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「アイツさえいなければ、生まれなければ、ロザリーは僕といたのに」
「……そんな、ことは」
ないと思う。八つ当たりだ。子供の口約束を守る気はなかったんじゃないかな。そんなことは本人には言えないけど。
簡単に約束をしてしまった幼いロザリー様が悪い訳ではないし、本気にした魔女だって悪くはない。
勿論ジルだって、何も悪くない。
ジルが悪いというなら、子供の頃の、母親にあまり構って貰えなかった過去だけで十分だろう。
……おれは、ジルは全然悪くないと思うけど。
でもそれが彼に伝わるか。
おれが説明して納得してもらえるか。
そう考えると、無理な気がする。おれの言葉は彼には響かない、何も。
おれはきっと、ロザリー様のように彼の懐には入れないし、もう彼が無防備になる相手なんていないんだろう。
きっと、ロザリー様で最後だった。
ロザリー様は最後に何も彼に残さなかったのだろうか。あったりしなかったんだろうか。
……会えないか、きっと護衛とか凄かっただろうし。
「ここにロザリー様を呼んだりは……出来ないでしょうか」
「……え?」
「その、魂とか、残留思念とか……ここ、ロザリー様の魔力も凄いって言ってたじゃないですか……そういうのは無理ですか」
おれたちに出来なくても、魔女ならもしかしたら。
「何、ロザリーを呼んで直接文句言えって?」
そういうつもりではなかったけど、いっそその案の方がいいのではないか。
おれたちが、周りがどうこういうより、こういうのは本人同士の方が納得いくものではないか。
「会いたくないよ、嘘吐きになんて」
「でも」
「じゃあキミが会ってきてよ」
「え」
怒ったような、でも怯えたような、目の前の少年はもっと幼くも見えた。
少なくとも何十年は生きてる筈なのに。
ぱちん、と音が鳴ったと思った。
その瞬間、魔女が消えた。
おれは相変わらず庭のベンチに居て、でもジルや遥陽も居ない。
会ってきて、と魔女は言っていたけど、誰もいない。
……ロザリー様も。
このまま、ここに居ていいのかな。
妙にそわそわしてしまって、数十秒も座っていられなかった。
ひとりでいるのが不安だった。誰か、誰かに会いたかった。
誰かがいるとしたら、小さな噴水があるところじゃないかな、あそこがこの庭の丁度中心で、いちばん花を楽しめるところだ。
きっと、ロザリー様も楽しめる場所。
確信なんてないけど、ベンチにいないなら、そこがいちばん、誰かがいてもおかしくない場所だ。
その考えが当たっていたのはすぐにわかる。
月明かりに照らされた、溶けるような長い金の髪、透けるような肌、振り返った瞳はジルと同じ碧い綺麗なものだった。
「ロザリー様……」
絵画から飛び出してきたような、ジルと似た女性。
おれが知ってるのはその姿だけ。
「……こんばんは」
高く澄んだ声は、想像していたものより柔らかかった。
夢の中では全然きこえなかったから。
こんなに優しそうな声をしていたんだ。
「やっと声が聴けたわ」
「お、おれも……です」
「ふふ、私の声も全然伝わってなかったみたいね」
こちらにいらっしゃい、と優しく呼ばれて、ふらふらと近付いてしまう。
ジルに似た姿で、仕草で、表情で、初めて会ったのに……夢でも会ってたけど、でも、なんとなく、心を許してしまう。
このひとに話をしたい、相談をしたい、どうしたらいいの、ジルや、魔女をどうしたら、埋めることが出来るのだろう。
「私の息子とともだちが迷惑をかけてごめんなさいね」
「……ともだち」
「……私はそう思っていたのだけれど」
ここにジルを呼べないのかな、話をさせてあげたい。
おれなんかより、ずっと、ジルや魔女が話をすべきで、恋しい相手だろうに。
「でも悪いのは私もなのよね」
「……?」
「考えなしにあんな約束をしてしまったから」
「あ……でも、子供の頃なら、仕方ないっていうか」
「その結果、あの子に、ジルに、貴方に迷惑を掛けてしまった」
どうすればいいかしらね、と溜息を吐く。
……やっぱり、魔女本人が来るべきだったんだろうに。
「あの、魔女は」
「アランよ」
「へ」
「あの子の名前はアラン、名前で呼んであげて」
「アラン……」
「そう」
名乗ってもなかったのね、とくすくす笑う。
そうだ、魔女でもちゃんと名前はあって、ロザリー様のともだち、で……こんなに、ロザリー様はアランのことをだいじそうに名前を呼ぶのに。
「私がまだ小さな頃から、この国に嫁ぐことは決まっていたの、呪いのことは知っていたけど、その時は他のひとが呪われていたし、子供だったからそんなに深く考えたことがなかったわ」
「……」
「初めて会った……王子様はとても綺麗で、ふふ、今は貫禄があるのだけどね、当時はとても細身の素敵なひとだったのよ、まだ幼かったというのに、私は心を奪われてしまって、このひとと結婚出来るならって色々勉強したわ、この国のことも、女王としての振る舞いも、歩き方から全部」
ここにいるのが生身のにんげんじゃないのが嘘のように、ロザリー様はころころと表情を変えて話してくれた。
「先人が亡くなって……婚約の段階でも呪いが現れるなんて、皆思ってなかったのよ、お陰で私は文句なしで女王の座を射止めてしまったわ」
アランと会ったのはその後、と話すロザリー様は、それでも笑顔を崩さなかった。
