リスティリア救世譚

ともざわ きよあき

文字の大きさ
108 / 155
第三章 清廉なるティタニエラ

第二話 意図せぬ三つ目②

しおりを挟む
 目が覚めた時に見たのは、透き通るような淡い水色を帯びた、白に近い美しい髪。長い耳、真っ白な肌、布を適当に組み合わせただけのような、それでいて洒落た形に仕上がっている独特な服。
 自分が彼女の膝で眠っていたのだと気づいたとき、総司はパッと体を起こした。
 鳥のさえずりが聞こえ、木々の穏やかなさざめきが耳をくすぐる。自然に満ちた空間は、ただそこにいるだけで癒されるかのようだった。
 透明な水が流れる、美しい川のほとりで、総司は美しい少女に介抱されていた。ヒトではない。尖った長い耳、感じられる異常な、それでいて清廉なる魔力。
 この存在は――――
「流石エルフ、次元酔いも魔法一つで癒せるなんて。幸運だったね、ソウシ」
 聞き覚えのある声だった。
 清らかな川に足を突っ込んで何とも気の抜けた顔をしているベルが、すぐそばにいた。
 その姿を見て、よくも冷静でいられるものと呆れざるを得ないが。
「……ベル……」
「空間転移の魔法は初めてだったんだ。ま、慣れるまでは正直気持ち悪いもんね」
「どういうつもりだ……? ここはどこだ? お前は、どうして――――」
「質問が多いね。順を追って説明してあげるけど……」
 ベルの首筋には、剣が当てられていた。
 リシアが油断なく構える剣が、彼女の首をいつでも切り裂けるように添えられていたのである。その状態で川に足を突っ込んで休むとは、随分と図太いものである。
「その前にリシアを何とかしてくれない? ひとっつも話聞いてくれないんだけど」
「……リシア」
「話ならこの状態でも出来る。何を考えているのかわかるまで、警戒を解くべきではない」
「だってさ」
「……リシアの言うことも一理ある。敵ではない、と思いたいが……」
 周囲を見回し、総司は言う。
 レブレーベントではなく、カイオディウムでもない。手つかずの大自然の只中に放り出されていて、自分が今どこにいるのかも全くわからないのである。しかも何故か総司の傍には、「エルフ」なる未知の種族の少女が控えているときた。
「正直、何から聞いていいのかすらわからない。説明してくれよ、全部」
「ん~……じゃあ、まずここのことなんだけど。それはその子に聞いた方が早いかも」
「……そういや、誰だ、この子」
 透き通るような淡い青を湛えた白に近い髪を靡かせる、エルフの少女。緊迫した空気で何もしゃべらなかった彼女が、ようやく微笑みを浮かべて言った。
「初めまして。私はミスティル。エルフです」
「どうも……えーっと……?」
「ちょっと、この川にお散歩に来たのですけど」
 ミスティルが、全く事態を飲み込めていない総司のために、順を追って説明を始めた。
「あなた方が倒れていらっしゃったので、放っておけなくて。正確にはお二人ですね。ベルさんは起きていらっしゃいましたが……リシアさんが目覚めたとたん、あのような状態になったので、私が代わりにあなたの看病を」
「お世話になりました……」
 総司が頭を下げると、ミスティルはぶんぶんと首を振った。
「とんでもないです! お気になさらず! 誰だってそうしますよ、川辺で倒れている人がいたら!」
 裏がありそうな気配を微塵も感じさせない善性。見返りを求めることもなく、誰かの面倒を見る真正のお人よし。ミスティルは得体の知れない存在を、ただ自分の心の赴くままに介抱したのである。疑うことを知らぬ、危うい善性でもあった。
「空間転移の魔法によってこちらへ来られたのことで……あの魔法は、慣れない者には負荷が掛かります。俗に次元酔いと呼ばれるその症状は個人差があって、魔法への耐性とはまた別の適性を問われるもの……ソウシさんは、空間を超える独特の感覚にあてられてしまったのでしょうね」
「そういうものなのか……」
 総司は再び頭を下げた。
「ありがとうミスティル。おかげで助かった」
「いえ、とんでもない。それと、ここがどこか、という話ですけど、もうおわかりでしょう。エルフの私がここにいるのですから」
「ああ」
 総司はミスティルを見つめ、次にベルの横顔を見た。首筋に剣をあてられたままの彼女の涼しい顔を見つめ、そしてミスティルへ視線を戻す。
 別名を「妖精郷」、ヒトならざる者が住まい、集まる国。リスティリアにおいて最も隔絶され、他国とのかかわりを断ち、この世界の片隅でヒトと違う歴史を刻む者たちの集合体。
 名を――――
「“ティタニエラ”。リスティリアで唯一、“ヒト”族がいない国……」
 エルフのみならず、ヒトならざる者の楽園。踏み入る方法も、その中に在る生命と仲良くなる方法も、ほとんど誰も知らない未知なる国にして未開の秘境。
 エルフという種族に属するミスティルは、大人びた容姿と大人びた口調ではあるが、まだ幼さが残る雰囲気を纏っている。彼女が総司たちを受け入れているのは意外なことだった。
 総司がレブレーベントで学んだ限りでは、ティタニエラに住まう者たちは基本的にヒトを嫌うし、かかわりを持ちたくないと考えているからだ。
 特にエルフにとって、ヒトが多く淀む空気と、ヒトそのものの魔力は、ともすれば「毒」になり得る。ヒトよりも精霊に近いエルフは、ヒトの魔力の穢れに弱く、影響されやすく、あまりに干渉しすぎると自分の力を弱めることになってしまう。
 エルフと同じくヒトの繁栄した大気や魔力圏を嫌う生物、或いはヒトによって「狩り」の対象とされるような魔法生物は、こぞってティタニエラを目指す。
 妖精郷ティタニエラは、そのようにして形成され、今日まで維持されてきた秘境なのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

処理中です...