139 / 161
139
しおりを挟む◇◇◇
「んぅ……」
「寝返りかわいー」
「……んん」
「おはよ」
「…………はるひ?」
「まだ寝惚けてるー、かわい」
「…………???」
ひとの気配がして目を覚ます。
隣に感じるのは勿論ジルなんだけど、ベッドの脇でにこにこと見下ろしていたのは遥陽だった。
寝起きの回らない頭で、おはよう、と返しつつも、なんで遥陽がいるんだろう、この感じ、まだ朝なんだけど、とぼんやり考える。
……暫く考えて、理由なんかないか、と思い至った。
「……早いね」
「夜は譲ってあげたでしょ?今日はいいよね?」
「……いいよ、でも待って、お風呂入ってきてい?」
「お風呂」
「……うん」
自分で言っておきながら、じわじわと恥ずかしくなってきた。
もうバレてるし、こんな格好だし、わかってはいるだろうけど、自分で昨夜は色々やっちゃいましたと言ってるようなもんじゃないか。
起きてから処理するなんて言わずに、昨夜ジルに甘えていた方が良かったのだろうか。
……こんな早くに遥陽が来るなんて完全に想定外だった。頭が段々覚めてきて、はっきりすればする程羞恥心が凄いことになってくる。
「……ふ、服、取ってもらっても、いい……」
「え」
「適当なのでいいから……」
「……これでいい?」
「ありがと……」
渡されたシャツを布団の中でもぞもぞ着込んで、僕も一緒に入ろうかなとか言う遥陽にステイと言い渡し、こんな場面でも隣で笑顔を向けているジルを残してひとりで風呂場へ向かう。
汗と情事のあとを綺麗に手早く流して、早く部屋に戻らなきゃ、と思う。
少しくらい気まずくなればいいんだ、とふたりを残して来たものの、実際喧嘩でもされたら困る。
仲良くしろとは思わないけど、ぎすぎすされてもいやだ。
「あ」
鏡を見て、思わず声を漏らした。すぐに耳まで熱くなる。
鏡の中の自分はあっという間に茹でだこのようになってしまった。
「いつの間に……うわ、こんなとこにも、えっ、あ、ここも」
赤紫になった痕がおれの把握していたものよりもずっと多かった。
確かに痕をつけてほしいと熱に浮かれたことを言ったけど。
……こんなに、数え切れない程、唇を落とされてたなんて。
首元にも、わかりやすいようにと言っていた胸元や、足の付け根、その他にも、二の腕や、お腹、手首にまで。
まさか、見えないようなところにもあるんだろうか。
「……ほんとにいつの間に……なんかすっごいやらしいな、これ……」
記憶を飛ばしてはいないつもりだったけど、ジルのちょっとした動きに気付かないくらい夢中になってたのだろうか。
「明るいところで見ると思ってたよりつけちゃってたみたいだ、ごめんね」
「ひゎ……」
足元を確認していると、急に背後から抱き締められて変な声が出た。心臓がどくどくする。
……だってこんなとこでびっくりさせられるとは思わなかった。
「ジル……」
「俺も湯浴みしようかと思って」
「は、遥陽は」
「きゃんきゃん煩いから置いてきたよ」
「……」
想像出来るのがまた……
ごめん、と謝ると、きょとんとした顔で、ユキが謝ることじゃないだろう、と返される。
それはそうなのかもしれないけど、遥陽の保護者だと思ってるので……
「足りる?」
「え」
「痕」
「……た、足りる、あッ」
ふと笑うと、頭のてっぺんにキスをして、突っ立ったままのおれの首元にまた痕をひとつ残し、ジルは風呂場の方へ行ってしまう。
残された熱い痕を片手で押えて、奥から聞こえる水音に、自分がまだ全裸なのを思い出した。
◇◇◇
「今日はだらだらします」
遥陽のその言葉通り、その日は何もしなかった。
遅い朝食と早い昼食を兼ねた食事をして、ジルを仕事してこいと追い出して、書庫でぼおっと会話をして、アンヌさんとさんにんでお菓子を作って、それで庭でお茶にした。
書庫に飾り直したロザリー様の絵は何も言わないし、庭の花もただ綺麗に咲いてるだけ。
明日、多分明日だ、魔女が来る。どうやって現れるかはわからない。朝来るのか、昼か夜か、本当に来るのか。
普通に客人のように来るのか、突然現れるのか。
結局何も迎え撃つ用意が出来ないまま、その日を待つ。
余命宣告を死神に受けたみたいだ。
近いといえば近いのだけれど。
「遥陽は帰りたい?」
「僕?」
「うん」
「……優希は?」
ふたりでベンチに腰掛けて、なんとなく訊いた質問を逆に返される。
帰りたくないと決めた。
未練はあっても、もう決めた。
ジルと遥陽がいるから。遥陽をひとりで残したくなくて、ジルと離れたくないから。
色んなものを天秤に掛けて、決めたこと。
「……僕も帰れるとしたら?」
「え」
「ジルと僕、どっちをとる?」
「……え……え、えと、え……ど、どっち……」
魔女は遥陽を、神子様を帰すことは出来ないと言っていたけど。でも遥陽も帰れるとしたら。
「……わ、わかん、ない」
「……」
「まっ、待って、帰らないって決めたけど、待って、遥陽もいなかったら、えっと、待って、考えられない……待って」
ジルをとるか、遥陽をとるか、どちらかとはもう会えなくなるとしたら。
「……ごめん、意地悪言った」
そう笑った遥陽に、おれが上手く出来なかったのはわかった。
161
あなたにおすすめの小説
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる