月が導く異世界道中

あずみ 圭

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七章 蜃気楼都市小閑編

先輩(下)

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 地に伏すロッツガルドエリート。
 当たり前だけど手も足も出なかったな。

「こんな……」

 切ない呻き声は、ユーノか。
 相手は一人、こちらは全員。
 中々絶望的な光景だろうな。
 昨夜彼らが出会った気の良いお兄さんは今や絶壁となって立ち塞がっていた。
 って訳だ。 

「予期せぬ出会いがあってもやる事はちゃんとやってくれたか」

「そりゃもう、ライドウ氏からのお願いですから。可愛い後輩の為でもありますし」

 しかしハザルは何というか妙な縁を持ってる。
 何でも昨夜深夜に徘徊してたジン達に偶然遭遇したそうな。
 しかも何故かソフィアも同席してたらしい。
 ツィーゲは以前の街並みを思えば案外狭い街でもある。
 ただその人流たるや結構なもの。
 その中で知人同士が見事に出会うなんて中々の偶然だ。

「後衛の、錬金術師が、どうして」

 ジンが愕然とするのも無理はない。
 ダエナと二人係で肉薄する距離まで接近できたのに良い様にいなされてたからな。
 後衛の術師なんだから、距離があればともかく接近戦に持ち込めば何とかなるという浅はかな思惑。
 音を立ててぶっ壊されたね。
 レベル差もえげつないから実際の身体能力でも多分ハザルのが上だと思うけど、今回の模擬戦でジン達がやられたのは大部分が経験の差によるところが大きい。
 戦闘能力からレベルやジョブを推測、次に使ってくるスキルのパターンなどなど。
 多分開始後数分でハザルは情報収集を終えていた。
 だからジン達はああも容易く負けたんだろう。
 それに錬金術師で冒険者としてハイレベルな人物というのもハザルのアドバンテージの一つ。
 一定以上の錬金術師はフィールドワークよりも街中での仕事を重視する傾向が強い。
 能力やレベルが上がれば上がるほど食いっぱぐれないのが錬金術師系の特徴でもあり、要するに荒野に探索に出ても出なくても収入としてはあまり変わらない立ち回りをしやすくなっていくらしい。
 つまり存在がレアなんだ。
 だから荒野慣れした冒険者でもハザルの手の内を知ってる奴はそういない。
 全部知ってるのなんて多分パーティメンバー……いやもしかしたらトア達も全部は知らないかもな。
 初見の戦法ほど対応が難しいものはない。
 格上がやってくるとなれば、もはや恐怖でしかない。
 学園レベルの錬金術師をベースにハザルの実力を想定した時点で既に勝ち目はゼロだ。
 しっかし、作り出した薬品や魔術の組み合わせを考えると錬金術師ってのはかなりの汎用性があるジョブだと思い知らされる。
 今日の模擬線にもっと観戦者が沢山いたらツィーゲに錬金術師ブームが起きてた、かも。
 なんだ最後のアンチマテリアルポーションって。
 火力担当のポーションなんてあったのかよと。
 ちゃんと劣化品だから安心していいよと背中を見せたハザルが決め台詞を吐いてたから、本来はもっと威力があるみたいだ。
 一度機会を作ってアルケーのミナトにアンチマテリアルポーションの事は聞いておこうと思いましたまる。

「ポーション、一つで、ミスラの盾も、ジュウキも、魔法障壁も全部ぶち抜いて私達を一掃するなんて……!」

 アベリアの声は悔しさよりも驚きに染まっていた。
 気持ちはわかる。 
 本日はトップクラスの冒険者の実力を体験してみようのコーナー。
 ツィーゲの有名人、アルパインのハザルにご足労いただき一戦お願いした。
 結果はまあ、想像通り。
 規格外の火力スキルであるゾディアックなのは完全に封印してもらい、亜空から連れ出したモモンガにもお休みしてもらったんだけどハンデにもならなかったみたい。
 そういえばあのモモンガ、そう名乗ったから気にしなかったんだけどむっちゃでかくなるしもしかしたらムササビじゃないかと疑って観察してみたんだ。
 元の大きさと尻尾の感じは確かにモモンガっぽかった。
 流石に食事風景やら糞まで観察するのは無理だったから断言はできないけど多分モモンガ。
 ちなみにご飯は何を食べるのか聞いたら怪訝な顔をされ、糞はどうしてるのかハザルにこっそり確認しようとしたら、うっかり聞かれてたのか大きな瞳を更に見開いてドン引きされた。
 ……ひょっとしてメスだったりとか?
 また機会を見つけて謝っておくべきかもな。

「いやいや強かったです、当時の僕じゃ嫉妬も出来ないくらい圧倒的な実力だと思います。まだまだ甘いところばっかりですが天才揃いで実に素晴らしいね!」

「……爽やかな笑顔で這いつくばった学生にどのくらい響くのかね」

「しかし惜しいなあ、パーティに一人錬金術師がいれば戦闘の幅も生存率も爆発的に上がるというのに」

「おいおい、ハイレベルな錬金術師で冒険者やってる奇特なのなんてツィーゲでも珍しいだろう。あんまり無茶な事を言わないでやってくれハザル。こう見えてこいつらは強い者の言う事には盲信的なとこがあるんだから」

「若さですよ、若さ! それに彼らを見てると昔の自分と、トアを思い出します。こう、くすぐったくも微笑ましい」

「トア?昔からの知り合いだったか?確かベースであの時に知り合ったんじゃ……」

「あー思い出すのは昔の私と、今のトアです。ライドウさんに助けてもらった時に知り合ったのは間違いないですよ」

「……紛らわしい。そして惚気なら勘弁してくれ。新婚が」

「惚気だなんて。あの無鉄砲で馬鹿丸出しの衝動買い。昨夜はまるでトアと話しているかと錯覚すらしましたとも」

 衝動買い。
 ああ、そうだったな。
 妹のリノンがよくこぼしてる。
 姉は買い物好きだけど買い物下手だと。
 ただ騙されやすい、とは違うんだよなあの娘の場合。
 あるかもしれない希望を楽しんでいるというか。
 宝くじは買うのが目的というか。
 そして宵越しの金に執着しない気質というか。
 うん、あまり大金を持たせたくないタイプに間違いない。
 嬉しそうに語るハザルもどうかしてる。
 ガンバレ、リノン。

「ジン達は初めてのツィーゲだ。そりゃ、目移りもするだろう。初ツィーゲで無駄遣いしないで済む奴なんて商人でも稀有だよ」

 これは冗談でも何でもなく事実だ。

「ライドウさんも二束三文の食器をぼったくりで買わされたって噂がありますもんね」

「……デマだよ。あれは将来の職人への先行投資」

 漆器はまだ一般的でもないから大っぴらには言えないけどね。
 僕の素人目で見ても、木地師としてあのキャロって職人は中々凄いと今も思ってるさ。
 
「普通なら露店の食器売りが?……となるところなんですが。ライドウさんですからねえ、何が起きるか確かにわかりません。それになんでも屋と言われてしまうと専門外とも言えないのがまた……ミステリアスです」

「やかましい。今日は助かったよ。流石に後始末はこちらでするから、もう仕事は終わりでいいよ」

「では依頼遂行という事で。あ、ライドウさん。確かにお店に踊らされてるところは笑いましたが、ちゃんと私もこの子たちに相応しい、身の丈に合った武具を扱う店を紹介したり。一応先輩っぽい事もしてますので」

「……そっか、ありがとう。アルパインからの推薦なら間違いない店だろ、安心したよ」

「じゃ、学生さん。体験はここまで、また飲み屋で会ったらご馳走しますよ。おつかれでしたー」

 背を向けたハザルが一度だけ振り返って気の抜けた別れの言葉を残して去っていった。
 そして立ち上がる治療済みのジン達。
 すぐに円陣を組むが如く集まると、反省会が始まった。
 あーでもないこーでもないと意見をぶつけている。
 ……レンブラントさんの時も思ったけど、こいつらディスカッションとか好きだよな。
 思い返してみて、僕は学生だった頃あんなに同級生と議論みたいな事したかな。
 してない気がする。
 
「今夜の行先は決まったな」

 ん?
 ダエナ?

「応、ハザルさん、奥さんたちとニクヤってとこ行くんだって言ってた」

 お前どんだけダダ漏れなんだよ、ハザール。
 酒的にはこの中の誰かに負けてるな、さては?
 あいつの部分的な脇の甘さ、一生治らないやつかもしれない。

「聞きたい事、山ほどある。俺の参考に出来そうな事、凄いあるから」

 イズモまで。
 土建はいいんか。
 こりゃあ、かなり頭にきてるな。
 ハザルが手を抜いてた事にも気付いたかな、それとも考え方一つで自分でも真似できそうな戦術でボコボコにされた自分自身が相当悔しかったのか。
 例えば五感に干渉する戦い方。
 フラッシュグレネードだったかスタングレネードだったか。
 現代の兵器でもあったと思うけど、光や音で相手を弱体化無力化させるやり方とかね。
 閃光や大音量を一瞬炸裂させる事で相手に隙を作る。
 光や音自体には魔力を込めてなくても、人である以上目で見て耳で聞いて鼻で嗅いで舌で味わって肌で感じて情報を集める。
 一般的な障壁では防げるものじゃないし、ちょっとした工夫といえばそれまでだ。
 知ってたとしても光や音の場合、前もって遮断するとデメリットがでかいし。
 確かに、ハザルは良く考えて戦ってた。
 荒野で生き残る為に彼なりに全力を尽くしてきた結果か。
 あと、巴と澪の特訓の成果も。

「しゃあ! そしたら切り替えて皆で郊外の見学でも行こうぜ! 実際の街が拡大してく様子なんて滅多にみられるもんじゃねえべ!」

「ジン、何語?汚い」

「けど賛成。俺もあのずっと伸びてく舗装路みて気になってた。折角だから良い馬車確保して走ってもらおう」

「気分転換、だな」

 おっと、切り替えもスムーズ。
 特に僕が総括するまでもなし、か。
 なら誰かこっそり護衛を付けて自由行動させてあげますかね。

「よし。なら今日の冒険者ハザル氏との模擬戦については各人でレポートを提出する事。郊外への自由行動は認めるが細かな予定は決まり次第口頭でもよいから商会に寄って識に伝えておくこと。事後報告にはしないように」

『はい!』

「では解散、楽しんでくるといい」

 武具を外しながら仲良く出ていくロッツガルドの学生たち。
 冒険者ギルドで訓練場を借りたのは正解だった。
 考えてみれば終わった後どう動くにも便利だもんな。
 にしても大分良い目をするようになったと思う。
 何というか、見ている方までわくわくするような力に満ちた目だ。
 この街で見聞きした事や出会った人との関わりが影響してるのは間違いない。
 やらかしも色々あったのは置いといてだ。
 修学旅行か。
 半分思い付きでやってみた事だけど、うん、良かったんじゃないかな。
 毎回こんだけの効果があるわけでもないだろうけど、学園に戻った後の彼らの動きは他の学生にも伝わるし講師の目にも届く。
 やらかしやがったぜライドウ、てな話にはなるまい。
 かといって、またとんでもない事をしてくれやがってライドウともなるまい。
 いいね、これは。
 いいじゃないか。
 何か、初めて学園絡みの仕事を無難にこなしてる気がする!
 
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