リスティリア救世譚

ともざわ きよあき

文字の大きさ
41 / 155
第一章  眩きレブレーベント

第六話 王女の力はその決意から⑦

しおりを挟む
 ゾルゾディアが腕を振るった。総司もすぐさま応戦した。
 蒼銀の光と共に切り刻まれる、巨大な化け物の腕。だが、すぐに再生する。全身が雷と魔力で構築されたゾルゾディアにはそもそも、物理攻撃の意味がなかった。
 ドン、と上からたたき伏せられ、総司の体が地面にめり込む。普通なら戦いにならない、巨大で強すぎる化け物との一戦。だが――――
「ッ……よくも私に、馬鹿力なんて言えたものね……!」
 化け物の腕を、めり込んだ地面からぐぐぐぐっと押し返し、持ち上げようとする。総司の力がゾルゾディアの腕を通してアレインに伝わり、アレインは歯を食いしばった。
「あなたの方がよっぽど馬鹿げてるじゃないの……!」
「ぬ、お、お、お、おおおおおあああああ!!」
 遂に、不動のゾルゾディアを揺るがせる。腕を掴んで押し上げた後、思いっきり引き倒そうと体を回した。ゾルゾディアの体がぐらつきながらざーっと大地を滑り、雷が飛散し、それだけで木々が焼けこげ、そこかしこで火の手が上がる。
 倒れ込むまでは至らなかったゾルゾディアが、総司をブン、と放り投げて引き剥がした。
 総司の体が木々をなぎ倒しながら森の中へ消える。
 アレインの目が捉えて離さなかった。剣を構え、引き絞っている。あれは――――
 蒼銀の魔力が刃となり、ゾルゾディアへ突撃した。無数の雷で迎撃するが、消えない。先ほどは全て相殺できたはずだったが、今度の一撃はかき消すことが出来ない。
「チィ――――!」
 ゾルゾディアの腕で、刃を防ぐ。腕が無残に切り裂かれたが、即座に再生する。
「威力が上がってる……? でも、無駄よ!」
 総司の力は、彼の魂の叫びに、思いの強さに呼応するように、際限なく高まるように思えた。先ほど、生身でやり合っていた時もそうだ。割り切った後の彼は、それまで圧倒していたアレインを上回った。
 だが、いくら力が上がろうと、総司に決定打はない。ゾルゾディアを打倒する手段がない限り、アレインに勝つことはできない。
「生きて帰すことは難しいかもね――――けれど、必要ならしょうがない」
 魔力が高まる。もはやこの世のものとは思えない。ゾルゾディアが増幅させるアレインの力は、大地を震わせ、天空にまでその余波が届いた。暗雲がゾルゾディアの力に呼応して、雷の雨を大地に降らせる。
 まさに神、強大な力。女神の騎士をして、その力には及ばないかもしれない。
「今度は逃がさない――――消し炭にしてあげる。せめて苦しまなくていいように」
 木々の間を駆け巡る総司を、ゾルゾディアが操る雷の蛇が捕らえた。
 総司の神速も、捕えられてしまっては意味がない。そのまま空中に放り出され、ゾルゾディアの射程に入れられる。
「ぐっ……!」
「終わりよ……“ゾル・レヴァジーア・――――”」
 本気の一撃が総司へ向けられる。魔力が高まり、星を砕くほどの力が収束する。跡形もなく吹き飛ばすための、無慈悲な砲撃が、まさに総司に放たれようとしたその時だった。
「撃てぇぇぇ!!」
 男の勇ましい号令が響く。
 その途端、ゾルゾディアの頭部に、体に、無数の砲弾が直撃し、爆発に次ぐ爆発を巻き起こした。
 無論のこと、ダメージなどない。魔法の力が込められた弾丸は、レブレーベント魔法騎士団が所有する戦争の道具だが、ゾルゾディアに通じるほどのものではない。
 しかし、攻撃は止めざるを得なかった。
「手を止めるなお前らぁ!! ただしアレイン様には当てんじゃねえぞぉ!!」
「ものすごく無茶を仰いますね。そんなに精巧に狙えるものでもないんですけど」
「うるせえ優男、テメェも運べホラ!」
「あぁ、スイッチ入るとそうなっちゃうんでしたね、バルド殿は……はいはい、わかりましたよ」
 レブレーベント魔法騎士団の参戦だった。
 城を守るために配備された砲台を引き連れ、遠方からゾルゾディアに向けてとめどなく撃ち続けている。先頭に立っているのは、カイオディウムから帰還したバルド団長だ。
「近づいたら一瞬でお陀仏です。それに常に警戒すること。あの距離からでもこちらを薙ぎ払える手段を持っているようですから」
 その傍で騎士たちに指示を出すのは、カルザスだ。魔法で無数の砲弾を砲台へ運び、騎士の弾詰を援護しながら、騎士たちへ指示を飛ばす。
