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一 「バッドエンドしかない」という悪役令嬢とやらの従者になったのだが、聞いて欲しい
一の2
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「……しかしさ、光の精霊王って本来聖女が契約する精霊なんだよね?」
「ええ」
「マズくない?」
「……」
きょとんとするな、きょとんと。
「本来ならシリアナはヒロインの対極である闇の精霊王と契約するのですけれども、結果オーライですわ!」
おーらいってナニ。ええんかいそれで。まぁ僕は構わないが。
「しかしそれなら、本来シリアナ嬢と契約するはずだった闇の精霊王はどこに行ったんだ?」
「居りますわよ?」
「ん?」
「居りますわ。領地のわたくしの部屋に。タウンハウスには連れて来なかったのです」
「……精霊王、泣いてなかった?」
「放置プレイというものを教えましたの。喜んでおりましたわ」
「……」
もうやだ。僕この子に関わり合いになりたくない。だが関わり合いにならないために、今ここでこうしているわけで。トア。シリトア。僕もう魔界に帰りたいよ。
「冒険者ギルドはどこの国にも属さず従わず、が大陸条約で定められているというのにわたくしはアナルファック帝国の公爵家の人間でございましょう? 有事にアナルファック帝国がわたくしという人間を独占せぬよう、帝国よりもギルドの意向を優先するよう、中立を誓わされておりますのよ。ただでさえ面倒ですのにこの上光の精霊王と契約しているなんて知られたら国家問題なのですわ……」
なるほど、だからラストダンジョンも単独踏破できるわけだ。光の精霊王が召喚できるんだから、そりゃ最深部までドレスで優雅に降り立てるというのも納得である。ダンジョン内で光の精霊王を呼び出して浄化させれば半径十キロメートル圏内の幹部連中以外の魔物は強制退去させることができるから、幹部としか戦わずに済む。それでもラストダンジョンを一人で制覇する貴族令嬢は普通ではない。
「それなら、例え聖女が現れたとしてもお嬢さまを国が邪険にするとは思えないんだよなぁ。国外追放したら、国としてお嬢さまに命を下すことはできなくなるし人材の流出は避けたいところだろ」
下手したら聖女より大事だろ。ラストダンジョン、ここ百年近く誰も踏破してないんだぜ? 僕なら何としても引き留めるね。
「皇帝と殿下とでは、お考えが違うのです。殿下にとってわたくしは生意気で言うことを聞かないが、ぞんざいに扱うことを周囲が許さない、おもしろくない存在なのですわ」
「何だ、つまり王子は国益よりも己の感情を優先するバカということか」
「……エイン、お言葉が過ぎますわよ」
バカか。バカなのか。否定はしないということはそうなんだな。
「君をおもしろく思っていないが、君の家格、個人の実力から露骨に邪険に扱うこともできないのが現状で、そんなところに扱いやすそうな聖女が現れたら例え君も聖女候補だろうと己の立場や王族としての責務など考えず御しやすそうな女を自分の妃に据えたがる。そういうバカ王子、なのだな」
おまけにまさかとは思うが、一国の王太子ともあろう者が「辺境」を「田舎」くらいに思ってたりしないか。しかも立地的に帝国唯一の陸路と通年温暖で穏やかな海流に恵まれた海路があるオシリスキナ領が、公爵家でありながら辺境伯としての役割も担っている意味やそこを建国から治めて来た一族というのが何を意味するのかも分からないタイプか。オシリスキナ一族が反旗を翻したらこの国がどうなるかとか、それを含めてその地を任される歴代公爵と王との信頼関係とか、関税とか流通とかの意味が分からないタイプのアホか。おお、怖。バカって怖い。
「……」
もぐもぐもぐ。シリアナ嬢の細い顎が無言で咀嚼を繰り返す。返事をしないということはやはりそうなのだろう。そしておもしろく思っていないからと言って、シリアナ嬢に婚約破棄を突き付けられるような材料を集めることもできない、考えることもできない、その能力もない、そのための人材も持ち合わせていない無能なのだろう。無言でスコーンにジャムを乗せたシリアナ嬢へ笑顔を向ける。
