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六章 アイオン落日編
革命の正体見たり反神教
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冒険者ってのは自由だなあ。
今ツィーゲは戦争中なんだけど、まあ次から次へと街に入ってくるのが冒険者。
何せ荒野は冒険者にとっての一つの最終目的地。
質問、今ツィーゲは独立を賭けアイオン王国と戦争状態にありますが何故この時期にツィーゲに?
有志によるアンサーがこちら。
「戦争? 興味ないね。勝手にやっててくれ」
「戦争やってんなら荒野で下手うって金欠になっても大丈夫そうだな」
「誰が支配しようがツィーゲは無くならんだろ」
「物価が上がってから考える」
聞いた相手が主に新参の方々だったのもあるけど、概ねこんな感じの反応だった。
既にツィーゲを拠点にして長い、ホームを購入したような層になると街の為に戦争に協力する旨の返答もそこそこ増える。自分が街に所属しているという意識を持っているかどうかが分かれ目かもしれない。
そしてもう一つ思う事がある。
商人てのは見境がないなあ、である。
僕もその商人の一員なんだけどさ。
冒険者と商人、この二種類の人種が今も凄い勢いでツィーゲ入りを望んでいる。
別の街でしっかりとした実績のある老舗やベテランが出店やそのリサーチの為に人を送るなんてのですら、もう把握しきれない程。
一旗揚げようってルーキーや、これから商人になろうって若者や元冒険者らの商人志望者も後を絶たない。
これもここで商人になった僕が言うと説得力に欠けるかもしれないけど。
ツィーゲは新人には本当に向かない街だと思う。
ここはベテランや天才が勝負を仕掛ける為に来る場所だ。
迎え撃つ既存店も他の街とは比べ物にならないレベルの競争を勝ち抜いて、続けている。
ロッツガルド……も、やってみた僕の印象ではツィーゲよりはマシだけど競争がきっつい。
リミアやグリトニアの田舎で、領主と懇ろになりながらゆっくりと慣れて力をつけていくのが一番ではなかろうか。
しかし人は手っ取り早い成功に弱い。
冒険者なら自分の力量もわからぬまま荒野入りし。
商人ならツィーゲで商人として独り立ちし。
ぷちっと潰される。
もうほんと、冒険者なら1~2回目の荒野入りで。不法侵入ならまず1回目で。
商人ならギルド登録して三か月以内で。
9割方が脱落する。
……や、もうちょっと多いかも。
他のとこは知らないけど冒険者のパーティ再結成なんて日常茶飯事もいいとこだ。
商人が看板下ろして他の店の丁稚奉公に入るなんてのもザラ。
冒険者でも商人でもない町人として仕事を見つけて生きようと心折れる者も多数。
「レンブラント氏が提唱した自衛軍の募集、倍率が20倍超えだとか」
目下悩ましきツィーゲの問題を順次焼けていく肉を見つめながら考える。
昼間から元気に営業している行きつけの店、肉屋でおひとり様カウンター焼肉を楽しんでいると、店主のライアンさんが僕を見かけて話しかけてきた。
倍率20倍か。
選び放題じゃないか。
「これを機に冒険者から定職に就こうって人も多いんでしょうね」
端っこでじっくりと育てていたホルモンから透明で美味しそうな脂がぽとりと。
食べ頃でしょう!
