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 なんで魔王さまは殺された筈なのに何百年も経ってからここに現れたんですか、と呆然とする俺の代わりに訊いてくれたのは怜くんだった。
 世に出してはなくても、設定くらいは出来てたからそうなってるんですよね、と。

「元々僕たちの話は……あなたの考えた設定は、魔王が死んでからの世界と言うのはなんとなくの共通になってましたよね、魔法を使えるひとが少なくなった理由は魔力が足りないから、魔王さまが死んでから魔力自体が少なくなったからだっていう、理由付けの為に。その上で魔法を使えるひとが持て囃されることになる理由」
『そうだね、理由として丁度いいから使い回してるような状態で、全ての話をくっつけようと思ってはなかったのだけど』
「今まではその設定だけだったけれど、その魔王さまに焦点を当てる話を書こうってなった訳ですよね、それなら設定はある、ってことですよね、少しくらいは」
『うーん、僕としてはまだ話を煮詰めたかったところなんだけれど、まあ単純な設定だけはね』

 順を追って訊きたいという俺に、どうぞ、と作者は笑顔を見せた。
 自分の作品の話を誰かと話すことが楽しいのだろうか。それとも自分も死んでからただ暇なだけだったのだろうか。

「……なんで殺されたノエ……魔王さま、が百五十年も経ってこっちに来たんですか」
『そうだねえ、いうなら勇者の同情と恋心かなあ』
「こっ」
『綺麗な子でしょう、元は女の子にする予定だったんだ』
「おんなっ……」
『でもそうすると前作のラブコメと被ってしまいそうだから男の子にしたんだけど。旅の相棒として同性も良いと思ったのだけど、どうしても魔王の容姿は僕の中で綺麗な子で固定されてしまってて』

 ヒロインは他で出しても良かったし、その内思いつくかと思って、と作者は続けた。

『その名残かな、勇者は魔王を倒す瞬間に、前魔王……あの子の父親を殺したことを思い出して、罪悪感が湧いてしまうんだ、まだ若い、こどものような綺麗な子を殺してしまうのかと。それが正しいのかと。でも勇者だからね、勇者が魔王を退治しないなんて有り得ない、そうわかってる。わかってるけど同情はしてしまった、どうぞ次は平和な世界に生まれ変われますように、と思ってしまった。自分の強い魔力も忘れて』
「……勇者のせいで?」
『そう、勇者に殺されて、意図せず勇者に飛ばされた、百五十年後、勇者の職業もそろそろいらなくなるという時代に、平和になるだろう時代に』

 そこに現れたのが勇者の子孫、最後の勇者になったシャルルってこと。
 勇者が殺した魔王を勇者が拾う、そこから物語が始まる予定だったという。  

『ドラゴンを色々出すつもりだったんだ、竜の種類って色々あって格好良いじゃない、でもそこまでは設定が出来なかった、そこで僕は死んでしまったから』

 だからふたりの話は殆ど書けなかったんだ、と。
 つまり俺とノエの出会った理由、それ以外は何にも設定はないと。
 ドラゴンを探したことも、ソフィを預かることになったのも何も意味はない。
 退治をする必要もない、ソフィを育ててから退治しないといけないのかなんて深読みする必要はない。俺次第でラブコメにも冒険物にも、どうとでも出来る物語。
 そこに関しては朗報だ、俺たちは何をしてもいい、ノエと、ソフィと、皆といていいんだ。

 でもノエの今の状況。
 俺が、そうさせた、とは。

『あなたが魔王にそう選ばせたんです、そうしたいと思わせた』
「俺はノエが苦しんだりしてほしい訳じゃ……」
『そうですね、あなたが直接そうさせた訳じゃない、でもあの子は選んだんですよ』
「何を……」
『もう僕の手から離れてる話になるので、断言は出来ません、けれど多分、そうですね、あの子は、もう魔王じゃないのでしょう』
「……?」

 便宜上魔王と言っているけれど、勇者に殺された時から魔王ではない、そういうことだろうか。
 勇者に殺され、魔王城は滅び、ひとり生き残った魔族、元魔王。でもそんなのは最初からわかっていた。
 何故今更こんなことに。あんな状態に。

『多分人間になろうとしてるんですよ』
「人間……」
『心当たりはありませんか?』
「魔王が人間になる理由……」

 少し考えたゆりちゃんが、ぱあ、と笑顔になり俺を見上げた。一緒にいたいんだよ、と。
 その言葉に首を傾げると、鈍いなあ、といつも機嫌の良い声で、ノエっち、シャルルさんのことだいすきだから、とはにかむ。
 ……だいすきだから、一緒にいたいんだよ、その言葉を理解するのに時間を要した。

 ノエの瞳が黒くなるのは、魔族の証の紅い瞳を捨てたから。
 体温が高くなったのは、人間の体温に近付いたから。
 あげてもあげても魔力の放出が止まらないのは、躰から魔力自体を出し切ろうとしていて、それを俺が邪魔してるということなんだろうか。
 おれが魔力供給なんぞせず、ただ見ていれば、あの子は人間になれるのだろうか。
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