【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

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 母親。
 そうなんだ、ジルの母親は魔力が凄くて……呪われてた?
 いや、呪われてたかどうかはおれの憶測だからまだわかんないんだけど。
 でもその魔力でどうにかならなかった?色んな魔法があるみたいだし、そういうのじゃなかったのかな。
 てかジルの表情なんだあれ、いいことなのか悪いことなのか読めない表情してる。

「凄いっていっても、一般的には、とかですよね、遥陽より……神子様とどっこいとかはないですよね」
「どうでしょう、ハルヒ様もまあ一般的、と考えると魔力はある方ですが、あの方はまた特殊ですからね」
「遥陽すげーな」
「ユキ様もすごいですよ」

 そこでやっとジルとモーリスさんが近付いて来て、どうだったかセルジュさんに訊ねた。
 ジル様のおっしゃってた通りですね、という答えに首を傾げる。
 なんで当事者置いてくかな。

「おれにもわかるように話して」
「ああ、うん」
「難しい話じゃなくて簡単にね」

 その言い方の問題か、セルジュさんが微笑む。
 こういうところはロザリー様とは反対ですね、と。
 だからロザリー様がわからないから褒められてんのか貶されてんのかわかんない、セルジュさんが貶すとは思えないけど。

「ユキ‪様、お疲れになりませんか、どこか座れる場所に行きましょうか」
「え?あ、うん……?」
「歩けるか?」
「こんくらいの血じゃ貧血にもならないんだけど」

 そう言って足を出した辺りでふらっとしてしまう。
 貧血は例えであって、おれは別に貧血気味だとか思ったことはなかった。
 実際にあんな、すぐ止まるような血で貧血になるとも思えない。なのになんでこんなぐにゃぐにゃするような……

「おっと」
「あ、ありがと……えっ」

 支えてくれたジルにお礼を言うが早いが、そのまま抱えられてしまった。
 こここここんなとこでお姫様抱っこされるとかある!?ちち、近い!顔が!近い!イケメン!有罪!

「歩けるってば!」
「今転びそうだっただろう」
「足が縺れただけ!多分!」
「すぐそこまでだから大人しくしてて」
「ううう……」

 恥ずかしい、子供でも病弱でもないってのに、この歳で何度も抱き抱えられるなんて。今更だけど恥ずかしいものは恥ずかしい。

「ユキ様は魔力の使い方のお勉強しましょうね」
「へ?」
「だだ漏れですよ」

 恥ずかしさに耐えてるおれの横に来て、セルジュさんが笑顔を見せる。
 魔力だだ漏れとは悪いことなのでしょうか。

 頭の中がごちゃごちゃなっていて、でも整理をする前に応接間のようなところに着いてしまう。
 ふかふかのソファに下ろされ、やっと解放された気分。たった数分とはいえ、あのままじゃおれ、また寝てしまうとこだった。ひとの体温は気持ちがいい。
 ただ、それとは別に、単純に眠たくなってしまうんだ。

「……魔力って使うと疲れます?」
「まあ……そこは質や使い方によって変わりますが、ユキ様は疲れやすいでしょう?」
「疲れやすいっていうか……もしかしてすぐ眠たくなっちゃうのって」
「猫みたいでかわいいですよね」
「そこじゃない」
「ふふ、そうですね、ユキ様は休むことで回復しようとしてるのではないでしょうか」

 やたら昼寝をしちゃうのも、眠気に勝てないのも、暇だからかと思っていた。平和であたたかくて、やることがないから。よくわからない文字を読んだり勉強したりしてるから。
 それなのに、そんな理由だったとは。
 魔力って聞くと、強そうでわくわくしてしまう。
 基本的に王族にしかない力。そんなひと握りの力をただの一般人のおれが手に入れるような日が来るとは。
 魔法としては地味な能力だけど。
 もっとさ、空を飛べたり火を出したり、敵を凍らせたり剣の雨を降らせたり、そんな派手なイメージだったのに。

「ジルはおれを護りの神子かもしれないとか言ってたけどさ、まあ神子ではないとして、でもおれ、それで何か役に立つ?」
「勿論!そこにいるだけで十分ですよ」
「それはおれが魔力だだ漏れだから?」
「まあその、大まかに言うと、ですね……」

 まずロザリー様の話からしましょうか、とセルジュさんが言う。
 大丈夫かな、とジルを見ると、その視線に気付いたジルが、俺は気にしてないよ、と髪を撫でた。
 それなら……と少し不安を感じながらもセルジュさんに向き直る。
 確か、ジルは護りの力に見覚えがあると言っていた。
 濁していたけど、母親だったんだなあ…


 ロザリー様とはジルの実母で、やはりキャロルの前の呪われた人物だった。
 ただ、そうとは思えない程バイタリティに溢れていたようで、積極的に己の力を使っていたご様子。
 国のあちこちを訪れてはその力を使っていた。
 壊れた防壁を直し、魔獣の被害が酷い地域ではその地を整備し、他の国と戦争をする前には全ての武器や鎧に力を注ぐ。
 おかげでこの国は争いが少ない割には戦争は負け知らず、魔獣の被害も少ないので食糧事情も問題はなく、穏やかで潤沢な国だ。

 それが、ジルが生まれてから目に見えて魔力が下がっていったという。
 自分が奪ったのかもしれない、とジルは言った。
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