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五章 ローレル迷宮編
vs緋綱&マリコサンズ
「ぐぁ……だが私をやったとて戦いはまだ終わりではない。しかし褒めてやろう、まさかマリコサンファイブが一角を崩そうとはな。見事なりーーふはははは!!」
「一撃だと、まさかイエローさんを一撃で落とす威力を持つとは。隊長!! レッド隊長!! ご指示を!!」
「驚嘆である。真に驚嘆である。イエローは我らの中でも末席の者ではあったが、奴のボックスカーには一目置く所があった。しかしな、皆よ案ずるな。まだ我らはやれる。決して守勢になるな、攻めて攻めて攻め続けるのだ! 前線には副隊長たるブラックも直に――」
「隊長! イエローさんをやった一撃がそのままブラックさんも串刺しに! ブラックさん戦死です!!」
「……な、なんとーーー!?」
くっそ。
大分威力が低い。
群体で存在しているらしいこの不思議な妖精は倒してもすぐに復活してくる。
一応長く存在している個体は成長もするらしくそいつらは即時復活とかはしない……まあ髭付きになって個性が出てくるって位みたいだけど。
ただそういうのがノーマルなマリコサンを統括して軍隊の如く襲い掛かってくる。
つまり即座に復活してこないこのリーダータイプをさっさと仕留めて烏合の衆にしたい訳だ。
……群体。
軍隊。
え、まさかそういう事なの?
いやいやいや。
種族にあった戦い方をしているだけだろう。うん。
僕からすると全てがネタみたいな種族だけに一抹の疑問が残る。
さて、前後から迫る地獄の弾幕に魔力体を三回ほど再構成させられた僕ですが。
ひとまずマリコサンの援軍を沈黙させようと攻勢に出た。
ただでさえ魔術も色々減衰されてて妨害もある現状。
かといって詠唱をのんびりやってると緋綱さんが容赦なく潰しにかかってくる。
接近戦タイプのマリコサンにも複数まとわりつかれて厄介な事この上ない。
なんていうかな。
短い詠唱でも、強制的に詠唱の所々を虫食いのように塗り潰してくるような面倒な妨害が組まれている。
長い詠唱はほとんどがその妨害と緋綱さんで発動までもっていけない。
上手く発動まで進めても威力は大きく下げられる。
必然的に使える術そのものが更に威力に妥協した無詠唱ラインナップに限られる。
なんてストレスの溜まる!
とりあえず接近戦型ほとんどとリーダー型っぽいの二匹は処理済み。
うまい事三匹直線上に並んでくれたから一言詠唱ので狙撃してみたら二匹までは狩れた。
惜しい事にもう一匹までは術の威力が保たなかった。
「そこっ!」
絵面的に思いっきり僕が悪役だけど、魔力体を弄って数本触手状に操って残ってた戦士型マリコサンを貫く。
「高嶺君にこれだけ能力を抑え込まれてて……この魔力ゴリラ!!」
ひどっ!
緋綱さんの悲鳴混じりの罵声が心に刺さる。
魔力ゴリラって。
「それくらいしか取り柄ないんで! 抜かせてもらいます!」
まとわりつくマリコサンはもういない。
緋綱さんの詠唱妨害と魔導書による結構な威力の魔術も今ならゴリラな魔力で圧し潰せる。
ゴリラはな、心優しい、らしいんだぞ!!
「あの人はまだ戻らない!?」
「もう三分ほどとの事ーー!!」
「三分!? 三十秒にしてーー!」
「!……わかった巫女さん。なら三十秒、任せるぜ?」
「へ? あ、もしかしてクィーン出張ってる?」
「その通りだ! 今三十秒あるなら奴を仕留める手がある!!」
「了解っ! じゃあ全力全開、後先考えずにやってみるわ!」
緋綱さんとマリコサンが魔術の砲撃戦の間に怒鳴るように叫びあっている。
直後緋綱さんが前にマリコサンが一列下がった陣形に切り替わる。
そして緋綱さんが浮かせている頁の数が一気に倍以上に増殖した。
げ!?
そっちこそ何て魔力ゴリラ!
明らかにおかしいぞ!?
大体当初からこの人どれだけの高位魔術を連打してると思ってる!?
