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extra16 その頃ツィーゲ ~夏休みに起こっていた事①~
あ、お客さんですか?
ごめんなさい、今日はもう絵を描ける明るさじゃないので終わりなんです。
え?
肉屋さんですか?
それなら市場に沢山出てますけど、もうお店閉まってると思います。
違う?
酒場の方?
それならそこの通りを左に曲がった通り沿いにあります。
ちょっと歩きますけど見つけやすいから大丈夫ですよ。
待ち合わせか何かですか?
どうして、って。
あそこは冒険者の人とか仕事上がりの人が沢山集まる場所ですけど、住んでいる人が行く店だから。
おじさん達、まだこの街に来たばかりでしょ?
さっき冒険者ギルドに入っていく所見てましたけど、私結構長くここで似顔絵描きしてるから何となくわかるんですよ。
姉も冒険者ですし。
案内、ですか?
んー、必要無いですよ。
本当にわかりやすいですから、肉屋さん。
それに姉とここで待ち合わせして帰る事にしてるんで、離れちゃうと心配させちゃいます。
だからごめんなさい。
そんな、拝まれても困るよぉ……。
以前来た時とは様子が違っていて自信が無い?
確かに、住んでる私も時々戸惑う位だけど……。
はぁ。
わかりました。
それじゃお店が見える所まで一緒に行きますね。
少し待っててくださいね。
すみません、リンさん。少し離れるので道具を見ていてもらえます?
すぐに戻りますから。
ありがとうございます。
お待たせです。
じゃあ行きましょう。
前に来たのはいつ頃なんですか?
半年前、荷をおろしに来たんですか。
それじゃあ迷いますよね。
ここ最近ケイキが凄く良くて建物も建ったり移動したり入口側の門の拡張も半年の間に二回やってるし。
その前は十年位前なのに、凄いです。
肉屋さんもお店の位置が変わってますね。
値段は半年前から変えてないんですけど、結構儲かっているみたいです。
私の姉もいつもいつも打ち上げであそこでお金使っちゃうんですよ。
止めてもすぐに忘れちゃうんだから。
でも、おじさん達冒険者ならちゃんと実力に合った仕事をケンジツにやらないと駄目ですよ。
周りのハブリとかケイキのよさとかに勘違いしちゃって、いきなり荒野に出て死んじゃう人だって結構いるんだから。
ハッテンするのは良い事だけど、キソクが緩くなっちゃってるみたいでお金次第で門を開けちゃう人もいるの。
だから気を付けてね。
そんな。
私、賢くなんてないよ。
姉から聞いただけだもん。
あれ?
どうしておじさん達、私の姉がトアって名前だって知ってるの?
え、お店そっちじゃないよ。
手痛いから離してよ!
なにするの!
やだ!
だれか――むぐう!!
うーうー!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「急げ!」
「わかってる! なあバラしちまったほうが後々楽じゃねえか!?」
「隠れ家に行ってからだ。生きていた方が都合が良いかもしれん。俺たちでは決められんさ」
男たちが暗い路地を駆けていく。
一人の男が麻袋を担いでいる。
中身は先ほど拉致した幼い女の子だ。
誘拐。
それも彼女が誰かを知っていて行動を起こしたのだ。
計画的な犯行である事は間違い無い。
冒険者ギルドから程近い場所で似顔絵描きをしている少女リノン。
彼女はツィーゲを代表する冒険者パーティの身内、妹だ。
知っている者ならまず危害を加えようとはしない。
果たしてその冒険者であるリノンの姉、トアに如何なる恨みを持つ故なのか。
残念ながら、詳細は明かされる事無く彼らの計画は小さな乱入者の存在によってあえなく散ることになった。
「――ッ!? なんだ、ガキ!?」
「お前たち、リノンをどうするの?」
身体に合わないサイズの剣を佩いた少女が外見に相応しい幼さの残る声で尋ねた。
「チィッ! 知り合いかよ! おい、消すぜ!?」
「騒がれる前にさっさとやれ!!」
男たちは三人組だった。
縦に並んで通りを駆け抜けていたが、青い髪の少女に立ち塞がられる。
少女の問いには答えず、内容からリノンの知り合いだと判断した先頭の男が、リノン入りの麻袋を担ぐ二人目の向こう、殿の男に確認を取る。
殺しの許可を。
聞かれた男は事も無げに了承した。
「居合わせなきゃ死なずに済んだものをよ!!」
男の手に刃物の煌き。
未だ立つだけの少女に躊躇いも無く殺意と攻撃を向け、放つ。
「答えない、刃物、殺気……。ぎるてぃ」
その呟きは、襲いかかった男の耳に届いたかどうか。
二人目の男が足を止める。
先頭の仲間が縦に真っ二つになったのと。
少女の姿を見失ったのと。
二つの驚きから。
「リノンは友達」
リノンを担いだ男を振り返る。
声がした後方に。
複数の槍状の物に串刺しにされた実働部隊のリーダーの姿。
恐る恐る視線を下げると前にいた筈の青い髪の少女がいた。
いや、少女の姿をしたナニカだと、男は思った。
「今日はご飯の約束なの」
男は自分の身体の違和感に気付く。
胸から下の感覚が無い。
見れば少女の持つ変わった形の剣が腹を貫いている。
なのに痛覚が無い。
凍てついていた。
貫かれた辺りから下全てが。
そしてそれは胸に至り、肩も腕もと進行していく。
ついに喉元に冷たさと、ピキピキと何か聞き慣れない音を感じる。
