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アンヌさんがまた綺麗に籠に詰めてくれて、意気揚々とお城に向かう。
かわいい籠を抱えさせられたモーリスさんがおかしくてちょっと笑った。
今日で三日連続である、ジルの執務室は覚えたぞ!
そう思ってた筈なのに迷子になってしまった。
モーリスさんに、覚えたから行ける!と豪語してしまったのに。モーリスさんはおかしいと爆笑していた。酷い。
おれは別に方向音痴とかじゃない、広すぎてきらっきらしていてわかりにくい城が悪いんだ。
「あっ、あそこだ!」
見張りがいる大きな扉の前、見覚えがあると指をさすと、違いますよ、と返された。
えっでもあの感じは……と思っていると、あそこは王女様の部屋だと告げられる。確かによく見たらなんか違う。おれの見覚えは役に立たなかったようだ。
王女様……キャロルの部屋か。思ってたより、その、呪いと言う割に禍々しさなんかも感じず、普通の部屋だ、と思った。
まあ式典で見た時も禍々しさなんて感じなかったけど。
おれなんかが近付いたら迷惑か……と、黒い髪をモーリスさんという盾で隠すようにして部屋の前を通り過ぎる。
キャロルは甘いものがすき、とジルが言っていた。
でもおれが突然持って行って食べて貰える筈もない。大人しくモーリスさんにジルの執務室へ案内をして貰う。
「ユキ!」
扉を開けると、今日も今日とて熱烈歓迎の勢いだ。
お付の人らしい従者は呆れたように首を振り、休憩は三十分ですからね、と出て行ってしまった。なんかその、すみません急に来てしまって……
「嬉しいな、また今日も来てくれるなんて」
「明日のお菓子……多く作り過ぎちゃったから、持ってけってモーリスさんが」
しれっとモーリスさんを巻き込んでおく。さっきの爆笑のおかえしだ。
「たくさんあるから、また遥陽に」
「ハルヒは今日はいないぞ」
「えっ」
当然のように言われた台詞に、頭の中が一瞬だけ真っ白になった。
すぐに『お仕事』なんだろうな、と気付いたけど。
どうやら少し離れたところで工事をしていたところ、複数の怪我人が出たよう。
帰ってくるのは恐らく夜遅くなるとのことで、がっくりと肩を落とした。
「えー、じゃあ余っちゃうな、おれが作ったのなんか食べてくれそうなひといないし……モーリスさん宿舎に持って帰ったりとかは」
「ユキ様がいいなら勿論頂きますが」
あ、そう?じゃあ今はジルとちょっとお茶するだけでいいかな、と考えていると、キャロルに持っていったらどうだ、と提案されてしまった。
「あのさ、お菓子作るのいいよとは言っちゃったけどさ、よく考えたらさ、呪われてる子におれみたいな不吉なやつが作ったもの食べさせるのやばくない?」
「……?ユキは不吉な子じゃないだろう」
「でも皆そう思ってるんでしょ?なんかあったらおれも責任取れないし」
勿論自分では黒髪なだけで不吉ではないと思ってる。
でも生クリームとか使ってるし、万が一傷んでたりとかしたら……アンヌさんが用意したものにそんなことはないと思うけど、万が一。なんかイメージ的に酷く弱々しそうだから、常人に何もないレベルでも病弱なキャロルには引っかかったりするかもしれないじゃん。
周りからしたら不吉なやつが変なもん食わせたからだ!ってなるでしょ。
「そんなことは気にしないでいい、早速キャロルのところに行こう」
「えっ今」
「休憩時間は短いからな」
絶対三十分ですまないやつじゃん、心の中で、さっきのお付のひとに謝っておくことにした。
再度キャロルの部屋に向かい、当然のようにジルが軽くノックをしただけで入っていく。
やはり部屋の中は禍々しさを感じることはなく、開かれた部屋は寧ろ花の甘いかおりがする。
ピンクを基調に、ぬいぐるみや人形、飾られた花がとても女の子らしい部屋だった。
「ジルにいさま!」
鈴のような可愛らしい、少し舌っ足らずな声が嬉しそうに跳ねる。
ふわふわのプラチナの髪をふたつに結った小さな女の子がジルに走りより、笑顔を向ける。
えっ、かわいい。
なんて絵になる兄妹なんだ。かわいい。語彙力なんて元からないが、かわいいかわいいとしか言えないような女の子だ。
抱き抱えられると嬉しそうに頭を寄せて、ジルの撫でる手をおねだりしている。
ちょっと自分を重ねてしまい、慌てて首を振る。幼女と一緒にするんじゃないよ!