識を上回るぞ、冗談抜きで。
しかも時々魔術師らしくないスキルまで織り込んでくるし。
あんなのが専属の後衛だったら、相当安心感ありそうだよな。
守り甲斐のある火力の見本みたいな人だ。
「出し切ってやろうじゃないの!」
「セイフティゾーンは後一分ちょっと使えないはずですけどね。手は抜きませんよ!」
「私たちもね、伊達に長く生きちゃいないの。それなりの工夫ってものは知ってるのよ。お婆ちゃんなめんな!」
くっ。
「美国守護! 武砲猫連爪牙! 歌姫十月!――」
ちらっと、緋綱さんが後ろに控えるマリコサン達を見る。
ふっと笑みでその視線に応える彼女達。
剣に斧に槍。
これまでの投擲メインの武装から接近戦用の武装に切り替えた?
一体――。
「偽頁・狂尽昇華!!」
っ!
黄金のオーラがマリコサン達を包む。
体に吸い込まれていったオーラが、次いで彼女たちの内側から一気に噴き出し始めた。
髪が金色に……。
あー……突っ込みたいけど、これ本当に結構威力あるっぽいな。
ブリッドを弾く真っ当で強力な障壁魔術。
なんとも可愛らしい、色とりどりの猫を象った無数の魔力がこっちに向かって次々弾丸の如く突っ込んでくる攻撃魔術。
爪と牙が異様に鋭い威力、最後には爆裂して魔力体をがっつり抉ってくる。
こっちの攻撃魔術をランダムにか何らかの判定でか打ち消してくる呪歌を熱唱する異形の歌姫の召喚。
はっきりいって、一個一個の魔術が識の指輪に匹敵するかもしれない。
なのにまだ、緋綱さんの体には魔力がたっぷりと残っている。
どんなカラクリなんだか。
けど、これが最後のしのぎ時か。
あの人ってのが誰かも大体想像がつく。
結局高嶺って人の居場所や能力の詳細は掴み切れなかった。
思ったよりずっとしんどい戦場だったけど、終わりが見えれば気分も変わるってもんさ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「拘泥の泥濘……」
レッド、ブルーと呼ばれていたマリコサンも落とした。
後方からの砲撃も随分と弱まった。
とうとう膝をついた緋綱さん、浮遊していた頁の最後の三枚が消えた。
周囲の空気が泥沼にはまった時みたいに重くまとわりついてくる。
ただそれも数秒の事。
魔力体を大きく抗って動かして拘束を引き千切る。
「あはは、流石にこれ以上は魔力を使えない…か。二百年分くらいかしら? あぁ新記録……」
そのまま前につんのめって緋綱さんがぶっ倒れる。
脂汗だらだら、顔真っ青だ。
ん、こっちとしては理想的な倒し方か。
魔力切れ? らしき症状で自滅してくれるのは。
三十秒はかかってないと思う。
「グリーンメイス・クラッシャー!!」
ああ、リーダータイプマリコサン。
まだ残ってたっけ。
上から飛び掛かってきたマリコサンが身の丈よりも大きな鎚を振りかぶっている。
「悪いね。もう相手にしてられないんだ」
魔力体の両手を合わせ、彼女に向ける。
で、発射。
「この私の! マトンチョップスに宿りし剛力はぁ!! マリコサン一のーー!! 必殺――!!」
轟音とともに。
グリーンは星になった。
貫通して天井に一発入っちゃうかと思ったけど、確かに凄い威力の一撃だったんだな。
僕の魔力ナックルとほぼ相殺なんだから。
しかし、ボックスカーとかマトンチョップスとか何の事やら、だ。
ヒゲの名前かなーとか思ってみるも、正直未知の世界過ぎて自信がない。
「おし、終わり。ここからだと、澪からだな。あいつが身動きできない状況? ってのがいまいち予想できないけど、行ってみりゃわかるか」
「それはなりません」
「え」
気配なんて全く無かったぞ?
でも確かに声がした。
右真横に誰かいる。
「まさか精鋭を含むマリコサンを粗方一撃で始末する剛の者がいようとは驚きです。しかし貴方は迷宮を司る我らの神髄を未だ――」
貫禄ある口調。高貴な気配。
大物っぽいだけに話なんて聞いてられない。
だが即座に排除、が出来なかった。
転移か。
数発のブリッドが空を切る。
「確かに言葉を交わす時はとうに過ぎていましたね。ならばその身に受けなさい。マリコサン最強の切り札、私わたくしマリコサンクィーンが最終奥義!!」
「……」
ここじゃ普段は抵抗しておしまいの事でも容易く影響を受ける。
出来るだけ自然体であらゆる事態への対応に少しでも備える。
「ビーンナウォール!!」
一瞬で視界が真っ暗になった。
耳も塞がれた!?
音がしない。
いや、それどころか身動きが出来ない。
なら拘束魔術?
