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ユキが謝ることはない、と言いながら、髪を撫でて、疲れただろう、と優しい声を落とすものだから、そうなんだよな、眠いんだよな、と思い出してしまう。
話したいことは沢山ある筈なのに。
知らずの間におれも魔力を使ってしまっていたのだろうか。それなら倒れなかっただけ成長したな……
「寝るの勿体ないなあ……」
「……ユキが頑張ってくれたから、明日だって明後日だって……時間はあるよ」
「そっかあ……」
「おやすみ」
「……ん、おやすみ……」
眠りに落ちる瞬間のジルの声は柔らかくて、寝かしつけをされるようなこの時間がすきだ。
今日は特に……なんだろう、両側があったかいからかな、なんだかすごく、しあわせな気がする。
◇◇◇
誰かが泣いてる、そんな声で目が覚めた。
外はもう明るくて、結構寝てしまっていたのがわかる。
声のする方を向くと、小さく丸まったアランがぐすぐす言っている。
小さな背中を撫でて、どうしたの、こわい夢みた?と訊くと、震える声が、消えた、と呟いた。
「消えた?」
「……ロザリー、消えた」
「ロザリー様が……昨日じゃ、なくて?」
「ロザリーの魔力、なくなっちゃった……」
「え」
「消えちゃったよお……」
僕のこと、ほんとに置いてっちゃった、と言ってぼろぼろと涙を流すアランに、なんと言っていいかわからない。
所詮ロザリー様との付き合いが浅いというかほぼないおれには、どう慰めても表面上のものにしかならなさそうで。
「不本意だけど」
「あ」
背後からジルの声がしたと思うと、腕が伸びてきた。
その手が軽々とアランを持ち上げ、ぐずる彼を膝に乗せる。
「……この泣き虫を宜しくと頼まれてしまった」
「……!」
穏やかなその顔に、もしかして、と思ってしまう。
もしかして、もしかして、ちゃんと、最後に、ロザリー様……
「……会いに来たよ、俺のところにも」
恐らく、最後の最後、残りの力を使って。
……良かった、ジルには会ってくれないのかと訊いてしまったけど、やっぱり、そうだよな、いちばん会いたいのは愛息子に決まってるよな。
「……良かったねえ」
「いくない、僕のとこ、こなかった」
「アランは昨日会ったじゃない」
「やだ、ロザリーといたかったもん……」
「……おれたちじゃだめ?」
「だめじゃないけどロザリーがいい……」
ポジティブに捉えれば、だめではないのか。
「なんでロザリー様じゃないとだめなの」
「だって、皆、僕といっしょやだって」
「嫌じゃないよ、昨日も言ったでしょ、皆と仲良くしろってロザリー様も」
「してくんないもん……ロザリーだけだったもん……」
「おれは仲良くしたいですよ」
「うそだ……」
「嘘じゃないよ、ジルもね、アランがここに居ていいって。ね、毎日一緒だよ、さみしくないよ」
「……まいにち?」
「うん」
小さな手を握ると、きゅっと握り返される。
その頼りない力が、胸を締める。
……何十年、一人で生きてきて、やっと知り合えたロザリー様を恋しく思ってきたのだろう。
「……猫もいい?」
「猫?ああ、使い魔の」
「うん、お留守番してる」
「お留守番かあ……ジル、いいかな」
「……構わない」
「いいって」
心做しかむっとした顔に、また猫に嫉妬するのだろうか、と思ってしまう。
実を言うと、おれも猫派なのだけれど。いやまあもうそんな猫に妬く歳ではないか。
「……ほんとにここにきていいの?」
「いいよ」
「ほんとになかよくしてくれるの?」
「うん」
「……じゃあここに来る……」
「うん、じゃあ起きてご飯食べようか」
「ううん、猫連れてくる」
「えっ」
目の前からふわ、とアランが消えてしまった。
ジルと顔を合わせて、口をぱくぱくさせてしまう。
おれたちみたいに馬車で三日かけて来るとかは思ってなかったけど、こんな消えるような……
「流石魔女っていうか……あんなに小さくてなっても、ちゃんと魔法は使えるんだな……」
「あんな魔法使うんじゃやっぱり公表は難しいな」
「悪用されそうだもんね……」
急に膝の上から重みを失ったジルは少し手持ち無沙汰にして、それから、おれに寄りかかってきた。
ぼそりと、ありがとう、と言う。
「……?おれの台詞だよ」
「いや、アランのことじゃなくて」
「……ロザリー様のこと?」
「そう」
「おれのお陰じゃないよ、言ったじゃん、ロザリー様はジルがいちばんたいせつなんだって」
おれが会って欲しいなんて言わなくたって、きっと、会えるならそのつもりだったんだ。
でも消えてしまった、魔力がもうないという、……もう、会えないということ。本当に最後の最後。
「これが普通だからね……きっと未練が多過ぎたんだ、俺にこの国に、アランに」
「……ん」
「それが解決して漸く落ち着いて安らかに逝けるならそれでいい」
「……そうだね」
「なんでユキが泣くの」
「……ごめん、さみしいとかじゃなくて、なんか、その、嬉しいとかほっとしたとか、やっぱりちょっとさみしいなとか、なんか色々混じっちゃって、なんか……やっと、今きたっていうか」
「アランがいなくなって糸が切れたかな」
……そうかも。子供の前でこんな弱いとこ、あんまり見せられないし。
涙を拭われながら、こうやってジルに甘えることも控えなきゃいけないな、と思った。
