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『そこは時空の歪みってやつですよ、同じ世界だけれど、物語のスタートとしては皆違うから。あなたに選ばせたあとに彼は生まれ変わったんじゃなかったかな』
『そうですそうです、その次が仔熊さんのお話の方でえ……』
「ふうん……まあいいや、選んで殺すなんてやばいことしてるんなら作者の話なんて素直に聞けないって思ったけど、そこら辺はまあ……楽しい世界に送り込んでくれたと思えば……」
ここじゃない世界の方が楽しかったかもしれないし、地獄だったかもしれない。
そんなのは選択肢になかったし、もしもの話は知りようもない、そこに関しては文句も言えないし、なんならノエに、皆に会えたのは感謝したいのでそれ以上突っ込む気はなかった。
「あの、僕の知識を逆手にとって、って言いましたよね、じゃあもう疫病は起こらないんですか?あの作戦で……王都は無事だと思っていいんでしょうか」
『君たちが作った災いが先になるからもう僕の作った疫病は流行らないよ』
「……言い方が難しい」
『作者が話を終わらせても、その世界が消える訳ではないから、まだ続いていくんだ、君たちがそこで生きてる間は、少なくとも。だからこれから先起こることは僕にもわからない。違う疫病が流行るかもしれないし、国が滅びるかもしれないし、聖女さまは国を出るかもしれない。物語が完結した後はここに来るまでの人生と同じだよ、ヒントがないまま、自分で選択していくんだ』
「じゃあわたしがシャルルさんたちと一緒に行っても構わないの」
『勿論。それがどうなるかは僕にもわからないけれどね』
ゆりちゃんは俺を見上げて、嬉しいような、困ったような、泣きそうな、そんな複雑な表情をするものだから……まだ若い彼女にそんな重いことを考えさせるのがかわいそうで頭を撫でて、後で話しようか、と言った。
小さく頷きはしたけれど、俺に彼女を安心させてあげられるだろうか。
「ぼくが隣国に行かないのもありってことですよね」
ポールがおずおずと訊くと、勿論、と作者はまた頷いた。
『ただ隣国が困るというイベントは発生する、それを助けるのも助けないのも自由、今までは決まった未来に進んでいくつもりだったかもしれないけど、すきにしたっていい』
でも彼は隣国に行くだろう。
そのイベントを知ってしまっているのだから。それを自分が解決出来ると知ってしまっているのだから。
その後のお姫さまとのあれこれはどうなるかわからないけれど。そういうことなのだろう。
「じゃあオレも自由ですね?」
『ああ』
莉央くんも確認を取ったかと思うと、こちらを見て笑った。
いや俺じゃない、怜くんにだ。
「悪役だとか世界征服だとか面倒だし、ハーレムなんてオレは興味ない」
だから自由にするよ、と言い切った莉央くんに、怜くんがひえ、とゆりちゃんを挟んで俺に寄ってきた。
怜くんの貞操の危機は続きそうだ。
でも何でかな、俺にはその莉央くんの笑顔が素直に嬉しそうで、ふざけた様子には見えないんだ。
一目惚れ、なんて言っていたけれど、莉央くんの中では怜くんはとっくに特別になっているのかもしれない。
「あのう」
『はい』
「自由に生きろと言われた後で何なんですが」
『はい?』
「俺の、シャルルの……勇者と魔王とドラゴンの話はどういう話なんですか、参考程度に知っておきたいんですけど。怜くんもその情報は知らなくて」
『ああ、その話はないです』
「は」
ないです、の言葉にどういうことだと固まった俺に、追い討ちのように、未発表……というか、書いてもないです、と追撃が来る。
頭の回らない俺の代わりに、でも次回作ってSNSで、と怜くんが訊いてくれた。
『それはあくまでも予定、で……編集とここらで話に触れてただけの魔王の話を書いてもいいですねってなっただけで』
「その話、流れたんですか?」
『死んだんです』
「え、」
『死んだんです、僕。だから今こうやってこんなこと、してるんですよ』
「えっ」
自分も、周りの俺らももう死んでるとはいえど、すきだったという作者の死の情報に、怜くんは少なからず動揺した。
ゆりちゃんが、女神さまも?と訊くと、わたしは元々人間ではないです、と首を横に振った。なんだか言い方がおかしい。
そうか、作者も死んでるから今の姿もいちばんましだった時の、なんて言ってたのか。
だから、俺の話はなくて、自由にしてよくて……ドラゴン退治なんてしなくていいからソフィを退治しないといけないなんて鬱展開もなくて……ノエは?魔王は?
