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魔女とはいっても悪い子じゃないのよ、そうロザリー様は言う。
「初めて会った時は少し大きなお兄さんだと思ってたの、でも周りが腫れ物のように私を扱う中、一緒に遊んでくれるお兄さんは大事なだいじなともだちになっていって」
キャロルを思い出す。
キャロルも、ともだちがいないと言っていた。
躰が弱くて、呪いの子と遊んでくれる子はいない、伝染るものではなくても、大人でさえ腰が引けるのに子供が理解できる筈もない。
「私、何も考えてなかったのよね、ただ嬉しくて、楽しくて、初めてのともだちに浮かれて、よくわからないまま、魔女になるなんて頷いてしまったの」
「……」
「王子様だって優しかったけど、皆良くしてくれたけど、やはりともだちは違うのよね、私にはいつの間にか、アランが心の拠り所で、今だって……本当は残念よ、自分で会いに来てくれないなんて」
魔女様が弱くなったものね、と笑って、そのままおれの瞳をじっとみつめる。
しゃんと伸びた背筋に、思わずおれも背を伸ばす。
まるで子供を見るように……自分の息子より若い訳で、それはその通りなんだけど、瞳を細めて、懐かしい色だわ、と呟いた。
「昔から、この黒い瞳が、髪が綺麗ねと褒めたのよ、不思議ね、あの子の方が深かったのね、あの黒い瞳には私はどう映っていたのかしら、あの日からずっと裏切り者だったのかしら」
少しさみしそうな声。
髪先に触れた細い指が、その先に進むのに一旦躊躇って、それからそっと耳元に触れる。
「王室に入ると会える回数は減って……アランは会おうと思ったら会える筈なんだけど、周りが魔力持ちばかりになってしまって、なかなか会いに来づらかったみたいね、私も忙しくなって……幼い自分の言った約束なんて何も覚えてなくて、あの子を身篭ってしまった」
片手でおれに触れて、もう片手は意識してるのかどうか、そっとお腹に触れる。
「いざそうなると、勿論愛しいのだけど……どうにも恐ろしさの方が強くて……呪われた私でこの子をちゃんとしあわせにできるかしら、幾つまで成長を見ていられるかしら、私なんかが母親で申し訳ない、誰が見ても恥ずかしくないような子に育てなくちゃ、この子が恥をかかないように」
周りに恵まれてたのね、とても良い子に育ってくれたと思うの、どう?と訊かれて、頷くことしか出来ない。
ロザリー様はおれの頭を撫でて、満足そうに笑った。その笑顔がまたジルにそっくりで。
……ジルがロザリー様にそっくりというのが正しいんだけど。
「女王としてはちゃんとやってきたつもり。でも母親としては最低だったでしょうね」
「そんなことは」
「わかってるのよ、あの子がさみしかったこと。猫に嫉妬するくらいにね」
くすりと笑って、ちょっと嬉しかったわ、と漏らす。
「危ないところに……そんなに危なくはないのだけど、ここから遠くに行くのにあの子を連れていくことは出来なかった、あの子もそれをわかっていたのか、自分から我儘を言うことは少くて、子供なのに……我慢しかさせてなかったわね」
ジル自身が気にしていたことだ。
ジルの感じたさみしさを考えると、胸がきゅうとなって、でもロザリー様の親心を否定することも出来ない。
色々なことが重なって絡み合って、不器用な親子には上手く噛み合せることが出来なかったんだろう。
「その内どんどん魔力が弱くなっていってるのに気付いて、自分の仕事はきちんと済ませてしまわなくてはと思って……それ以外はここに閉じこもるようになって、それを心配したジルが用意してくれたのよ、この庭」
自慢の庭なの、と眩しそうに言う。
とても立派な庭ですと返すと、それはもう満足そうだった。
「伝染る訳でもあるまいし、本当は最期くらいあの子と過ごすべきだったのかもしれない、でもあの子に弱っていく姿を見せたくなくて……余裕がある時しか会ってあげられなかった。
私の最後の仕事は少しでも長生きすること。この呪いが他の誰かに、愛した誰かに掛かってしまわないように、次に呪われる者の期間が少しでも短くなるように」
そして最期にアランが来る、魔女になれと伝えに。
「それまでにも何度か言われたけれど、最期まで私はそれに頷くことは出来なかった……わかるわよね?」
「……はい」
「子供の時のように何も考えずに、アランといることが楽しくて魔女になるなんて言えないわよね。でもあの子からしたら必死だったのよ、私が死ぬ前に魔女にしなくちゃって。でも私はそれを受け入れることが出来ないまま死んでしまった。あの子の願いすら聞き入れられないまま」
「……アランの願い」
「ええ、私が死ぬ時に、アランも一緒に死にたいから、殺してくれと」
息を呑む。
物騒な話題になってきた。
「魔女は自分で死ねないの。病気も怪我もするけれど、ある程度は自分で治せるし……少し苦しめばその内治るとも言っていたわね……誰かが殺すまで、長い寿命が来るまで死ねない、ね、魔女が寂しがり屋になる訳でしょう」
そんな寂しがり屋を私は置いていった、とロザリー様の消えるような声。
