【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

文字の大きさ
148 / 161

148

しおりを挟む
「無理よ、殺すなんて出来ない。そうでしょう、あんなさみしそうな顔をしていても、殺してあげるなんてこと出来なかった」

 そう言って、アランが魔女になった経緯を聞いたことがあるかと訊ねる。ないです、と素直に首を振った。

「魔女の子は魔女だけど……この国は特殊でしょう、殆どはただのにんげんか魔力のあるにんげん、極稀に魔力が高い子が生まれて……私みたいに魔女になれる素質があると言われる子もいれば、アランみたいに初めから魔女として生まれることもある。アランも呪われた子なのよ」
「……え?」
「この呪いを見届けるための魔女。あの子が死ねば、新しい魔女が生まれる」
「……?」
「私と一緒なの、私たちより厄介なのよ、あの子はずっとずっとひとりで生きてきて、それを誰かに押しつけることが出来なかった子なの」

 そんな彼がやっと出来たともだちがロザリー様で、でも子供の為にと魔女として一緒に生きる道を断られて、最後の最期に一緒に死ぬという願いも断られた。
 ……ジルへの憎悪はそこなのか。

「私が子供の頃は素直な子だったのだけれど……いつの間にか捻くれた子になっちゃったわね」

 仕方ないとはいえ、と苦笑しながら、今だって本人が来れば良かったのに、と言う。
 本当だよ、ロザリー様、めちゃくちゃアランのこと心配してるじゃんか。

「この呪いが解けるのがいつになるかわからない、数年後かもしれないし、数十年、数百年かかるかもしれない。それくらい最初の魔女はとても強い魔力と怒りと思念があったのでしょうね、アランの寿命もいつまでかわからない、でもその中であの子も楽しく……しあわせに過ごすことが出来たらいいなと思うのよ」

 こんなこと、貴方に頼むのは間違ってるのかもしれない、と言いながらも、ロザリー様はおれの手を掴んだ。

「ジルも貴方も優しい子よ、ねえ、アランにも優しくしてあげて、さみしいだけなの、本当は良い子なのよ……あんなに捻くれさせてしまった私が言うのもどうかと思うけど……優しい子なの、私は、ジルが、王が、たいせつな誰かが呪われるのがいやで、こわくて、死にたくなかったけど……あの子はただ、他の誰かに自分のさみしさを渡そうとしなかっただけなのよ」

 ロザリー様の言いたいことは痛いくらいよくわかる。
 おれはまだ……あの冷たい声や瞳がこわいし、そんなに優しいとは思えない。
 けれどロザリー様が幼少期に一緒に遊んだアランは無邪気な子供だったんだろう。
 色々な呪いが変えてしまった。

「……きっと、この話も聞いてるんでしょう、アラン、出ていらっしゃい」
「えっ」
「お願いよ、この子の願いを聞いてあげて」

 おれの肩を抱きながらロザリー様が柔らかい声で言う。

「私のかわいい息子のたいせつな子よ、お願い」

 ぎゅう、と抱く柔らかい腕に、自分の母親を思い出して、すぐに消した。
 どちらも撰ぶことは出来ない。おれはジルと遥陽を選んだのだから、いつまでもうじうじしては、迷ってはいけない。

「……あれ」

 おず、と出てきたのは小さな少年だった。
 真っ黒の髪と瞳、見覚えのある特徴なのに、つい先程までの怒気は感じられなかった。素直そうな、怯えたような少年だった。
 アラン、とロザリー様が腕を広げる。
 ……この少年は、ロザリー様が出会った時のアランなんだろうか。

「なんで嘘を吐いたの、僕を連れてってくれなかったの」
「聞いてたでしょう?私たちの話」
「……ちゃんと謝ってもらってない」

 駄々を捏ねるような言葉に、ロザリー様は苦笑いをして……子供に言うように、目線をあわせて、ごめんなさいね、と謝る。
 捻くれた、とロザリー様が現したアランの、その捻くれる前は純粋な瞳で、しにたかった、と呟く。

「……ロザリーしか優しくなかった、楽しくなかった、もっと遊びたかったし、ロザリーがしぬならぼくもしにたかった」
「そんなこと言わないで、私は貴方にもしあわせになってもらいたいの」
「ロザリーがいないとしあわせじゃないよ……」
「大丈夫よ、皆優しい子よ、ちゃんと話せばわかってくれるわ」
「……いやだ、僕、アイツとなんか仲良くなれない、きらいだ」
「もう、私の息子をアイツなんて言わないで」
「きらい、きらいだ、アイツがロザリーをとった」
「仕方のない子ねえ」

 ロザリー様が小さなアランを抱き締める。
 背中を撫でて、お願いだから皆と仲良くして、と言う。
 その言葉に、僕のお願いはきいてくれなかったじゃないか、とアランは返した。
 ロザリー様は笑って、聞けるお願いと聞けないお願いがあるわ、なんて言うものだから、毒気が抜かれてしまう。

 あんなにこわかったのに、目の前の魔女はその言葉通りただの子供で、ロザリー様は母親だった。
 ……ずるい、ちょっとそれ、ジルにもしてあげてほしい。

「この子は巻き込まれただけだし、ジルは産んだ私の罪よ、あの子は何も悪くない、恨むなら私を恨んで、全部持っていくわ」
「いやだ、ロザリー」
「私、また楽しそうに笑うアランが見たいわ」

 そう笑顔を向けるロザリー様は……先程の母親の顔とは違い、まるで少女のようだった。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...