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「今日は誘ってくれないんだね」
「さそ……?」
「昨夜のお誘いはかわいかったのに」
「……?」
「ひとりにしないでって」
「……!」
言ったけど!でもそれはお誘いとかそんなんじゃなくて……
言い返したいけど、ドツボにはまりそうで口を噤む。
こういうの、向いてない。
「今日もかわいいこと言ってくれたら朝までいようと思ってたんだけどな」
「そ、んなこと言わないし!」
かわいいとかそんな、そんなつもりで言ったんじゃないし、ただあれはこわい目に会うのが嫌だっただけだし……
そうだよ、殺されたいとか酷い目にあいたい奴なんていないし。
ジルといれば安心だろうなって思っただけで……
「明日から」
「……?」
「明日から、数日ここにはこれないんだ」
「えっ」
「ちょっと視察に行かないといけなくてね」
本当はモーリスも連れていく予定だったけど、彼は置いておこう、と続けた。
その配慮はその、嬉しいけど、でも……数日って何日?
ふつか?みっか?1週間?とおか?
何か土産を持ってこようって、そのこと?
「そんな不安そうな顔しないで。モーリスにもアンヌにも、それぞれ信用おける部下しか使わせないように伝えている。心配するようなことはおこらないよ」
「……」
「どうしたの?今日は言葉じゃなくてかわいい顔見せてくれるの?」
「……どんな顔だよ」
「はは」
ジルの長い指が頬に触れる。あったかい。猫になった気分だ。
「あの」
「うん?」
「それ、おれ一緒に行っちゃだめなの」
「だめ」
即答だった。
そりゃそうだろうけど。
おれなんか絶対足でまといだし。
「戻ってきたら一番最初にユキに会いに来るよ」
「……なにそれ」
ちょっと意味がわからなかった。
別におれはジルの家族じゃないし、恋人でもないし、大事なひとでもなく、ただ遥陽の召喚に間違えて連れてこられただけのただの可哀想な奴だ。
それがあんまりだからお情けで優しくして貰ってるだけの人間なのに、一番に逢いに来てもらえる関係性ではないのに。
帰ってきて、家族とかに挨拶して、ある程度の仕事が終わってから来てくれるならわかるんだけど。
……おれがジルに依存気味になるのは我ながら仕方ないと思う。だってほら、命かかってるじゃん。
でも、ジルがおれにこんなに優しくしてくれるのは?
同情とか以外に、なんかある?
……かわいいってのは、ほら、弟とかペットとかそういう枠ってことだよな?
家族やペットなら一番に会いに来るのもアリ……いや実際の弟ではないし……
「うう」
「どうしたの」
「自分の頭が悪過ぎてあたまがいたい」
「え」
大丈夫か、とおれの額に手のひらを当て、熱はないようだが、と視線を合わせてきた。
なるほど、こういう冗談は通じないと。
「熱はないよ、だいじょぶ」
「早く寝た方がいい」
「うん、寝るよ、寝る」
で、ジルはどうするの、と視線で訊いてみる。
綺麗な碧眼だ。うすいあおに、みどりが混じった色。
こんな近くで、こんな綺麗な瞳を見たことがない。
遥陽の色素の薄い茶色の瞳も綺麗だと思ってたけど、それとはまた違う、吸い込まれそうな──
昔、海を見つめていた時、あまり海をじっと見てると呼ばれるよと母親に言われたことがある。
そんなことを思い出した。
「ユキ?」
「あっ」
だめだ、ぼーっと見てしまった。
あんまりにも綺麗過ぎて。
だって瞳もだけど、顔自体が嘘のように整ってて、こんな綺麗な人見たことない。
髪の毛まできらきらしてる。
「ちょっと見つめ過ぎかな」
「ご、ごめ」
「いいよ、そんな顔で見てるってことは俺の顔はユキには気に入って貰えたのかな」
「……!」
外国人だからだろうか、それともイケメンの余裕なのか、そんなこと普通言わないだろってことをストレートに言ってくる。
冗談でしか言えないぞ、そんなこと。
「い、いやー……綺麗な瞳だなって……」
「ユキの瞳も綺麗だよ」
「……不吉なんじゃなかったっけ」
「あんなのは頭の硬い古い奴等が言ってるんだ、俺はこの瞳も髪も綺麗だと思う」
影が降ってきたと思った。
一瞬、何が起きたかわからなくて、時間が止まった。
ジルがおれの髪に口付けをしたらしい。
……どこの映画の世界だよ!
そんなのをまさか、自分が体験するなんて思ったことがなくて、心臓が早くなるのを感じる。
これは心臓に悪い、悪過ぎる。
おれはもしかして、ただのファンタジーな世界に間違えて召喚されたんじゃなくて、恋愛ゲームの中に召喚されたんじゃないかって思ってしまうくらい刺激が強い。
「どうしようかな」
「え……?」
「ユキがかわいいから朝までいようかなと思ったんだけど、ユキが困るなら帰った方がいいかな」
困るっていうか、恥ずかしいっていうか。
こんなこと無縁で生きてきたから、反応の正解がわからない。
自慢じゃないが誰かと付き合った経験がない。
あったとしてもこんな経験はしなかった自信しかない。
「じ、ジルが帰るなら仕方ない……し、い、いてくれるんなら……いてくれた方が……その、安心するし、困ったりなんか……」
「居たら安心するんだ?嬉しい?」
「そりゃあ……まあ」
「じゃあ朝までいようかな」
嬉しそうな笑顔が眩しすぎる。
……こんな眩しい笑顔、おれ、遥陽でしか見たことない。
「さそ……?」
「昨夜のお誘いはかわいかったのに」
「……?」
「ひとりにしないでって」
「……!」
言ったけど!でもそれはお誘いとかそんなんじゃなくて……
言い返したいけど、ドツボにはまりそうで口を噤む。
こういうの、向いてない。
「今日もかわいいこと言ってくれたら朝までいようと思ってたんだけどな」
「そ、んなこと言わないし!」
かわいいとかそんな、そんなつもりで言ったんじゃないし、ただあれはこわい目に会うのが嫌だっただけだし……
そうだよ、殺されたいとか酷い目にあいたい奴なんていないし。
ジルといれば安心だろうなって思っただけで……
「明日から」
「……?」
「明日から、数日ここにはこれないんだ」
「えっ」
「ちょっと視察に行かないといけなくてね」
本当はモーリスも連れていく予定だったけど、彼は置いておこう、と続けた。
その配慮はその、嬉しいけど、でも……数日って何日?