噛み締めると想像通り、しつこさのない美味い脂が大量に染み出してくる。
真っ昼間のランチにお酒を付けるのはよろしくないので、ここは苦み強めの冷たいお茶で。
「そのようで。冒険者で食べていけない人は決して多くはないですから。新人などは積極的に周囲に放流しているようですが、夢見る若者も多いようで……そのホルモン、お口にあって良かった。評判良いんですよ!」
「相変わらず美味いです。臭みはないし脂が美味い。個人的には御飯が欲しくなる味ですけど、付け合わせはパンの方が主流なんでしたっけ」
「御飯、ライスですか。あれはまだまだツィーゲでは浸透してきてないですね。クズノハ商会さんは真っ先に取り扱ってらっしゃいますね。ウチでもそろそろと考えてはおります。本場、ローレル連邦にも出向かれたとか。そのフットワークの軽さは見習いたいところです」
焼肉に御飯は鉄板である。
しかし、これには異論も多い。
僕もこれが常に最高だとは思っていない。
酒を飲む時の焼肉には御飯はいらないし、一食をしっかり楽しみたい時には御飯が欲しい。
難しい問題だ。
肉屋は一時期経営難になっていたけど、焼肉スタイルを始めてからは絶好調。
今ではランチも人員増強の上で開始、昼も夜も人の絶えない人気店となっている。
ここで食べた漫画肉は今も僕のド定番のままだ。
メニューからこれが消えたら焼肉があっても、ここには来ない気さえしている。
今日も一番に頼んで満足させてもらった。
あれは……良いものです。
「御飯はねえ、主役でもあり脇役でもあり、飲食界における名優ですよ。あれで種類も豊富ですから導入の際はお声がけいただけたら相談に乗りますよ」
「是非。ところで、ライドウさんから変わったサラダとして紹介してもらったアレなんですが」
「ああ。どうなりました?」
「レギュラーメニューで使わせてもらう事にしました」
「あれも季節感が出せる品ですし、肉の邪魔はしませんから。うまくハマった用で嬉しいです」
「ところが名前が決まらなくて」
野菜や漬け物のコマ切れを和えて、時に漬け地のタレなんかを加える。
信州では「やたら」、山形ではぬめりの強い昆布を使って「だし」なんて言われてるのを参考にした。
亜空ではミスティオリザードや翼人が気に入っている一品だったりする。
とはいえ、だしとかやたらをそのまま使う訳にもな。
名前つけるのって凄い難しいよね。
「そこはまあ肉屋さんで募集してもらって」
「うーむ。元になった料理の名前は覚えておられませんか」
「ええ、どこで食べたものだったか。旬の野菜と味の強い漬け物、あるいはタレを和えるだけなんですが奥が深いですよね」
「大きさを揃えてやるとまた一段と美味しくなるんですよ!」
へえ、食材ごとに適切な大きさに切るもんだと思ってた。
この辺は料理が本職の人が思いつく事なのかも。
「ああ、なるほど。だったらお肉も同じ大きさにして揚げてカリっとさせて混ぜると面白いんじゃ」
クルトン、いやカリカリベーコン的な?
「! あれに肉も加える!? はー、確かにバリエーションとしては面白いかもしれません」
ありゃ。
ライアンさんがご自分の世界に没頭していってしまった。
まあ、元々一人で焼肉してたんだから別によろしいんですが。
野菜のサイズもコマ切れというよりは小さめのサイコロサイズに落ち着いたようだし、これはだしとかやたらというよりも一種のカクテルサラダではなかろうか。
「さてと。そろそろ戻ります。会計を」
「いらない、と言っても金貨を置いていきますからねライドウさんは」
「無銭飲食はしません」
借りがあるから、とお代は結構です、なんてライアンさんには何度か言われたんだけどさ。
好きなメニューを覚えててもらえたり、試作メニューについて意見を求められたり。
その位なら嬉しい位に感じる僕だけど、お金はいいって言われると居心地が悪く感じる性格でして。
何度かこっそりそのまま帰るふりしてカウンターに金貨を置いたところ、ちゃんと代金を取ってくれるようになった。
そういえば、肉屋のカウンター焼肉っていつの間にか増設されてたな。
4人席で一人で肉食べるのも何か申し訳ない気分だったから助かった。
焼肉で見知らぬ人と相席できるほど、僕は図太くないのです。
ふとした疑問を覚えながら、会計を済ませて店の外に出る。
……ん。
釣れてる釣れてる。
午後一番は二人か。
アイオンは元々諜報活動に熱心な国だ。
リミアやローレル、グリトニアにもアイオンのスパイは大勢入り込んでる。
