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七章 蜃気楼都市小閑編
混沌の応接室(網)
「おや」
「お待たせしましたムゾーさん」
「大分早めに来たのですが……いや、嬉しい誤算もあるものだ」
「前の予定を少し人に任せる事が出来ました。そうしたらもうお見えになっていると聞きまして」
「クズノハ商会のもてなしを少しでも堪能したくなってね。足がいう事を聞かない」
「ありがとうございます」
なんて挨拶を交わした相手はムゾー商会の代表さん。
素材、それも荒野の素材をひたすらに引き受けるツィーゲにおける最も巨大な卸売業のドン。
物凄い金額が右から左に毎日動く、ある程度の商会としての体力が無いと足を踏み入れる事すらできない世界だな。
「忙しい中だろうに、私のとことは定例の打ち合わせで済まないね」
温和な笑みを浮かべる二回りほど年上の男性。
切れ者と評判でレンブラントさんも商売については信頼している人物だけど。
世間的にはあまり笑わない非情で冷酷な男、という評判が一般的だったりする。
冒険者からの素材買い上げにツケなんてものは基本的に通用しない。
素材卸は常に巨額の現金も扱う仕事だけに危険も多いわけで……常に張り詰めた雰囲気からそんな評判が立ったのかもしれない。
最近は一部素材の養殖や栽培にも進出する為に余計金をばら撒いているいるから、考える事も多くなって厳しい表情も増えて、なんて悪循環もありうる。
「定例だからこそ、外すべきじゃありませんよ。とはいえ、報告を確認する限りスムーズな取引が維持できていると私はみています。順調かと」
特別に相談する事はない。
けれど、だから会わなくて良いとはならないもので。
例え予定通りに全て進んでいたとしても取引相手と定期的に顔を合わせる機会を持つ事は重要だ。
世界を回って、それからここに戻ってきてレンブラントさんから教わった事の一つ。
微小であれ、無料で関係を深められる。
裏切りや乗り換えの気配を察する機会が増える。
裏切りや乗り換えをするべき時期を以下同文。
大小様々だが突発的な商機が訪れる可能性もある。
同業であれ異業種であれ今の情報を交換できる貴重な場でもある。
だからルーティーンの様になっている商談でも相手と定期的に会う機会を作るべきで、漫然と数字だけを見る間柄になるのは避けよう。
ってね。
「……ええ、そちらにはご負担も多い内容ですが突発的な素材調達では本当に助かっています」
「少量だからこそ私どもでも請けられるんです。その分大量に必要な素材では助けて頂く事もあって……持ちつ持たれつでお付き合いが出来るのは安心できます」
嘘だ。
大量の素材であっても特に調達に問題はない。
これが急ぎだったりすると結構助かるって時はある。
でも亜空の需給を考えるとそこまで急に何かが大量に必要になるって事がそもそもないんだ。
……時折巴や澪が発作を起こした時にはムゾーさんがいてくれて本当に良かったと思うくらいかな。
僕らにとっては、そんな事でムゾー商会って大きなとこと付き合いが持てる方が利益になる。
今後この国での発言力も強くなりそうな商会だけに、出来る事なら仲良くしておきたいもんな。
「ただ」
「?」
「最近担当者が少し変わったようだ、と秘書から聞いてね。クズノハ商会の中に手を突っ込む気は無いが、何かあったのならこちらでも配慮が必要かもしれないと――」
「担当者、ですか? 私の方では特に――」
ムゾーさんから意外な話を振られて詳しく話を聞く。
主に素材を卸しているのはその時動ける子ってイメージで、報告書もそうなってる。
エリスが多めなのはムゾーさんとこが欲しがっててかつ枯渇しやすい素材があいつにとって楽勝な素材だから、だろう。
楽に街で使えるお金を調達できるとなればエリスにとっては濡れ手に粟。
そしてあいつはそういうのが大好物だ。
あとはアクアに、エルドワ、時々アキナと。
従業員のお小遣い稼ぎ的な。
いわゆるボーナスクエストと化しているムゾー商会からの依頼。
思わず苦笑が浮かびそうになりつつあちらの担当者さんやら秘書さんの話を聞いてみると、心当たりがあった。
しばらく前から時々顔を見せていた人が一人まったく姿を見せなくなっていると。
