リスティリア救世譚

ともざわ きよあき

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第一章  眩きレブレーベント

第三話 再会は慟哭から⑥

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 同じ頃、総司はリシアには内緒にしたまま、アレインの部屋を訪ねていた。
 正直、本を読むよりも彼女に直接聞いた方がずっと効率的だと思っていた。リシアの前でそんなことを言うと、彼女はやたらとアレイン王女のことを警戒しているようだから黙っていただけだ。
「こんばんはー。総司ですけどー」
「あら」
 ドアをノックしながら総司が声を掛けると、部屋の中から意外そうな声がした。
「これはこれは。入っていいわ」
 アレインの許しを得て、総司は「失礼します」と声を掛けながらドアを――――
「何で半裸ァァァ!」
 半分開けて、すぐさま閉めた。下着の上から、下着が透けるような薄いネグリジェを着ただけの王女をバッチリ見てしまった。アイドル的な人気をかつて博した絶世の美少女に相応しく、とても目に優しくないスタイルだった。
「別に、自室なんだから楽な格好で良いでしょう。良いから入りなさいな、私は気にしないから」
「俺が気にするんでもうちょっとなんか着て!」
「もう……王女に対してなんてわがままな……」
 いろいろと言いたいことはあるものの、そこは相手が王女である。総司はぐっと押し黙った。
「着たわよ。入りなさい」
「……ホントに着た?」
「何疑ってるの。撃つわよ」
「何を撃つ気だよ」
 ドアをそーっと小さく開けて中を見ると、ちゃんとスカートと薄手のセーターを着たアレインが、手にバチバチと雷を宿して凄惨に微笑んでいた。
「待て待て待て!」
 慌てて部屋の中に入り、扉をバタン、と強めに閉めた。アレインは満足そうに頷いて、雷をふわりと消し去った。
「結構。紅茶は嫌いなの。コーヒーでも良い?」
「ああ、いや、お構いなく。……しかし、良い部屋だな」
 年頃の乙女らしさは感じないが、王族らしく豪華絢爛に飾るでもなく、ダークブラウンを基調として質素にまとまったセンスの良い部屋だった。天蓋付のベッドがあるわけでもないし、無駄に宝石がちりばめられたりもしていないのだが、高級感がある。
「ありがと。適当に掛けなさい。暇をつぶせるようなものはないけどね」
 アレインは手際よくコーヒーの準備をして、慣れた手つきで総司に差し出した。
 こういうのは給仕の役目、と思っていたのだが、アレインは随分と生活力があるらしい。王族らしからぬ印象を受けた。
「……へえ」
 椅子に腰かけ、足を組んで、アレインは品定めするように総司を見た。総司は観察されていることに居心地の悪さを感じ、わずかに身じろぎする。
「……なんだよ」
「別に。顔つきが良くなったと思ってね。イイコトがあったみたい」
「よくわかるな……」
「良くなったと言うより、普通に戻ったと言った方が正しいのかしらね。あなた、昨晩まで酷い顔色だったもの」
 自覚はなかったし、アレイン以外の者も気付いていなかったことだったが、アレインだけはわずかな変化を見逃していない。
 それは彼女が、総司に興味を抱いてよく観察していることの証明でもある。
「シルヴェリア神殿に行ったと聞いたわ。私に聞きたいことがあるんでしょう」
「……そうだ。アレインに聞くべきか陛下に聞くべきか、迷ってはいたんだけど」
「王族しか知らないこと?」
「ああ。レブレーベントの名の由来――――いや、名前が変わった理由。知ってるか?」
 アレインは妖しい笑みを浮かべ、
「リシア……は、あり得ないか。じゃあ、ビスティーク?」
 と、総司に尋ねた。総司は迷わず答えた。
「レヴァンチェスカだ」
「……そう……ええ、あなたが言うならそうなんでしょうね」
 アレインはしばらく考え込んだ後、一人で納得したように息をついた。
「レブレーベントは確かに、シルヴェリアと言う名前から変わった新しい国の名前よ。その理由は、その名を冠する王族の一人が、大事な時に責務を放り出して姿を消してしまったから。とっても大事な時に、全ての責任を放り投げて、皆の前から姿を消した……それで混乱したのは、かつてのシルヴェリアだけではなかったわ」
 アレインはよどみなく、王族しか知らない過去を語る。代々受け継がれていくものなのだろう。恐らくは、軽々に外部に漏らしていいような話ではなかったはずだが、アレインに迷いはなかった。
「世界全体を巻き込むような不祥事のせいで、我が国は名前を変えることとなった。シルヴェリアを忌むべき名前として、神殿の名称にだけ残し、捨て去ることになったの」
「……その、大事な時っていうのは……」
「カイオディウム事変。一冊渡したでしょ。読んだ?」
「それがまだまったく……」
「そんなことだろうと思ったわ。まあ、一千年前の大事件と思っておけばいい。あの本もいくつかの推測を考察する文章が大半で、大したことは書いてないし」
 コーヒーを一口啜り、アレインは再び口を開いた。
「その時何があったのかまでは、王族にも伝わっていない……知っているのは、その名前ぐらいかしらね。忌まわしき名、ゼルレイン・シルヴェリア」
 バチン、と脳裏に稲妻が走る。総司は一瞬顔をしかめたが、すぐに取り繕った。
 その名を聞いた瞬間、言い知れない悪寒が走った――――
「カイオディウム事変にも、女神さまが関わっていたっていう推測もあるわ。それは推測でしかなくて、定かではないけれど。どう? ちょっとは参考になった?」
「ああ。ありがとう。少なくとも、俺が知らない情報だ」
「そう。なら交換ね。どうだったの、レヴァンクロスは」
「レヴァンクロス? んー……確かに、レヴァンチェスカの魔力は感じたな。けど、まあ、思っていたより普通だった。豪華でカッコいいけど、普通の剣だな」
「……剣?」
 アレインの目がギラリと光った。総司は思わずぎょっとして、
「え、何だ、どうした?」
「私の知るレヴァンクロスは、決まった形を取らずに宙を漂う、不定形の銀の塊。剣の形をしているだなんて、知らなかった」
「……本当か? リシアに聞いてもらえばわかるが、本当に剣だったぞ。黒と銀の、両刃の剣だ」
「へえ……あなたが来たからかしらね。その変化は面白いわ」
 アレインの笑みは独特な雰囲気を纏っている。
 もともと顔立ちは美しいものの、「可愛らしい」と表現される部類ではない。どちらかと言えばクールな美形だ。
 それ故に、彼女が口元に浮かべる薄い笑みは、どこか冷たくも見えてしまう。
 与える印象が誤解なのか、それとも彼女の本質なのかまでは、総司にはわからない。
「でも良かったじゃない。あなたにとって重要な代物が、こんなに首尾よく手に入った。出足は好調ってところかしら」
「……ずっと気になっていたんだ」
「あら、なに?」
「一度見せてくれたあの目の光。俺のことを知っているという事実。良い機会だ、教えてくれ。アレイン、一体何を、どこまで知ってる」
 アレインは笑みを崩さないまま、総司の視線をまっすぐに受け止めた。
「私は女神の敵ではないわ。でも、あなたの味方かと言われると、どうかしらね?」
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