当然ツィーゲにもだ。
独立宣言の前に一度綺麗に掃除をした、とレンブラントさんは言っていたが効果は一瞬だ。
実際、冒険者や商人といった身分を詐称して入り込む連中は後を絶たない。
これも含めての「目下ツィーゲの問題点」な訳だ。
ツィーゲは基本来るもの拒まず、だからね。
スパイを防ぐ為に街の活気を奪うなど、とんでもない。
これが基本的なスタンスだ。
そしてスパイ活動をしていく内に、彼らは意思決定に有力な存在、比較的接触しやすい相手、などとして僕の存在を掴む事になる。
うん、レンブラントさんによる完全なるミスリードだね。
ツィーゲへの貢献度でいったらそれなりにクズノハ商会もあると思うけど街の方針決定や機密情報となると僕はあんまりタッチしていない。
もちろんね、引っかからない優秀なのも中にはいるんだろうけど。
今の所毎日のようにスパイホイホイbyライドウにアイオン王国側のスパイがザックザック入り込んでくるんですよ。
んー、別口で二人じゃなくてコンビで動いてるみたいだな。
界で二人の尾行の様子を把握して襲い、もとい接触しやすい通りを時に選択してやりながら商会までのルートをのんびりと歩く。
慎重派なら今日は来ないかもしれない。
その時は商会から尾行返しをしてこちらが情報を集めさせてもらう。
「でもそんな心配は無いと」
挟まれた。
正面から一見ごろつきにしか見えないヤカラが、狭い道を譲る気も無い態度で歩いてくる。
背後にも連動した気配。
そうきたか、一見してアウトローに見えない小綺麗な姿で油断させておいて……って、全力で見た目から近づきたくないタイプ?
新鮮、だな。
「クズノハ商会、代表のライドウか?」
「ええ、お二人はどっちから?」
「?」
「後ろのお姉さんとあんた、王国軍と革命軍どっちから来たの。そう聞いてる」
「……」
ま、答えないわな。
それじゃ。
「まあいいや、寝てろ」
「けびっ」
「あがっ……う」
狭い路地、目撃者はなし。
今日も漁が捗りますっと。
僕の前と後ろでドサリと人が崩れ落ちる音がする。
もうすっかり慣れたスタンアタック。
最初はローレルの時みたいに魔力で作った針で無力化してたんだけど、そこまでの手間が必要な相手が一人もいなかった事もあって今では首筋や肩口辺りに強力な打衝撃を叩き込む術で済ませてる。
名付けてスタンアタック。
最近は会話もそこそこに黙らせてる。
どうせ後で全部聞かせてもらうからね。
呼ぶまでもなく二人それぞれの近くにウチの店員が現れ、軽々とスパイを抱え込むとまたしても消える。
隠密そのものだ。
「今日はもう少し釣れそうな気がする」
一日の漁獲量は大体10人弱。
しかしこの日の収穫はこれまでとは少し毛色が違った。
ようやく、というべきか。
記念すべき革命軍第一号がおいで下さったのだ。
早速革命軍の現状や背景を知り得る限りお話頂いた。
ちょいと意外な掘り出し情報ございました。
「反神、教」
あー。
この世界でも女神に色々な意味で納得していない集団は存在する。
その中でもとてもとても過激で、積極的に女神の信仰を削り取りにかかる一派の一つこそ。
反女神教導団体アーク。
略して反神教、或いは反神教団。
女神に対抗する、って一点だけは僕もそれなりに納得できるんだけど。
こいつらの教義というか言い分が、これまた困った思想というか。
女神なき世をもたらす事が出来るのなら、何をしても構わない。
女神なき世は生きとし生ける者すべてにとって今よりも素晴らしき世である。
女神こそこの世界の不条理の化身、ゆえに女神さえ消えれば世界から不条理は消える。
などなど。
目的の為なら手段は選ばない、を地でいく連中だ。
女神を妄信すれば全て上手くいく、と同じ位バカげた思想だと個人的には思う。
魔族にそんな連中がいたけど、全く同じ感覚で等しく気持ち悪い。
そっかー。
革命軍ってバックが反神教かー。
そんなものがこんだけ力を持つくらいに国内で育っちゃうアイオンって、どのみち遠からず滅びの道を突き進んだと思うな。
ツィーゲの独立構想は良いタイミングだったんだな……。
にしてもアークか。
……。
大問題に気付いてしまったんだが。
……。
一文字入れ替えるだけでアクーになるよな。
……。
改名してくれないだろうか。
今ツィーゲは戦争中なんだけど、まあ次から次へと街に入ってくるのが冒険者。
何せ荒野は冒険者にとっての一つの最終目的地。
質問、今ツィーゲは独立を賭けアイオン王国と戦争状態にありますが何故この時期にツィーゲに?