街でも見かけないし何かあったんじゃないかと。
まあくすぐったい話、うちの従業員の事を心配して下さってる。
その一人ってのが……。
「ああ、レヴィですか」
「うむ、君がローレルから帰った頃合いから、だそうだが。見れば確かにそれ以前には月に二度程は素材を届けに来てくれていた方のようだ。担当はともかく、私の秘書がこれまたこういう事に五月蠅くてね。もし怪我をしていたり伏せっていたりするなら見舞いに行くのが筋だと、まあ引かない。確かに急ぎで危ない仕事を頼んでいるのはこちらだがクズノハ商会は見た限りでは従業員に不義理をする商会でもない。部外者が口を出すのはどうかと宥めてみて大敗を喫したわけだ。すまない」
からからとムゾーさんは笑う。
秘書さんとは結構仲が良いみたいだ。
レンブラントさんとこは執事と仲が良い。
やはり出来る商人にはサポート人材も優秀な人がいるもんなんだな。
僕の場合、最初から巴と識がいてくれた。
今は片足指何本かは自力で立っていると思いたいけど、皆には本当に世話になりっぱなしである。
「あの子については……負傷したのは御察しの通りです」
「本当かね!」
「ただ、身体の傷というよりは心の傷の方が深いようで。今は商会の仕事を休ませて治療に専念させてます」
「心の……かなりタフで強気、太陽の様な熱を持った女性だと聞いているが。そうだったか」
誰だそれ。
レヴィの奴、ツィーゲだとそういうキャラなのか?
気分屋のバトルジャンキーで、ハマると結構ネガティブ。
なんてのが僕の印象なんだけど。
「負傷の件は特に隠すようなものでもありませんので、ご心配をかけた方にはどうぞよろしくお伝えください」
「良いのかな? 結構重要な情報とも取れる」
「ちっとも。また元気になりましたらそちらにも挨拶に行かせます」
「……わかった。が、挨拶までは。こちらが勝手にした心配だ」
「そうやって気にかけてもらえるのですから、レヴィも幸せ者です。ありがとうございます」
その後も和やかな雑談をしばらく続け。
ムゾーさんとの定例会は実に。
終始平和に終わってくれた。
「お待たせしましたムゾーさん」
「大分早めに来たのですが……いや、嬉しい誤算もあるものだ」
「前の予定を少し人に任せる事が出来ました。そうしたらもうお見えになっていると聞きまして」
「クズノハ商会のもてなしを少しでも堪能したくなってね。足がいう事を聞かない」
「ありがとうございます」
なんて挨拶を交わした相手はムゾー商会の代表さん。
素材、それも荒野の素材をひたすらに引き受けるツィーゲにおける最も巨大な卸売業のドン。
物凄い金額が右から左に毎日動く、ある程度の商会としての体力が無いと足を踏み入れる事すらできない世界だな。
「忙しい中だろうに、私のとことは定例の打ち合わせで済まないね」
温和な笑みを浮かべる二回りほど年上の男性。
切れ者と評判でレンブラントさんも商売については信頼している人物だけど。
世間的にはあまり笑わない非情で冷酷な男、という評判が一般的だったりする。
冒険者からの素材買い上げにツケなんてものは基本的に通用しない。
素材卸は常に巨額の現金も扱う仕事だけに危険も多いわけで……常に張り詰めた雰囲気からそんな評判が立ったのかもしれない。
最近は一部素材の養殖や栽培にも進出する為に余計金をばら撒いているいるから、考える事も多くなって厳しい表情も増えて、なんて悪循環もありうる。
「定例だからこそ、外すべきじゃありませんよ。とはいえ、報告を確認する限りスムーズな取引が維持できていると私はみています。順調かと」
特別に相談する事はない。
けれど、だから会わなくて良いとはならないもので。
例え予定通りに全て進んでいたとしても取引相手と定期的に顔を合わせる機会を持つ事は重要だ。
世界を回って、それからここに戻ってきてレンブラントさんから教わった事の一つ。
微小であれ、無料で関係を深められる。
裏切りや乗り換えの気配を察する機会が増える。
裏切りや乗り換えをするべき時期を以下同文。
大小様々だが突発的な商機が訪れる可能性もある。
同業であれ異業種であれ今の情報を交換できる貴重な場でもある。
だからルーティーンの様になっている商談でも相手と定期的に会う機会を作るべきで、漫然と数字だけを見る間柄になるのは避けよう。
