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運ばれてきた料理をどんどん勧められて、よくわからないまま口に入れていく。
美味しい。美味しいんだけど、何の話の為に呼ばれたのか、そこに触れないから不安になっちゃう。
会話はこの間のライブのこと、佐倉のこと、ボーカル先輩のこと、大学のこと。
どれも当たり障りない会話で、でも楽しそうに話していく。
僕も適当に相槌を打ちながら、真意を探ろうと思うんだけど……明るい兄ちゃんとしかわからない。
「……美味い?」
「美味しいです」
「足りなくない?追加していーよ、どんなのがすき?」
「いえ、あの結構……お腹たまってきて」
「〆とか食う?デザートとか」
「えっと……」
ぐいぐいくる。太らせて食べるつもりか、この魔女は。
「別の店行ってもいーよ、アイスでもケーキでも」
「いや、そんな」
そうじゃなくて、ちゃんと話を……でもどう切り出せば、とぐるぐる考えていると、マオさんはにっと笑って、そんな話をしに来たんじゃないって?と僕の頬に触れた。
「……!」
「かわいいけど男の子かあ」
「お、男、ですけど」
「まあ俺も男なんだけど」
「はあ……?」
「俺がこわい?」
「えっ……え?」
真っ直ぐな瞳に見つめられて、言葉が出ない。
頼んだものは全部運ばれてきていて、この半個室の席に暫く店員さんは来ないだろう。
すぐ隣はざわざわがやがや賑やかなのに、不思議な空間だ。
やはり頬を掴んだままの手は冷たくて、振り切るのが少しこわかった。
「まあこわいか、急に先輩に呼ばれてこんなことされちゃあね」
ぱっと手を離して、さっきまでの笑顔に戻る。それすらちょっとこわい。
冷めたポテトを口に入れて、烏龍茶を流し込んで、俺何か甘いの頼も、とメニューをまた開く。
心臓がばくばくする。冷や汗。皇輝に相談すればよかったかな、いや前世の話には触れたくない。
佐倉に相談?それもだめだ、女子を巻き込む訳にはいかない。
「人魚ちゃんさあ」
「!」
「こないだ横に居たでかいのが王子であってる?」
「……」
「言っていいか迷ってる?いいよ、わかってるし。マナちゃんがお姫様でしょ」
佐倉の名前まで出されてびっくりする。
やっぱりわかってたんだ。
「マナちゃんにはなんも話してないよ」
「……はあ」
「どう?王子とは上手く行きそう?」
「……どっちも男ですよ」
素直に答えていいかわからないから、濁したいと思ったんだけど。
マオさんは、でもすきなんでしょ、とはっきり言った。
「わかるよ、『魔女』だからね、つっても思い出したのはステージの上で人魚ちゃんたちを見た時なんだけど」
「……」
「お兄さんに話してみ」
「……」
「何だよ、前世ではあんなに相談に乗ってあげたじゃん」
「あの」
「俺がこわい?」
もう一度訊かれた。
今度は助け舟も出ず、仕方なしに、少し、と答えると、はは、と笑った。
「まーね、声を奪ったやつだもんね」
「……」
「でも魔女だって人魚ちゃんのこときらいじゃなかったよ、お姉さんたちに届けさせたでしょ、ナイフ。それで王子を刺さずに海の泡になるのを選んだのは人魚ちゃんだよ」
「そこは……もうよくて」
「よくて?」
「魔女じゃなくて、マオさん、がわかんなくて」
「俺?」
「わるいひとですか?」
今度はぶっと吹き出して、かわいいね、とまた僕の頭を撫でる。
確かに今のは子供っぽかった。だけどそんなに笑わなくったって。
むっとしてると、ごめんごめん、とまたメニューを差し出される。
「甘いの一緒に頼も、お兄さんわるいひとじゃないよ」
「……」
「テンション上がって楽しくなり過ぎた、だって前世とかさあ、そんなの信じてなかったし」
「……このミニパフェ食べていいですか」
「いいよ」
店員さんを呼んで、温かいお茶とデザートを頼む。
この空間に他人が入ったことに少しほっとした。
「魔女、としてはさ」
「……はい」
「罪悪感もある訳。意地悪で人間にした訳でもなし、一応王子と人魚ちゃんがしあわせに暮らしました、で終わるかと思ってたらお姫様なんかいるんだもん」
「……佐倉は悪くないですよ」
「ん?マナちゃんのこと?そうねえ、お姫様だって意地悪で人魚ちゃんから王子盗ったろ!って思ってやった訳じゃないからね、まあ全部偶然でタイミングが悪かったね」
「……佐倉も同じようなこと言ってました」
「あの子は凄いね、前世に囚われずに前を向いてる」
以前佐倉と話したことを話してみる。
間にデザートが運ばれてきて、食べながら。甘くて冷たくて、少し頭がすっきりした。
「ふーん、で、そこまでマナちゃんは物語から手を引いて手伝ってんのに、肝心の王子様だけ前世に気付いてないってね」
鈍い男、というもんだから笑ってしまった。
佐倉と同じことを言うから。
「僕気になってて」
「なになに」
「このままなら僕、泡になって消えずにすむのかなって。でも皇輝が思い出したら、それでも皇輝が僕を選んでくれたらいいけど、お姫様が……佐倉がいいっていったり、人魚じゃだめだってなったら……海の泡になっちゃうのかなって、気になってて。口では僕でいいって言っても、心ではわからないし」
「あーね……」
「魔女ならわかるかなって」
「わっかんねーなー、だって今はただ前世思い出しただけのただの元魔女の大学生だし」
さっきはわかってそうなこと言ってたくせに。
「俺としては、思い出して貰う方がいいと思うけど」
「え」
「王子様だって危機感持つべきじゃね?」
