リスティリア救世譚

ともざわ きよあき

文字の大きさ
80 / 155
第二章 誇り高きルディラント

第九話 二度目の探索はサリアと共に①

しおりを挟む
「まーた性懲りもなくきおったんか、若造め! あんな目に遭っておいて酔狂なもんだ!」
 シュライヴが不機嫌そうに言う。
 祭りの夜が明け、総司とリシア、それにサリアは、再度ガーミシュの村を訪れた。
 シュライヴは不機嫌なものの、もう止めることはあきらめている。
「どうしても行かなきゃならなくてね。申し訳ないがまた頼むわ、村長」
「フン。今度こそ死ぬぞ。せいぜい気を付けろ」
 相変わらずのぶっきらぼうな軽口も程々に、一行はもう一度あの海岸へとたどり着く。
 しかし――――目の前に広がっていた光景は、以前とは違っていた。
「……なんじゃ、これは……」
 シュライヴも、総司とリシアを迎えて以来、この場所には来ていなかった。目の前の光景を初めて見て、驚きに目を見開いている。
 黒い風はもう取り払われ、ウェルステリオスの姿もない。
 「小島」というにはあまりにも巨大な島が、目の前にでんと鎮座し、総司とリシアが見たあの神殿の領域が広がっているのがハッキリと見て取れる。
 だが、それ以上に危険な気配が伝わってきていた。
 以前の探索では少しも感じ取れなかった、危険な何かの存在――――それも、無数に感じ取れる殺気。島そのものが敵対的であるかのように、みなぎる殺意が迸る。
「本当に行くつもりか……? あんなにも危険に満ちた島にか……?」
「行くしかねえんだ。それに、この前よりもわかりやすくていい」
 対岸にいる今から、リバース・オーダーの柄に手をかけて、総司は笑う。
「敵がいるってハッキリしてる方が、俺には向いてるからな」
「……そうか」
 たぎる戦意を目の当たりにして、シュライヴはふーっとため息をついた。
「なら止めはせん。行ってこい」
「おうよ! サリア、悪いがもう一度頼むぜ!」
「……思ったのですが」
 サリアは考えながら言った。
「もしかして、あの状態の島なら私も行けますかね?」
「……でも、黒い風は関係なかったんだよな……?」
「……試してみましょう。“レヴァジーア・アウラティス”」
 海の道をもう一度開き、サリアが軽く跳んだ。
 不可思議な力に弾かれることもなく、サリアは海が開けた道へと降り立った。
「ほら!」
「マジで!?」
「これは……心強い。サリアも共に行けるのなら、これほどありがたいことはない」
 シュライヴはほう、と感心したように、
「サリアも共に行くか。ならば、ちったぁマシな探検になるな」
「ええ。ありがとうシュライヴ。ここで待つのは不要です。私が責任を持って、このお二方を連れて帰りますから」
「フン。元からそのつもりじゃ。気ぃ付けていけよ、若いの!」
「ああ、ありがとう!」
 心強い味方、サリアと共に、総司とリシアは再び“真実の聖域”へと踏み入った。