「……そんな、ことは」
ないと思う。八つ当たりだ。子供の口約束を守る気はなかったんじゃないかな。そんなことは本人には言えないけど。
簡単に約束をしてしまった幼いロザリー様が悪い訳ではないし、本気にした魔女だって悪くはない。
勿論ジルだって、何も悪くない。
ジルが悪いというなら、子供の頃の、母親にあまり構って貰えなかった過去だけで十分だろう。
……おれは、ジルは全然悪くないと思うけど。
でもそれが彼に伝わるか。
おれが説明して納得してもらえるか。
そう考えると、無理な気がする。おれの言葉は彼には響かない、何も。
おれはきっと、ロザリー様のように彼の懐には入れないし、もう彼が無防備になる相手なんていないんだろう。
きっと、ロザリー様で最後だった。
ロザリー様は最後に何も彼に残さなかったのだろうか。あったりしなかったんだろうか。
……会えないか、きっと護衛とか凄かっただろうし。
「ここにロザリー様を呼んだりは……出来ないでしょうか」
「……え?」
「その、魂とか、残留思念とか……ここ、ロザリー様の魔力も凄いって言ってたじゃないですか……そういうのは無理ですか」
おれたちに出来なくても、魔女ならもしかしたら。
「何、ロザリーを呼んで直接文句言えって?」
そういうつもりではなかったけど、いっそその案の方がいいのではないか。
おれたちが、周りがどうこういうより、こういうのは本人同士の方が納得いくものではないか。
「会いたくないよ、嘘吐きになんて」
「でも」
「じゃあキミが会ってきてよ」
「え」
怒ったような、でも怯えたような、目の前の少年はもっと幼くも見えた。
少なくとも何十年は生きてる筈なのに。
ぱちん、と音が鳴ったと思った。
その瞬間、魔女が消えた。
おれは相変わらず庭のベンチに居て、でもジルや遥陽も居ない。
会ってきて、と魔女は言っていたけど、誰もいない。
……ロザリー様も。
このまま、ここに居ていいのかな。
妙にそわそわしてしまって、数十秒も座っていられなかった。
ひとりでいるのが不安だった。誰か、誰かに会いたかった。
誰かがいるとしたら、小さな噴水があるところじゃないかな、あそこがこの庭の丁度中心で、いちばん花を楽しめるところだ。
きっと、ロザリー様も楽しめる場所。
確信なんてないけど、ベンチにいないなら、そこがいちばん、誰かがいてもおかしくない場所だ。
その考えが当たっていたのはすぐにわかる。
月明かりに照らされた、溶けるような長い金の髪、透けるような肌、振り返った瞳はジルと同じ碧い綺麗なものだった。
「ロザリー様……」
絵画から飛び出してきたような、ジルと似た女性。
おれが知ってるのはその姿だけ。
「……こんばんは」
高く澄んだ声は、想像していたものより柔らかかった。
夢の中では全然きこえなかったから。
こんなに優しそうな声をしていたんだ。
「やっと声が聴けたわ」
「お、おれも……です」
「ふふ、私の声も全然伝わってなかったみたいね」
こちらにいらっしゃい、と優しく呼ばれて、ふらふらと近付いてしまう。
ジルに似た姿で、仕草で、表情で、初めて会ったのに……夢でも会ってたけど、でも、なんとなく、心を許してしまう。
このひとに話をしたい、相談をしたい、どうしたらいいの、ジルや、魔女をどうしたら、埋めることが出来るのだろう。
「私の息子とともだちが迷惑をかけてごめんなさいね」
「……ともだち」
「……私はそう思っていたのだけれど」
ここにジルを呼べないのかな、話をさせてあげたい。
おれなんかより、ずっと、ジルや魔女が話をすべきで、恋しい相手だろうに。
「でも悪いのは私もなのよね」
「……?」
「考えなしにあんな約束をしてしまったから」
「あ……でも、子供の頃なら、仕方ないっていうか」
「その結果、あの子に、ジルに、貴方に迷惑を掛けてしまった」
どうすればいいかしらね、と溜息を吐く。
……やっぱり、魔女本人が来るべきだったんだろうに。
「あの、魔女は」
「アランよ」
「へ」
「あの子の名前はアラン、名前で呼んであげて」
「アラン……」
「そう」
名乗ってもなかったのね、とくすくす笑う。
そうだ、魔女でもちゃんと名前はあって、ロザリー様のともだち、で……こんなに、ロザリー様はアランのことをだいじそうに名前を呼ぶのに。
「私がまだ小さな頃から、この国に嫁ぐことは決まっていたの、呪いのことは知っていたけど、その時は他のひとが呪われていたし、子供だったからそんなに深く考えたことがなかったわ」
「……」
「初めて会った……王子様はとても綺麗で、ふふ、今は貫禄があるのだけどね、当時はとても細身の素敵なひとだったのよ、まだ幼かったというのに、私は心を奪われてしまって、このひとと結婚出来るならって色々勉強したわ、この国のことも、女王としての振る舞いも、歩き方から全部」
ここにいるのが生身のにんげんじゃないのが嘘のように、ロザリー様はころころと表情を変えて話してくれた。
「先人が亡くなって……婚約の段階でも呪いが現れるなんて、皆思ってなかったのよ、お陰で私は文句なしで女王の座を射止めてしまったわ」
アランと会ったのはその後、と話すロザリー様は、それでも笑顔を崩さなかった。
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