マオさんはちょっと悪い顔をして笑っていた。
美味しい。美味しいんだけど、何の話の為に呼ばれたのか、そこに触れないから不安になっちゃう。
会話はこの間のライブのこと、佐倉のこと、ボーカル先輩のこと、大学のこと。
どれも当たり障りない会話で、でも楽しそうに話していく。
僕も適当に相槌を打ちながら、真意を探ろうと思うんだけど……明るい兄ちゃんとしかわからない。
「……美味い?」
「美味しいです」
「足りなくない?追加していーよ、どんなのがすき?」
「いえ、あの結構……お腹たまってきて」
「〆とか食う?デザートとか」
「えっと……」
ぐいぐいくる。太らせて食べるつもりか、この魔女は。
「別の店行ってもいーよ、アイスでもケーキでも」
「いや、そんな」
そうじゃなくて、ちゃんと話を……でもどう切り出せば、とぐるぐる考えていると、マオさんはにっと笑って、そんな話をしに来たんじゃないって?と僕の頬に触れた。
「……!」
「かわいいけど男の子かあ」
「お、男、ですけど」
「まあ俺も男なんだけど」
「はあ……?」
「俺がこわい?」
「えっ……え?」
真っ直ぐな瞳に見つめられて、言葉が出ない。
頼んだものは全部運ばれてきていて、この半個室の席に暫く店員さんは来ないだろう。
すぐ隣はざわざわがやがや賑やかなのに、不思議な空間だ。
やはり頬を掴んだままの手は冷たくて、振り切るのが少しこわかった。
「まあこわいか、急に先輩に呼ばれてこんなことされちゃあね」
ぱっと手を離して、さっきまでの笑顔に戻る。それすらちょっとこわい。
冷めたポテトを口に入れて、烏龍茶を流し込んで、俺何か甘いの頼も、とメニューをまた開く。
心臓がばくばくする。冷や汗。皇輝に相談すればよかったかな、いや前世の話には触れたくない。
佐倉に相談?それもだめだ、女子を巻き込む訳にはいかない。
「人魚ちゃんさあ」
「!」
「こないだ横に居たでかいのが王子であってる?」
「……」
「言っていいか迷ってる?いいよ、わかってるし。マナちゃんがお姫様でしょ」
佐倉の名前まで出されてびっくりする。
やっぱりわかってたんだ。
「マナちゃんにはなんも話してないよ」
「……はあ」
「どう?王子とは上手く行きそう?」
「……どっちも男ですよ」
素直に答えていいかわからないから、濁したいと思ったんだけど。
マオさんは、でもすきなんでしょ、とはっきり言った。
「わかるよ、『魔女』だからね、つっても思い出したのはステージの上で人魚ちゃんたちを見た時なんだけど」
「……」
「お兄さんに話してみ」
「……」
「何だよ、前世ではあんなに相談に乗ってあげたじゃん」
「あの」
「俺がこわい?」
もう一度訊かれた。
今度は助け舟も出ず、仕方なしに、少し、と答えると、はは、と笑った。
「まーね、声を奪ったやつだもんね」
「……」
「でも魔女だって人魚ちゃんのこときらいじゃなかったよ、お姉さんたちに届けさせたでしょ、ナイフ。それで王子を刺さずに海の泡になるのを選んだのは人魚ちゃんだよ」
「そこは……もうよくて」
「よくて?」
「魔女じゃなくて、マオさん、がわかんなくて」
「俺?」
「わるいひとですか?」
今度はぶっと吹き出して、かわいいね、とまた僕の頭を撫でる。
確かに今のは子供っぽかった。だけどそんなに笑わなくったって。
むっとしてると、ごめんごめん、とまたメニューを差し出される。
「甘いの一緒に頼も、お兄さんわるいひとじゃないよ」
「……」
「テンション上がって楽しくなり過ぎた、だって前世とかさあ、そんなの信じてなかったし」
「……このミニパフェ食べていいですか」
「いいよ」
店員さんを呼んで、温かいお茶とデザートを頼む。
この空間に他人が入ったことに少しほっとした。
「魔女、としてはさ」
「……はい」
「罪悪感もある訳。意地悪で人間にした訳でもなし、一応王子と人魚ちゃんがしあわせに暮らしました、で終わるかと思ってたらお姫様なんかいるんだもん」
「……佐倉は悪くないですよ」
「ん?マナちゃんのこと?そうねえ、お姫様だって意地悪で人魚ちゃんから王子盗ったろ!って思ってやった訳じゃないからね、まあ全部偶然でタイミングが悪かったね」
「……佐倉も同じようなこと言ってました」
「あの子は凄いね、前世に囚われずに前を向いてる」
以前佐倉と話したことを話してみる。
間にデザートが運ばれてきて、食べながら。甘くて冷たくて、少し頭がすっきりした。
「ふーん、で、そこまでマナちゃんは物語から手を引いて手伝ってんのに、肝心の王子様だけ前世に気付いてないってね」
鈍い男、というもんだから笑ってしまった。
佐倉と同じことを言うから。
「僕気になってて」
「なになに」
「このままなら僕、泡になって消えずにすむのかなって。でも皇輝が思い出したら、それでも皇輝が僕を選んでくれたらいいけど、お姫様が……佐倉がいいっていったり、人魚じゃだめだってなったら……海の泡になっちゃうのかなって、気になってて。口では僕でいいって言っても、心ではわからないし」
「あーね……」
「魔女ならわかるかなって」
「わっかんねーなー、だって今はただ前世思い出しただけのただの元魔女の大学生だし」
さっきはわかってそうなこと言ってたくせに。
「俺としては、思い出して貰う方がいいと思うけど」
「え」
「王子様だって危機感持つべきじゃね?」
マオさんはちょっと悪い顔をして笑っていた。
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