 島についた途端、待っていたのは手荒い歓迎だった。
 飛び出してきたのは、総司が最初に苦戦した甲虫の人形だ。触れれば爆発し無数の刃をまき散らす厄介なトラップ。だが、サリアがいる今、それは脅威にはなり得なかった。
「“エルシルド・アウラティス”!」
渦巻く水が障壁となり、すべての虫人形を防ぎ、爆発させ、その刃すら受け止める。何もないところでも水を発生させ、自在に操るサリアの伝承魔法。
「“シンテミス・アウラティス”!」
 八又に分かれる水の奔流。茂みの中に襲撃したそれらは、隠れ潜んでいた虫人形すら捕らえて残らず無力化していく。
 続いて階段に差し掛かったところで襲い掛かってきたのは、石でできた巨大なゴーレムだ。足場の悪い中で、何故足場が崩れないのか疑問なほど巨大なゴーレムが突如出現し、硬い拳を振り上げていた。
 だが、総司とリシアが反応するよりもずっと早くサリアが飛び出し、槍を構えて突撃する。
「“ランズ・ヴィネ・アウラティス”!!」
 渦巻く激流を纏う槍の突撃。ゴーレムが拳を振り下ろすよりも早く、総司の本気の突撃に迫る速度で、激流の槍がゴーレムの体を容易く貫き、えぐり抜いた。
 敵対的な神殿は休憩を許さず、続いて石の壁が変形し、檻のような形をとって、三人を一瞬で捕らえ、更には足元が崩れ落ち、奈落への入口がぽっかりと口を開ける。しかしサリアの対応は、総司が悲鳴を上げる暇すらない。
「“シェルレード・アウラティス”!!」
 鋭く切り裂く水の刃が円形に広がったかと思うと、檻を容易く両断する。解放された総司とリシアを水で捕らえて、崩れていない階段の先まで共に連れていき、サリアはぎらりと目を光らせた。
「立て続けに来ます。お気をつけて」
「いや強すぎる! なんもしてねえ!」
「さ、サリア、あなたが一人で戦わずとも、我らもそれなりにできるんだが……」
「お任せを」
「いやだから――――おおおお!?」
 ストン、と総司の膝が抜けたように、態勢が崩れる。サリアが軽く総司の肩を押して、それだけで姿勢が崩されたのだ。合気道にも通じる絶妙な技巧である。
「ふっ!」
 槍を振り抜き、総司を狙っていた機械仕掛けの蛇を弾き飛ばす。
「はっ!」
 剣を振り上げた甲冑が襲ってくるのも何のその、槍で貫いて粉砕し、サリアはどんどん道を作っていった。
「……気合が違うな……」
「まあ、スヴェンに会いたいのだろうな、多分……」
 話していた気配から、サリアがスヴェンに対して並々ならぬ想いを抱いているのは感じていた。しかし恋はここまでヒトを変えるのか。鬼神の如きサリアの迫力に、神殿の敵対的なトラップすら怖気づいているように思えてきた。
 その実力は疑いようもなく、さすがはルディラントの守護者と称されるだけの力が確かにある。サリアの槍さばきは、素人目にも一級品。しかも魔法のレベルは「アレイン級」だ。ということは、世界最高峰のそれである。この島の魔力濃度が高いのも相変わらずで、サリアの魔法は更に強まっている。
「何をしているのです、お早く! すぐにまた次の仕掛けが動きますよ!」
「やべえ、行こう。怒らせるとまずい」
「なんだか覚悟が抜けてしまうな、あれほど強いと……」
 スヴェンが道案内をしてくれた一回目は、彼がポカをしない限りは罠が作動していなかったが、今回は手探りだ。
 しかも明らかに道が変わっている。朽ち果てた廃墟には違いないが、どう頑張ってもスヴェンが案内してくれたルートに辿り着けず、三人は襲い来る罠の数々を全て対処しながら進むしかなかった。
「このやろ!」
 総司がゴーレムをどかっと蹴り飛ばす。ゴーレムはそのまま階段を転がり落ち、多くの甲冑騎士たちを巻き込んでいった。
「“ランズ・アウラティス”!」
 先ほどよりは規模の小さい激流の槍。甲冑騎士を数体貫いて、渦巻く水と共にそのまま粉砕する。リシアもそろそろ罠の感覚に慣れてきたのか、機械仕掛けの蛇を軽々と切り裂いて、安全を確保していく。
 リシアの持つ女神の剣レヴァンクロスは、触れたものの魔力を奪う性質がある。魔力で動く仕掛けに対しては特攻となるその剣は、この神殿の攻略には大変役立つ武装だ。
「突き進むぜ!」
「勢いは大事だが、あまり調子に乗っていると……」
 総司の足元がスコン、と抜けた。
「うおっ!」
「言ったそばから!」
 リシアが飛び出して総司の体を支え、何とか穴を超える。
「相変わらず足場が弱いな……!」
「もともと廃墟なんだ、当然だろう」
 少し離れたところで、再び水しぶきが上がった。だが、聞こえてきたのはガキィンというつばぜり合いのような音。サリアが魔法を使ったが、それが通じなかった証だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

処理中です...