有志によるアンサーがこちら。
「戦争? 興味ないね。勝手にやっててくれ」
「戦争やってんなら荒野で下手うって金欠になっても大丈夫そうだな」
「誰が支配しようがツィーゲは無くならんだろ」
「物価が上がってから考える」
聞いた相手が主に新参の方々だったのもあるけど、概ねこんな感じの反応だった。
既にツィーゲを拠点にして長い、ホームを購入したような層になると街の為に戦争に協力する旨の返答もそこそこ増える。自分が街に所属しているという意識を持っているかどうかが分かれ目かもしれない。
そしてもう一つ思う事がある。
商人てのは見境がないなあ、である。
僕もその商人の一員なんだけどさ。
冒険者と商人、この二種類の人種が今も凄い勢いでツィーゲ入りを望んでいる。
別の街でしっかりとした実績のある老舗やベテランが出店やそのリサーチの為に人を送るなんてのですら、もう把握しきれない程。
一旗揚げようってルーキーや、これから商人になろうって若者や元冒険者らの商人志望者も後を絶たない。
これもここで商人になった僕が言うと説得力に欠けるかもしれないけど。
ツィーゲは新人には本当に向かない街だと思う。
ここはベテランや天才が勝負を仕掛ける為に来る場所だ。
迎え撃つ既存店も他の街とは比べ物にならないレベルの競争を勝ち抜いて、続けている。
ロッツガルド……も、やってみた僕の印象ではツィーゲよりはマシだけど競争がきっつい。
リミアやグリトニアの田舎で、領主と懇ろになりながらゆっくりと慣れて力をつけていくのが一番ではなかろうか。
しかし人は手っ取り早い成功に弱い。
冒険者なら自分の力量もわからぬまま荒野入りし。
商人ならツィーゲで商人として独り立ちし。
ぷちっと潰される。
もうほんと、冒険者なら1~2回目の荒野入りで。不法侵入ならまず1回目で。
商人ならギルド登録して三か月以内で。
9割方が脱落する。
……や、もうちょっと多いかも。
他のとこは知らないけど冒険者のパーティ再結成なんて日常茶飯事もいいとこだ。
商人が看板下ろして他の店の丁稚奉公に入るなんてのもザラ。
冒険者でも商人でもない町人として仕事を見つけて生きようと心折れる者も多数。
「レンブラント氏が提唱した自衛軍の募集、倍率が20倍超えだとか」
目下悩ましきツィーゲの問題を順次焼けていく肉を見つめながら考える。
昼間から元気に営業している行きつけの店、肉屋でおひとり様カウンター焼肉を楽しんでいると、店主のライアンさんが僕を見かけて話しかけてきた。
倍率20倍か。
選び放題じゃないか。
「これを機に冒険者から定職に就こうって人も多いんでしょうね」
端っこでじっくりと育てていたホルモンから透明で美味しそうな脂がぽとりと。
食べ頃でしょう!
