【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

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「無理よ、殺すなんて出来ない。そうでしょう、あんなさみしそうな顔をしていても、殺してあげるなんてこと出来なかった」

 そう言って、アランが魔女になった経緯を聞いたことがあるかと訊ねる。ないです、と素直に首を振った。

「魔女の子は魔女だけど……この国は特殊でしょう、殆どはただのにんげんか魔力のあるにんげん、極稀に魔力が高い子が生まれて……私みたいに魔女になれる素質があると言われる子もいれば、アランみたいに初めから魔女として生まれることもある。アランも呪われた子なのよ」
「……え?」
「この呪いを見届けるための魔女。あの子が死ねば、新しい魔女が生まれる」
「……?」
「私と一緒なの、私たちより厄介なのよ、あの子はずっとずっとひとりで生きてきて、それを誰かに押しつけることが出来なかった子なの」

 そんな彼がやっと出来たともだちがロザリー様で、でも子供の為にと魔女として一緒に生きる道を断られて、最後の最期に一緒に死ぬという願いも断られた。
 ……ジルへの憎悪はそこなのか。

「私が子供の頃は素直な子だったのだけれど……いつの間にか捻くれた子になっちゃったわね」

 仕方ないとはいえ、と苦笑しながら、今だって本人が来れば良かったのに、と言う。
 本当だよ、ロザリー様、めちゃくちゃアランのこと心配してるじゃんか。

「この呪いが解けるのがいつになるかわからない、数年後かもしれないし、数十年、数百年かかるかもしれない。それくらい最初の魔女はとても強い魔力と怒りと思念があったのでしょうね、アランの寿命もいつまでかわからない、でもその中であの子も楽しく……しあわせに過ごすことが出来たらいいなと思うのよ」

 こんなこと、貴方に頼むのは間違ってるのかもしれない、と言いながらも、ロザリー様はおれの手を掴んだ。

「ジルも貴方も優しい子よ、ねえ、アランにも優しくしてあげて、さみしいだけなの、本当は良い子なのよ……あんなに捻くれさせてしまった私が言うのもどうかと思うけど……優しい子なの、私は、ジルが、王が、たいせつな誰かが呪われるのがいやで、こわくて、死にたくなかったけど……あの子はただ、他の誰かに自分のさみしさを渡そうとしなかっただけなのよ」

 ロザリー様の言いたいことは痛いくらいよくわかる。
 おれはまだ……あの冷たい声や瞳がこわいし、そんなに優しいとは思えない。
 けれどロザリー様が幼少期に一緒に遊んだアランは無邪気な子供だったんだろう。
 色々な呪いが変えてしまった。

「……きっと、この話も聞いてるんでしょう、アラン、出ていらっしゃい」
「えっ」
「お願いよ、この子の願いを聞いてあげて」

 おれの肩を抱きながらロザリー様が柔らかい声で言う。

「私のかわいい息子のたいせつな子よ、お願い」

 ぎゅう、と抱く柔らかい腕に、自分の母親を思い出して、すぐに消した。
 どちらも撰ぶことは出来ない。おれはジルと遥陽を選んだのだから、いつまでもうじうじしては、迷ってはいけない。

「……あれ」

 おず、と出てきたのは小さな少年だった。
 真っ黒の髪と瞳、見覚えのある特徴なのに、つい先程までの怒気は感じられなかった。素直そうな、怯えたような少年だった。
 アラン、とロザリー様が腕を広げる。
 ……この少年は、ロザリー様が出会った時のアランなんだろうか。

「なんで嘘を吐いたの、僕を連れてってくれなかったの」
「聞いてたでしょう?私たちの話」
「……ちゃんと謝ってもらってない」

 駄々を捏ねるような言葉に、ロザリー様は苦笑いをして……子供に言うように、目線をあわせて、ごめんなさいね、と謝る。
 捻くれた、とロザリー様が現したアランの、その捻くれる前は純粋な瞳で、しにたかった、と呟く。

「……ロザリーしか優しくなかった、楽しくなかった、もっと遊びたかったし、ロザリーがしぬならぼくもしにたかった」
「そんなこと言わないで、私は貴方にもしあわせになってもらいたいの」
「ロザリーがいないとしあわせじゃないよ……」
「大丈夫よ、皆優しい子よ、ちゃんと話せばわかってくれるわ」
「……いやだ、僕、アイツとなんか仲良くなれない、きらいだ」
「もう、私の息子をアイツなんて言わないで」
「きらい、きらいだ、アイツがロザリーをとった」
「仕方のない子ねえ」

 ロザリー様が小さなアランを抱き締める。
 背中を撫でて、お願いだから皆と仲良くして、と言う。
 その言葉に、僕のお願いはきいてくれなかったじゃないか、とアランは返した。
 ロザリー様は笑って、聞けるお願いと聞けないお願いがあるわ、なんて言うものだから、毒気が抜かれてしまう。

 あんなにこわかったのに、目の前の魔女はその言葉通りただの子供で、ロザリー様は母親だった。
 ……ずるい、ちょっとそれ、ジルにもしてあげてほしい。

「この子は巻き込まれただけだし、ジルは産んだ私の罪よ、あの子は何も悪くない、恨むなら私を恨んで、全部持っていくわ」
「いやだ、ロザリー」
「私、また楽しそうに笑うアランが見たいわ」

 そう笑顔を向けるロザリー様は……先程の母親の顔とは違い、まるで少女のようだった。
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