【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

文字の大きさ
5 / 161

5

しおりを挟む
 冷や汗が出る。
 ジルはいないようだ。
 やばいやばいやばい、お手伝いさんっぽい女の人はともかく、軍服の男の人は絶対強いやつだこれ、え、逃げられる?
 今走ればドアから出られる?
 外にずらっと兵隊が居たりしない?
 出た瞬間剣で刺されたり首を落とされたりしない?

 嫌な想像をしていると、女性の方が優しい声で、大丈夫ですかと声を掛けてきた。
 おばあちゃんみたいで、少しだけ安心する声。

「ユキ様の身の回りのお世話をさせて頂きます、アンヌでございます」
「……おせわ」
「ジル様からお聞きになられてないでしょうか」
「あっいえ、そういえば、信用出来る者を、って……言ってた……気が」

 もごもごしてしまう。
 このふたりが信用出来る者ってことで大丈夫なんだろうか。
 確かに優しそうなおばあちゃんは悪いことしてなさそうだし、してたらショックだし、軍服っぽい人は真面目そう……だしよく見たら優しそうな顔をしてる気がする。
 おれが信用していいかどうかはわからないけど。

「アンヌさん……と」
「モーリスとお呼び下さい」
「モーリスさん」

 アンヌさんが世話をしてくれて、モーリスさんが……モーリスさんが何するんだ?
 護衛?外に見張りがいるのとは別に?それともその見張りが居なくなるってこと?

「暇潰しですよ」
「え?」
「ひとりじゃ暇でしょう」

 ベッドの前に来て、しゃがんだかと思うとにっと笑う。
 真面目そうな人かと思ったら、笑った顔はいたずらっ子のようで、印象が変わる。

「モーリス様、そんな言い方はないでしょう」
「はは、すみません、予想していたよりずっとかわいらしい方だったもので」
「へ」
「失礼ですよ」
「丁度弟くらいだなあと思って。宜しくお願いしますね」
「あ、あの」
「はい」
「……じゃああの、モーリスさん、は何をしに……」

 おれのその言葉に、アンヌさんとモーリスさんはふっと笑い、からかってすみません、と言った。

「普段は騎士団にいるのですが、暫くはここにいて欲しいとジル様が」
「騎士団……」
「ユキ様が不安がっているので護衛がてら話し相手にでもなればと」
「はぁ……」

 ジルの心遣いということなんだろう、でも知らない人より遥陽に会わせてほしい。
 アンヌさんもモーリスさんも悪い人には見えない。
 見えないけど、本当にそうなのかどうかとかわからないじゃん。
 信頼させてから殺すとかも出来る訳で。
 優しそうだけど、良い人そうだけど、だからこそ完全に心を許しちゃだめだ、命がかかってる。

「昨日ここに来られてからわからないことだらけでしょう、私達でわかることであればお答えさせて頂きますよ」
「えっと……」
「はい」
「……遥陽のいる場所は」

 答えてくれないだろうな、と思った。
 でも訊かない選択肢はなかった。情報は少しでもほしい。

 アンヌさんは、少し困った顔をして、隣のお城の方を指しただけだった。扉で全く見えないけど、多分そういうことだ。
 詳しくは知らないのか、口にしないよう言われているのか。
 まあそうだよな、そんなわざわざ召喚した神子のことをホイホイ話す訳ないか。

「神子って」
「はい?」
「皆の前で挨拶とかするんですか」
「……そうですねえ、その内式典とかあると思いますよ」
「モーリス様」
「いつかバレるんだし安心させてあげましょうよ」
「……それはそうですが」
「ねえ?ユキ様」
「あ……ありがとうございます……」

 式典って見せてもらえるかな、いつあるか知らないけど。
 でもそれが明日でも来月でも、それだけは必ず遥陽は大丈夫だってことだ、多分。

「そんなことよりお食事にしましょうか、昨日から何も召し上がってないのでしょう、ご用意致しますね」
「……」

 そわそわとアンヌさんが部屋を出て行った。
 ……どうしよう、食べられる気がしない。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...