「良かったではないか。相手がアホなら作戦の成功率は上がるし工作もしやすいな!」
「んっふ」
噎せそうなシリアナ嬢のティーカップへさらに茶を注ぐ。
「ひろいんの聖女も、王子と同じくアホだと楽なのだが」
「ごっふ……ゲームでの初期設定のミコス・リ・ハンデ・イカセルという名前は分かっているので、学園に行けばいずれ分かりますわ。ヒロインが転生者という可能性もございますのよ。そうなると聖女もゲームの展開を知っていることになって厄介なのです」
「そんな可能性もあるのか」
「ええ……三こすり半でイカせるだなんて名器、名器ですのね……攻略対象は全員早漏なのですわ……」
うん。聞きたくない。何度も言うが公爵令嬢が名器とか早漏とか言うんじゃありませんはしたない。
「……ていうか、シリアナとかエロアナルよりその聖女の方が名前変じゃね? 帝国の言葉でエロって『聖なる』って意味だろ?」
アナルとは正しくは「アナ・ル」と発音する。「光あれ」という意味で女神オシリアナへの祈りの言葉「アナ・ル、アナ・ル、エロ、アナ・ル。ドエロ」はつまり、「光あれ、光あれ、聖なる光あれ。女神よ」という意味だ。シリって「美しい」って意味だし、アナって「光」って意味。つまりシリアナとは、「美しき光」という意味と女神オシリアナの名をいただいたいい名前だ。親の愛情が分かるし、シリアナ嬢は生まれた時からとても美しかったのだろう。シリアナ嬢の前世の世界、何か言語設定が変だよな。
「つまり、聖女も未来の展開が分かっている、と思って動いた方がいい、のか」
「そうなのです。さらに気を付けなくてはならないのは、他の攻略対象ですわ」
「他?」
「ええ。乙女ゲームですから。攻略対象のキャラが『こいまほ』の中では殿下以外にも他に五人いるはずですわ」
「あと五人、アホがいるということで合っているか?」
「いいえ。アホは殿下のみですわ。多分」
アホて。君殿下の婚約者ちゃうのか。ええんか。ええんかアホとか言ってしまって。僕は面白いからいいけど。
「そのアホのるーととやらでシリアナ嬢はどうなる?」
「アホのルートではわたくし、婚約破棄された怒りに任せその場で聖女に掴みかかりその罪を問われ、貴族籍を剥奪の上お父さまに国外追放されてゲーム内ではその後消息不明となりますの」
自国の第一王子をアホ扱い確定でいいのか。まぁ、深く考えまい。しかし婚約破棄された場で王子に掴みかからない辺り、げぇむのシリアナ嬢も貴族として自国の王子を害するのはさすがにマズいと考えられるだけの理性はあるらしい。アホに振り回されねば国にとって良き人材となっただろうに可哀想に。
「それは父上殿精いっぱいの親心だな。シリアナ嬢を国外へ逃がして守ったのか」
「……やはり、陛下もそう思われますか」
「うん」
消息不明ということは、その後アナルファック帝国以外の国で平穏に暮らした可能性が高いのだろう。やはり唯一の国防の要である辺境を任されるだけあってシリアナ嬢のお父上はそれなりに有能らしい。
「他には?」
「わたくしのお兄さま、エロアナルも攻略対象なのです。エロアナルルートではわたくしは公爵家の別棟で一生監禁される結果になりますの」
「何がどうなるとそうなるんだ?」
兄妹仲が悪いのか? 怪訝な表情を隠しきれない僕へ、シリアナ嬢は首を横へ振って見せた。
「いいえ。お兄さまは殿下がわたくしとの婚約を破棄するための断罪イベントから守るため、失踪したと偽ってオシリスキナ家の別棟に匿うのです。そして苦悩しつつ、ヒロインのため、わたくしのため、シリアナを一生別棟で過ごさせるのですわ。数あるエンディングの中でも最もシリアナにとっては穏やかなエンディングですのよ」
「兄に監禁されるのがか?」
「殿下に見つかれば処刑されるので」
「……え、待って? 聖女は王族と婚姻を結ぶんだろう?」
「略奪婚ですの。ですのでヒロインも一生公爵家から出られませんわ。兄は表向き、独身を貫くことになりますのよ」
「妹も聖女も監禁とかヤベェ」