「ジルにいさま、きょうはキャロのとこにきていいの?」
「大丈夫だよ」
「うれしい、ハルヒにいさまもいなくてさみしかったの」
「寂しい時は執務室に来てもいいと言ってるだろう?」
「じゃましちゃだめよっておかあさまがおこるもの」
「キャロルのことを邪魔だと思ったことはないよ」
一連のやり取りがいやもうかわいいったらない、ジルの甘ったるさが遺憾無く発揮されてるというのに、相手がおれじゃなく幼い妹だってだけでこんなに尊いことになるのか。
「キャロルと一緒にお菓子を食べようと思ってね」
「おかし!きょうはモーリスもいっしょなのね」
「ご一緒しても宜しいですか?」
「いいわよ!」
一丁前のレディの口調なのに、舌っ足らずになるのが頑張ってるようでかわいい。
躾も厳しいのかもしれないけれど。
「こちらのおにいさまは?キャロはじめておあいします」
「ハルヒと一緒にこちらに呼んだユキだよ」
「ユキにいさま!ハルヒにいさまからたくさんおはなしきいたわ」
ジルに下ろされたキャロルは、絵本で見るようにドレスを両手で摘み、キャロです、と頭を下げる。
かわいい。
キャロルのルがまだ上手く発声出来ないようだ。えー、かわいい、この世界にきて一番かわいい子に出会ってしまった。
かわいい籠を抱えさせられたモーリスさんがおかしくてちょっと笑った。
今日で三日連続である、ジルの執務室は覚えたぞ!
そう思ってた筈なのに迷子になってしまった。
モーリスさんに、覚えたから行ける!と豪語してしまったのに。モーリスさんはおかしいと爆笑していた。酷い。
おれは別に方向音痴とかじゃない、広すぎてきらっきらしていてわかりにくい城が悪いんだ。
「あっ、あそこだ!」
見張りがいる大きな扉の前、見覚えがあると指をさすと、違いますよ、と返された。
えっでもあの感じは……と思っていると、あそこは王女様の部屋だと告げられる。確かによく見たらなんか違う。おれの見覚えは役に立たなかったようだ。
王女様……キャロルの部屋か。思ってたより、その、呪いと言う割に禍々しさなんかも感じず、普通の部屋だ、と思った。
まあ式典で見た時も禍々しさなんて感じなかったけど。
おれなんかが近付いたら迷惑か……と、黒い髪をモーリスさんという盾で隠すようにして部屋の前を通り過ぎる。
キャロルは甘いものがすき、とジルが言っていた。
でもおれが突然持って行って食べて貰える筈もない。大人しくモーリスさんにジルの執務室へ案内をして貰う。
「ユキ!」
扉を開けると、今日も今日とて熱烈歓迎の勢いだ。
お付の人らしい従者は呆れたように首を振り、休憩は三十分ですからね、と出て行ってしまった。なんかその、すみません急に来てしまって……
「嬉しいな、また今日も来てくれるなんて」
「明日のお菓子……多く作り過ぎちゃったから、持ってけってモーリスさんが」
しれっとモーリスさんを巻き込んでおく。さっきの爆笑のおかえしだ。
「たくさんあるから、また遥陽に」
「ハルヒは今日はいないぞ」
「えっ」
当然のように言われた台詞に、頭の中が一瞬だけ真っ白になった。
すぐに『お仕事』なんだろうな、と気付いたけど。
どうやら少し離れたところで工事をしていたところ、複数の怪我人が出たよう。
帰ってくるのは恐らく夜遅くなるとのことで、がっくりと肩を落とした。
「えー、じゃあ余っちゃうな、おれが作ったのなんか食べてくれそうなひといないし……モーリスさん宿舎に持って帰ったりとかは」