……思っただけで、実践出来るかというと話はまた別なんだけど。
話したいことは沢山ある筈なのに。
知らずの間におれも魔力を使ってしまっていたのだろうか。それなら倒れなかっただけ成長したな……
「寝るの勿体ないなあ……」
「……ユキが頑張ってくれたから、明日だって明後日だって……時間はあるよ」
「そっかあ……」
「おやすみ」
「……ん、おやすみ……」
眠りに落ちる瞬間のジルの声は柔らかくて、寝かしつけをされるようなこの時間がすきだ。
今日は特に……なんだろう、両側があったかいからかな、なんだかすごく、しあわせな気がする。
◇◇◇
誰かが泣いてる、そんな声で目が覚めた。
外はもう明るくて、結構寝てしまっていたのがわかる。
声のする方を向くと、小さく丸まったアランがぐすぐす言っている。
小さな背中を撫でて、どうしたの、こわい夢みた?と訊くと、震える声が、消えた、と呟いた。
「消えた?」
「……ロザリー、消えた」
「ロザリー様が……昨日じゃ、なくて?」
「ロザリーの魔力、なくなっちゃった……」
「え」
「消えちゃったよお……」
僕のこと、ほんとに置いてっちゃった、と言ってぼろぼろと涙を流すアランに、なんと言っていいかわからない。
所詮ロザリー様との付き合いが浅いというかほぼないおれには、どう慰めても表面上のものにしかならなさそうで。
「不本意だけど」
「あ」
背後からジルの声がしたと思うと、腕が伸びてきた。
その手が軽々とアランを持ち上げ、ぐずる彼を膝に乗せる。
「……この泣き虫を宜しくと頼まれてしまった」
「……!」
穏やかなその顔に、もしかして、と思ってしまう。
もしかして、もしかして、ちゃんと、最後に、ロザリー様……
「……会いに来たよ、俺のところにも」
恐らく、最後の最後、残りの力を使って。
……良かった、ジルには会ってくれないのかと訊いてしまったけど、やっぱり、そうだよな、いちばん会いたいのは愛息子に決まってるよな。
「……良かったねえ」
「いくない、僕のとこ、こなかった」
「アランは昨日会ったじゃない」
「やだ、ロザリーといたかったもん……」
「……おれたちじゃだめ?」
「だめじゃないけどロザリーがいい……」
ポジティブに捉えれば、だめではないのか。
「なんでロザリー様じゃないとだめなの」
「だって、皆、僕といっしょやだって」
「嫌じゃないよ、昨日も言ったでしょ、皆と仲良くしろってロザリー様も」
「してくんないもん……ロザリーだけだったもん……」
「おれは仲良くしたいですよ」
「うそだ……」
「嘘じゃないよ、ジルもね、アランがここに居ていいって。ね、毎日一緒だよ、さみしくないよ」
「……まいにち?」
「うん」
小さな手を握ると、きゅっと握り返される。
その頼りない力が、胸を締める。
……何十年、一人で生きてきて、やっと知り合えたロザリー様を恋しく思ってきたのだろう。
「……猫もいい?」
「猫?ああ、使い魔の」
「うん、お留守番してる」
「お留守番かあ……ジル、いいかな」
「……構わない」
「いいって」
心做しかむっとした顔に、また猫に嫉妬するのだろうか、と思ってしまう。
実を言うと、おれも猫派なのだけれど。いやまあもうそんな猫に妬く歳ではないか。
「……ほんとにここにきていいの?」
「いいよ」
「ほんとになかよくしてくれるの?」
「うん」
「……じゃあここに来る……」
「うん、じゃあ起きてご飯食べようか」
「ううん、猫連れてくる」
「えっ」
目の前からふわ、とアランが消えてしまった。
ジルと顔を合わせて、口をぱくぱくさせてしまう。
おれたちみたいに馬車で三日かけて来るとかは思ってなかったけど、こんな消えるような……
「流石魔女っていうか……あんなに小さくてなっても、ちゃんと魔法は使えるんだな……」
「あんな魔法使うんじゃやっぱり公表は難しいな」
「悪用されそうだもんね……」
急に膝の上から重みを失ったジルは少し手持ち無沙汰にして、それから、おれに寄りかかってきた。
ぼそりと、ありがとう、と言う。
「……?おれの台詞だよ」
「いや、アランのことじゃなくて」
「……ロザリー様のこと?」
「そう」
「おれのお陰じゃないよ、言ったじゃん、ロザリー様はジルがいちばんたいせつなんだって」
おれが会って欲しいなんて言わなくたって、きっと、会えるならそのつもりだったんだ。
でも消えてしまった、魔力がもうないという、……もう、会えないということ。本当に最後の最後。
「これが普通だからね……きっと未練が多過ぎたんだ、俺にこの国に、アランに」
「……ん」
「それが解決して漸く落ち着いて安らかに逝けるならそれでいい」
「……そうだね」
「なんでユキが泣くの」
「……ごめん、さみしいとかじゃなくて、なんか、その、嬉しいとかほっとしたとか、やっぱりちょっとさみしいなとか、なんか色々混じっちゃって、なんか……やっと、今きたっていうか」
「アランがいなくなって糸が切れたかな」
……そうかも。子供の前でこんな弱いとこ、あんまり見せられないし。
涙を拭われながら、こうやってジルに甘えることも控えなきゃいけないな、と思った。
……思っただけで、実践出来るかというと話はまた別なんだけど。
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