話はなくても、設定はある筈だ。
皆の話に共通する、魔王が死んだ後の世界。
勇者が魔王を倒した事実がある。それからなんで魔王はシャルルの物語に現れて、今あんな風になっているのか。
『あなたがそうしたんですよ』
「……え」
『確かに設定はあります、けど、魔王が今そうなってるのはあなたがそうさせたんです』
「俺が……?」
訳がわからなかった、俺がノエを苦しませる理由なんてない、少しだって苦しませたりさせたくないのに。
だいじだと、かわいいと、大切だと思っているのに。
これから先も、ずっと一緒にいたいって。
『そうですそうです、その次が仔熊さんのお話の方でえ……』
「ふうん……まあいいや、選んで殺すなんてやばいことしてるんなら作者の話なんて素直に聞けないって思ったけど、そこら辺はまあ……楽しい世界に送り込んでくれたと思えば……」
ここじゃない世界の方が楽しかったかもしれないし、地獄だったかもしれない。
そんなのは選択肢になかったし、もしもの話は知りようもない、そこに関しては文句も言えないし、なんならノエに、皆に会えたのは感謝したいのでそれ以上突っ込む気はなかった。
「あの、僕の知識を逆手にとって、って言いましたよね、じゃあもう疫病は起こらないんですか?あの作戦で……王都は無事だと思っていいんでしょうか」
『君たちが作った災いが先になるからもう僕の作った疫病は流行らないよ』
「……言い方が難しい」
『作者が話を終わらせても、その世界が消える訳ではないから、まだ続いていくんだ、君たちがそこで生きてる間は、少なくとも。だからこれから先起こることは僕にもわからない。違う疫病が流行るかもしれないし、国が滅びるかもしれないし、聖女さまは国を出るかもしれない。物語が完結した後はここに来るまでの人生と同じだよ、ヒントがないまま、自分で選択していくんだ』
「じゃあわたしがシャルルさんたちと一緒に行っても構わないの」
『勿論。それがどうなるかは僕にもわからないけれどね』
ゆりちゃんは俺を見上げて、嬉しいような、困ったような、泣きそうな、そんな複雑な表情をするものだから……まだ若い彼女にそんな重いことを考えさせるのがかわいそうで頭を撫でて、後で話しようか、と言った。
小さく頷きはしたけれど、俺に彼女を安心させてあげられるだろうか。
「ぼくが隣国に行かないのもありってことですよね」
ポールがおずおずと訊くと、勿論、と作者はまた頷いた。
『ただ隣国が困るというイベントは発生する、それを助けるのも助けないのも自由、今までは決まった未来に進んでいくつもりだったかもしれないけど、すきにしたっていい』
でも彼は隣国に行くだろう。
そのイベントを知ってしまっているのだから。それを自分が解決出来ると知ってしまっているのだから。
その後のお姫さまとのあれこれはどうなるかわからないけれど。そういうことなのだろう。
「じゃあオレも自由ですね?」
『ああ』
莉央くんも確認を取ったかと思うと、こちらを見て笑った。
いや俺じゃない、怜くんにだ。
「悪役だとか世界征服だとか面倒だし、ハーレムなんてオレは興味ない」
だから自由にするよ、と言い切った莉央くんに、怜くんがひえ、とゆりちゃんを挟んで俺に寄ってきた。
怜くんの貞操の危機は続きそうだ。
でも何でかな、俺にはその莉央くんの笑顔が素直に嬉しそうで、ふざけた様子には見えないんだ。
一目惚れ、なんて言っていたけれど、莉央くんの中では怜くんはとっくに特別になっているのかもしれない。
「あのう」
『はい』
「自由に生きろと言われた後で何なんですが」
『はい?』
「俺の、シャルルの……勇者と魔王とドラゴンの話はどういう話なんですか、参考程度に知っておきたいんですけど。怜くんもその情報は知らなくて」
『ああ、その話はないです』
「は」
ないです、の言葉にどういうことだと固まった俺に、追い討ちのように、未発表……というか、書いてもないです、と追撃が来る。
頭の回らない俺の代わりに、でも次回作ってSNSで、と怜くんが訊いてくれた。
『それはあくまでも予定、で……編集とここらで話に触れてただけの魔王の話を書いてもいいですねってなっただけで』
「その話、流れたんですか?」
『死んだんです』
「え、」
『死んだんです、僕。だから今こうやってこんなこと、してるんですよ』
「えっ」
自分も、周りの俺らももう死んでるとはいえど、すきだったという作者の死の情報に、怜くんは少なからず動揺した。
ゆりちゃんが、女神さまも?と訊くと、わたしは元々人間ではないです、と首を横に振った。なんだか言い方がおかしい。
そうか、作者も死んでるから今の姿もいちばんましだった時の、なんて言ってたのか。
だから、俺の話はなくて、自由にしてよくて……ドラゴン退治なんてしなくていいからソフィを退治しないといけないなんて鬱展開もなくて……ノエは?魔王は?
話はなくても、設定はある筈だ。
皆の話に共通する、魔王が死んだ後の世界。
勇者が魔王を倒した事実がある。それからなんで魔王はシャルルの物語に現れて、今あんな風になっているのか。
『あなたがそうしたんですよ』
「……え」
『確かに設定はあります、けど、魔王が今そうなってるのはあなたがそうさせたんです』
「俺が……?」
訳がわからなかった、俺がノエを苦しませる理由なんてない、少しだって苦しませたりさせたくないのに。
だいじだと、かわいいと、大切だと思っているのに。
これから先も、ずっと一緒にいたいって。
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