「そうなのです。ヤベェのですわ。前世のわたくし二番推しの妹になるなんて萌えが極まってブラコンにもなるというものですわ」
ぶらこんとは何だろう。ちょいちょい出て来るけどおしってなに? もういちいち尋ねる気がしない。脳が理解を拒否している。いいんだ。もうそういうことにしとこう。ふわっと雰囲気で納得しよう。知りとうない。知りとうないぞ。シリアナ嬢の向かいにある椅子を引き寄せ、座ってテーブルへ頬杖をつく。
「つまり王子以外と結ばれる時は必ず略奪婚ってことになるのか?」
「殿下の護衛騎士のヒュースルートでは聖女と二人で国外逃亡するのです」
「ちなみにその場合、シリアナ嬢はどうなる?」
「ヒロインが居なくなれば殿下と結婚するのはシリアナ。そんな打算から二人の逃亡を手伝ったため、帝国騎士団に掴まってしまい、聖女を逃した罪で罰せられ、オシリスキナ公爵家は爵位を剥奪され一族は没落するのですわ……」
ろくでもない展開しかない。しかしその程度の罪状で辺境伯、しかも帝国に三つしかない公爵家を取り潰すか? 国王何考えてんの。額を押さえながら尋ねる。
「他には?」
「殿下の弟君であるシリアナルルートなら、兄弟で聖女を取り合い互いを暗殺しようという目論見の中、殿下の代わりに毒殺されて死にますわ。お陰で目が覚めた王子二人は一人の聖女を二人で愛でる、3Pエンディングですのよ」
「何だろう、何でだか分からないけど最後の言葉が若い令嬢が口にしてはならない言葉だということだけは分かったぞ」
「3Pというのは男女三人でくんずほぐれつそれはもうぐっちょんぐっちょんに」
「ご令嬢がそんな言葉を使うでない!」
「ふふふ」
忍び笑いが忍んでいない。童貞をからかってそんなに楽しいか。楽しいだろうな。僕なら楽しいもん。
「ほんとろくなことにならないな。シリアナ嬢もだが聖女と結ばれた男どもも幸せになってないではないか」
「第一王子のアナルアルトルート以外はどこか切ないエンディングしかないところが、『こいまほ』が人気の理由ですのよ! メリバ万歳ですわ!」
「えんでんぐ……めりば……また分からぬ単語が出て来たがもうよい。残り二人は?」
「次期大司教候補の神官、アナルディル・ドウですわ。アナルディルルートでは二人は女神の祝福を得て婚姻を許され、聖女を蹴落とそうと様々な嫌がらせを画策し、殿下を選ばなかった聖女に『アナルアルト様の何が不満なのよ!』と掴みかかったシリアナは大司教となったアナルディルによって修道院送りにされるのですわ……」
「殿下どこ行ったよ?」
「アナルディルルートですと、シリアナとも聖女とも婚約しなかった殿下は確か、モブの伯爵令嬢と婚約なさいますわ」
もぶって何だ。聞いたら話が長引きそうだから口にするのをやめた。
「しかし聖女は必ずしも王族と結婚しなくていいのか」
「アナルディルは聖女が学園で三年生になる頃には、大司教になっていますの。王族ではなく大司教と聖女が婚姻した先例もありますので、その場合は王族との婚姻は必須ではございませんわ」
「この世界は神官の身分がやたらと高いからな」
国によっては王族よりエロアーナ教の法王の方が身分が上である。主神ドライオル・ガズムを信仰するエロアーナ教ではなく、女神を信仰するオシリアナ教でもそれは変わらない。
「最後は?」
「ゼンリツセェン学園の教師、オシリエ・ロイ・ド・ヘンタイ子爵。通称ロイルートですわ。わたくしが陛下に初めてをもらっていただこうと思い付いたのはロイルートからひらめいたのです」
「ん?」
「ロイルートでは、卒業を控えた洗礼式で聖女は女神からの神託を受けないのです」
「なして?」
「その、聖女が乙女ではなくなっていたので……」
「おいいいいいいい、とんだ淫行教師じゃねぇかいいのかそれで!」
「しかも淫行教師なのにお尻がエロいド変態なのですわよ? 受けなのか攻めなのかどう解釈したらいいのか分からないのですわ!」
「うん、ちょっと何言ってるか分かんない」
ん? 待てよ? 聖女が現れず、シリアナ嬢が聖女候補に上がったのなら、そのまま王子とシリアナ嬢が結婚してめでたしじゃね?
