【完結】人魚姫は今世こそ結ばれたい

鯖猫ちかこ

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 早く帰るぞと言ってはいっても、結局部活に出ればマネージャーの皇輝が最後に鍵締めをするのは変わらない。
 まぁいつも上がるのは僕が最後だし、本気でやってるひとが少ないこの部は短時間で帰る生徒も多い。
 ちょっと遊んだり、トレーニングの一環として泳いだり。
 だから僕が早く上がれば、皇輝もすぐ帰れる訳で。

「ほら早く着替えな」
「着替えなと言われましても……」

 シャワーを済ませて、制服に着替えて帰るぞ、ってだけなんだけど。
 そんな真横で見られたら……その、恥ずかしいんですけど。

「き、気になるから出てってよ……」
「俺もジャージから着替えるんだけど」
「そんなん外でも良くない……」
「いつも気にしないだろ、早く着替えて」

 いつも気にしなくても今日は違うんですけど。
 ていうか皇輝だってわかってるからちょっと笑ってるんですよね。
 恥ずかしい。
 子供の頃使ってた、スカートみたいになってるタオルが欲しい。
 この……この状態で脱いで全裸になるのは……
 先に上を着る?
 でも水着は濡れてるし、そこに触れたらシャツが濡れてしまう。でも後は帰るだけだし、多少濡れてしまっても……いや今から皇輝と話をするんだからそんな訳には……でも、でも……

「う、後ろ向いてて……」
「えー」
「えーじゃない、早く!」
「いいじゃん別に」
「だめ!」
「なんで」
「恥ずかしいから!」

 そう言うと、やっと皇輝は後ろを向いてくれた。肩を震わせながら。絶対笑ってるやつじゃん……
 どこで意地悪されるかわからないから早く着替えなきゃ。
 ちらちらと皇輝の背中を気にしながら、さっと水着を脱いでさっと下着を身につける。これだけでもうやりきった感がある。
 ズボンを履いて、次はシャツ、とまた皇輝に目をやると、皇輝も丁度シャツを着ようとしてたみたいで、上半身に何も身につけてない状態だった。

 ……うわ、やっぱりかっこい、家で筋トレしてんのかな、マネージャーのくせに綺麗な躰してるんだよな、遊んでるだけの僕や後輩たちよりよっぽど……

「碧」
「へあ」
「動き止まってるみたいだけどもう着替え終わったのか?振り向くぞ」
「えっえっえ、まだまだまだ、まだだめ!」 

 慌ててシャツに袖を通す。
 正直僕の上半身裸なんて見慣れ過ぎてる程見慣れてる筈なんだけど、でもほら、流れ的にはやっぱり恥ずかしいやつ。
 皇輝の背中から目を逸らして、シャツの釦をとめていく。
 緊張してんのかな、上手くとめられない。うわ、こういうのもなんか恥ずかしい、意識してますよって言ってるようで。意識してるんだけど。

「俺がしようか」
「いっ、いい!いいいいいいから!早く!皇輝も着替えて!帰るよ!」
「……碧に付き合ってんだけどな」

 また呆れたように言う皇輝の言葉を背に、掛け違えた釦を直しながら、どうにかこうにか着替えを終わらせた。
 こんなに緊張感のある着替えなんて初めてなんだけど!

「鍵持ってくから、靴箱で待ってて」
「うん」

 僕たちの部活が早く終わってるものだから、真面目にやってるとこの声がよく聞こえる。
 野球部やサッカー部、吹奏楽部に混じって、偶にバレー部や弓道部の掛け声がする。
 皆元気だなあ、といつも浮いてるだけの僕はやる気なく考える。少しはちゃんと泳げば筋肉もつくだろうか。
 毎日数十分泳ぐようにしてみようかな……めんどくさいな……やっぱり浮いてるだけでいいかな……

「何か考えてんの?」
「!」

 背後から声を掛けられてびっくりする。

「は、やかったね」
「そりゃまあ……碧待たせてるし」
「……ふーん」

 悪い気はしない。だってこころなしか、皇輝の顔が、優しいから。
 ふーん、僕が待ってるから急いだんだ、ふーん……

「何か買ってく?」
「え」
「飲み物とか……お菓子ならうちにあるし、お茶やコーヒーで良かったらそれでいいんだけど」
「……麦茶とかでいいよ」
「麦茶はなかったけど烏龍茶なら確かあったかな」
「じゃあそれでいいや」
「ん」

 皇輝も靴に履き替えて、校舎を出る。
 自然と皇輝の家に行く流れになって、よく考えたら皇輝の家行くの久しぶりだな、と考える。
 うちは母さんが大体いるし、兄ちゃんもいたらうるさいんだけど、皇輝んちは、両親共に仕事やなんやで居ないことが多いし、ひとりっこだから家族を気にせずと話が出来る。
 前は僕んちでよく夕飯食べたりしてたんだよなあ。

 うちと違って、皇輝んちは金持ちだ。そこら辺も前世が関係あるのかなあ、王子様だもんなあ。
 大きな綺麗な部屋で、すごいな、羨ましいな、と思うんだけど、生活感が余りない部屋はそれはそれで落ち着かない。
 ちょっとくらい散らかった部屋の方が落ち着くものだ。
 そう思って、ゲーセンで取れたぬいぐるみなんかを押し付けたこともある。

「今日おばさんたちは?」
「いないよ、上がって」
「……ふーん、お邪魔します」

 なんでもないように装いながら靴を脱ぐ。
 本当は心臓がばくばくしてる。何でそんな意識してしまうような余計なこと訊いちゃうかな、大体留守なのわかってるってのに。
 自分を追い込むのがすきなのか?
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