「ユキ様がいいなら勿論頂きますが」
あ、そう?じゃあ今はジルとちょっとお茶するだけでいいかな、と考えていると、キャロルに持っていったらどうだ、と提案されてしまった。
「あのさ、お菓子作るのいいよとは言っちゃったけどさ、よく考えたらさ、呪われてる子におれみたいな不吉なやつが作ったもの食べさせるのやばくない?」
「……?ユキは不吉な子じゃないだろう」
「でも皆そう思ってるんでしょ?なんかあったらおれも責任取れないし」
勿論自分では黒髪なだけで不吉ではないと思ってる。
でも生クリームとか使ってるし、万が一傷んでたりとかしたら……アンヌさんが用意したものにそんなことはないと思うけど、万が一。なんかイメージ的に酷く弱々しそうだから、常人に何もないレベルでも病弱なキャロルには引っかかったりするかもしれないじゃん。
周りからしたら不吉なやつが変なもん食わせたからだ!ってなるでしょ。
「そんなことは気にしないでいい、早速キャロルのところに行こう」
「えっ今」
「休憩時間は短いからな」
絶対三十分ですまないやつじゃん、心の中で、さっきのお付のひとに謝っておくことにした。
再度キャロルの部屋に向かい、当然のようにジルが軽くノックをしただけで入っていく。
やはり部屋の中は禍々しさを感じることはなく、開かれた部屋は寧ろ花の甘いかおりがする。
ピンクを基調に、ぬいぐるみや人形、飾られた花がとても女の子らしい部屋だった。
「ジルにいさま!」
鈴のような可愛らしい、少し舌っ足らずな声が嬉しそうに跳ねる。
ふわふわのプラチナの髪をふたつに結った小さな女の子がジルに走りより、笑顔を向ける。
えっ、かわいい。
なんて絵になる兄妹なんだ。かわいい。語彙力なんて元からないが、かわいいかわいいとしか言えないような女の子だ。
抱き抱えられると嬉しそうに頭を寄せて、ジルの撫でる手をおねだりしている。
ちょっと自分を重ねてしまい、慌てて首を振る。幼女と一緒にするんじゃないよ!
「ジルにいさま、きょうはキャロのとこにきていいの?」
「大丈夫だよ」
「うれしい、ハルヒにいさまもいなくてさみしかったの」
「寂しい時は執務室に来てもいいと言ってるだろう?」
「じゃましちゃだめよっておかあさまがおこるもの」
「キャロルのことを邪魔だと思ったことはないよ」
一連のやり取りがいやもうかわいいったらない、ジルの甘ったるさが遺憾無く発揮されてるというのに、相手がおれじゃなく幼い妹だってだけでこんなに尊いことになるのか。
「キャロルと一緒にお菓子を食べようと思ってね」
「おかし!きょうはモーリスもいっしょなのね」
「ご一緒しても宜しいですか?」
「いいわよ!」
一丁前のレディの口調なのに、舌っ足らずになるのが頑張ってるようでかわいい。
躾も厳しいのかもしれないけれど。
「こちらのおにいさまは?キャロはじめておあいします」
「ハルヒと一緒にこちらに呼んだユキだよ」
「ユキにいさま!ハルヒにいさまからたくさんおはなしきいたわ」
ジルに下ろされたキャロルは、絵本で見るようにドレスを両手で摘み、キャロです、と頭を下げる。
かわいい。
キャロルのルがまだ上手く発声出来ないようだ。えー、かわいい、この世界にきて一番かわいい子に出会ってしまった。
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