「ええ」
「マズくない?」
「……」
きょとんとするな、きょとんと。
「本来ならシリアナはヒロインの対極である闇の精霊王と契約するのですけれども、結果オーライですわ!」
おーらいってナニ。ええんかいそれで。まぁ僕は構わないが。
「しかしそれなら、本来シリアナ嬢と契約するはずだった闇の精霊王はどこに行ったんだ?」
「居りますわよ?」
「ん?」
「居りますわ。領地のわたくしの部屋に。タウンハウスには連れて来なかったのです」
「……精霊王、泣いてなかった?」
「放置プレイというものを教えましたの。喜んでおりましたわ」
「……」
もうやだ。僕この子に関わり合いになりたくない。だが関わり合いにならないために、今ここでこうしているわけで。トア。シリトア。僕もう魔界に帰りたいよ。
「冒険者ギルドはどこの国にも属さず従わず、が大陸条約で定められているというのにわたくしはアナルファック帝国の公爵家の人間でございましょう? 有事にアナルファック帝国がわたくしという人間を独占せぬよう、帝国よりもギルドの意向を優先するよう、中立を誓わされておりますのよ。ただでさえ面倒ですのにこの上光の精霊王と契約しているなんて知られたら国家問題なのですわ……」
なるほど、だからラストダンジョンも単独踏破できるわけだ。光の精霊王が召喚できるんだから、そりゃ最深部までドレスで優雅に降り立てるというのも納得である。ダンジョン内で光の精霊王を呼び出して浄化させれば半径十キロメートル圏内の幹部連中以外の魔物は強制退去させることができるから、幹部としか戦わずに済む。それでもラストダンジョンを一人で制覇する貴族令嬢は普通ではない。
「それなら、例え聖女が現れたとしてもお嬢さまを国が邪険にするとは思えないんだよなぁ。国外追放したら、国としてお嬢さまに命を下すことはできなくなるし人材の流出は避けたいところだろ」
下手したら聖女より大事だろ。ラストダンジョン、ここ百年近く誰も踏破してないんだぜ? 僕なら何としても引き留めるね。
「皇帝と殿下とでは、お考えが違うのです。殿下にとってわたくしは生意気で言うことを聞かないが、ぞんざいに扱うことを周囲が許さない、おもしろくない存在なのですわ」
「何だ、つまり王子は国益よりも己の感情を優先するバカということか」
「……エイン、お言葉が過ぎますわよ」
バカか。バカなのか。否定はしないということはそうなんだな。
「君をおもしろく思っていないが、君の家格、個人の実力から露骨に邪険に扱うこともできないのが現状で、そんなところに扱いやすそうな聖女が現れたら例え君も聖女候補だろうと己の立場や王族としての責務など考えず御しやすそうな女を自分の妃に据えたがる。そういうバカ王子、なのだな」
おまけにまさかとは思うが、一国の王太子ともあろう者が「辺境」を「田舎」くらいに思ってたりしないか。しかも立地的に帝国唯一の陸路と通年温暖で穏やかな海流に恵まれた海路があるオシリスキナ領が、公爵家でありながら辺境伯としての役割も担っている意味やそこを建国から治めて来た一族というのが何を意味するのかも分からないタイプか。オシリスキナ一族が反旗を翻したらこの国がどうなるかとか、それを含めてその地を任される歴代公爵と王との信頼関係とか、関税とか流通とかの意味が分からないタイプのアホか。おお、怖。バカって怖い。
「……」
もぐもぐもぐ。シリアナ嬢の細い顎が無言で咀嚼を繰り返す。返事をしないということはやはりそうなのだろう。そしておもしろく思っていないからと言って、シリアナ嬢に婚約破棄を突き付けられるような材料を集めることもできない、考えることもできない、その能力もない、そのための人材も持ち合わせていない無能なのだろう。無言でスコーンにジャムを乗せたシリアナ嬢へ笑顔を向ける。
「良かったではないか。相手がアホなら作戦の成功率は上がるし工作もしやすいな!」
「んっふ」
噎せそうなシリアナ嬢のティーカップへさらに茶を注ぐ。