ふつか?みっか?1週間?とおか?
何か土産を持ってこようって、そのこと?
「そんな不安そうな顔しないで。モーリスにもアンヌにも、それぞれ信用おける部下しか使わせないように伝えている。心配するようなことはおこらないよ」
「……」
「どうしたの?今日は言葉じゃなくてかわいい顔見せてくれるの?」
「……どんな顔だよ」
「はは」
ジルの長い指が頬に触れる。あったかい。猫になった気分だ。
「あの」
「うん?」
「それ、おれ一緒に行っちゃだめなの」
「だめ」
即答だった。
そりゃそうだろうけど。
おれなんか絶対足でまといだし。
「戻ってきたら一番最初にユキに会いに来るよ」
「……なにそれ」
ちょっと意味がわからなかった。
別におれはジルの家族じゃないし、恋人でもないし、大事なひとでもなく、ただ遥陽の召喚に間違えて連れてこられただけのただの可哀想な奴だ。
それがあんまりだからお情けで優しくして貰ってるだけの人間なのに、一番に逢いに来てもらえる関係性ではないのに。
帰ってきて、家族とかに挨拶して、ある程度の仕事が終わってから来てくれるならわかるんだけど。
……おれがジルに依存気味になるのは我ながら仕方ないと思う。だってほら、命かかってるじゃん。
でも、ジルがおれにこんなに優しくしてくれるのは?
同情とか以外に、なんかある?
……かわいいってのは、ほら、弟とかペットとかそういう枠ってことだよな?
家族やペットなら一番に会いに来るのもアリ……いや実際の弟ではないし……
「うう」
「どうしたの」
「自分の頭が悪過ぎてあたまがいたい」
「え」
大丈夫か、とおれの額に手のひらを当て、熱はないようだが、と視線を合わせてきた。
なるほど、こういう冗談は通じないと。
「熱はないよ、だいじょぶ」
「早く寝た方がいい」
「うん、寝るよ、寝る」
で、ジルはどうするの、と視線で訊いてみる。
綺麗な碧眼だ。うすいあおに、みどりが混じった色。
こんな近くで、こんな綺麗な瞳を見たことがない。
遥陽の色素の薄い茶色の瞳も綺麗だと思ってたけど、それとはまた違う、吸い込まれそうな──
昔、海を見つめていた時、あまり海をじっと見てると呼ばれるよと母親に言われたことがある。
そんなことを思い出した。
「ユキ?」
「あっ」
だめだ、ぼーっと見てしまった。
あんまりにも綺麗過ぎて。
だって瞳もだけど、顔自体が嘘のように整ってて、こんな綺麗な人見たことない。
髪の毛まできらきらしてる。
「ちょっと見つめ過ぎかな」
「ご、ごめ」
「いいよ、そんな顔で見てるってことは俺の顔はユキには気に入って貰えたのかな」
「……!」
外国人だからだろうか、それともイケメンの余裕なのか、そんなこと普通言わないだろってことをストレートに言ってくる。
冗談でしか言えないぞ、そんなこと。
「い、いやー……綺麗な瞳だなって……」
「ユキの瞳も綺麗だよ」
「……不吉なんじゃなかったっけ」
「あんなのは頭の硬い古い奴等が言ってるんだ、俺はこの瞳も髪も綺麗だと思う」
影が降ってきたと思った。
一瞬、何が起きたかわからなくて、時間が止まった。
ジルがおれの髪に口付けをしたらしい。
……どこの映画の世界だよ!
そんなのをまさか、自分が体験するなんて思ったことがなくて、心臓が早くなるのを感じる。
これは心臓に悪い、悪過ぎる。
おれはもしかして、ただのファンタジーな世界に間違えて召喚されたんじゃなくて、恋愛ゲームの中に召喚されたんじゃないかって思ってしまうくらい刺激が強い。
「どうしようかな」
「え……?」
「ユキがかわいいから朝までいようかなと思ったんだけど、ユキが困るなら帰った方がいいかな」
困るっていうか、恥ずかしいっていうか。
こんなこと無縁で生きてきたから、反応の正解がわからない。
自慢じゃないが誰かと付き合った経験がない。
あったとしてもこんな経験はしなかった自信しかない。
「じ、ジルが帰るなら仕方ない……し、い、いてくれるんなら……いてくれた方が……その、安心するし、困ったりなんか……」
「居たら安心するんだ?嬉しい?」
「そりゃあ……まあ」
「じゃあ朝までいようかな」
嬉しそうな笑顔が眩しすぎる。
……こんな眩しい笑顔、おれ、遥陽でしか見たことない。
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