おいおい待てよ?
これ、息も出来ない!
何も見えない、聞こえない、体も動かせない、息も出来ない。
何だこれ。何だこれ。なんだこれなんだこれなんだこれ!?
パニックに向けて一直線だった僕の精神が、数秒で踏みとどまる。
切っ掛けは音だった。
聞こえた。
自分の心臓の音。
それに気づいた。そう僕はまだ生きてる。
魔力体の存在は感じないけど、まだ生きてる。
最後に聞いた術の名はビーナオール。
いや、ビーナウォールか?
マリコサンは迷宮にまつわる妖精だか精霊。
そして彼女たちは妙に日本臭い。
ならウォールは、壁?
迷宮……壁……見えない聞こえない動けない息もできない僕の状況。
……。
そういう事か。
多分、いや間違いないだろう。
緋綱さんと話していたマリコサンの言葉も思い出す。
僕を仕留めるあてがあると、彼女は言っていた。
それがこのスキルである事は確実だ。
迷宮、壁関係、必殺。
レトロなゲームで初見の時はコントローラーをテレビに投げつけそうになった。
そう。
僕は今。
かべのなかにいる。
界を全部強化に回して強引に魔力体を生み出す。
相当硬い岩盤なのか周囲1~2メートルしか破壊できなかった。
ここが壁のど真ん中だとすればそれが出来ただけでも御の字か。
さっきまでの僕じゃ出来ない芸当かも。
となれば。
ここは普通なら即死の状況ながら、高嶺って人の能力の影響範囲外なのか。
霧がかかったような界の状況も随分とクリアだ。
二十層は、どこだろ?
いつまで呼吸できるかもわからないし急がないと。
しっかしマリコサンの女王様、とんでもない奥の手を隠してたな。
緋綱さんを良い形で崩せたから少し油断があったのかも。
ん。
相変わらず内部の状況は上手く拾えないけど……二十層みっけ。
あの人ってのが僕の読み通りアズノワールとかいう騎士なら、到着されたとてそこまで状況は変わらないと思う。
ただ、それなのに少し嫌な予感がしているのも事実。
出来るだけその時には僕も戻っていたい。
……穴掘りか。大分久しぶりだな。
アクエリアスコンビの結界を破ってから、どっかで使ったっけなあ。
やりますか。
掘って掘って掘りまくって、戻らないと。
待ってろ終盤戦!
「一撃だと、まさかイエローさんを一撃で落とす威力を持つとは。隊長!! レッド隊長!! ご指示を!!」
「驚嘆である。真に驚嘆である。イエローは我らの中でも末席の者ではあったが、奴のボックスカーには一目置く所があった。しかしな、皆よ案ずるな。まだ我らはやれる。決して守勢になるな、攻めて攻めて攻め続けるのだ! 前線には副隊長たるブラックも直に――」
「隊長! イエローさんをやった一撃がそのままブラックさんも串刺しに! ブラックさん戦死です!!」
「……な、なんとーーー!?」
くっそ。
大分威力が低い。
群体で存在しているらしいこの不思議な妖精は倒してもすぐに復活してくる。
一応長く存在している個体は成長もするらしくそいつらは即時復活とかはしない……まあ髭付きになって個性が出てくるって位みたいだけど。
ただそういうのがノーマルなマリコサンを統括して軍隊の如く襲い掛かってくる。
つまり即座に復活してこないこのリーダータイプをさっさと仕留めて烏合の衆にしたい訳だ。
……群体。
軍隊。
え、まさかそういう事なの?
いやいやいや。
種族にあった戦い方をしているだけだろう。うん。
僕からすると全てがネタみたいな種族だけに一抹の疑問が残る。
さて、前後から迫る地獄の弾幕に魔力体を三回ほど再構成させられた僕ですが。
ひとまずマリコサンの援軍を沈黙させようと攻勢に出た。
ただでさえ魔術も色々減衰されてて妨害もある現状。
かといって詠唱をのんびりやってると緋綱さんが容赦なく潰しにかかってくる。
接近戦タイプのマリコサンにも複数まとわりつかれて厄介な事この上ない。
なんていうかな。
短い詠唱でも、強制的に詠唱の所々を虫食いのように塗り潰してくるような面倒な妨害が組まれている。
長い詠唱はほとんどがその妨害と緋綱さんで発動までもっていけない。
上手く発動まで進めても威力は大きく下げられる。
必然的に使える術そのものが更に威力に妥協した無詠唱ラインナップに限られる。
なんてストレスの溜まる!
