【完結】人魚姫は今世こそ結ばれたい

鯖猫ちかこ

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 ◇◇◇

 家まで送ろうか?というマオさんに、結局駅まで送ってもらい、また電車に揺られて帰る。
 混んだ車内に、普段あまり電車に乗らない僕は少しうんざりした。
 皇輝と一緒に住まないとなったら毎日こうやって帰るのか、ちょっとやだな、一緒に住もうと言って貰えてよかった。少し胸があったかくなる。
 別れてから数時間も経ってない。なのにもう会いたくなる。
 一緒に住めるなんて本当に夢のよう。半年先がとても長い。

 電車を降りて、家まで歩く。夜は少し冷えるようになってきた。もうそろそろまた皇輝がプール関係で煩くなる時期だ。
 ……ここまで水に触れてきて、人魚姫のことを思い出さない皇輝に思い出させることができるのだろうか。

 マオさんの言葉を思い出す。
 ──思い出して貰う方がいいと思うけど。
 本当にそうなのかな。
 今の皇輝を見てたら、僕を選んでくれると思う。でもそれは今世でのことで。
 前世のことを思い出したらどうなるかはわからない。口では僕を選んでも、心は揺れるかもしれない。
 僕は海の泡になんてなりたくない。
 人魚姫はそれを選んだけど、僕はいやだ。
 だってもう皇輝の手を知ってしまった。あたたかさを知ってしまった。しあわせな気持ちも、満たされる気持ちも。
 だから泡になんてなりたくない、消えたくない。

 僕は思い出してほしくない。今がしあわせすぎる。
 でも、何が原因で思い出すかわからない。その時に、ずっと黙っていた僕に幻滅されたりしないだろうか。
 なんでお姫様のことを黙っていたんだって。王子は人魚を選んでないって。
 今更、皇輝に離れていかれたら生きていけない。
 心配しなくたって、その時は泡になって消えてしまうんだけど。
 だからあの時、初めて会った時、皇輝も気付いてくれたら良かったのに。
 そしたらまた違う物語になったかもしれないけど、こんなに悩まなかったのに。

 ただいま、と家に着いて、お風呂に入って、すぐにベッドに入った。
 ご飯を食べただけなのに酷く疲れている。
 宿題をやらなかったことにそこで気付いたけど、もう起きる気もなく、そのまま眠ってしまった。


 ◇◇◇

「免許」
「そう」
「車のだよね?」
「そう」
「……そっか、もう取りに行くひともいるんだ」
「だから土日と放課後車校行くわ」
「……」
「寂しい?」
「別に……学校で会えるし」

 そういえば、と部活後、着替えてる時にいきなり言われた。
 例の如く僕達で最後だ。

 進学先が決まってる生徒がこの時期から車の免許を取りに行くのはよくあること。
 僕は何となくまだ必要ないだろ、と思っていたけど、でも確かに大学に行ったらがらりと環境がかわって取りに行くのも難しいかもしれない。
 落ち着いてからにしたら、って母さんには言われてたっけ。
 あんたに免許取らすのこわいわ、とも。
 兄ちゃんは大学の夏休みに合宿免許に行ってたから、同じでいっかと思っていた。
 まあ急に言われても母さん達も困るよね、皇輝と暮らすのも許してもらったばかりだ、予想外の出費だし、僕から免許の話をするのはやめておこう。

「部活どうすんの」
「俺が行かない時は一応春田がいるけど」

 後輩のマネージャーの名前が出る。
 そもそもマネージャーがいる程部活らしい部活をしてない部活だ。春田が来ないことも多い。
 皇輝だって殆ど掃除か読書かたまに誰かのタイムを測るとかくらいしかしてない。
 そう考えたら、僕に付き合わせてるだけなんだよな、ごめん。

「春田にもお前が帰るまで面倒見ろとは言えないから、我儘言わずに自分から切り上げるんだぞ、後輩だからな、変な気を遣わせるな、てか普通はもう三年は引退してるんだからな」
「はい……」
「いつも上がるくらいの時間に連絡入れるから、それを取れなかったら碧にお仕置」
「は?」

 お仕置ってなんで。いやそれは僕を信用してないからだってわかるけど。
 ……なんかお仕置ってえろいな。

「……何すんの」
「痕つける」
「あと……?」
「何日プールに入れなくなるだろうな?」

 にや、と僕の胸元に人差し指で触れて笑う。
 意図はすぐにわかって、かあっと熱くなるのがわかった。えろいやつであってた!
 こいつ、周りに誰もいないとはいえ、学校でなんてことを。

「嫌ならちゃんと早く上がって帰ること」
「ー……っ、わかっ、たよ!」
「これが碧には一番効くなって」
「そうだよ!気をつけます!」
「はい宜しく」

 これでも心配してるんだからな、と言われて、わかってるよと一応言っておく。ただ、とんでもねえこと思いつくもんだ、と思った。

「いつから?」
「今週末」
「はっや」
「早く取りたいし」
「ふうん?」
「早く慣れて碧と出掛けられたらいいなって」
「えっ」
「……車、あった方が色々便利でしょ」
「う、うん……」

 びっくりした。
 ふざけてたと思ってたのに、からかうんだと思ってたのに、覗き込んだ顔はなんだか、恥ずかしいような、でも何か、不安そうな顔をしてたから。

「何かあった……?」
「なんもないよ、帰ろ」
「うん、あ、でも、あの」
「なに」
「……車校ってそんなに長くないよね?土日、ぎっしりって訳じゃないよね、たまにはその、遊んだり出来るよね……?」
「うちに来るの?」
「……だって」

 また慣らしたのが無駄になっちゃう、と思って。学校でなんてこと思い出してんだって、馬鹿じゃないの、って思うけど。
 でも土日に会えないとなると、そこが一番気になってしまった。
 いつまでたっても、最後まですることできないじゃんって。
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