質問されても何が原因か分からない。紬の借金の肩代わりしたこと、いや、この金は俺の口座から出しているから事務所には関係ないことだ。だとすると、美沙のことしかない。それ以外は、俺は大人しくしていた。問題を起こすことはしていない。

事務所の駐車場に着いた。事務所の先にある会議室の重い防音ドアを開けると、そこは地獄のような静けさに包まれていた。
メンバーの星名、夜凪、そして月城 怜。全員が沈痛な表情で座っている。皆何が起きたのか理解できていない様子だ。

俺が座ったと同時に、事務所の社長が手に持っていた写真を数枚、テーブルの中央にばらまいた。

美沙とのあの情事か、そう身構えた俺の目に飛び込んできたのは、予想だにしない光景だった。

俺が紬の肩を抱き、プライバシー万全のはずのマンションへ入る瞬間。
そして、星名が乱れた姿の紬を抱きかかえ、アビスへ消えていく決定的な瞬間。

「これ、は……」

思考が追いつかず、声がかすれた。

「単なる遊び相手のキャストか、それとも恋人か」

社長が言いたいことは、相手がただのキャストなら、金と圧力でいくらでも揉み消せる。これが本気の恋であるならば、社会的処置をとると、言いたいのだろう。その処置の対象が紬ということだ。

どちらを選んでも地獄だ。紬の儚い笑顔が浮かび、俺は喉元まで出かかった「キャストだ」という嘘を飲み込んだ。

彼女を単なる遊びの女として処理されることなど、俺のプライドが、そして何より俺の心が許さなかった。

俺が覚悟を決め、「……恋人です」と口を開いたのと、隣に座る星名が「僕の彼女です」と言い放ったのは、同時だった。

三分だろうか、沈黙が続いた。

社長は、信じられないものを見たという顔で俺たちを交互に何度も見ていた。そして、深いため息を吐いて椅子に背を預けた。こめかみに浮き出た血管が、その怒りの深さを物語っている。

これまで数々の修羅場を潜り抜けてきた男が、今、目の前のトップアイドルたちのあまりの愚かさに絶望している。その冷たい視線に、俺は自分が犯した罪の重さを、遅まきながら自覚し始めていた。

「……正気か。一人の女を二人で奪い合っていると、世間に発表しろとでも言うのか」

絞り出すような声。そして、社長はおもむろにテーブルの上の写真を指先で叩いた。


「億単位の金で黙れと要求が来ている。LUXEのキャストが撮ったものだ」

捨て台詞のように社長は、「自分たちで解決できないことを裏でするな」と、どすの利いた低い声で、部屋の空気をより重くピリつかせた。

「僕が先に見つけたお姉さまなんだよ」

沈黙を破ったのは星名だった。泣き出しそうな、それでいて俺を呪うような子供じみた独占欲を隠そうともせず、俺を睨みつけてくる。

その後に続いて、「リーダーのお前まで、何してんだよ。グループごと心中させる気かよ」と、夜凪の視線は、俺を通り越して、これまで一度も口を開かなかった月城怜へと向けられた。

怜はゆっくりと顔を上げ、感情の消えた瞳で俺と星名を交互に見る。
そして、ため息混じりに、まるで汚物でも見るような冷たい目、声でこう言った。

「リーダーと星名も、LUXEでこの写真の子と知り合ったわけですか」

その言葉には、仲間を心配する色すらなかった。

これまで俺たちは、夜凪の華やかさ、星名の危うい魅力、怜の圧倒的な透明感、そして俺のストイックな統率力。互いの欠けを補い合い、個性を生かしながら、下積みから今の場所まで這い上がってきた。互いに踏み込みすぎず、けれど背中は預け合う。そんな危ういバランスの信頼関係こそが、SOLARISの武器だったはずだ。

なのに、今、俺たちの間にあるのはかつての絆と、必死に守ってきたトップアイドルの誇りが、一人の女のためにゴミ箱へ捨てられようとしていた。

俺は、何も言い返せなかった。

紬を救いたいという純粋な想いも、彼女をこの腕に閉じ込めたいという独占欲も、そして数分前に美沙の肉体に屈した自分自身の穢れも。

怜の冷徹な正論の前では、すべてが言い訳にもならない。

だけど、俺は譲れない。

この最悪の夜が、俺たちの終わり……そして、狂った愛の前奏の始まりになった。
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