とりあえず接近戦型ほとんどとリーダー型っぽいの二匹は処理済み。
うまい事三匹直線上に並んでくれたから一言詠唱ので狙撃してみたら二匹までは狩れた。
惜しい事にもう一匹までは術の威力が保たなかった。
「そこっ!」
絵面的に思いっきり僕が悪役だけど、魔力体を弄って数本触手状に操って残ってた戦士型マリコサンを貫く。
「高嶺君にこれだけ能力を抑え込まれてて……この魔力ゴリラ!!」
ひどっ!
緋綱さんの悲鳴混じりの罵声が心に刺さる。
魔力ゴリラって。
「それくらいしか取り柄ないんで! 抜かせてもらいます!」
まとわりつくマリコサンはもういない。
緋綱さんの詠唱妨害と魔導書による結構な威力の魔術も今ならゴリラな魔力で圧し潰せる。
ゴリラはな、心優しい、らしいんだぞ!!
「あの人はまだ戻らない!?」
「もう三分ほどとの事ーー!!」
「三分!? 三十秒にしてーー!」
「!……わかった巫女さん。なら三十秒、任せるぜ?」
「へ? あ、もしかしてクィーン出張ってる?」
「その通りだ! 今三十秒あるなら奴を仕留める手がある!!」
「了解っ! じゃあ全力全開、後先考えずにやってみるわ!」
緋綱さんとマリコサンが魔術の砲撃戦の間に怒鳴るように叫びあっている。
直後緋綱さんが前にマリコサンが一列下がった陣形に切り替わる。
そして緋綱さんが浮かせている頁の数が一気に倍以上に増殖した。
げ!?
そっちこそ何て魔力ゴリラ!
明らかにおかしいぞ!?
大体当初からこの人どれだけの高位魔術を連打してると思ってる!?
識を上回るぞ、冗談抜きで。
しかも時々魔術師らしくないスキルまで織り込んでくるし。
あんなのが専属の後衛だったら、相当安心感ありそうだよな。
守り甲斐のある火力の見本みたいな人だ。
「出し切ってやろうじゃないの!」
「セイフティゾーンは後一分ちょっと使えないはずですけどね。手は抜きませんよ!」
「私たちもね、伊達に長く生きちゃいないの。それなりの工夫ってものは知ってるのよ。お婆ちゃんなめんな!」
くっ。
「美国守護! 武砲猫連爪牙! 歌姫十月!――」
ちらっと、緋綱さんが後ろに控えるマリコサン達を見る。
ふっと笑みでその視線に応える彼女達。
剣に斧に槍。
これまでの投擲メインの武装から接近戦用の武装に切り替えた?
一体――。
「偽頁・狂尽昇華!!」
っ!
黄金のオーラがマリコサン達を包む。
体に吸い込まれていったオーラが、次いで彼女たちの内側から一気に噴き出し始めた。
髪が金色に……。
あー……突っ込みたいけど、これ本当に結構威力あるっぽいな。
ブリッドを弾く真っ当で強力な障壁魔術。
なんとも可愛らしい、色とりどりの猫を象った無数の魔力がこっちに向かって次々弾丸の如く突っ込んでくる攻撃魔術。
爪と牙が異様に鋭い威力、最後には爆裂して魔力体をがっつり抉ってくる。
こっちの攻撃魔術をランダムにか何らかの判定でか打ち消してくる呪歌を熱唱する異形の歌姫の召喚。
はっきりいって、一個一個の魔術が識の指輪に匹敵するかもしれない。
なのにまだ、緋綱さんの体には魔力がたっぷりと残っている。
どんなカラクリなんだか。
けど、これが最後のしのぎ時か。
あの人ってのが誰かも大体想像がつく。
結局高嶺って人の居場所や能力の詳細は掴み切れなかった。
思ったよりずっとしんどい戦場だったけど、終わりが見えれば気分も変わるってもんさ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「拘泥の泥濘……」
レッド、ブルーと呼ばれていたマリコサンも落とした。
後方からの砲撃も随分と弱まった。
とうとう膝をついた緋綱さん、浮遊していた頁の最後の三枚が消えた。
周囲の空気が泥沼にはまった時みたいに重くまとわりついてくる。
ただそれも数秒の事。
魔力体を大きく抗って動かして拘束を引き千切る。
「あはは、流石にこれ以上は魔力を使えない…か。二百年分くらいかしら? あぁ新記録……」
そのまま前につんのめって緋綱さんがぶっ倒れる。
脂汗だらだら、顔真っ青だ。
ん、こっちとしては理想的な倒し方か。
魔力切れ? らしき症状で自滅してくれるのは。
三十秒はかかってないと思う。
「グリーンメイス・クラッシャー!!」
ああ、リーダータイプマリコサン。
まだ残ってたっけ。
上から飛び掛かってきたマリコサンが身の丈よりも大きな鎚を振りかぶっている。
「悪いね。もう相手にしてられないんだ」
魔力体の両手を合わせ、彼女に向ける。
で、発射。
「この私の! マトンチョップスに宿りし剛力はぁ!! マリコサン一のーー!! 必殺――!!」
轟音とともに。
グリーンは星になった。
貫通して天井に一発入っちゃうかと思ったけど、確かに凄い威力の一撃だったんだな。
僕の魔力ナックルとほぼ相殺なんだから。
しかし、ボックスカーとかマトンチョップスとか何の事やら、だ。
ヒゲの名前かなーとか思ってみるも、正直未知の世界過ぎて自信がない。
「おし、終わり。ここからだと、澪からだな。あいつが身動きできない状況? ってのがいまいち予想できないけど、行ってみりゃわかるか」
「それはなりません」
「え」
気配なんて全く無かったぞ?