噛み締めると想像通り、しつこさのない美味い脂が大量に染み出してくる。
真っ昼間のランチにお酒を付けるのはよろしくないので、ここは苦み強めの冷たいお茶で。
「そのようで。冒険者で食べていけない人は決して多くはないですから。新人などは積極的に周囲に放流しているようですが、夢見る若者も多いようで……そのホルモン、お口にあって良かった。評判良いんですよ!」
「相変わらず美味いです。臭みはないし脂が美味い。個人的には御飯が欲しくなる味ですけど、付け合わせはパンの方が主流なんでしたっけ」
「御飯、ライスですか。あれはまだまだツィーゲでは浸透してきてないですね。クズノハ商会さんは真っ先に取り扱ってらっしゃいますね。ウチでもそろそろと考えてはおります。本場、ローレル連邦にも出向かれたとか。そのフットワークの軽さは見習いたいところです」
焼肉に御飯は鉄板である。
しかし、これには異論も多い。
僕もこれが常に最高だとは思っていない。
酒を飲む時の焼肉には御飯はいらないし、一食をしっかり楽しみたい時には御飯が欲しい。
難しい問題だ。
肉屋は一時期経営難になっていたけど、焼肉スタイルを始めてからは絶好調。
今ではランチも人員増強の上で開始、昼も夜も人の絶えない人気店となっている。
ここで食べた漫画肉は今も僕のド定番のままだ。
メニューからこれが消えたら焼肉があっても、ここには来ない気さえしている。
今日も一番に頼んで満足させてもらった。
あれは……良いものです。
「御飯はねえ、主役でもあり脇役でもあり、飲食界における名優ですよ。あれで種類も豊富ですから導入の際はお声がけいただけたら相談に乗りますよ」
「是非。ところで、ライドウさんから変わったサラダとして紹介してもらったアレなんですが」
「ああ。どうなりました?」
「レギュラーメニューで使わせてもらう事にしました」
「あれも季節感が出せる品ですし、肉の邪魔はしませんから。うまくハマった用で嬉しいです」
「ところが名前が決まらなくて」
野菜や漬け物のコマ切れを和えて、時に漬け地のタレなんかを加える。
信州では「やたら」、山形ではぬめりの強い昆布を使って「だし」なんて言われてるのを参考にした。
亜空ではミスティオリザードや翼人が気に入っている一品だったりする。
とはいえ、だしとかやたらをそのまま使う訳にもな。
名前つけるのって凄い難しいよね。
「そこはまあ肉屋さんで募集してもらって」
「うーむ。元になった料理の名前は覚えておられませんか」
「ええ、どこで食べたものだったか。旬の野菜と味の強い漬け物、あるいはタレを和えるだけなんですが奥が深いですよね」
「大きさを揃えてやるとまた一段と美味しくなるんですよ!」
へえ、食材ごとに適切な大きさに切るもんだと思ってた。
この辺は料理が本職の人が思いつく事なのかも。
「ああ、なるほど。だったらお肉も同じ大きさにして揚げてカリっとさせて混ぜると面白いんじゃ」
クルトン、いやカリカリベーコン的な?
「! あれに肉も加える!? はー、確かにバリエーションとしては面白いかもしれません」
ありゃ。
ライアンさんがご自分の世界に没頭していってしまった。
まあ、元々一人で焼肉してたんだから別によろしいんですが。
野菜のサイズもコマ切れというよりは小さめのサイコロサイズに落ち着いたようだし、これはだしとかやたらというよりも一種のカクテルサラダではなかろうか。
「さてと。そろそろ戻ります。会計を」
「いらない、と言っても金貨を置いていきますからねライドウさんは」
「無銭飲食はしません」
借りがあるから、とお代は結構です、なんてライアンさんには何度か言われたんだけどさ。
好きなメニューを覚えててもらえたり、試作メニューについて意見を求められたり。
その位なら嬉しい位に感じる僕だけど、お金はいいって言われると居心地が悪く感じる性格でして。
何度かこっそりそのまま帰るふりしてカウンターに金貨を置いたところ、ちゃんと代金を取ってくれるようになった。
そういえば、肉屋のカウンター焼肉っていつの間にか増設されてたな。
4人席で一人で肉食べるのも何か申し訳ない気分だったから助かった。
焼肉で見知らぬ人と相席できるほど、僕は図太くないのです。
ふとした疑問を覚えながら、会計を済ませて店の外に出る。
……ん。
釣れてる釣れてる。
午後一番は二人か。
アイオンは元々諜報活動に熱心な国だ。
