【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

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 ◇◇◇

 ジルが視察に行ってから5日経った。
 おれはなーんもかわらない生活を送っている。
 進展したといえば簡単な本なら読めるようになったくらい。
 書庫のソファで、本を読みながら風を感じたりなんか、絶対前の世界ではしなかったことが今は楽しい。
 モーリスさんの筋トレに付き合うのも、アンヌさんの料理を手伝ったり、見るのも楽しい。
 あんなにこわいと思ってたのが嘘のように、誰かと関わるのが嬉しい。

 アンヌさんがお手伝いと連れてきたのは、少しおどおどしたお姉さんと、凛としたクールなお姉さん。
 おどおどしたお姉さんはイレーヌさん。最初おれにびびってたんだと思う、でもちょっと話をしたら、アンヌ様の仰った通りですね、と笑顔を見せてくれた。
 ……まあうん、孫だの赤ちゃんだの言ってたんだろうな。
 クールなお姉さんはリンダさん。おれにびびることもなく自分の仕事を黙々とやるんだけど、アンヌさんの作ってくれたお菓子でお茶に誘うと、瞳をきらきらさせて付き合ってくれた。
 甘いものがすきみたい。
 ふたりとも、仕事もちゃんとするし、おれにも普通に接してくれるので、流石アンヌさんの選んだひとだ、と感激した。

 モーリスさんは弟を紹介してくれた。なんと、というかちょっとわかっていたというか、おれより大分年下の、11歳の元気な子だった。
 何が弟と同じくらいだ、と睨みつけると、同じようなもんですよと飄々としていた。
 他にも兄弟がいるみたいで、また今度紹介しますよ、と言う。
 ボードゲームやカードゲームを教えて貰ったり、一緒に勉強をしたり。
 友達というとまた違うんだろうけど、暇潰しに付き合ってくれるのは大変有難かった。

「ジルいつ帰ってくるのかな」
「もうそろそろではないでしょうか」
「視察ってなんなんだろ、他の街とか見に行くの?」
「後は魔物の様子を確認したりですかねえ」
「魔物!?」

 流石魔法があるような世界は違う、魔物とかいるんだ……

「多分ユキ様の思ってるのとは違うと思いますよ」
「……まさかモーリスさん心が読める……?」
「いや、だから顔に出てるんですって……物凄く大きくてこわいやつ!って思ってるでしょ?そんなのはなかなかいないですよ」
「顔見れてないじゃないですか……なかなかってことはたまにはいるってことですよね?」
「雰囲気でもわかりますよ、ってユキ様揚げ足とるようになってきましたね」
「だってモーリスさんがすぐいじわるな言い方するし」

 からから笑うモーリスさんの肩を叩く。ぴくりともしないのが悔しい。
 筋トレに付き合うだけではなく、おれ自身が筋トレするべきだなあ。

 そんなことをぼんやりと考えてると、どうにも扉の向こうが騒がしい。
 なんだなんだ、またお姉さんが転んで何か割ったか?アンヌさんに怪我はないかな、と頭を上げた瞬間、扉が勢いよく開けられた。

「ユキ!」
「えっジル」
「……何してるの?」
「何って……」

 笑顔のジルがおれを見て、戸惑った表情になった。
 うわあ、久し振りのジルだ、何回見ても整った顔は整ったまんまだな、あの金の髪はあんなに眩しかったっけ……
 そんなことを考えていると、ずかずか寄ってきたジルがおれの躰をひょいと持ち上げる。
 そんな子供みたいに……やっぱりおれ筋トレするべきか。

「何でモーリスに乗ってる?」
「おれが背中乗っても筋トレ出来るっていうから……余裕だっていうし、ほんとに出来るからすごいなーって……」
「……モーリス」
「いやー、つい弟と同じように扱っちゃって……すいませんね」

 寝る前の筋トレ、腕立て伏せの体勢から起き上がったモーリスは、ジルの顔を見て少し笑った。
 それから、おれの方を見て、今日は帰りますねー、と言って部屋を出て行った。なんも言う暇なかった。もう結構夜も深いんだけど……

「えっと……えー……おかえり、ジル」
「……予想以上に仲良くなったみたいだね?」
「だってジルが信用してって……」
「そうだけど……」
「あの……」
「なに」
「下ろして……」

 ずっと抱き上げられるのはちょっとプライドとか……その、顔が近過ぎて落ち着かない。
 5日ぶりのこの顔面は心臓に悪い。こんな時間なのになんでそんなきらきらしてるんだ。
 こんなのまたおれの頭がおかしくなってしまう。

「……急いで帰ってきたのに」
「えっ」
「ユキに土産たくさん用意したのに」

 ちょっと嫌な予感がして、扉の方に視線を向ける。
 いつの間に誰が置いたのか、大きな箱から小さな箱まで幾つも置かれていた。土産の量じゃねえ。

「……ほんとに一番に来たんだ」
「そうだよ」
「夕飯は?」
「軽く済ませたよ」
「お腹空いてない?」
「うん」
「……おかえり」
「ただいま」

 言葉に詰まって言った2回目のおかえりだった。
 それなのに、ジルはおれを見上げて、くしゃっと笑った。
 その笑顔が今までのものとは違っていて、なんだかちょっと、かわいいな、と思ってしまった。
 そのまま腕を伸ばして、ジルの頭を撫でる。
 うわ、髪柔らかい、さらさらしてる、あとなんかいいにおいする。

「……ユキ?」
「あっごめ……思わず……へへ、ごめん」
「……」
「ねえ下ろしてって」
「……」
「どしたのジル」

 やばい、目上のひとに頭撫でるとか怒らせてしまったか、とはらはらしてたら、無言で下ろされた。
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