「ソウシくんの攪乱を信じて撃ち続けましょう! 体を再生するにも魔力が必要なはず、決して無限ではありませんから!」
「だといいがな」
「どうして水を差すようなことを言うんですか! さっきの威勢はどうしたんです!」
 その光景を見て――――アレインは歯を食いしばり、額に青筋を浮かべて、しかし何も出来なかった。
 バルドやカルザス、それに騎士たちは知らないことだ。
 アレインを反逆の徒と見なし、しかし何とか生け捕りにしようと奮戦する彼らは知らないのだ。
 アレインには、彼らを「撃てない」ということを。
 砲弾の一撃は決して脅威ではない。しかし肝心なところで砲弾の邪魔を受けては総司の迎撃が遅れる可能性がある、という点が何よりも厄介だ。手持ちの砲弾を撃ち尽くしたところで、魔力切れを起こすほどの損傷には追い込めないだろうが、この爆発はアレインの集中を乱す。
 集中を乱しても簡単に迎え撃てるほど、今の総司の力は甘くない。
「アレイン様を説得できないんですか、カルザス様!」
「そうだ、女王陛下も今ならお許しくださる!」
 騎士たちが口々に言うが、カルザスは渋い顔をしていた。
「簡単に言ってくれますね……できればそうしたいんですけどね、こちらとしても。アレイン様、どうか城に戻って、陛下に弁明を――――」
 脅すように――――“ゾル・ジゼリア・クロノクス”の一撃が、騎士団のすぐ近くに着弾した。爆裂と共に周囲を巻き込む雷の奔流。だが、騎士団に当たってはいない。
「うおおおお!!」
「危ないっ!!」
 バチッと拡散する雷から身を翻し、カルザスが号令をかけた。
「油断しないで、いつでも狙えるはずです! ソウシくんは――――」
 煌めく蒼銀の光が見えた。
 雷の蛇を振り払い、再びゾルゾディアに突進を仕掛ける女神の騎士。空中へ何度目か躍り出た彼の目が、アレインの姿を捉える。
「聞こえたか知らねえけど。戻って来いってよ」
「お断り。わかってるくせに」
 ゾルゾディアが発散する魔力が、襲い来る砲弾を消し飛ばす。ついでとばかり、迫ってくる総司も何度目か、弾き飛ばす。
 一個人が扱える魔力には、どうあがいても限界がある。ゾルゾディアが力を振るうほど、アレインも消耗する。漆黒の結晶が齎した凄まじい魔力を回しても、無尽蔵に近しい感覚を覚えていても、限界がないわけではない。
 直撃を受けても微動だにしないくせに、わざわざ「通じない」ことをアピールしたのは、騎士団に引かせるためだ。
 そもそも国を滅ぼせる力である。一ノ瀬総司というファクターがなければ、砲撃ごときで揺るぎようのない存在。
 これほどの化け物と対等に渡り合える英雄がいる以上は、わずかな援護でも馬鹿に出来ないのだが、そもそもこんな英雄がいることの方が稀なのだ。
「怯むな、撃てぇぇ!!」
 だが引かない。彼らに撤退の選択肢はない。アレインに、彼らを攻撃する意思がないことなど、彼らは知る由もない。
 もとより決死の覚悟で、それでも彼女を生け捕りにするためにここへ来た。通じないことがわかったところで、それ以外に出来ることもないのだ。
 ゾルゾディアの腕が、迫りくる総司を薙ぎ払った。総司が腕を切り刻む、何度目かの光景。やはりすぐさま再生する、千日手のような強者の戦い。
 終わりの見えない戦いの中で、限界が先に来るとすれば――――
「づっ!」
 無敵のように思えても、やはり生身でぶつかり合い、集中を途切れさせることのできない総司の方だ。
 肩を掠める雷が、彼にわずかな痛みを与える。
 蒼銀の魔力もまた、無尽蔵ではない。総司の防御はあくまでも、女神の加護、それを受けた特殊な魔力――――蒼と銀の神秘的な力によるものだ。
 ゾルゾディアの攻撃を受けるたび、総司の魔力も削られる。常時無敵ではいられない。
 リスティリアで初めての――――ブライディルガとの戦いですら感じなかった、本物の命の奪い合いの感覚。アレインは既に、総司に対して本気の殺意を向けている。
 アレインに危機を抱かせるとすれば、総司が彼女の位置まで迫った時だが、それをするたびに総司も大きな隙を晒すことになる。
「……まるでこの世の終わりだ」
 暗雲への咆哮。轟く雷鳴。降り注ぐ雷。それを全て神速でかわし切り、ゾルゾディアと向き合う総司。
 砲撃は続けているものの、ほとんど意にも介されていない。
 国を滅ぼし得る化け物の戦闘を遠目に、カルザスはぼそっと呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

処理中です...