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おれはただ、見てることしか出来なくて。
子供のように愚図るアランを、母親のように、時折少女の顔で話をするロザリー様を。
上手くいきますように、とただ祈るだけ。他力本願だ。だっておれには何も出来ない。
余計なことをしないようにしか。
「ロザリーといきたい」
「だめよ」
「お願い……」
「貴方、あんなに次の魔女が生まれるの嫌がってたじゃない」
「もう知らない、いやだ、さみしい、ロザリーが僕から離れてから、ずっとひとりだった、それでも大丈夫だったのに、ロザリーが僕に優しくするから」
「そうよね、私が悪いのよね、そうね……だから私が遺したものをたいせつにしてほしいの、ね、この子たちがいたらもうさみしくないわ」
「……僕を置いていくのにかわりはないじゃないか」
「いいえ、貴方が心を開けば、ずっと続いていくわ、皆貴方と居てくれる、ずうっと」
ねえ、と急にこちらを振り向くものだから、どきりとしながらも頷いてしまった。
ロザリー様の腕の間から見えるアランは、ぼろぼろと涙を流していて、酷く頼りない。
……だめでしょ、子供が泣いてるのは卑怯だ。
そんなの、手を差し出してしまうに決まってるじゃないか。
ふら、と近付いて、ロザリー様の隣に座る。
なんて声を掛けていいかわからなくて……
あんなに威圧感があって、怒ってて、いつ爆発するかわからないような少年が、こんなに小さな、つつけば号泣してしまいそうな、弱々しい子供になるなんて。
「あ、あの」
「……なに」
「おれ、暇だけはあるんで……一緒に、その、話をしたりとか、何か食べたりとか、それくらいなら出来ますよ」
「……」
「皆もおれ、説得……ちゃんと話します、だから皆きっと、アランと一緒に居てくれるし、邪険になんてしないよ」
「……うそだあ」
ロザリー様にしがみつくようにして、泣きそうな声が答える。
キャロルを思い出して、つい笑ってしまう。
子供っていうのは本当に……ずるいな、恐怖より、憐憫が勝ってしまう。
「キャロルもともだちほしいみたいですよ」
「……呪われた子が僕となんか会う訳ないじゃん」
「ロザリー様とは仲良くしたでしょ」
「……」
「キャロルも良い子ですよ」
「……」
「ここがすきなんですって。呼ぶ約束をしてるんです、お花を見てお茶をしようって。おれ、楽しみにしてるんだ、その約束」
「約束」
「守りたいです、キャロルとの約束」
「……嘘、吐かない?」
「うん」
約束を破られることを嫌がってるようだったから、ちょっとずるいかもしれないけど、そんな小さな約束を出してしまう。
結構楽しみだったんだ、キャロルを呼ぶの。
「そこにアランも呼びたい、皆でお茶しよ」
「……僕なんかが行っても」
「いいじゃない、楽しいことをたくさん見つけていきましょう」
「でも僕、ロザリーと一緒が」
「我慢ばかりさせてごめんね」
「……」
「私、貴方が近くまで様子を見に来てくれてたの、わかってた。でも話まではしにきてくれなかったのよね……」
「だってお城にはいっぱいひとがいて」
「でも今は貴方と話をしてくれる子はたくさんいるわ」
「……ユキとしか話したことない」
「ユキが皆を紹介してくれるわ、我慢しなくても、誰かが貴方のこと、構ってくれる」
「でも僕はロザリーと」
「その約束は出来ないわ」
だからかわりに新しい約束を。
揺れてるのがわかる。でもやっぱりロザリー様がいいようだ。
そりゃそうだ、どうでもいいおれたちより、執着してるロザリー様の方がいいに決まってる。
でもロザリー様はもういないんだよ、今のこのロザリー様は魔力でどうにか姿を見せてくれているだけ。
優しい柔らかい腕も、体温は感じられなかった。
「心配なの、私、アランもジルも、遺してきた皆が」
「なら」
「私にはもう無理なの、私には魔女程残ってられる魔力はない」
「ロザリーが魔女になってくれなかったから……!」
「そうね、ごめんなさい、私だってまだ貴方たちを見ていたかったけど」
……魔力も思念も、消えてしまうということか。
もう夢でも会えなくなるし、この庭でロザリー様の魔力を感じることもなくなるということ。
「だからユキには……ごめんなさいね、こんな我儘、でも貴方にはこの国を、私が愛したものを護ってほしくて……」
「……ジルは、ジルには会ってくれないんですか?いなくなっちゃう前に、一回でも」
ロザリー様は微笑んで、頷きも否定もしなかった。
少し胸がもやもやして、おればっかりこんなに話してしまって、今更ながらジルに悪い気がしてきてしまう。
この場にいてくれたら良かったのに。
「だから宜しくね、この子もあの子も」
「いやだ、ロザリー、僕まだいいよって言ってない!僕の力あげるから!消えちゃいやだ!」
「ごめんね、貴方の私への気持ちは貰っていってあげる。だから今度こそ……アランがしあわせな日々が過ごせることを祈るわ」
「やだ……」
「ユキ、お願いね、貴方も……私の愛しい子も……この国を背負わせてしまってごめんなさい」
「……ロザリー様」
ふ、と笑ったロザリー様が、アランを抱き締めたままおれの頬に触れる。
優しい笑顔が、絵画のものとそっくりで、ああ、やっぱり優しいひとであってたじゃないか、と思った。
そしてそのまま、その綺麗なひとは、溶けるように消えてしまった。