ってね。
「……ええ、そちらにはご負担も多い内容ですが突発的な素材調達では本当に助かっています」
「少量だからこそ私どもでも請けられるんです。その分大量に必要な素材では助けて頂く事もあって……持ちつ持たれつでお付き合いが出来るのは安心できます」
嘘だ。
大量の素材であっても特に調達に問題はない。
これが急ぎだったりすると結構助かるって時はある。
でも亜空の需給を考えるとそこまで急に何かが大量に必要になるって事がそもそもないんだ。
……時折巴や澪が発作を起こした時にはムゾーさんがいてくれて本当に良かったと思うくらいかな。
僕らにとっては、そんな事でムゾー商会って大きなとこと付き合いが持てる方が利益になる。
今後この国での発言力も強くなりそうな商会だけに、出来る事なら仲良くしておきたいもんな。
「ただ」
「?」
「最近担当者が少し変わったようだ、と秘書から聞いてね。クズノハ商会の中に手を突っ込む気は無いが、何かあったのならこちらでも配慮が必要かもしれないと――」
「担当者、ですか? 私の方では特に――」
ムゾーさんから意外な話を振られて詳しく話を聞く。
主に素材を卸しているのはその時動ける子ってイメージで、報告書もそうなってる。
エリスが多めなのはムゾーさんとこが欲しがっててかつ枯渇しやすい素材があいつにとって楽勝な素材だから、だろう。
楽に街で使えるお金を調達できるとなればエリスにとっては濡れ手に粟。
そしてあいつはそういうのが大好物だ。
あとはアクアに、エルドワ、時々アキナと。
従業員のお小遣い稼ぎ的な。
いわゆるボーナスクエストと化しているムゾー商会からの依頼。
思わず苦笑が浮かびそうになりつつあちらの担当者さんやら秘書さんの話を聞いてみると、心当たりがあった。
しばらく前から時々顔を見せていた人が一人まったく姿を見せなくなっていると。
街でも見かけないし何かあったんじゃないかと。
まあくすぐったい話、うちの従業員の事を心配して下さってる。
その一人ってのが……。
「ああ、レヴィですか」
「うむ、君がローレルから帰った頃合いから、だそうだが。見れば確かにそれ以前には月に二度程は素材を届けに来てくれていた方のようだ。担当はともかく、私の秘書がこれまたこういう事に五月蠅くてね。もし怪我をしていたり伏せっていたりするなら見舞いに行くのが筋だと、まあ引かない。確かに急ぎで危ない仕事を頼んでいるのはこちらだがクズノハ商会は見た限りでは従業員に不義理をする商会でもない。部外者が口を出すのはどうかと宥めてみて大敗を喫したわけだ。すまない」
からからとムゾーさんは笑う。
秘書さんとは結構仲が良いみたいだ。
レンブラントさんとこは執事と仲が良い。
やはり出来る商人にはサポート人材も優秀な人がいるもんなんだな。
僕の場合、最初から巴と識がいてくれた。
今は片足指何本かは自力で立っていると思いたいけど、皆には本当に世話になりっぱなしである。
「あの子については……負傷したのは御察しの通りです」
「本当かね!」
「ただ、身体の傷というよりは心の傷の方が深いようで。今は商会の仕事を休ませて治療に専念させてます」
「心の……かなりタフで強気、太陽の様な熱を持った女性だと聞いているが。そうだったか」
誰だそれ。
レヴィの奴、ツィーゲだとそういうキャラなのか?
気分屋のバトルジャンキーで、ハマると結構ネガティブ。
なんてのが僕の印象なんだけど。
「負傷の件は特に隠すようなものでもありませんので、ご心配をかけた方にはどうぞよろしくお伝えください」
「良いのかな? 結構重要な情報とも取れる」
「ちっとも。また元気になりましたらそちらにも挨拶に行かせます」
「……わかった。が、挨拶までは。こちらが勝手にした心配だ」
「そうやって気にかけてもらえるのですから、レヴィも幸せ者です。ありがとうございます」
その後も和やかな雑談をしばらく続け。
ムゾーさんとの定例会は実に。
終始平和に終わってくれた。
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※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です