リスティリア救世譚

ともざわ きよあき

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第二章 誇り高きルディラント

第八話 一度目の探索では試練を③

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 炸裂する光。襲い掛かる魔力の奔流。アレインが使役する精霊の力すら打ち破った、女神の騎士究極の一撃。確かに龍に直撃したその閃光は、爆裂を連鎖させて龍を次々と攻撃し、天空に舞う龍をついに地表へと打ち倒す。
 龍は苦痛の叫びを上げて、砂埃を巻き上げながら島の地表を滑った。その目の輝きは失われていないが、絶大なダメージを負ったことは確かだった。
 リシアが一直線に、蒼銀の流星が着地した地点を目指す。すると、龍を地面に伏せさせて、逆方向へ全力で跳躍している総司とちょうど合流することが出来た。
「よくやった!」
「けど倒せちゃいねえ! とんでもねえ硬さだ! 一時しのぎにしかならねえ!」
「十分だ! このまま桟橋まで行くぞ!」
「いやでも、スヴェンが――――!」
「問題ねえよ!」
 通路を駆け降りるスヴェンが、建造物の上を飛び跳ねて移動する二人を見上げて声を掛けた。
「俺の心配はいらねえから走れ!」
 その姿にホッとして、総司とリシアは一目散に桟橋を目指す。その途中で、龍のうめき声が聞こえた。
「意識も飛んでねえらしい……! 起き上がるまで、そう時間は掛からないぞあれは……!」
「何という生命力……いや……神獣であればそれも当然か……」
 石像のドームの光景を思い出しながら、リシアがつぶやく。あの龍はビオステリオスと同格の、リスティリアの神獣だ。女神の遣い、下界にてその意思を代行する者とも言われる、神秘の獣。総司の力を以てしても満足に倒すことすら出来ない、強靭な生命。
 サリアが予定通り頑張っていてくれれば、そこまでいけば帰り道があるはずだ。
 そして二人の期待通り、桟橋にたどり着いてみれば、そこには変わらず海が分かれた道があった。だが、スヴェンが来ていない。途中ではぐれた彼は、崩れた通路を駆け降りてきていたはずだ。まだ辿り着いていないようだ。
「スヴェーーーン! 急げーーーー!」
 総司が叫ぶが、海岸に彼の姿は現れない。
「……まずい」
 大地が震える感覚を感じ取り、リシアが呟いた。
「どうやら……起き上がったらしいな……!」
 島の向こうから、ゆっくりと龍の姿が空へ舞う。わずかな足止めにしかならなかったようだ。
「ッ……行くぞ、ソウシ!」
「何言ってんだ、スヴェンを――――」
 怒鳴ろうとする総司の腕を強く掴んで、リシアが先に怒鳴った。
「私にとっての最優先はお前なんだ、ソウシ! 世界にとってもだ! 今お前を失うわけにはいかない、私にはその責任がある!」
 リシアも、スヴェンの身を案じていないわけではない。当初の疑念はあったものの、スヴェンは十分に二人に協力し、命懸けで戦ってくれた。
 だからこそ、ここで彼の大きな協力を無駄にするわけにはいかないのだ。非情な選択だというのは承知の上で、それを選び取れない総司の代わりに、リシアが泥をかぶろうとしているのだ。
「くっ……」
 総司はやはり、すぐには決断できなかった。だが、リシアもその腕を放そうとしない。
「……わかった……!」
 リシアの気持ちもわかるからこそ、総司も苦渋の決断を下す。二人はサリアが作り出す海の道に入り、走った。
「スヴェン……生き残ってくれ……!」
 深紅の砲撃が、ギリギリまで二人を追いすがる。そのさなかで振り向き、総司が祈るようにつぶやくと――――
『大丈夫だ』
 普段、普通に話すのとは違う、不自然に反響する声が聞こえた。
「この声は……」
 リシアにも聞こえたようだ。思わず足が止まりそうになるが、何とか走り続ける二人の脳内に、再びスヴェンの声が響いた。
『久々に楽しかったぜ。でもまだ何も終わっちゃいない。ここからだ』
「どういう意味だ!?」
 虚しい問いかけに答えないまま、スヴェンの声が少しずつ遠ざかる。
『“真実の聖域”は、一度巡礼した者に試練を、二度巡礼した者にさらなる試練と、そしてわずかな施しを。そんでもって、最後の巡礼でようやく女神の祝福を与える。あと二回だ、次がキツイぜ。ま、頑張ってみろ』
「おい、スヴェン―――――スヴェーン!」
 叫ぶと同時に、二人のすぐ近くに深紅の砲撃が着弾した。吹き飛ばされた二人は勢いそのままに黒い風を抜けて、ガーミシュの村の海岸へと飛び出した。


「何事じゃあああ!」
 シュライヴ村長の叫び声が聞こえる。続いてサリアの短い悲鳴が聞こえた。
 深紅の波動の衝撃が全身に残り、うまく体が動かない。そんな状態の総司を見事にキャッチして、シュライヴが心配そうに叫んだ。
「おう、無事か!? 何が起きたんじゃ、お主ら!」
 リシアの体はサリアが受け止めた。総司とリシアをその場に寝かせ、サリアが言う。
「意識はありますか!? 一体何が――――っつ!」
 リシアの体に触れたサリアの手に、バチン、と黒と深紅の稲妻が走り、サリアが苦痛に顔をしかめた。
「こ、れは……」
 その魔力の気配に覚えがあるのか、サリアの目が驚愕に染まる。
「問題ない……!」
 リシアがぐぐっと体を起こし、大きく息を吐いた。総司も、シュライヴ村長の手を借りて立ち上がり、何とか呼吸を整える。
「あの島に……ウェルステリオスが……? そんな馬鹿な……」
「ウェルス、テリオス……?」
「……ルディラントの守り神、真実を司る神獣……しかし、その様子では、ウェルステリオスは攻撃を仕掛けてきたのですね? 何故お二人に攻撃を……」
「考えるのは後にせい、サリア! まずはこの二人を運ばにゃならん!」
「大丈夫だ、村長、自分で――――」
「馬鹿者!」
 シュライヴはごちん、と総司の頭に拳骨を落とし、片腕でぐいっと抱え上げた。続いてリシアの体も軽々と持ち上げる。
「無理はするなと言うたろうに! 最近の若いのは年寄りの言うことなんぞ聞きやせん! だーからそんな目に遭うんじゃい!」
「すんません……」
「えぇい、大人しいお主など気持ち悪くてたまらんわ! サリア、荷物を持てい!」
「はい!」
 どしどしと荒い足取りで、シュライヴは二人を抱えたままガーミシュ村へと向かった。二人の剣を拾って、サリアもそのあとに続いた。
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