「初めて会った時は少し大きなお兄さんだと思ってたの、でも周りが腫れ物のように私を扱う中、一緒に遊んでくれるお兄さんは大事なだいじなともだちになっていって」
キャロルを思い出す。
キャロルも、ともだちがいないと言っていた。
躰が弱くて、呪いの子と遊んでくれる子はいない、伝染るものではなくても、大人でさえ腰が引けるのに子供が理解できる筈もない。
「私、何も考えてなかったのよね、ただ嬉しくて、楽しくて、初めてのともだちに浮かれて、よくわからないまま、魔女になるなんて頷いてしまったの」
「……」
「王子様だって優しかったけど、皆良くしてくれたけど、やはりともだちは違うのよね、私にはいつの間にか、アランが心の拠り所で、今だって……本当は残念よ、自分で会いに来てくれないなんて」
魔女様が弱くなったものね、と笑って、そのままおれの瞳をじっとみつめる。
しゃんと伸びた背筋に、思わずおれも背を伸ばす。
まるで子供を見るように……自分の息子より若い訳で、それはその通りなんだけど、瞳を細めて、懐かしい色だわ、と呟いた。
「昔から、この黒い瞳が、髪が綺麗ねと褒めたのよ、不思議ね、あの子の方が深かったのね、あの黒い瞳には私はどう映っていたのかしら、あの日からずっと裏切り者だったのかしら」
少しさみしそうな声。
髪先に触れた細い指が、その先に進むのに一旦躊躇って、それからそっと耳元に触れる。
「王室に入ると会える回数は減って……アランは会おうと思ったら会える筈なんだけど、周りが魔力持ちばかりになってしまって、なかなか会いに来づらかったみたいね、私も忙しくなって……幼い自分の言った約束なんて何も覚えてなくて、あの子を身篭ってしまった」
片手でおれに触れて、もう片手は意識してるのかどうか、そっとお腹に触れる。
「いざそうなると、勿論愛しいのだけど……どうにも恐ろしさの方が強くて……呪われた私でこの子をちゃんとしあわせにできるかしら、幾つまで成長を見ていられるかしら、私なんかが母親で申し訳ない、誰が見ても恥ずかしくないような子に育てなくちゃ、この子が恥をかかないように」
周りに恵まれてたのね、とても良い子に育ってくれたと思うの、どう?と訊かれて、頷くことしか出来ない。
ロザリー様はおれの頭を撫でて、満足そうに笑った。その笑顔がまたジルにそっくりで。
……ジルがロザリー様にそっくりというのが正しいんだけど。
「女王としてはちゃんとやってきたつもり。でも母親としては最低だったでしょうね」
「そんなことは」
「わかってるのよ、あの子がさみしかったこと。猫に嫉妬するくらいにね」
くすりと笑って、ちょっと嬉しかったわ、と漏らす。
「危ないところに……そんなに危なくはないのだけど、ここから遠くに行くのにあの子を連れていくことは出来なかった、あの子もそれをわかっていたのか、自分から我儘を言うことは少くて、子供なのに……我慢しかさせてなかったわね」
ジル自身が気にしていたことだ。
ジルの感じたさみしさを考えると、胸がきゅうとなって、でもロザリー様の親心を否定することも出来ない。
色々なことが重なって絡み合って、不器用な親子には上手く噛み合せることが出来なかったんだろう。
「その内どんどん魔力が弱くなっていってるのに気付いて、自分の仕事はきちんと済ませてしまわなくてはと思って……それ以外はここに閉じこもるようになって、それを心配したジルが用意してくれたのよ、この庭」
自慢の庭なの、と眩しそうに言う。
とても立派な庭ですと返すと、それはもう満足そうだった。
「伝染る訳でもあるまいし、本当は最期くらいあの子と過ごすべきだったのかもしれない、でもあの子に弱っていく姿を見せたくなくて……余裕がある時しか会ってあげられなかった。
私の最後の仕事は少しでも長生きすること。この呪いが他の誰かに、愛した誰かに掛かってしまわないように、次に呪われる者の期間が少しでも短くなるように」
そして最期にアランが来る、魔女になれと伝えに。
「それまでにも何度か言われたけれど、最期まで私はそれに頷くことは出来なかった……わかるわよね?」
「……はい」
「子供の時のように何も考えずに、アランといることが楽しくて魔女になるなんて言えないわよね。でもあの子からしたら必死だったのよ、私が死ぬ前に魔女にしなくちゃって。でも私はそれを受け入れることが出来ないまま死んでしまった。あの子の願いすら聞き入れられないまま」
「……アランの願い」
「ええ、私が死ぬ時に、アランも一緒に死にたいから、殺してくれと」
息を呑む。
物騒な話題になってきた。
「魔女は自分で死ねないの。病気も怪我もするけれど、ある程度は自分で治せるし……少し苦しめばその内治るとも言っていたわね……誰かが殺すまで、長い寿命が来るまで死ねない、ね、魔女が寂しがり屋になる訳でしょう」
そんな寂しがり屋を私は置いていった、とロザリー様の消えるような声。
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