「ひろいんの聖女も、王子と同じくアホだと楽なのだが」
「ごっふ……ゲームでの初期設定のミコス・リ・ハンデ・イカセルという名前は分かっているので、学園に行けばいずれ分かりますわ。ヒロインが転生者という可能性もございますのよ。そうなると聖女もゲームの展開を知っていることになって厄介なのです」
「そんな可能性もあるのか」
「ええ……三こすり半でイカせるだなんて名器、名器ですのね……攻略対象は全員早漏なのですわ……」
うん。聞きたくない。何度も言うが公爵令嬢が名器とか早漏とか言うんじゃありませんはしたない。
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アナルとは正しくは「アナ・ル」と発音する。「光あれ」という意味で女神オシリアナへの祈りの言葉「アナ・ル、アナ・ル、エロ、アナ・ル。ドエロ」はつまり、「光あれ、光あれ、聖なる光あれ。女神よ」という意味だ。シリって「美しい」って意味だし、アナって「光」って意味。つまりシリアナとは、「美しき光」という意味と女神オシリアナの名をいただいたいい名前だ。親の愛情が分かるし、シリアナ嬢は生まれた時からとても美しかったのだろう。シリアナ嬢の前世の世界、何か言語設定が変だよな。
「つまり、聖女も未来の展開が分かっている、と思って動いた方がいい、のか」
「そうなのです。さらに気を付けなくてはならないのは、他の攻略対象ですわ」
「他?」
「ええ。乙女ゲームですから。攻略対象のキャラが『こいまほ』の中では殿下以外にも他に五人いるはずですわ」
「あと五人、アホがいるということで合っているか?」
「いいえ。アホは殿下のみですわ。多分」
アホて。君殿下の婚約者ちゃうのか。ええんか。ええんかアホとか言ってしまって。僕は面白いからいいけど。
「そのアホのるーととやらでシリアナ嬢はどうなる?」
「アホのルートではわたくし、婚約破棄された怒りに任せその場で聖女に掴みかかりその罪を問われ、貴族籍を剥奪の上お父さまに国外追放されてゲーム内ではその後消息不明となりますの」
自国の第一王子をアホ扱い確定でいいのか。まぁ、深く考えまい。しかし婚約破棄された場で王子に掴みかからない辺り、げぇむのシリアナ嬢も貴族として自国の王子を害するのはさすがにマズいと考えられるだけの理性はあるらしい。アホに振り回されねば国にとって良き人材となっただろうに可哀想に。
「それは父上殿精いっぱいの親心だな。シリアナ嬢を国外へ逃がして守ったのか」
「……やはり、陛下もそう思われますか」
「うん」
消息不明ということは、その後アナルファック帝国以外の国で平穏に暮らした可能性が高いのだろう。やはり唯一の国防の要である辺境を任されるだけあってシリアナ嬢のお父上はそれなりに有能らしい。
「他には?」
「わたくしのお兄さま、エロアナルも攻略対象なのです。エロアナルルートではわたくしは公爵家の別棟で一生監禁される結果になりますの」
「何がどうなるとそうなるんだ?」
兄妹仲が悪いのか? 怪訝な表情を隠しきれない僕へ、シリアナ嬢は首を横へ振って見せた。
「いいえ。お兄さまは殿下がわたくしとの婚約を破棄するための断罪イベントから守るため、失踪したと偽ってオシリスキナ家の別棟に匿うのです。そして苦悩しつつ、ヒロインのため、わたくしのため、シリアナを一生別棟で過ごさせるのですわ。数あるエンディングの中でも最もシリアナにとっては穏やかなエンディングですのよ」
「兄に監禁されるのがか?」
「殿下に見つかれば処刑されるので」
「……え、待って? 聖女は王族と婚姻を結ぶんだろう?」
「略奪婚ですの。ですのでヒロインも一生公爵家から出られませんわ。兄は表向き、独身を貫くことになりますのよ」
「妹も聖女も監禁とかヤベェ」
「そうなのです。ヤベェのですわ。前世のわたくし二番推しの妹になるなんて萌えが極まってブラコンにもなるというものですわ」