リミアやローレル、グリトニアにもアイオンのスパイは大勢入り込んでる。
当然ツィーゲにもだ。
独立宣言の前に一度綺麗に掃除をした、とレンブラントさんは言っていたが効果は一瞬だ。
実際、冒険者や商人といった身分を詐称して入り込む連中は後を絶たない。
これも含めての「目下ツィーゲの問題点」な訳だ。
ツィーゲは基本来るもの拒まず、だからね。
スパイを防ぐ為に街の活気を奪うなど、とんでもない。
これが基本的なスタンスだ。
そしてスパイ活動をしていく内に、彼らは意思決定に有力な存在、比較的接触しやすい相手、などとして僕の存在を掴む事になる。
うん、レンブラントさんによる完全なるミスリードだね。
ツィーゲへの貢献度でいったらそれなりにクズノハ商会もあると思うけど街の方針決定や機密情報となると僕はあんまりタッチしていない。
もちろんね、引っかからない優秀なのも中にはいるんだろうけど。
今の所毎日のようにスパイホイホイbyライドウにアイオン王国側のスパイがザックザック入り込んでくるんですよ。
んー、別口で二人じゃなくてコンビで動いてるみたいだな。
界で二人の尾行の様子を把握して襲い、もとい接触しやすい通りを時に選択してやりながら商会までのルートをのんびりと歩く。
慎重派なら今日は来ないかもしれない。
その時は商会から尾行返しをしてこちらが情報を集めさせてもらう。
「でもそんな心配は無いと」
挟まれた。
正面から一見ごろつきにしか見えないヤカラが、狭い道を譲る気も無い態度で歩いてくる。
背後にも連動した気配。
そうきたか、一見してアウトローに見えない小綺麗な姿で油断させておいて……って、全力で見た目から近づきたくないタイプ?
新鮮、だな。
「クズノハ商会、代表のライドウか?」
「ええ、お二人はどっちから?」
「?」
「後ろのお姉さんとあんた、王国軍と革命軍どっちから来たの。そう聞いてる」
「……」
ま、答えないわな。
それじゃ。
「まあいいや、寝てろ」
「けびっ」
「あがっ……う」
狭い路地、目撃者はなし。
今日も漁が捗りますっと。
僕の前と後ろでドサリと人が崩れ落ちる音がする。
もうすっかり慣れたスタンアタック。
最初はローレルの時みたいに魔力で作った針で無力化してたんだけど、そこまでの手間が必要な相手が一人もいなかった事もあって今では首筋や肩口辺りに強力な打衝撃を叩き込む術で済ませてる。
名付けてスタンアタック。
最近は会話もそこそこに黙らせてる。
どうせ後で全部聞かせてもらうからね。
呼ぶまでもなく二人それぞれの近くにウチの店員が現れ、軽々とスパイを抱え込むとまたしても消える。
隠密そのものだ。
「今日はもう少し釣れそうな気がする」
一日の漁獲量は大体10人弱。
しかしこの日の収穫はこれまでとは少し毛色が違った。
ようやく、というべきか。
記念すべき革命軍第一号がおいで下さったのだ。
早速革命軍の現状や背景を知り得る限りお話頂いた。
ちょいと意外な掘り出し情報ございました。
「反神、教」
あー。
この世界でも女神に色々な意味で納得していない集団は存在する。
その中でもとてもとても過激で、積極的に女神の信仰を削り取りにかかる一派の一つこそ。
反女神教導団体アーク。
略して反神教、或いは反神教団。
女神に対抗する、って一点だけは僕もそれなりに納得できるんだけど。
こいつらの教義というか言い分が、これまた困った思想というか。
女神なき世をもたらす事が出来るのなら、何をしても構わない。
女神なき世は生きとし生ける者すべてにとって今よりも素晴らしき世である。
女神こそこの世界の不条理の化身、ゆえに女神さえ消えれば世界から不条理は消える。
などなど。
目的の為なら手段は選ばない、を地でいく連中だ。
女神を妄信すれば全て上手くいく、と同じ位バカげた思想だと個人的には思う。
魔族にそんな連中がいたけど、全く同じ感覚で等しく気持ち悪い。
そっかー。
革命軍ってバックが反神教かー。
そんなものがこんだけ力を持つくらいに国内で育っちゃうアイオンって、どのみち遠からず滅びの道を突き進んだと思うな。
ツィーゲの独立構想は良いタイミングだったんだな……。
にしてもアークか。
……。
大問題に気付いてしまったんだが。
……。
一文字入れ替えるだけでアクーになるよな。
……。
改名してくれないだろうか。
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