【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

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 魔女は寂しがり屋。
 ロザリー様が言っていたという言葉。
 幼いジルに寝物語として話したような、それくらいの軽さだと思う。
 口にしたら怒りそうな気がする。
 それに、寂しがり屋をどうしろと。一緒に遊ぼって誘うのか?いっぱい話しようねって言うのか?ないよな?
 他に……他にないかな、なにか……

「何も考えられない?じゃあもういいよね?カウントいる?」
「だめっ……えっと、えと、」
「ほらほら、早くしないとさよならしちゃうよ」
「待って、やだ、待って、お願いします、いや、待って、待ってくださ」
「どうしよっか、カウントは十秒前からでいーい?」
「待っ……」
「じゅーう」
「や、まって……」

 懇願してもカウントを止めてくれない。
 それはそうだ、止める理由が彼にはない。おれがいない方がいいんだから。

「よん」
「あ、え……っ」
「さーん」
「……っ、さ、さみしくさせません!」
「……どういうこと?」

 思い浮かばなくて、結局咄嗟に出たのはロザリー様の寂しがり屋、だけだった。
 取り敢えずカウントを止めなきゃと思って、もうそれ以外出てこなくて。
 そんな、子供相手みたいな言い方になってしまった。

「ま、魔女は寂しがり屋って、聞きました」
「ふうん、誰から」
「……ロザリー様」
「ロザリーはもう居ないのに?」
「ジルから……」
「息子かあ」

 で、どうするの、と訊かれて、またそこで詰まる。
 どうするのと言われても、どうしたらさみしくないか。

「なんで魔女は寂しがり屋だと思う?」
「……な、長い間、生きてる、から……」
「……そう、知り合いさ、先にみーんいなくなっちゃうんだ、キミもね」
「……」
「誰かが殺してくれないと死ねないの」
「……っ」
「ね、さみしいから、殺してくれる?」
「……!」

 視線を逸らすおれの顎をぐいと上げ、無理矢理視線を合わせられる。
 真っ黒い、深い深い色をした瞳からは何も意図が読めない。
 力なく横に顔を振るおれに、にいと口元が歪む。

「冗談だよ、僕だって望んで死のうとは思わないよ、まあ別に死んだって構わないけど。でもキミ達は僕が死んだら嬉しいでしょ、だから死んでなんてやんない」
「なんで……」
「……キミ結構酷いこと訊くね」
「あ、いや、ちが、ちがう、死ねってことじゃなくて、なんで……死んで嬉しいなんて」
「僕が死んだら呪いが解けると思ってるんでしょ」

 囁くような小さな声に、頭の中でキャロルが浮かぶ。
 魔女が死ねば、なんて思ったことはなかった。誰が死んでも悪人だったとしても、死ねと思って死んでいい気分になる訳がない。
 でも、そうなのかな、魔女が死んでキャロルが……もう呪いにかかるひとがいなくなるなら……
 魔女が、死んだら、

「迷ってるねえ、そうだよねえ、わるーい魔女なんて死んでしまった方がいいよね」
「死ねとか、そん、そんな」
「でも残念でしたァ」
「え」
「僕が死んでもこの国にかけられた呪いは解けません!」
「……な、なんで」

 だって呪ったのは僕じゃないし、と楽しそうに笑う。
 この国に呪いをかけたのは、最初の魔女だ。
 今この目の前にいる魔女が何代目なのかはわからない。訊いて答えてくれるかもわからない。

「この国に呪いをかけた魔女はもう死にました、死んだものからは解呪出来ませーん」
「……死んだら、解けたりするものじゃ」
「死にながらかけた呪いだもの、最後の命をかけて。解ける訳ないでしょ、この呪いが解ける時は魔女の魂と思念が消えた時だよ」
「思念……」

 魂や残留思念があるなんてまるで幽霊のようだ。
 ……もしかしてロザリー様が夢に出てくるのも関係がある?幽霊扱いなんてって怒られちゃうかな、でももし意味があるなら……いやもう遅いか?
 ぎゅっと手を握り、震えそうな膝を抑える。
 幽霊でもいいから、教えてほしい。

「他には?」
「ほ、ほか」
「僕を殺す以外にさみしくさせない方法は?」
「え、えと」

 さみしくさせない方法、そんなの、一緒にご飯を食べるとか、話をするとか、遊ぶとか、寝るとか、一緒にいるということ、なのかな。
 そういう現実的なことではなくて、精神面の繋がり、とか?

「それを僕とするの?キミがずっと一緒にいるよって?あは、僕とずっと一緒にいるならここに残る意味ある?やっぱり帰りたくないだけなのかな?」

 わざと煽っているのだから、それに乗ってはいけない。
 何故か魔女の言葉は抉る言葉ばかりだ。感情的になったら、置いてぼりにされたら負けだってわかってるのに。

「四六時中一緒じゃなくても、楽しい時やさみしい時に一緒にいれたら、それでも」
「やだよ、にんげんはすぐ嘘を吐くもの、約束なんてだいっきらい」

 吐き捨てるように言うと、立ち上がった魔女は綺麗に咲く薔薇の元まで行き、それを毟った。
 王族は嘘吐きが多いからきらい、と。

「おれ、王族じゃないです……」
「でもどうせ嘘を吐く、勝手にだいじなひとを作って」

 ロザリーのように、と呟くと、毟られた花弁が舞って、消えた。
 本当にここは気に入らない、とまた吐き捨てる彼に、何かがあったということだけはわかった。
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