でも確かに声がした。
右真横に誰かいる。
「まさか精鋭を含むマリコサンを粗方一撃で始末する剛の者がいようとは驚きです。しかし貴方は迷宮を司る我らの神髄を未だ――」
貫禄ある口調。高貴な気配。
大物っぽいだけに話なんて聞いてられない。
だが即座に排除、が出来なかった。
転移か。
数発のブリッドが空を切る。
「確かに言葉を交わす時はとうに過ぎていましたね。ならばその身に受けなさい。マリコサン最強の切り札、私わたくしマリコサンクィーンが最終奥義!!」
「……」
ここじゃ普段は抵抗しておしまいの事でも容易く影響を受ける。
出来るだけ自然体であらゆる事態への対応に少しでも備える。
「ビーンナウォール!!」
一瞬で視界が真っ暗になった。
耳も塞がれた!?
音がしない。
いや、それどころか身動きが出来ない。
なら拘束魔術?
おいおい待てよ?
これ、息も出来ない!
何も見えない、聞こえない、体も動かせない、息も出来ない。
何だこれ。何だこれ。なんだこれなんだこれなんだこれ!?
パニックに向けて一直線だった僕の精神が、数秒で踏みとどまる。
切っ掛けは音だった。
聞こえた。
自分の心臓の音。
それに気づいた。そう僕はまだ生きてる。
魔力体の存在は感じないけど、まだ生きてる。
最後に聞いた術の名はビーナオール。
いや、ビーナウォールか?
マリコサンは迷宮にまつわる妖精だか精霊。
そして彼女たちは妙に日本臭い。
ならウォールは、壁?
迷宮……壁……見えない聞こえない動けない息もできない僕の状況。
……。
そういう事か。
多分、いや間違いないだろう。
緋綱さんと話していたマリコサンの言葉も思い出す。
僕を仕留めるあてがあると、彼女は言っていた。
それがこのスキルである事は確実だ。
迷宮、壁関係、必殺。
レトロなゲームで初見の時はコントローラーをテレビに投げつけそうになった。
そう。
僕は今。
かべのなかにいる。
界を全部強化に回して強引に魔力体を生み出す。
相当硬い岩盤なのか周囲1~2メートルしか破壊できなかった。
ここが壁のど真ん中だとすればそれが出来ただけでも御の字か。
さっきまでの僕じゃ出来ない芸当かも。
となれば。
ここは普通なら即死の状況ながら、高嶺って人の能力の影響範囲外なのか。
霧がかかったような界の状況も随分とクリアだ。
二十層は、どこだろ?
いつまで呼吸できるかもわからないし急がないと。
しっかしマリコサンの女王様、とんでもない奥の手を隠してたな。
緋綱さんを良い形で崩せたから少し油断があったのかも。
ん。
相変わらず内部の状況は上手く拾えないけど……二十層みっけ。
あの人ってのが僕の読み通りアズノワールとかいう騎士なら、到着されたとてそこまで状況は変わらないと思う。
ただ、それなのに少し嫌な予感がしているのも事実。
出来るだけその時には僕も戻っていたい。
……穴掘りか。大分久しぶりだな。
アクエリアスコンビの結界を破ってから、どっかで使ったっけなあ。
やりますか。
掘って掘って掘りまくって、戻らないと。
待ってろ終盤戦!
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