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「おはよう」
「……ふえ」
「ユキは寝起きもかわいいね」
「…………?」
眩しい朝だ。
爽やかな空気と、明るい空と、整った笑顔。
思わず手を伸ばすと、あたたかい頬に触れる。
……ジルだ。
うわ、睫毛なっがい、ぱっちりした彫りの深い目元、綺麗な碧い瞳、おれこの瞳すき、こんな綺麗な色見たことない。
その瞳に何かうつっていて、ああ、それはおれなんだけど。
すごいなあ、同じ人間なのに、こんなに違うものなんだなあ……
「俺の顔で良ければどれだけ触ってもいいけど、その分ユキにも触れていい?」
「……やだ、まだねむい……」
「あれ、まだ寝惚けてるんだ、残念」
「んん、もーちょっと……」
「そんなに疲れたまってた?いいよ、あと少しね」
「うん……」
だってあったかいから、なんかまだ眠くて……眠くなって、もっと、もっとこのままでいたいなって、
ジルの声が心地よくて、髪を撫でてくれる手が気持ちよくて、すっと瞼が……
◇◇◇
「寝過ぎた!」
「うわ」
「えっジル」
「えって」
これはもう昼くらいの空気だ!と思って飛び起きる。
学校とかないからいいんだけど、でもアンヌさんたちがてきぱき働いてる時間に惰眠を貪っているのに罪悪感がある。
勉強なり掃除なりしなくちゃ!と焦ってただけだ、そこに一瞬、ジルのことは飛んでいて、声を聞いて驚いてしまった。
そうなんです、ジルはまだ隣にいたのです、もう昼なのに。
瞬間、昨夜のことから寝ぼけてた朝のことまで思い出してしまい、頭が爆発しそうになった。
なんてことを!おれはなんてことをしてしまったんだ!
いやおれはされた側なんだけど!
うわあああ、なんかすごい鼻に掛かった声を出してた気がする、あんな自分の声知らないんだけど、でもあんなことしたことなかったし、仕方ないし、いやでもあんな姿見られちゃって、どんな顔してジルを見れば……無理無理無理!
なんかすごくかわいいかわいい言われてた気がするけど、かわいいっていうのは遥陽みたいな天使みたいな子のことをいうのであって、おれみたいなのはそんなかわいいとかじゃなくて……!
「ユキ大丈夫?具合悪い?」
「わ、わるくない!てか!起きなきゃ!アンヌさん来る!」
「他の掃除と食事を頼んでるから、もうそろそろ時間じゃないかな」
「うああああ!みっ見られたってことお!?」
「ユキの寝顔かわいいって言ってたよ」
まじかよしにたい
おばあちゃんみたいに思ってるアンヌさんにこんなとこ見られたとか!
家族にバレたような感じで羞恥心と罪悪感が凄い、叫び出してしまいたい。
「あ、アンヌさんにばれ……」
「何を?」
「き、昨日……えっ……えっちなこと、したこと……」
言わせるのかよ、と思ったけど、素直に答えたのにジルは吹き出した。
え、失礼過ぎない?
「大丈夫、一緒に寝てるだけだと思ってるかと」
「……ほんとにい?」
「頭しか出てないんだから何も思わないよ」
「アンヌさんにこんなのバレたらしんじゃう……」
「それは困るなあ」
ほら、もう起きようか、額にキスを落とされた。
こういうの多いな、と思ってから、気付いた。
……あんなこと、されたのに、口にキスはなかったなって。
◇◇◇
「ジル様もこちらでお食事なんて久し振りですわね」
「アンヌの作ったものも久し振りだな、楽しみだよ」
「あら、緊張しちゃいますね」
「先日ユキに作ったスープを一口食べたけど美味しかったよ」
「あらあら」
アンヌさんがジルと話しながらもどんどん食事が並べていく。
今日はジルも一緒だからか、いつもより豪華な気がする。
一応、食事のマナーも習ったけど……緊張するな、見てるのはジルだけなんだけどさ。
「ジル様のお好みが変わってないと良いんですが」
「いや、ユキの好みに合わせてやってくれ、ユキは細過ぎる」
「そうですねえ、お菓子もお出ししてるのですが、どうにも……やはりお口に合わないところもあるのかしら」
「……食べてない訳じゃなくて体質だから!アンヌさんのご飯もお菓子も美味しいから!」
「そうです、先日、ユキ様がお菓子作りのお手伝いをして下さって……手際もなかなかでしたのよ、今度また一緒に作る約束をしてまして」
「いいな、俺も食べてみたい」
「ふふ、その時はジル様の分も取っておきますね」
おれも目の前にいるっていうのに、おれの話で盛り上がるふたりに居心地の悪さを感じる。
なんだろう、こういうの、こそばゆいっていうのかな。
遥陽もこういう気分だったのかな、いつも遥陽が遥陽がって話しててごめん。
「あ、そうだ」
「うん?」
「明後日、式典が決まったのを言うのを忘れていた」
「えっ」
みょうごにち……あさってってことか。
式典、つまり遥陽に会える!
「ほんと!?おれ、それ行ってもいいってこないだ言ってたよね!?ね、いいんだよね!?」
「ああ」
「やったあ、やっと遥陽に会える……!」
大丈夫かな、元気かな、ちゃんとご飯食べてるかな、寝られてるかな。
話出来るかな、近くに行けるかな。
おれも元気だよって、だから大丈夫だよって、遥陽は気にしないでいいよって言わなきゃ。
だってあの時、腕を伸ばしたこと、きっと遥陽は気にしてる。
おれを巻き込んでしまったって。
だから大丈夫だよって、この世界で遥陽をひとりぼっちにしなくて良かったよって伝えたい。
本当はずっと遥陽の近くに居たいけど、それが無理ならちゃんと、伝言とかじゃなくて、ちゃんとおれが直接伝えたい。
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