そう言えば、血が出てなかった。
もう振り返る事もかなわない男が最初に殺された男の事を思い出す。
それが男の最後の感覚と思考になった。
少女は手に持った剣、刀を引き抜くと鞘に納める。
次いで彼女が右手をひと振りすると、三人の誘拐犯は氷の塵になって消えた。
左手で落下する麻袋をキャッチする少女。
両手で抱えてそのまま走り出して、彼女はリノンを彼女の仕事場に戻した。
麻袋が開けられ、中から猿轡をかまされて両手両足を縛られたリノンが出てくる。
拘束を解かれて思わず涙ぐむリノン。
だが自分を助けた相手が青い髪の少女である事を視認すると、その涙を袖で拭う。
「た、助けてくれてありがとコモエ」
しばらく前に知り合った友人、コモエに礼を言うリノン。
クズノハ商会の見習いで、普段は表に出てこないコモエだが、真の紹介で出会って以来リノンとは友達になっている。
亜空に続く門を作れるようになったコモエは、休みの日には時々こうしてツィーゲにも出てきていた。
遊びにいってきます。
コモエの行先がツィーゲだと真が知らない事もある。
便利な魔法の言葉である。
巴の身内として、商会を利用する客や冒険者の間ではそれなりに姿を見られていた。
「リノン、それより今日はご飯の日だよ」
「わ、わかってるよ! お姉ちゃん達が来たらね。ねえ、コモエ、もしかして一人で助けてくれたの? あの犯人達は?」
気恥ずかしいながらお礼を言ったというのに、コモエに軽く流されて狼狽するリノン。
「あの位のサンピンは某だけで十分でござる」
「……ごめん、何言ってるのかよくわからない。巴お姉ちゃん語?」
「そうエド語。巴様から教わってる。あんなごろつきは私だけで余裕と訳して良いよ」
巴の奇妙な言葉遣いは二人の間で定着しているようだった。
「他にも若様からゴル語とかも教わってる。俺の後ろに立つな、とか」
コモエは先ほどやった事など何も気にしてない様子で同年代に見える少女と談笑する。
「……コモエ、良くわからないけどその辺は流して良い気がするよ、私」
「そうかな?」
「うん、今度会ったら私がお兄ちゃんに話してみるね」
「お兄ちゃんか。若様よりお兄ちゃんって呼んだ方が良いのかな?」
コモエが何やら考え込む。
リノンにはその仕草が妙に可愛く思えてしまい、ちょっとした悪戯を思いついた。
「いっそ、パパとかお父さんって呼んでみたら?」
「前に巴様に言われて、とと様、と呼んだら澪様が凄く怖かった」
「……そ、そうなんだ」
「うん。バナナに塩と粉ハーブをかけられた。あれはもう嫌」
「バナナかあ。たまにクズノハのお店で出るけど、あんまり見ないね。あれ美味しいよね」
「また今度手に入れたら分ける。期待してて良いよリノン」
そんな他愛もない話をしていると遠くからリノンを呼ぶ声がした。
リノンにとっては聞き慣れた、間違え様の無い声。
「お姉ちゃんだ」
「そだ。さっきの事、トア姉に話すからね」
「心配させちゃわないかなあ」
「危険が残るのは駄目」
譲らないとばかりにびしっと言い切るコモエ。
「コモエは強いし大人だし、良いなあ。私も戦い方覚えようかなあ」
「……? なんで? リノンは絵が上手。私も好き。戦えるより凄いと思う」
大人、と言われたコモエ。
だが自分に出来ない絵描きが出来てお金を稼いでいるリノンが自分を羨ましがる理由がわからずに首を傾げる。
コモエは亜空の住人であり、立場も特殊だ。
彼女はお金を持っていない。
お小遣いはまだ早い、と基本的に現物支給であった。
だからツィーゲの街に遊びに来ると困ることもある。
お金を持っている事も、コモエからすればリノンは凄い、と言う理由になっていた。
最近は亜空にいる事も多くなった真が今は夏休みだからとコモエに教えたりもしたが、この街にその概念は無い。子どもが貴重な労働力として使われる事は至って普通の事で、リノンの様に自ら働く子の姿も珍しくはない。
それなりの商家に生まれたなどの事情が無ければ当然であり、コモエの方が珍しいケースと言えた。
彼女は彼女で特殊な仕事を亜空でこなしているので遊んでいるだけでもないが。
「あはは、ありがと。ここも荒っぽい街だもん、少し私も考えないとなあ」
「キャンプでトックンしたいなら若様に聞いてあげようか? 私キョウカンやってあげるよ」
「う……んと。もう少し考えてからにする。お姉ちゃんに教えてもらうのもありだし」
「わかった」
「そうだ! さっきのお礼に、後でコモエの絵描いてあげる!」
「ホント!? じ、じゃあね、若様と並んでるやつ!」
リノンからの提案に年相応の笑顔になるコモエ。
「……仮面の人の隣にいる絵ってどうなんだろ」
「む~、なら仮面は無しの方で!」
「私、お兄ちゃんの素顔見た事ないや。今度お顔見たらそっちを描くから、今日は別のにしてよ」
「え~。ならねえ……うーんと、リノンと二人の絵!」
「わ、私!?」
コモエからの第二希望に明らかに動揺するリノン。
自画像を描いた事は実はあまり無い少女だった。
「よろしく!!」
狼狽するリノンに満面の笑顔を浮かべるコモエ。
後片付けをしながらトアが来るのを腰掛けて待つ二人の少女は、楽しそうにようやく訪れた遅い夏の夜を迎えた。
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