ぶらこんとは何だろう。ちょいちょい出て来るけどおしってなに? もういちいち尋ねる気がしない。脳が理解を拒否している。いいんだ。もうそういうことにしとこう。ふわっと雰囲気で納得しよう。知りとうない。知りとうないぞ。シリアナ嬢の向かいにある椅子を引き寄せ、座ってテーブルへ頬杖をつく。
「つまり王子以外と結ばれる時は必ず略奪婚ってことになるのか?」
「殿下の護衛騎士のヒュースルートでは聖女と二人で国外逃亡するのです」
「ちなみにその場合、シリアナ嬢はどうなる?」
「ヒロインが居なくなれば殿下と結婚するのはシリアナ。そんな打算から二人の逃亡を手伝ったため、帝国騎士団に掴まってしまい、聖女を逃した罪で罰せられ、オシリスキナ公爵家は爵位を剥奪され一族は没落するのですわ……」
ろくでもない展開しかない。しかしその程度の罪状で辺境伯、しかも帝国に三つしかない公爵家を取り潰すか? 国王何考えてんの。額を押さえながら尋ねる。
「他には?」
「殿下の弟君であるシリアナルルートなら、兄弟で聖女を取り合い互いを暗殺しようという目論見の中、殿下の代わりに毒殺されて死にますわ。お陰で目が覚めた王子二人は一人の聖女を二人で愛でる、3Pエンディングですのよ」
「何だろう、何でだか分からないけど最後の言葉が若い令嬢が口にしてはならない言葉だということだけは分かったぞ」
「3Pというのは男女三人でくんずほぐれつそれはもうぐっちょんぐっちょんに」
「ご令嬢がそんな言葉を使うでない!」
「ふふふ」
忍び笑いが忍んでいない。童貞をからかってそんなに楽しいか。楽しいだろうな。僕なら楽しいもん。
「ほんとろくなことにならないな。シリアナ嬢もだが聖女と結ばれた男どもも幸せになってないではないか」
「第一王子のアナルアルトルート以外はどこか切ないエンディングしかないところが、『こいまほ』が人気の理由ですのよ! メリバ万歳ですわ!」
「えんでんぐ……めりば……また分からぬ単語が出て来たがもうよい。残り二人は?」
「次期大司教候補の神官、アナルディル・ドウですわ。アナルディルルートでは二人は女神の祝福を得て婚姻を許され、聖女を蹴落とそうと様々な嫌がらせを画策し、殿下を選ばなかった聖女に『アナルアルト様の何が不満なのよ!』と掴みかかったシリアナは大司教となったアナルディルによって修道院送りにされるのですわ……」
「殿下どこ行ったよ?」
「アナルディルルートですと、シリアナとも聖女とも婚約しなかった殿下は確か、モブの伯爵令嬢と婚約なさいますわ」
もぶって何だ。聞いたら話が長引きそうだから口にするのをやめた。
「しかし聖女は必ずしも王族と結婚しなくていいのか」
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国によっては王族よりエロアーナ教の法王の方が身分が上である。主神ドライオル・ガズムを信仰するエロアーナ教ではなく、女神を信仰するオシリアナ教でもそれは変わらない。
「最後は?」
「ゼンリツセェン学園の教師、オシリエ・ロイ・ド・ヘンタイ子爵。通称ロイルートですわ。わたくしが陛下に初めてをもらっていただこうと思い付いたのはロイルートからひらめいたのです」
「ん?」
「ロイルートでは、卒業を控えた洗礼式で聖女は女神からの神託を受けないのです」
「なして?」
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「おいいいいいいい、とんだ淫行教師じゃねぇかいいのかそれで!」
「しかも淫行教師なのにお尻がエロいド変態なのですわよ? 受けなのか攻めなのかどう解釈したらいいのか分からないのですわ!」
「うん、ちょっと何言ってるか分かんない」
ん? 待てよ? 聖女が現れず、シリアナ嬢が聖女候補に上がったのなら、そのまま王子とシリアナ嬢が結婚してめでたしじゃね?
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