リスティリア救世譚

ともざわ きよあき

文字の大きさ
47 / 155
第二章 誇り高きルディラント

プロローグ ヒトが織り成す悪の最たるものは①

しおりを挟む
 “カイオディウム事変を紐解く”と表紙に刻まれた本の中に記されている、千年前の大事件に関する記述の多くは、名だたる研究者たちの推測によるものだ。とある王女はその推論を捕まえて「参考程度のもの」と軽く評した。
 価値があるのはその推論ではなく、本の前段で語られている「周知の事実」、その事件について多くの国々で見解の一致している概要の部分である。
 曰く、世界を巻き込む大事件は、たった一人の男を発端とした。
 リスティリア全土に広がる元凶の悪意に対し、各地で英雄が立ち上がる。
 シルヴェリアの王女、ローグタリアの皇帝、ティタニエラの大老、エメリフィムの大賢者。大国の名だたる指導者たちが世界の危機を前に立ち上がり、カイオディウムから広がる災厄を迎え撃った。
 その最中で脱落した国家があった。
 海を背に広がる広大な土地を有した、六大国の一つ、ルディラント。千年前、大事件の戦火に最初に巻き込まれ、災厄の渦に呑まれて消えた悲劇の国。
 ルディラントの守護者は、シルヴェリアの王女に迫る絶大な力を持っていたとされている。しかし、周到に準備をしていた「元凶」は、当時のカイオディウムの戦力を惜しみなく投入し、ルディラントを攻め滅ぼした。
 残る四つの国と英雄たちが連携したのは、ルディラントの壊滅を受けてのことだ。大きな犠牲があったという知らせを受け、他国はカイオディウムが本気であることを悟り、包囲網を敷いた。
 妖精の住まう森、隔絶された異種族の国とされ、長らく他国との干渉を拒んでいたティタニエラが他国と連携するのは、リスティリアの歴史を紐解いてみても、恐らくカイオディウム事変の時が最初で最後だった。
 戦いは熾烈を極めたが、最終的には四つの国の連合軍が制した。最終決戦を生き残り、戦いの全編において多大な功績を挙げたゼルレイン・シルヴェリアは、その勝利と同時に失踪し、世界の再建に携わることはなかった。志を同じくしていたはずの彼女の失踪は、折角連携していたはずの国々を再びバラバラにしてしまった。今なお当時の「同盟」が残されているのは、シルヴェリアから名を変えたレブレーベントとローグタリアのみとなった――――

 パタン、と本を閉じ、一ノ瀬総司は窓の外を見る。穏やかな夜空が広がっており、煌めく星々が見て取れる。
 レブレーベント最西端、メルズベルム。交易の要衝として栄えるこの街で、総司とリシアは足を止めていた。
 女神レヴァンチェスカを救う旅路。
 自らが「世界を救う」冒険譚の舞台装置でしかないことを悟った総司は、女神を手放しで信じ切ることをやめ、死に場所を見つけるために生きることを休止した。覚悟と決意を新たに、困難極まる旅路への第一歩を踏み出したところで、相棒であるリシア・アリンティアスにとんでもない形でブレーキを踏まれてしまったのだ。
 この旅路の目的は、第一に“オリジン”、女神が下界にもたらした恵みの象徴を集めることだ。それが達成されて初めて、総司は神域であるハルヴァンベントに至り、最終目標である女神救済に取り掛かることが出来る――――と、レブレーベント王女アレインが保証した。
 肝心のオリジンは、この世界に存在する六つの大国に一つずつ与えられたものである。であるならば――――既にその、「女神の恵みを受けた国」が滅んでいるとすれば。
 ルディラントにあったはずの”オリジン”は、現代においてはいったいどうなっているのだろうか。
 カイオディウムと国境を接するレブレーベントの最後の街、メルズベルムは、総司にとっての始まりの街シエルダとはまた趣の違った程よい田舎だった。
 アレインから渡された本には、リスティリアにおける「同盟国」はレブレーベントとローグタリアのみで、それも昔から、千年前からの伝統のようなもの。基本的には、この世界における「国」とは、それぞれで独立して、あまり他国には干渉せずに過ごしているようだ。
 総司の元いた世界とは違い、各国がまるで一つずつ自分たちの世界を形作っているようなもので、千年前の大事件を除けば侵略戦争のようなものもほとんど起こっていない。
 それはひとえに、女神レヴァンチェスカという、リスティリアに生きる全ての生命にとっての象徴が君臨しており、全ての生命の共通認識として彼女への畏敬があるからに他ならない。無論、ヒトやヒトならざる知性は千差万別の価値観を持っているから、それに当てはまらない者もいるというのは、女神自身が口にしていたことでもあるが。
 リスティリアと総司がいた世界とは似ているところも多いが、それ以上に違いがある。レブレーベントとローグタリアの同盟も形骸化しており、ただ名を残すばかり。不干渉を基本とした各国が独自に創り上げるそれぞれの世界は、総司にとっては、一つの国で学んだことが次の国では通じない可能性を示唆しており、先行きを不安にさせる。
 ルディラントの滅びの経緯を詳細に示す何らかの記録も、他の国にはないかもしれない。それは非常に困る事態だ。歴史の編纂は、その過程においてどうあっても捻じ曲がる。文字での記録は、書き手と読み手の解釈に相違が出ることもある。更に言えば、歴史とは勝者の歴史に他ならない。物言わぬ屍では後世の記録に異を唱えることが出来ない。敗者であるルディラントのことを正確に記す何らかの記録が残っているとは考えにくい。
 しかし希望もある。あくまでも総司の常識の中では、ルディラントの記録は残りにくいというだけで、リスティリアには総司の常識の外にある力、魔法が存在する。総司には考え付かない方法で記録を残している可能性も捨てきれないはずなのだ。
 朝食の席で、総司はリシアに自分の考えを話してみた。リシアもリシアで、ルディラントのことをどう進めるかについては思案していたらしく、不意にこんなことを言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

処理中です...