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夜。
窓から広い庭を見る。
薄らと漏れた明かりに照らされた花が光ってるようで綺麗なもんだな、とぼんやりしていたら、扉をノックされた。
誰だよ、と思いつつも、ちょっといらいらしていて返事はしなかった。
どうせ入るなと言っても入ってくる。
「ユキ!」
勢いよく入ってきたのはジルだった。
窓際にいるおれのところまで足早に来ると、体調が悪いのか訊いてくる。
「悪くはないですけど」
「食事を摂らないと聞いた」
「あー……だって」
だってこわいし。
毒殺とかあるかもしんないし。
……お腹は空いたけど。
空腹で死ぬかもしんないけど、出された食事に手をつけるのはこわかった。
いい匂いはしたけど、手が震えてしまって、それに気付いたらなんだか胃がきゅっとなった気がして、手を引っ込めた。
「……ちょっと待ってて」
ジルはそう言うと、ものの数分で部屋から出ていってしまった。
怒ったかな。
信用出来る者、ってふたりのことを言ってたのに、おれの答えとしては信用出来ねーよばーか!って言ってるようなものだからなあ。
……遥陽はちゃんと食べてるかな。
遥陽は好き嫌い多いからなあ、ちゃんと食べてるといいんだけど。
暫くぼおっとして、空腹を誤魔化すなら寝るしかないかな、と思ってベッドまでのそのそ移動して、横になる。
こんなお腹空いたの初めてだ。
空腹が死亡理由とかやなんだけど。でも苦しんで死ぬのもいやだなあ……式典まで何日くらいあるんだろ、3日くらいなら耐えられるだろうか。
「お待たせ」
「……」
「もう寝るのか?寝る前にこれだけでも食べない?」
戻ってきたジルの手には具だくさんのスープ。
……美味そう。やば、お腹鳴りそう。
「でもこんなにすぐ出来る訳ないし……ジルが作ったやつじゃなくて、作り置きをあっためただけでしょ?」
「……毒なんて入ってないよ、ほら」
ジルは一口自分で食べて、おれに安全だとアピールする。
……まじで毒入ってたらどうすんだ、このひと危機感ないのか、とおれの方がはらはらしてしまう。
この建物をおれにくれると言い出したり、ひとを用意したり、ジル様と呼ばれてたりで、結構なお偉いさんだと思うんだけど。
「うん、美味しい。ほら」
鼻先にスプーンを出される。
近い。めちゃくちゃいい匂いする。
……本当に大丈夫かな。
ちらりとジルを見上げると、大丈夫だと言うように頷かれて、ええい、もうこれ死んだらジルのせいだからな、と考えながら口に入れた。
「あつ」
「まだ冷めてなかったか?」
「ん……でも美味しい」
「……良かった、食べれるだけ食べてくれ、おかわりもまだあるぞ」
またスプーンを出される。いや流石に自分で食べるし。
手を出すと、それに気付いたらジルが器ごと寄越してくれた。
「大丈夫か?冷ますか?」
「大丈夫ですう」
そんな小さい子みたいにふーふー冷ましてもらわなくても自分で出来ますし。
冷ましながらゆっくり食べていると、ジルはおれの頭を軽く撫でて、アンヌさんとモーリスさんを信用してほしいと言ってきた。
「アンヌは俺が小さい時から世話になってるんだ。モーリスは……まぁ幼馴染というか腐れ縁というか。ふたりとも昔から知ってるんだ、ユキが思ってるようなことはない、少なくともあのふたりは信頼おける」
「……」
幼馴染と言われるとちょっと弱い。
おれと遥陽だって幼馴染だ、信用出来ないと言われたら、遥陽は大丈夫だと熱弁するだろう。
「……良い人達だとは思いましたよ、ただおれが疑り深いだけで」
「それも重要なことだよ……でもあのふたりは本当に大丈夫だ、明日から色々訊くといい」
「でも遥陽のことは教えてくれないんでしょ」
「それは……すまない」
「……式典があるってのは聞いたんですけど。それおれも見れる?」
「勿論、席を用意する」
「てか会いたい」
「……それは……善処する」
やっぱり即答は出来ないのかあ。
「ごちそうさま」
「足りたか?」
「うん」
「何か苦手なものあるか?」
「苦いの以外なら大丈夫」
「じゃあ今度は何か土産を持ってこよう」
空になった器を抱えて、ジルが立ち上がる。
あ、やっぱり今日は帰っちゃうんだ。
まあそうだよね、食事を摂らないって聞いたからわざわざ来てくれただけだよね。
そうだ、うん、昨日がサービスなだけで、そんな毎日来てくれたりなんかしないか。
「どうした、まだひとりはこわい?」
「……うん」
「……そうか」
「や、でも大丈夫、えと、うん、な、慣れなきゃいけないし、その、外に見張りもいるんでしょ?ジル忙しいみたいだし、隣とはいえ、建物が違えば移動も面倒くさいよね」
「ユキ……」
「大丈夫大丈夫、寝たらすぐ朝になるし、朝になったらアンヌさん達来てくれるんだよね、大丈夫、多分」
困らせたらいけない。
折角気にかけてくれてるのに、面倒くさい奴って思われちゃったらもう来てくれなくなるかもしれない。
ジルがアンヌさんとモーリスさんが信用出来るというなら少し……頼りにしたいと思うけど、でもジルに嫌われたらそれも難しくなる訳で。
そうなるとこの世界でおれが頼れるのは……誰もいなくなってしまう。
自分の考えにゾッとして、やっぱり我儘言わずに黙って我慢するべきだと考えた。
来たばかりの昨日と違って、少しは落ち着いてきた。
落ち着いたというか昨日よりはましというか。
だから慣れなきゃ。数日過ごしたらきっと慣れる。
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