リスティリア救世譚

ともざわ きよあき

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第二章 誇り高きルディラント

第一話 伝説の国で彼を待つのは②

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「はっはっは! 最高だなこいつは!」
「見事なものだな……」
 風になびき顔にかかる髪を押さえて、リシアも微笑みながらその景色を見た。
 どこまでも広がる大自然、広大な海。
 海岸線にはもう、ルディラントの面影はない。
「……あの海岸であってるんだよな?」
「ああ。この付録地図とも形が合う……恐らく」
「これだけ開けた視界でも、遺跡のひとつも見えねえんだな……俺がいた世界だと、千年どころかもっと前の建造物でもその残骸があったりしたもんだが……いやまあ、滅んでないとなれば、遺跡なんてないか」
「……そうだった、言っていなかったな。それにお前が読んだ本にも書いていなかったか」
「え?」
「ルディラントはな、“海の上にあった”そうだ」
「海の上!?」
 総司の脳裏の浮かぶのは、テレビで時々見たような、海の上に木造りの家を構えて生活する南国の様子だった。しかし、リシアが語るルディラントの在りし日の姿は、そんな次元を超えていたようだ。
「面積そのものは、かつて栄華を誇った六つの国の中でも最も小さい国だったと言う。だが、王都シルヴェンスよりは格段に広い都市そのものを海の上に造り上げた国は、外敵の侵入を強固に拒む……そんな国が、千年前どのようにしてカイオディウムに攻め滅ぼされたのか、知る者はいない。私の知る限りでは」
「……何にせよ、じゃあルディラントの遺跡は多分……」
「マキナ様のお言葉通りなら、そもそも滅んでいなければ遺跡も何もないのだろうが……あったとして、海の底だろうな。潜れば見られるかもしれんが、手つかずの海は危険だ。この本の著者もそこまでは調査していない。危険を知っているからだろう」
 サリア峠の海側の顔は、メルズベルムの方角から見たものとは全く違った。どこまでも広がる白い砂浜と水平線に呼応するかのように、驚くほどなだらかだった。
 途中、明らかに人工的な、急こう配な階段を発見した。階段を下っていくと、日陰の中で水が落ち、壁をらせん状に駆け下りていくのが見えた。
「……これは……」
 水が駆け下りた先で消えたかと思うと、今度は地面の中心から不可思議に湧き上がっていた。
 通常の湧き上がり方ではない。勢いはないのに、地面の下からぐーっとせり上がるように湧き上がって、地上三メートル程度のところまで盛り上がっているのだ。無尽蔵に溢れ出てくる水は柱を形作り、同じく中央の穴の中へとまた落ちていく。
 正体不明の水の柱に、おそるおそる近づいてみる。
「止せ。脅威は感じないが、何が起きるかわからんぞ」
 リシアが厳しく言った。総司はじりじりと近寄るのをやめて、困ったように笑う。
「そ、そうだな。悪い、つい――――」
 一瞬の出来事だった。
 虹の光を包みながら、あくまでも透明だったはずの水が青白く輝くと、生き物のように動き出し、一瞬で総司を呑み込んだ。
「うっ!?」
「なっ……! 動くな、ソウシ!」
 リシアがレブレーベントの”オリジン”、レヴァンクロスを抜き放ち、動き出した水に斬りかかるが、効果はない。どうしたものかと慌てたリシアだったが、水中にいる総司を見て呆気にとられた。
「……苦しくないのか?」
 リシアの問いかけに総司が頷く。呼吸が出来ないはずだが、総司は全く平気そうで、水に包まれたままその感触を確かめている。
「一体なんだと言うんだ……?」
 リシアが思案していると、いつの間にかリシアの周囲にも動く水が迫っていて、取り囲まれた。
 総司が反応できないのもわかる。全く敵意のないまま、脅威を感じさせないまま、動くとなれば驚くほどの速さで動き出すのだ。リシアも瞬時に捕まってしまった。
「くっ……!」
 抵抗する暇もなかったが、その必要もないらしかった。水は二人を連れて再び柱を形成すると――――そこからまた目を見張る速さで、中央の穴へギュン、と吸い込まれた。
 二人が水の中で声にならない叫びを上げる。
 本格的なウォータースライダーもびっくりの、とんでもないスピードで、二人は虹の鉱石の中を滑り落とされた。
 そして、その最中――――
 走馬灯のような、幻想的な風景を見る。
 鳥のように空を飛んでいる視点から、凄惨な光景を見下ろしていた。
 夕暮れの紅蓮がよく映える透き通るような海の上に、憎悪と殺意のこもった無数の光が見える。それらは丘を滑るように並べられた家々を蹂躙し、世界遺産もかくやという美しい街並みをことごとく破壊していく。
 時を刻む丘・ルベル。ルディラントの王都であり、小国であるルディラントの全てとも言える伝説の街。象徴とも言える中央の巨大な時計塔を総司が見つけた途端、禍々しい光が直撃して、時計塔は崩れ落ちた。
 声が響く。壮年の男の声だ。野太く、力強く、それでいて泣きそうなほど絶望しながら、それでも折れることのない魂の叫びが、とぎれとぎれに――――
「―――しはぜっ――――こをうご――――ぞ!」
 幻想が終わり、二人はぐん、と角度を変えて勢いよく峠の崖から放り出された。水と一緒に投げ出された二人は、何とか空中で態勢を立て直し、まだはっきりしない頭を叩き起こして着地する。総司が着地に失敗して、ずざーっと砂の斜面を滑り降りながら息を吐いた。
「はぁっ……!」
「何だ、今のは……! あれは……まさか……!」
 息を切らし、ぼんやりした目を手で拭い、リシアは近くの砂に埋もれている虹の鉱石に触れた。
「魔力ではなく……記憶を……光景を保存できるのか……?」
 おぼろげな景色しか見えていなくとも、二人とも直感的に思った。
 今目にした光景はまさに、ルディラントの最後なのではないか。蹂躙される街並みと、魔法の光、それに最後に聞こえたあの声は――――
「づっ!」
「どうした!?」
 左目に激痛が走り、総司がその場にうずくまった。リシアが慌てて彼の肩を抱き、懸命に声を掛ける。
「しっかりしろ、一体何が――――えっ……」
 目が潰れそうな激痛を越え、総司がふと目を開ける。
 リシアはその左目を見て言葉を失った。ヒトであれば本来白いはずの部分が濁った黒の強い灰色に変色し、黒いはずの部分が青白く不気味な輝きを放っている。
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