子供のように愚図るアランを、母親のように、時折少女の顔で話をするロザリー様を。
上手くいきますように、とただ祈るだけ。他力本願だ。だっておれには何も出来ない。
余計なことをしないようにしか。
「ロザリーといきたい」
「だめよ」
「お願い……」
「貴方、あんなに次の魔女が生まれるの嫌がってたじゃない」
「もう知らない、いやだ、さみしい、ロザリーが僕から離れてから、ずっとひとりだった、それでも大丈夫だったのに、ロザリーが僕に優しくするから」
「そうよね、私が悪いのよね、そうね……だから私が遺したものをたいせつにしてほしいの、ね、この子たちがいたらもうさみしくないわ」
「……僕を置いていくのにかわりはないじゃないか」
「いいえ、貴方が心を開けば、ずっと続いていくわ、皆貴方と居てくれる、ずうっと」
ねえ、と急にこちらを振り向くものだから、どきりとしながらも頷いてしまった。
ロザリー様の腕の間から見えるアランは、ぼろぼろと涙を流していて、酷く頼りない。
……だめでしょ、子供が泣いてるのは卑怯だ。
そんなの、手を差し出してしまうに決まってるじゃないか。
ふら、と近付いて、ロザリー様の隣に座る。
なんて声を掛けていいかわからなくて……
あんなに威圧感があって、怒ってて、いつ爆発するかわからないような少年が、こんなに小さな、つつけば号泣してしまいそうな、弱々しい子供になるなんて。
「あ、あの」
「……なに」
「おれ、暇だけはあるんで……一緒に、その、話をしたりとか、何か食べたりとか、それくらいなら出来ますよ」
「……」
「皆もおれ、説得……ちゃんと話します、だから皆きっと、アランと一緒に居てくれるし、邪険になんてしないよ」
「……うそだあ」
ロザリー様にしがみつくようにして、泣きそうな声が答える。
キャロルを思い出して、つい笑ってしまう。
子供っていうのは本当に……ずるいな、恐怖より、憐憫が勝ってしまう。
「キャロルもともだちほしいみたいですよ」
「……呪われた子が僕となんか会う訳ないじゃん」
「ロザリー様とは仲良くしたでしょ」
「……」
「キャロルも良い子ですよ」
「……」
「ここがすきなんですって。呼ぶ約束をしてるんです、お花を見てお茶をしようって。おれ、楽しみにしてるんだ、その約束」
「約束」
「守りたいです、キャロルとの約束」
「……嘘、吐かない?」
「うん」
約束を破られることを嫌がってるようだったから、ちょっとずるいかもしれないけど、そんな小さな約束を出してしまう。
結構楽しみだったんだ、キャロルを呼ぶの。
「そこにアランも呼びたい、皆でお茶しよ」
「……僕なんかが行っても」
「いいじゃない、楽しいことをたくさん見つけていきましょう」
「でも僕、ロザリーと一緒が」
「我慢ばかりさせてごめんね」
「……」
「私、貴方が近くまで様子を見に来てくれてたの、わかってた。でも話まではしにきてくれなかったのよね……」
「だってお城にはいっぱいひとがいて」
「でも今は貴方と話をしてくれる子はたくさんいるわ」
「……ユキとしか話したことない」
「ユキが皆を紹介してくれるわ、我慢しなくても、誰かが貴方のこと、構ってくれる」
「でも僕はロザリーと」
「その約束は出来ないわ」
だからかわりに新しい約束を。
揺れてるのがわかる。でもやっぱりロザリー様がいいようだ。
そりゃそうだ、どうでもいいおれたちより、執着してるロザリー様の方がいいに決まってる。
でもロザリー様はもういないんだよ、今のこのロザリー様は魔力でどうにか姿を見せてくれているだけ。
優しい柔らかい腕も、体温は感じられなかった。
「心配なの、私、アランもジルも、遺してきた皆が」
「なら」
「私にはもう無理なの、私には魔女程残ってられる魔力はない」
「ロザリーが魔女になってくれなかったから……!」
「そうね、ごめんなさい、私だってまだ貴方たちを見ていたかったけど」
……魔力も思念も、消えてしまうということか。
もう夢でも会えなくなるし、この庭でロザリー様の魔力を感じることもなくなるということ。
「だからユキには……ごめんなさいね、こんな我儘、でも貴方にはこの国を、私が愛したものを護ってほしくて……」
「……ジルは、ジルには会ってくれないんですか?いなくなっちゃう前に、一回でも」
ロザリー様は微笑んで、頷きも否定もしなかった。
少し胸がもやもやして、おればっかりこんなに話してしまって、今更ながらジルに悪い気がしてきてしまう。
この場にいてくれたら良かったのに。
「だから宜しくね、この子もあの子も」
「いやだ、ロザリー、僕まだいいよって言ってない!僕の力あげるから!消えちゃいやだ!」
「ごめんね、貴方の私への気持ちは貰っていってあげる。だから今度こそ……アランがしあわせな日々が過ごせることを祈るわ」
「やだ……」
「ユキ、お願いね、貴方も……私の愛しい子も……この国を背負わせてしまってごめんなさい」
「……ロザリー様」
ふ、と笑ったロザリー様が、アランを抱き締めたままおれの頬に触れる。
優しい笑顔が、絵画のものとそっくりで、ああ、やっぱり優しいひとであってたじゃないか、と思った。
そしてそのまま、その綺麗なひとは、溶けるように消えてしまった。
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