【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

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 ◇◇◇

「んぅ……」
「寝返りかわいー」
「……んん」
「おはよ」
「…………はるひ?」
「まだ寝惚けてるー、かわい」
「…………???」

 ひとの気配がして目を覚ます。
 隣に感じるのは勿論ジルなんだけど、ベッドの脇でにこにこと見下ろしていたのは遥陽だった。
 寝起きの回らない頭で、おはよう、と返しつつも、なんで遥陽がいるんだろう、この感じ、まだ朝なんだけど、とぼんやり考える。
 ……暫く考えて、理由なんかないか、と思い至った。

「……早いね」
「夜は譲ってあげたでしょ?今日はいいよね?」
「……いいよ、でも待って、お風呂入ってきてい?」
「お風呂」
「……うん」

 自分で言っておきながら、じわじわと恥ずかしくなってきた。
 もうバレてるし、こんな格好だし、わかってはいるだろうけど、自分で昨夜は色々やっちゃいましたと言ってるようなもんじゃないか。
 起きてから処理するなんて言わずに、昨夜ジルに甘えていた方が良かったのだろうか。
 ……こんな早くに遥陽が来るなんて完全に想定外だった。頭が段々覚めてきて、はっきりすればする程羞恥心が凄いことになってくる。

「……ふ、服、取ってもらっても、いい……」
「え」
「適当なのでいいから……」
「……これでいい?」
「ありがと……」

 渡されたシャツを布団の中でもぞもぞ着込んで、僕も一緒に入ろうかなとか言う遥陽にステイと言い渡し、こんな場面でも隣で笑顔を向けているジルを残してひとりで風呂場へ向かう。
 汗と情事のあとを綺麗に手早く流して、早く部屋に戻らなきゃ、と思う。
 少しくらい気まずくなればいいんだ、とふたりを残して来たものの、実際喧嘩でもされたら困る。
 仲良くしろとは思わないけど、ぎすぎすされてもいやだ。

「あ」

 鏡を見て、思わず声を漏らした。すぐに耳まで熱くなる。
 鏡の中の自分はあっという間に茹でだこのようになってしまった。 

「いつの間に……うわ、こんなとこにも、えっ、あ、ここも」

 赤紫になった痕がおれの把握していたものよりもずっと多かった。
 確かに痕をつけてほしいと熱に浮かれたことを言ったけど。
 ……こんなに、数え切れない程、唇を落とされてたなんて。
 首元にも、わかりやすいようにと言っていた胸元や、足の付け根、その他にも、二の腕や、お腹、手首にまで。
 まさか、見えないようなところにもあるんだろうか。

「……ほんとにいつの間に……なんかすっごいやらしいな、これ……」

 記憶を飛ばしてはいないつもりだったけど、ジルのちょっとした動きに気付かないくらい夢中になってたのだろうか。

「明るいところで見ると思ってたよりつけちゃってたみたいだ、ごめんね」
「ひゎ……」

 足元を確認していると、急に背後から抱き締められて変な声が出た。心臓がどくどくする。
 ……だってこんなとこでびっくりさせられるとは思わなかった。

「ジル……」
「俺も湯浴みしようかと思って」
「は、遥陽は」
「きゃんきゃん煩いから置いてきたよ」
「……」

 想像出来るのがまた……
 ごめん、と謝ると、きょとんとした顔で、ユキが謝ることじゃないだろう、と返される。
 それはそうなのかもしれないけど、遥陽の保護者だと思ってるので……

「足りる?」
「え」
「痕」
「……た、足りる、あッ」

 ふと笑うと、頭のてっぺんにキスをして、突っ立ったままのおれの首元にまた痕をひとつ残し、ジルは風呂場の方へ行ってしまう。
 残された熱い痕を片手で押えて、奥から聞こえる水音に、自分がまだ全裸なのを思い出した。


 ◇◇◇

「今日はだらだらします」

 遥陽のその言葉通り、その日は何もしなかった。
 遅い朝食と早い昼食を兼ねた食事をして、ジルを仕事してこいと追い出して、書庫でぼおっと会話をして、アンヌさんとさんにんでお菓子を作って、それで庭でお茶にした。

 書庫に飾り直したロザリー様の絵は何も言わないし、庭の花もただ綺麗に咲いてるだけ。
 明日、多分明日だ、魔女が来る。どうやって現れるかはわからない。朝来るのか、昼か夜か、本当に来るのか。
 普通に客人のように来るのか、突然現れるのか。
 結局何も迎え撃つ用意が出来ないまま、その日を待つ。
 余命宣告を死神に受けたみたいだ。
 近いといえば近いのだけれど。

「遥陽は帰りたい?」
「僕?」
「うん」
「……優希は?」

 ふたりでベンチに腰掛けて、なんとなく訊いた質問を逆に返される。
 帰りたくないと決めた。
 未練はあっても、もう決めた。
 ジルと遥陽がいるから。遥陽をひとりで残したくなくて、ジルと離れたくないから。
 色んなものを天秤に掛けて、決めたこと。

「……僕も帰れるとしたら?」
「え」
「ジルと僕、どっちをとる?」
「……え……え、えと、え……ど、どっち……」

 魔女は遥陽を、神子様を帰すことは出来ないと言っていたけど。でも遥陽も帰れるとしたら。

「……わ、わかん、ない」
「……」
「まっ、待って、帰らないって決めたけど、待って、遥陽もいなかったら、えっと、待って、考えられない……待って」

 ジルをとるか、遥陽をとるか、どちらかとはもう会えなくなるとしたら。

「……ごめん、意地悪言った」

 そう笑った遥陽に、おれが上手く出来なかったのはわかった。
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